限定承認とは?制度の仕組みやメリット・デメリットについて解説
「限定承認」という言葉を聞いたことはあっても、実際にどんな制度なのかよく分からない方が多いのではないでしょうか。相続では財産と同時に借金を引き継ぐ可能性があり、判断を誤れば大きな負担を抱える場合もあります。本記事では、限定承認の仕組みから利用されるケース、メリットとデメリット、手続きの流れや必要書類について分かりやすく解説します。相続に不安を感じている方はぜひ最後までご覧ください。
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目次
限定承認とは?

「限定承認」とは、相続によって受け継ぐ財産を「プラスの範囲に限定する」制度です。民法922条に定められており、相続人は相続によって得た財産の限度でのみ借金などの債務を返済すればよいとされています。
通常の相続では、プラスの財産もマイナスの借金もすべて引き継ぐため、財産よりも借金が多ければ相続人がその負担を背負うことになりますが、限定承認を選べば、プラスの財産の範囲でしか借金を清算する必要がなく、自分の財産まで差し出すリスクを避けられます。
関連記事:【税理士監修】相続放棄の必要書類と手続きをケースごとに解説
限定承認が利用されるケース
限定承認は、どういうときに使うのが良いのでしょう。限定承認が効果的に活用される代表的なケースを紹介します。
借金や債務の有無が不明な場合
相続財産に借金が含まれているかどうか分からないとき、限定承認は有効な選択肢となります。
財産調査をしても全貌がすぐには把握できないケースは少なくありません。限定承認を選べば、後から債務が判明しても受け取った財産の範囲でしか返済義務を負わず、相続人の生活や資産が守られます。
兄弟や家族に負担を引き継がせたくない場合
相続を放棄すると、相続権は次の順位の相続人に移り、兄弟姉妹など親族に借金の負担が及ぶ可能性があります。
限定承認であれば相続人全員が共同で手続きを行うため、プラスの財産の範囲内で債務整理を完結させられるのがメリットです。自分たちの代で責任を収め、家族や親族に迷惑をかけないで済みます。
残したい財産がある場合
不動産や事業用資産など、相続人にとって生活や仕事の基盤となる大切な財産がある場合にも限定承認は有効です。
相続を放棄すると財産をすべて失いますが、限定承認を選べば債務を清算したうえで一部の資産を手元に残せる可能性があります。
限定承認のメリット
限定承認は、相続人を借金のリスクから守りつつ財産を整理できる仕組みです。限定承認を選択することで得られる以下のメリットについて解説します。
- プラスの範囲でマイナスを清算できる
- 不動産などを手元に残せる
- 相続人同士で公平な整理ができる
プラスの範囲でマイナスを清算できる
限定承認は、借金の返済責任を相続財産の範囲内に限定できる制度です。
例えば資産が1,000万円、負債が2,000万円あっても、相続人が返済するのは1,000万円までで済みます。自分の財産にまで責任が及ばないため、負債の全体像が不明な状況でも安心して相続に向き合えるでしょう。
不動産などを手元に残せる
限定承認では、債務整理後に残った財産は相続人に帰属します。
例えば、不動産の価値が負債を上回れば、住み慣れた自宅や事業用の資産を残せる可能性があるでしょう。相続放棄ではすべてを失いますが、限定承認なら生活や事業の基盤を守れる点がメリットです。
相続人同士で公平な整理ができる
限定承認の手続きでは、相続人全員で財産目録を作成し、公告・催告を経て債務を清算します。
債権者への弁済は公平に行われるため、一部の相続人だけに負担が偏る心配がありません。透明性の高い手続きを経ることで、親族間の不公平感やトラブルを未然に防げるでしょう。
限定承認のデメリット
限定承認は相続人を守る制度である一方、いくつかの注意点や負担も伴います。制度を誤って利用すると不利益を招く可能性もあるため、以下のデメリットについて理解しておきましょう。
- 相続人全員の合意が必要
- 手続きが複雑で時間がかかる
- 税金が発生するリスク
相続人全員の合意が必要
限定承認は相続人全員で家庭裁判所に申立てを行わなければ成立しません。1人でも反対すると利用できないため、家族間の合意形成が大きな壁になります。事前に十分な話し合いを重ね、全員の理解を得てから進めましょう。
手続きが複雑で時間がかかる
限定承認は家庭裁判所への申立てに加えて、相続財産目録の作成、債権者への公告・催告、財産の換価や弁済といった多段階の作業が必要になります。
通常の相続や相続放棄に比べても手間が多く、完了までに相応の時間と労力がかかる点が大きな負担となります。
税金が発生するリスク
限定承認を行うと、不動産などを債務返済のために清算する場面が生じます。この際、資産は時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得税が課税される可能性があります。
相続人にとっては現金収入がないにもかかわらず税金だけが発生する事態となり、思わぬ負担になります。
もしかするとご自身のケースにも当てはまっていませんか。
単純承認・相続放棄との違い
相続には、限定承認以外にも、「単純承認」と「相続放棄」という方法があります。これらは仕組みやメリット・デメリットが限定承認と異なるため、その違いを整理して解説します。
|
相続方法 |
内容 |
メリット |
デメリット |
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単純承認 |
プラスの財産も借金などのマイナス財産もすべて引き継ぐ |
プラスの財産をすべて相続できる |
借金が多い場合でもすべて引き継ぐことになる |
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相続放棄 |
財産も借金も一切引き継がない |
借金を一切背負わなくてよい |
プラスの財産も一切相続できない |
「単純承認」は、特別な手続きをしなければ自動的に成立する最も一般的な方法です。財産をそのまま相続できる点がメリットですが、借金がある場合も同時に引き継がれます。
一方で「相続放棄」は借金を避けられる反面、プラスの財産も含めて一切を手放さなければなりません。
「限定承認」は、プラスの財産の範囲でのみ債務を清算できる制度であるため、単純承認のように借金を無制限に引き継ぐこともなく、相続放棄のようにすべてを失うこともない中間的な方法と言えます。
関連記事:【税理士監修】相続放棄が認められない事例とは?確実な手続きのために押さえたいポイントを紹介
限定承認の手続きの流れ
限定承認は、相続放棄や単純承認に比べて手続きが複雑です。大まかな流れをあらかじめ押さえておけば、全体像をイメージしやすくなるでしょう。代表的なステップをご紹介します。
財産調査と目録作成
まず、相続財産全体を調査し、プラスの資産とマイナスの債務を把握し、その結果を「相続財産目録」にまとめましょう。
この目録は民法923条で必須とされており、相続人全員が共同で作成しなければなりません。記載漏れや把握不足は後の清算でトラブルの原因となるため、資産・負債の確認は丁寧に進めましょう。
裁判所申立て
財産目録を作成したら、相続開始を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所へ限定承認を申立てます。
期限を過ぎると単純承認とみなされるため注意しましょう。必要に応じて延長も可能ですが、申立ては相続人全員が共同で行う必要があります。早めの準備と合意形成が重要です。
公告と債務弁済
家庭裁判所に申立てが受理されると、相続人は債権者に対して公告・催告を行います。
公告期間中に債権者が請求してきた場合、相続人は相続財産の範囲で弁済を進めます。これにより債権者への対応が公平になり、相続人が過大な責任を負わないよう制度的に保護される仕組みとなっています。
残余財産の分配
すべての債務弁済が完了した後、財産が残れば相続人に帰属します。
残余財産は相続人同士の協議に基づき分配されます。この段階で初めてプラスの財産が相続人の手元に残るため、限定承認のメリットを実感できます。
限定承認の申立てに必要な準備

限定承認を行うためには、家庭裁判所へ提出する書類や、申立てにかかる費用をあらかじめ準備する必要があります。不備や不足があると受理されない可能性があるため、しっかり確認しておきましょう。
必要な書類
限定承認の申立てに必要となる書類は以下の通りです。
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書類 |
内容 |
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被相続人の戸籍謄本 |
被相続人が死亡したことを証明する書類 |
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相続人全員の戸籍関係書類 |
誰が相続人かを確認するために必要 |
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財産目録 |
プラスの財産・借金をまとめた一覧表 |
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限定承認申述書 |
限定承認を申し立てるための正式な書類 |
これらは家庭裁判所に提出する必須の書類です。少しでも誤りや不足があると受理されなかったり、再提出を求められる可能性があるので注意しましょう。
限定承認の申立てには書類準備や裁判所への対応など複雑な流れがあります。
専門家に依頼することでスムーズに進められますので、ぜひご相談ください。
必要な費用
申立てにあたり発生する主な費用は以下の通りです。
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費用の種類 |
内容 |
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収入印紙代 |
申立て手数料として800円分が必要 |
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郵便切手代 |
裁判所からの連絡用(必要額は裁判所ごとに異なる) |
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公告費用 |
官報に公告を掲載するための費用 |
収入印紙代は高額ではありませんが、公告費用や郵便切手代を合わせると一定の出費になります。必要な金額は裁判所ごとに異なるため、事前に確認し、余裕を持って準備しておくと安心でしょう。
限定承認に関してよくある質問

限定承認は特殊な制度であり、手続きや税務の扱いに不安を持つ方も少なくありません。限定承認に関して、よく寄せられる質問を取り上げましたので、参考にしてください。
限定承認をすると税金はかかりますか?
限定承認では、不動産などを清算する際に時価で譲渡したとみなされるため、譲渡所得税が課税される場合があります。
制度を使えば借金をプラスの財産の範囲に限定できますが、その一方で予期せぬ税負担が発生するリスクを伴います。利用を検討する際には税務面の影響を十分に確認しましょう。
限定承認はよく使われる制度ですか?
限定承認は制度として有効ですが、実務で利用される件数は多くありません。令和4年度の最高裁判所司法統計によれば、申立件数は年間696件にとどまっています。
その理由として、相続人全員の合意が必要であることや、公告・弁済などの手続きが煩雑である点が挙げられます。
限定承認の手続きは自分だけで進められますか?
限定承認の手続きを自分だけで進めるのは現実的ではないでしょう。なぜなら、申立てや公告、財産目録の作成、債務整理など複数の工程があり、形式に不備があれば手続きが不成立になる可能性があるためです。
実際、弁護士や司法書士に依頼して進めるのが一般的であり、自力で行うのは大きなリスクを伴います。専門家の支援を受けることが安全かつ確実な方法と言えるでしょう。
限定承認に不安がある方は専門家に相談
限定承認は、相続人を借金のリスクから守る制度として有効ですが、実際の手続きは複雑です。
相続人全員の合意が必要で、家庭裁判所への申立てや公告、債権者対応など専門的な対応が求められます。さらに不動産などを清算する際には譲渡所得税が課される可能性もあり、思わぬ税務リスクを抱える可能性もあるでしょう。
こうした状況を避けるためには、相続に精通した専門家に早めに相談するのが重要です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。