遺産分割協議とは?手続きの流れ・期限・注意点をわかりやすく解説
遺産分割協議とは何かをご存じでしょうか。これは、被相続人の財産を相続人全員でどのように分けるかを話し合う重要な手続きです。全員の同意が必須であり、合意がなければ無効となるなど法的リスクも伴います。本記事では、協議を始める前の準備や進め方、合意できない場合の対応まで解説します。遺産分割協議に不安がある方は最後までご覧ください。
目次
遺産分割協議とは?

相続が発生すると、残された財産をどのように分けるかを決めなければなりません。その方法の1つが「遺産分割協議」です。遺産分割協議の役割や必要な同意、期限について解説します。
遺産分割協議の役割
「遺産分割協議」とは、被相続人の財産を相続人全員でどのように分けるかを話し合う手続きです。遺産は相続開始時に一旦共有状態となりますが、民法第907条に基づき、相続人全員で協議し、合意内容に従って分割します。
たとえ遺言があっても、そこに書かれていない財産があったり、全員の同意で内容を変更する場合もあるため、協議は重要な役割を果たします。
参考:No.4202 相続税の申告のために必要な準備|国税庁
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
全員の同意が必要となる理由
遺産分割協議は、相続人全員の参加と合意があって初めて有効になります。一部の相続人を欠いた協議は無効となり、その協議に基づいて手続きを進めても、後にやり直しが必要になる可能性があります。
協議に期限はあるのか
遺産分割協議そのものに法律上の期限はありませんが、相続税の申告は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。
期限までに分割が決まらなければ、小規模宅地等の特例や配偶者控除といった税務上の優遇を受けられない可能性があるので注意しましょう。また、令和3年の民法改正により、相続開始から10年を過ぎると特別受益や寄与分を考慮した分割ができなくなる新しいルールも導入されました。
協議自体は期限を過ぎても可能ですが、税務や法制度の観点から、できるだけ早期に合意する必要があるでしょう。
遺産分割協議の準備

遺産分割協議を円滑に進めるためには、事前の準備が必要です。準備を怠ると協議が無効となるなどのトラブルに繋がる可能性があります。協議を始める前に行っておくべき基本的な準備について解説します。
相続人を明らかにする
遺産分割協議は、相続人全員が参加して初めて有効になるため、まず「誰が相続人にあたるのか」を正確に確認しましょう。
民法第887条〜890条では相続人の範囲が定められており、優先順位は以下の通りです。
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第一順位 |
子供や孫 ※子供がすでに死亡している場合のみ孫が相続人となる |
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第二順位 |
両親や祖父母 |
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第三順位 |
兄弟姉妹や甥姪 ※兄弟姉妹がすでに死亡している場合のみ甥姪が相続人となる |
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常に相続人となる |
配偶者 |
これらを確認するためには、被相続人の出生から死亡までの戸籍を遡って取得し、全員を確定させる必要があります。相続人を1人でも漏らしてしまうと協議は無効となるため、慎重に確認しましょう。
相続財産の内容を確認する
どの財産をどのように分けるかを決めるためには、まず財産の全体像を正しく把握するのが大切です。相続の対象には、現金や不動産、株式などのプラスの財産だけでなく、借金といったマイナスの財産も含まれます。
その確認に有効なのが遺産目録の作成です。財産の内容を一覧化し、相続人全員で共有しておけば、相続後の誤解や争いを未然に防げます。
財産の価値を金額にする
民法上、相続人全員の合意に基づいて柔軟な分割は認められていますが、その前提となるのが財産の評価です。不動産や株式といった財産は、金額に換算しなければ公平な分割ができません。
不動産であれば固定資産税評価額や不動産会社の査定、株式であれば市場価格を基準に判断します。場合によっては専門家に鑑定を依頼するのも有効です。
分割協議を円滑に進めるために、客観的で納得感のある評価を行い、相続人全員で共有しておきましょう。
関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!
遺産分割協議を進める際のポイント
遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ有効になりません。公平性を保ちながらも、柔軟な調整が求められる場面が多いため、法律の規定を踏まえた進め方を理解しておきましょう。
法定相続分は合意で変更できる
法定相続分が定められていますが、必ずしもその割合で分ける必要はありません。相続人全員が合意すれば、自由に割合を決めて分割できます。
柔軟に協議すれば、相続人間の納得感を高め、円満な解決に繋げられるでしょう。
特別受益や寄与分を反映して調整する
相続人の中には、生前に被相続人から多額の贈与を受けていた人や、被相続人の生活・事業を支えて財産の維持や増加に大きく貢献した人がいるでしょう。前者は「特別受益」、後者は「寄与分」として相続分に反映できます。
具体的には、特別受益がある場合はその贈与分をあらかじめ相続分に含めて計算し、受け取った人の取り分を減らします。逆に寄与分が認められる場合は、その貢献分を加算して取り分を増やす形で調整されます。
このように、単純に法定相続分で分けるのではなく、過去の援助や貢献を考慮して割合を調整する必要があります。なお、前述したように、令和3年の民法改正により、相続開始から10年を超えると特別受益や寄与分を考慮した請求ができなくなる点には注意してください。
参考:相続人以外の者の貢献を考慮するための方策等 | 法務省
関連記事:特別受益の「持ち戻し」「時効10年」について詳しく解説
財産の性質に応じて分割方法を選ぶ
遺産分割には「現物分割」、「換価分割」、「代償分割」の3つの方法があります。
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方法 |
内容 |
向いている場面 |
注意点 |
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現物分割 |
財産をそのまま分ける |
財産が複数ある場合 |
価値に偏りが出やすい |
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換価分割 |
売却して現金を分ける |
不動産など分けにくい遺産が多い場合 |
売却費用や税負担がある |
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代償分割 |
特定の相続人が取得し代償金を払う |
相続人の1人が自宅に住み続けたい場合など |
代償金の準備が必要 |
「現物分割」はシンプルで分かりやすい反面、価値の偏りをどう調整するかが課題になります。「換価分割」は公平に分けやすい一方、売却費用や税金の負担が発生する点に注意しましょう。
「代償分割」は自宅や事業用資産をそのまま承継したい場合に便利ですが、代償金をどう準備するかがポイントとなります。それぞれに長所や注意点があるため、財産の種類や相続人の意向を踏まえて最も適した方法を選びましょう。
参考:No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算|国税庁
関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて
全員の同意を得るために工夫する
遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ成立しません。意見が対立して進まない場合には、相続人以外の第三者に同席してもらうことで冷静な話し合いがしやすくなるでしょう。
また、弁護士や税理士などの専門家に助言を求めれば、法律や税務の観点から中立的な解決策が提示され、合意形成が進みやすくなります。感情的な衝突を避けながら合意を形成していく工夫が、協議を円滑に進めるためのポイントです。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、その内容を書面に残す必要があります。この協議書は法的効力を持ち、不動産登記や銀行口座の解約・名義変更などの相続手続きに用いられるため、以下のポイントに注意しながら、協議内容をしっかりと文書にまとめていきましょう。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
必須事項を明記する
協議書には、相続人全員の氏名・住所、対象となる遺産の詳細、分割方法を明記します。全員の署名と押印がなければ効力を持たない点に注意してください。
実印と印鑑証明を準備する
作成した協議書を実際の手続きに使用するためには、相続人全員の実印と印鑑証明書が求められます。事前に準備しておけば、手続きをスムーズに進められるでしょう。
記載の不備に注意する
協議書の記載が不十分だと、不動産登記ができなかったり、後になって相続人同士で争いが生じる可能性があります。書式や記載方法を正しく整え作成してください。
将来の財産発見に備える
協議後に新たな遺産が見つかる場合もあります。その際は再度協議が必要となりますが、あらかじめ「将来発見された財産は別途協議する」と記載しておけば、後の手続きが円滑に進みます。
協議がまとまらない場合の対応
それでも相続人同士で話し合いがまとまらない場合はどうすればよいでしょうか。協議が行き詰まったときに取り得る対応についてご紹介します。
家庭裁判所での調停手続き
話し合いだけでは合意に至らないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることが可能です。
調停では裁判官と調停委員が中立の立場から関与し、相続人間の意見を整理しながら公平な解決を目指します。相続人だけでは感情的になりがちな状況でも、第三者が入ることで冷静に話し合いを進められるでしょう。
参考:遺産分割調停 | 裁判所
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説
調停が不成立の場合は審判に移行する
調停でも合意できない場合は、手続きが自動的に審判へ移行します。審判では裁判所が分割方法を一方的に決定し、その判断には相続人全員が従う必要があります。
自らの意見が反映されにくくなるリスクもあるため、可能な限り調停での合意を目指すのが望ましいでしょう。
遺産分割協議に関してよくある質問

最後に、遺産分割協議に関して寄せられる代表的な質問を取り上げます。協議を進める際の参考にしてください。
遺言がある場合でも協議は必要ですか?
遺言があっても協議が必要になる場合はあります。なぜなら、遺言にすべての財産が記載されているとは限らないためです。
例えば、不動産の扱いは遺言に指定されていても、預貯金や株式の分け方が記載されていないケースがあるでしょう。そのような財産は相続人全員で話し合って決める必要があります。
協議が長引いた場合の影響はありますか?
協議が長引くと税務上の不利益を受ける可能性があります。なぜなら、相続税の申告期限が相続開始を知った翌日から10ヵ月以内と定められているためです。
この期限までに協議がまとまらないと、配偶者控除や小規模宅地等の特例が使えず、高額な税負担を強いられる場合もあります。
特例を適用するには「申告期限後3年以内の分割見込書」の書類提出が必要で、期限を過ぎると原則として利用できません。
不在の相続人がいる場合はどうすればよいですか?
不在の相続人がいると協議は成立しません。相続人全員の参加と合意が必要と民法で定められているためです。
所在不明や海外在住で協議に加われない相続人がいる場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、「不在者財産管理人」を選任してもらう必要があります。この制度を利用すれば、不在者がいても協議を有効に進められます。
遺産分割協議でお悩みの方は専門家に相談
遺産分割協議は相続人全員の合意が必須であり、感情的な対立や法的な不備があると協議自体が無効となるリスクがあります。
さらに、相続税の申告期限や10年ルールなど制度上の制約もあるため、遅れると税務上の特例が使えないなどの不利益を被る可能性も否定できません。こうしたリスクを避けるためには、弁護士や司法書士、税理士といった専門家への相談が有効でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。