息子の嫁と養子縁組する相続税のメリットやデメリット・注意点を解説

息子の嫁との養子縁組は相続税対策として効果的な手段です。養子縁組によって法定相続人が増え、基礎控除額の拡大などの節税効果が期待できます。しかし、他の相続人とのトラブルリスクや離婚時の問題など、注意すべき点も多いです。
この記事では、息子の嫁と養子縁組する相続税のメリットやデメリット・注意点を解説いたします。
目次
息子の嫁は法定相続人にならず遺産を相続できない
民法では、被相続人の財産を相続できる人の範囲と順位が法定相続人として定められています。法定相続人になれるのは、被相続人の配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹に限られます。息子の嫁は被相続人から見て「姻族」にあたり、原則として法定相続人には含まれません。
義父母が亡くなった場合、嫁には法律上の相続権がありません。長年にわたり義父母の介護に尽力した場合でも、法的な相続権は自動的に認められないため、注意しましょう。
実際には、介護に貢献した嫁が遺産を受け取れないという不公平感が生じることがあります。嫁に財産を残したい場合は、遺言作成や養子縁組などの手続きが必要です。
関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説
息子の嫁と養子縁組する相続税のメリット3選
息子の嫁と養子縁組を行うと、以下のメリットがあります。
- 息子の嫁が法定相続人として財産を相続できる
- 相続税の基礎控除額が増加し節税につながる
- 生命保険金や死亡退職金の非課税枠が拡大する
ここでは、上記について詳しく解説していきます。
息子の嫁が法定相続人として財産を相続できる
養子縁組をすると、嫁は法律上実子と同じ身分として扱われます。遺言書がなくても他の相続人と同様に遺産分割協議に参加し、財産を相続する権利を得ます。
先祖代々の不動産を息子夫婦に継がせたい場合、嫁が相続人となることでスムーズな承継が可能です。
また、息子が親より先に亡くなった場合でも、養子となった嫁は相続権を保持します。そのため、介護などで貢献してくれた嫁に財産を残したいという意思を、法的に明確な形での実現が可能です。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
基礎控除額が増加し節税につながる
息子の嫁と養子縁組を行うと、法定相続人が1人増え、基礎控除額が600万円増加します。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算されます。
例えば、相続人が配偶者と息子1人の場合、基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)です。嫁を養子にすると法定相続人が3人になり、基礎控除額は4,800万円(3,000万円+600万円×3人)に増えます。
課税遺産総額がこの範囲内なら相続税はかかりません。
関連記事:養子縁組は本当に相続税対策になる?実子との違いや注意点を解説
関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?
生命保険金や死亡退職金の非課税枠が拡大する
息子の嫁と養子縁組をすると法定相続人の数が増えるため、生命保険金や死亡退職金の非課税枠も拡大します。生命保険金や死亡退職金の非課税枠は「500万円×法定相続人の人数」で計算されます。
例えば、法定相続人が配偶者と息子1人の場合、非課税枠は1,000万円(500万円×2人)です。嫁が養子として加わると法定相続人が3人になり、非課税枠は1,500万円(500万円×3人)に増えます。
より多くの生命保険金や死亡退職金を非課税で受け取れ、相続税の負担軽減につながります。
参考:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁
関連記事:生命保険を活用して賢く相続税対策!非課税枠や注意点を解説
息子の嫁と養子縁組する際のデメリット・注意点4選
息子の嫁との養子縁組は、他の相続人との遺産分割トラブルや、離婚後も養親子関係が続く問題などが考えられます。節税目的と判断された場合のリスクも考慮しなければなりません。
ここでは、息子の嫁と養子縁組する際のデメリット・注意点4選を解説します。
他の相続人との間で遺産分割トラブルが生じやすい
息子の嫁を養子にすると法定相続人が増え、他の相続人の相続分が減少します。相続人が子2人の場合、各自の相続分は子全体の相続分の2分の1ですが、嫁を養子にすると子全体の相続分の3分の1になります。
この相続分の変動が他の相続人の不満を招き、遺産分割協議が難航する原因となることが多いです。
特に「なぜ長男の嫁だけが特別扱いされるのか」という感情的対立も起きやすいでしょう。そのため、事前の家族間での合意形成が必要です。
関連記事:養子縁組関連の相続トラブルとは?よくある事例や生前に実施できる対策を紹介
息子夫婦が離婚しても親子関係は自動的に解消されない
養子縁組によって成立した親子関係は、息子夫婦が離婚しても自動的には解消されません。この親子関係を終わらせるには「離縁届」の提出か、家庭裁判所での調停・裁判が必要です。
なお、離縁せずに養親が亡くなった場合、元嫁は法定相続人として遺産を相続する権利を持ちます。夫婦関係の将来は予測困難なため、この点は養子縁組を検討する上で認識しておきましょう。
養子になった嫁の相続税は2割加算されない
養子となった嫁は被相続人の一親等の法定血族となるため、相続税の2割加算の対象外です。相続税の2割加算とは、被相続人の配偶者や一親等の血族以外が財産を相続した場合に、相続税額が2割加算される制度です。法律上、養子は実子と同様に扱われるため、この2割加算は適用されません。
しかし、孫を養子にした場合など、状況により2割加算の対象となる例外もあります 誰を養子にするかによって2割加算の対象が異なるため、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
関連記事:相続税の2割加算の対象者は孫だけじゃない!ケース別の対象者について解説
節税目的だけの養子縁組は税務署に否認されるリスクがある
相続税法では、養子の数に制限があります。実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか法定相続人に含められません。息子の嫁を1人だけ養子にするのであれば、通常はこの人数の制限を超えることはありません。
しかし、明らかな節税目的と税務署に判断されると否認されるリスクがあります。特に、被相続人の死期が迫った状態での養子縁組などは注意しておきましょう。
否認されると、基礎控除額や非課税枠の計算で養子の数を算入できないため、節税目的での養子縁組には注意が必要です。
リスクを軽減するためには、税金の専門家である税理士への相談が有効です。嫁の養子縁組や相続対策については、やさしい相続相談センターに気軽にお問い合わせください。
養子縁組以外で息子の嫁に財産を渡す3つの方法
養子縁組のデメリットを避けつつ嫁に財産を渡す方法もあります。
- 遺言書による遺贈
- 生命保険の受取人指定
- 生前贈与
それぞれに特徴があり、家族状況や財産内容に応じた選択が求められます。
遺言書として遺贈する
最も一般的な方法は遺言書による「遺贈」です。遺贈とは、遺言によって法定相続人以外の人に財産を譲る方法です。養子縁組による親族関係の複雑化を避けながら、特定財産を嫁に残せます。
しかし、遺贈を受けた嫁は法定相続人ではないため、相続税額は2割加算の対象になります。また、遺言書の作成時には、他の相続人の遺留分の侵害を配慮する必要があります。実際には、法的効力が強い公正証書遺言での作成がおすすめです。
関連記事:遺贈・相続・贈与の違いとは?必要な手続きや発生する税金など注意点を解説
生命保険の受取人を息子の嫁に指定する
死亡保険金の受取人を息子の嫁に指定しておけば、被相続人の死亡時に保険会社から嫁へ直接保険金が支払われます。
この死亡保険金は民法上の相続財産ではないため、遺産分割協議の対象外となります。他の相続人とのトラブルを避けつつ、確実に財産を残したい場合に有効的です。
しかし、この場合、嫁は法定相続人ではないため、生命保険金の非課税枠は適用されません。
生前贈与する
生前贈与も、息子の嫁に財産を渡す方法として有効的です。年間110万円までの基礎控除額内での贈与であれば、贈与税はかかりません。また、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与といった非課税特例も活用できます。
しかし、相続開始前の一定期間内の贈与は、相続または遺贈により財産を取得した場合は相続財産に持ち戻される点に注意しましょう。持ち戻しの期間は2024年1月1日以降段階的に延長され、最終的に7年となります。そのため、計画的な贈与設計が求められるでしょう。
生前贈与は相続税対策として有効な方法です。しかし、定期贈与とみなされた場合、贈与税の負担が増える恐れがあります。生前贈与や相続の悩みについては、やさしい相続相談センターにお気軽にお問い合わせください。
参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
参考:令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!|国税庁
関連記事:【税理士監修】相続税対策に生前贈与を行うべき?生前贈与のメリットや注意点を解説
関連記事:【税理士監修】生前贈与の方法とは?税務署に注意されないための手続きについて説明
息子の嫁と養子縁組する際の手続きと必要書類
息子の嫁と養子縁組を行うには、市区町村役場の戸籍窓口への届出が必要です。養親と養子が共同で署名・押印した「養子縁組届」を提出することで成立します。
なお、届出の際には、戸籍謄本や本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)が必要で、成人の証人2名の署名・押印も求められます。
養親に配偶者がいる場合は、その同意が必要です 嫁が成人している場合は家庭裁判所の許可は不要で、役所への届出のみで効力が発生します。手続きに不安がある方は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
息子の嫁と養子縁組は、相続税の基礎控除額や生命保険金の非課税枠を拡大させ、節税効果を期待できます。一方で、親族間トラブルや離婚後の問題など、複数のデメリットも存在します。
養子縁組以外にも遺言による遺贈、生命保険の活用、生前贈与などの方法でも財産を渡せます。それぞれに特徴があるため、家族の状況や資産内容を踏まえ、最適な方法を選ぶことが大切です。
養子縁組に関して不明点や不安がある際は、税理士などの専門家への相談を検討しましょう。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
また、金融機関や不動産関係者、葬儀関連企業、税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。
監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。