遺産相続の税務調査で注目される人とは?調査の確率や回避するコツを解説
遺産相続の手続きを進めるうえで「申告の不備で税務調査が来たらどうしよう」と不安を感じていませんか。税務調査は誰もが対象になる可能性がありますが、事前にポイントを押さえておけば、リスクは軽減できます。本記事では、税務調査で注目されやすい人の特徴や、具体的な対策までを解説します。正しい知識を身につけ、適切に相続手続きを完了させましょう。
遺産相続の税務調査における基礎知識

遺産相続に際して行われる税務調査には、任意調査と強制調査の2種類があります。対象となる確率は年度により異なりますが、すべての申告が調査される可能性もあります。基本的な知識を備えて、精神的な余裕を持っておきましょう。
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任意調査と強制調査の違い
税務調査は、納税者の同意のもとで行われる任意調査と、裁判所の令状に基づく強制調査に分けられます。それぞれの調査内容は、以下の通りです。
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項目 |
内容 |
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任意調査 |
納税者の同意を得て、質問や帳簿書類の確認を行う。 |
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強制調査 |
悪質な脱税が疑われる場合に、令状に基づき強制的に行われる。 |
税務調査は、ほとんどが任意調査で行われます。しかし、任意であっても特別な事情がなければ応じる必要があります。質問に対して正直に回答し、求められた資料の提示が必要です。
強制調査は、多額の財産隠しのような極めて悪質なケースに限られるため、誠実な申告をしていれば過度な心配は不要です。調査の依頼がきた場合は、真摯な対応を心がけましょう。
税務調査の対象になる確率
令和5年分の国税庁の発表では、相続税の税務調査が実施される確率は約5.5%でした。申告件数155,740件に対して、実地調査が行われたのは8,556件です。
数字だけを見ると、調査対象になる確率は低いと感じるかもしれませんが、年度次第では10%を超える年もあります。調査を受けた場合、追徴課税が課される確率は80%以上です。
実施確率が低いからと安心せずに、すべての納税者が誠実な申告を心がけるのが大切です。
税務調査が実施されやすいタイミング
税務調査が行われる時期に関しては、法律上の明確な規定がありません。しかし、一般的には遺産の継承を行ってから1〜2年が経過した、8〜11月頃に実施される可能性が高いです。
調査時期は、7月に行われる税務署の人事異動が関係しています。新しい担当者が着任し、業務の引き継ぎを終えてから本格的に始動するため、夏から秋にかけて調査が集中する傾向です。
1年間連絡がないからといって、調査を逃れたとは限りません。時間が経ってから通知が来るケースもあるため、申告関連の書類はいつでも提示できるよう大切に保管しておきましょう。
税務調査で注目される人の特徴

税務署は限られた人員で効率的に調査を行うため、申告漏れや誤りが起こりやすい特定のケースに注目する傾向があります。注目されやすい人の特徴を把握して、自身のケースと照らし合わせてみましょう。
遺産相続の額が大きい
一般的に遺産相続が2~3億円を超えると、税務調査の対象となる可能性が高まると言われています。額が大きくなるほど、税額の計算も複雑になり、申告漏れによる追徴税額も高額になる傾向があるからです。
税務署は調査によって大きな成果が見込めるため、遺産の多い人を優先的に選びます。被相続人の遺産額もデータで残っているため、申告漏れの調査が入念に行われます。遺産総額が大きい人は、申告内容の正確さがより厳しく求められるため、慎重な対応が必要です。
申告書の内容にミスが多い
申告書に記載された単純な計算ミスや、添付書類の不備も調査の原因です。基本的な誤りが多い申告書は、全体の信頼性が低いと判断される可能性があります。
専門家に依頼せず自分で申告書を作成した場合、財産の評価方法や特例の適用要件を誤解してしまうケースも多いです。専門家であれば防げるような形式的なミスを防ぐためにも、申告書は提出前に第三者の視点で入念にチェックするのがおすすめです。
申告内容に自信を持てない人は、一人で不安を抱えずに、まずは気軽に専門家に相談するとよいでしょう。
名義預金や生前贈与が疑われる
家族名義の預金口座に不審な点があると、名義預金として調査対象となります。被相続人が通帳や印鑑を管理していた場合、名義人本人が自由に出し入れできないため、実質的に被相続人の財産とみなされます。
また、生前贈与についても毎年同じ時期に同額が移動していると、定期贈与と判断される可能性があるため注意が必要です。定期贈与と判断されれば、贈与とは認められず、遺産の一部として扱われます。
名義預金や生前贈与も税務署の判断次第では、遺産相続として認定される可能性があります。安易に資産を動かすのは避けて、少しでも不安な点があれば専門家へ相談し、遺産相続のトラブルを防ぎましょう。
被相続人の口座で不自然なお金の動きがある
亡くなる直前の数年間に、被相続人の預金口座から多額の現金が引き出されている場合、税務署から説明を求められます。税務署は、過去にさかのぼって金融機関の取引履歴を調査する権限を持っています。
引き出された現金の使い道の説明が不十分だと、相続人が現金で受け取ったのではないかと疑われるリスクが高いです。生活費や医療費など、正当な目的で引き出した場合は、事実を証明できるレシートや領収書などを記録として残しておきましょう。
国外の財産が申告されていない
海外資産を保有している場合も対象となりやすく、令和5年には205件の海外資産調査が実施されています。以下は、令和5年の海外資産における申告漏れの件数です。
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項目 |
件数 |
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現金・預貯金等 |
87件 |
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その他 |
70件 |
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不動産 |
22件 |
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有価証券(株式・債券など) |
26件 |
国際的な情報交換制度により、海外の金融機関との取引状況も税務署に把握されています。海外資産であっても調査対象となるため、正確な申告を心がけるのが大切です。
税理士のチェックを受けずに申告している
税理士が関与していない申告は、調査対象とされやすいです。専門家のチェックを受けた申告に比べると、内容の正確性に疑念を持たれるため、結果的に調査される確率が高まります。
税理士が申告書の内容が適正であることを保証する「書面添付制度」を利用すると、税務調査のリスクをさらに低減できます。対象になった場合でも、まずは税理士への意見聴取が行われ、問題がなければ実地調査が省略される可能性が高いです。
専門家の関与は、申告の正確性を担保するだけでなく、調査を回避するための有効な手段です。ミスなく正確に申告を行いたい人は、税理士への依頼をおすすめします。
遺産相続の申告をしていない
相続税の申告義務があるのに、未申告のまま放置しておくのは、調査を招きやすい要因の1つです。税務署は、過去の申告データや不動産の登記情報などから、相続の発生を把握しています。
基礎控除額を超える資産があるにもかかわらず申告がなければ、いずれ税務署から指摘を受ける可能性が高いです。申告漏れの不安がある人は、ペナルティである加算税を避けるため、遺産相続の内容を確認し、適切に手続きを完了させましょう。
関連記事:遺産相続の相談先は?専門家ごとの依頼できる内容を詳しく紹介
遺産相続の税務調査を避けるためのコツ

税務調査は誰もが対象になる可能性がありますが、事前に対策を行えばリスクは下げられます。少しでもリスクを抑えるために、調査を避けるためのコツを知っておくのがおすすめです。
専門の税理士に相談する
税務調査のリスクを減らすための有効な方法は、相続を専門とする税理士への申告の依頼です。専門家の知見に基づき作成された申告書は、税務署からの信頼度が高く、調査対象に選ばれにくい傾向があります。
先述した「書面添付制度」が利用されていない申告は、調査対象として選ばれる要因の1つです。相続税は専門性が高い分野のため、実績豊富な税理士に依頼し、対策を考えるのがおすすめです。
費用はかかりますが、調査リスクの軽減効果を考えれば十分に価値のある投資でしょう。専門の税理士探しにお困りの人は、小谷野税理士法人の無料相談を検討してはいかがでしょうか?
被相続人の資産内容を整理しておく
申告漏れを防ぐには、事前にすべての資産を把握しておくのが大切です。預貯金や不動産はもちろん、生命保険や骨董品といった財産まで、一覧にまとめて整理しておくと申告がスムーズに進みます。
元気なうちから親子で資産について話し合う機会を設けておくのも、有効な手段の1つです。財産を家族が把握していれば、万が一の時も慌てずに対応できます。遺産相続を円滑に進めるためにも、早めに資産の整理を始めておきましょう。
生前贈与の記録を証拠として残す
過去に生前贈与を受けている場合は、事実を客観的に証明できる証拠を必ず残しておきましょう。最も有効な証拠となるのが「贈与契約書」です。信頼度を高めるための対策は、以下の通りです。
- 贈与契約書を作る
- 公証役場から確定日付を取得する
契約書を作成し、公証役場から確定日付をもらえば「贈与契約がその日に存在していたこと」を証明できます。また、現金を贈与する場合、直接の手渡しは避け、銀行振込を利用して記録が残る形にすると、より証明力が高まります。
客観的な証拠を残しておけば、税務署への説明もスムーズに行えるため、生前贈与を検討している人は対策を練っておきましょう。
関連記事:複数から贈与を受けた場合の基礎控除は?課税方法と対策をチェック
税務調査の対象になった場合の流れ
税務調査の対象になっても、事前に流れを把握しておけば、落ち着いて対応できます。
税務署からの連絡から調査後の手続きまで、どのような手順で進むのかを知っておくのが大切です。申告漏れが見つかった場合のペナルティも理解して、万全の準備を整えましょう。
事前通知から調査当日の進行
税務調査は突然行われるわけではなく、通常は事前に税務署から連絡があり、流れは以下の通りです。
- 税務署からの事前通知
- 日程調整
- ヒアリングの実施
- 調査結果の連絡
最初に税理士または本人へ電話で調査の連絡が入り、日程調整を行います。調査当日は、ヒアリングから始まり、預金通帳や貴重品などの確認へと進みます。後日、調査結果が通知され、申告内容に問題がなければ調査は終了です。
万が一税務調査の連絡がきた場合は、税理士に頼るのがおすすめです。専門家のサポートがあれば、具体的な対策を練ってもらえるため、気軽に無料相談を利用してみましょう。
申告漏れが見つかった場合のペナルティ
税務調査で申告漏れが発覚した場合、本来納めるべき税額に加えて、ペナルティとして追徴課税が課されます。追徴課税の種類は、以下の通りです。
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追徴課税 |
税率 |
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過少申告加算税 |
5〜15% |
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無申告加算税 |
15〜30% |
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重加算税 |
35〜50% |
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延滞税 |
2.4〜8.7%(令和7年中の税率) 7.3〜14.6%(通常) |
追徴課税の税率は、申告の状況で異なります。過少申告加算税は、申告額が本来より少なかった場合に課され、無申告加算税は期限内に申告しなかった場合に課されます。
なかでも重加算税は、財産隠しなど悪質なケースに適用される最も重いペナルティで、高い税率が特徴です。また、延滞税は納付が遅れた日数に応じて加算される利息で、支払いが遅れるほど額も大きくなります。
上記のペナルティは負担が増すため、最初の申告を正確に行っておくのが何よりも大切です。
遺産相続の税務調査は税理士に相談しよう
遺産相続の税務調査は、適切な対策により回避できる可能性を高められます。なかでも、相続税に精通した税理士への依頼が効果的で、専門家による正確な申告により調査対象となるリスクを軽減できます。
生前からの財産把握や贈与記録の保管など、日頃からの準備も大切です。税務調査に不安を感じる人は、1人で悩まず専門家のサポートを受けて、安心して手続きを進めるとよいでしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。