住んでいる家の相続で兄弟と揉めないためには?分割方法と注意点を解説

住んでいる家の相続で兄弟と揉めないためには?分割方法と注意点を解説

親が亡くなった後に、兄弟で実家を相続するケースは多くあります。特に兄弟のうち一人が親と同居していて、継続して家に住み続ける場合、遺産分割を巡って感情的な対立や金銭的な問題が起こりやすくなります。

本記事では、兄弟で実家を相続する際に起こりがちなトラブルや、円満に相続を進めるための具体的な遺産分割方法を解説します。実家に住み続けたい相続人が単独で相続するための手順や、生前からできるトラブル防止策も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

目次

兄弟で実家を相続する際に起こりやすいトラブル

養子縁組によるトラブル

不動産は現金のように均等に分けにくいため、兄弟間のトラブルの火種になりやすい財産です。ここでは、実家を兄弟で相続するときに陥りがちな代表的なトラブルを紹介します。

遺産の分け方について兄弟間の意見がまとまらない

兄弟により置かれた状況や不動産に対する価値観が違う可能性があり、全員が納得する落としどころを見つけるのが難しくなります。

例えば、親と同居していた兄弟は、そのまま実家に住み続けたいと望むかもしれません。一方で他の兄弟は、実家を売却して現金で分けるべきだと主張する場合もあるでしょう。

また、家に住み続ける兄弟が他の兄弟へ支払う代償金の額で折り合いがつかず、協議が難航することもしばしば見受けられます。意見の食い違いが長引けば、兄弟間の関係がぎくしゃくする恐れがあります。

共有名義にしたことで不動産を自由に活用できなくなる

実家を兄弟の共有名義にすると、後々まで厄介な問題に発展する場合があります。不動産を共有すると、売却や大規模リフォームなどは共有者全員の同意が必要です。一人でも反対すれば進められません。

また、共有者の誰かが亡くなると、持分は配偶者や子どもへ引き継がれる可能性があり、共有者の数がどんどん増えます。世代が交代するにつれて権利関係が複雑化し、顔も知らない親族と不動産を共有する事態にもなりかねません。

共有名義は、一見公平で安心に思えても、長期的には不動産を事実上「動かせない財産」になるリスクもはらんでいます。相続では公平さだけでなく、その後の活用や管理のしやすさを見据えた判断が欠かせません。

兄弟で家を相続する4つの遺産分割方法

不動産・家の分割

兄弟で実家を相続する場合の遺産分割方法には、主に次の4つの選択肢があります。

  1. 現物分割
  2. 換価分割
  3. 代償分割
  4. 共有分割

それぞれ具体例を交えながら概要を解説します。

1.現物分割:家に住む人以外の兄弟が他の財産を相続する方法

現物分割とは、遺産を現金化せずに、そのままの形で分け合う方法です。例えば「家に住みたい人は家を、他の兄弟は預貯金や株式を」というように分けられます。

現物分割のメリットは、実家を売らずに済む点です。「親の家を残したい」「自分が住み続けたい」という希望を尊重でき、他の兄弟も別の財産を受け取れば納得感を得やすくなります。

ただし、遺産のほとんどが不動産である場合は、慎重さが求められます。例えば不動産3,000万円に対し預金が2,500万円しかなければ、家を得た相続人が相対的に得をする形となり、不満が生じやすくなるでしょう。

現物分割は「家を残したい」という希望を叶えられる方法ですが、遺産の内容によっては公平性を失うリスクがあります。

2.換価分割:家を売却して得たお金を公平に分ける方法

換価分割とは、相続した実家を売却し、代金を兄弟で分け合う方法です。遺産を現金化することで、1円単位まで公平に分けられます。また、固定資産税や修繕費などの支出から解放されるのもメリットです。

例えば実家を3,000万円で売却し、三兄弟で均等に分ければ、それぞれ1,000万円ずつを受け取れます。計算上の不公平がなく、感情的な衝突を避けやすくなるでしょう。

ただし、売却には仲介手数料や測量費などの経費がかかり、売却益が出れば譲渡所得税の負担もあります。さらに、思い出の詰まった家を手放すことになるため、家に愛着を持つ相続人がいれば合意を取りづらくなるでしょう。

換価分割は公平でシンプルな方法ですが、家への思い入れや感情との折り合いが難しくなる一面もあります。

関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて

3.分割:家に住み続ける人が他の兄弟へ代償金を支払う方法

代償分割とは、兄弟のうち一人が実家を相続し、代わりに他の兄弟へ法定相続分に見合う現金を支払う方法です。「実家に住みたい」という希望を叶えつつ、他の兄弟にも金銭で取り分を渡せるメリットがあります。

例えば長女が実家を相続し、兄弟2人にそれぞれ1,000万円の代償金を支払う場合を考えてみましょう。長女は家に住み続けられ、兄弟も現金を受け取れるため「不動産を残したい思い」と「公平な分配」の両立が可能です。

ただし、家を取得する人には支払能力が求められます。自己資金だけで足りなければ、代償金に特化したローンを利用する必要もあるでしょう。また不動産評価を巡って「代償金の額が妥当か」で揉める可能性もあります。

代償分割は不動産を残しつつ公平を保てる方法ですが、資金力や評価についての合意形成が課題となりやすい方法です。

関連記事:代償分割とは?遺産分割・相続税でもめない方法

4.共有分割:兄弟全員で1つの家の所有権を持つ方法

共有分割とは、一つの不動産を兄弟全員で共有名義にし、法定相続分に応じた割合で所有する方法です。各相続人が法定相続分に応じた持分を得られるため、相続直後は「全員が自分の権利を持っている」と納得しやすい点が特徴です。

例えば3人兄弟が実家をそれぞれ3分の1ずつ共有するケースを考えてみましょう。この場合、形式上は平等であり、時間をかけて将来の方針を考える余地も残せます。

ただし、短期的な解決策としては有効でも、長期的には自由度が低くトラブルに発展しやすいため、慎重な判断が必要です。

【注意】共有名義での相続は将来的な問題に発展しやすい

共有名義での相続は、一見公平に見えても、後々トラブルを抱えやすいリスクもあります。ここでは、共有名義が引き起こしがちな問題点を解説します。

家の売却やリフォームに共有者全員の同意が必要になる

共有名義の不動産は、売却や改修といった重要な決定は単独ではできません。複数人の合意を取り付ける必要があり、話が思うように進まないことがあります。

例えば、屋根の補修や雨漏り修理といった「保存行為」は共有者が単独でできます。しかし、リフォームや賃貸契約といった「管理行為」には持分の過半数の同意が必須です。また、売却や担保設定といった「処分行為」には共有者全員の同意が欠かせません。

さらに、相続を重ねて甥や姪まで共有者が増えると、連絡や押印の手続きも煩雑になります。合意形成が難しくなり住宅を放置し続けた結果、誰も住まないのに固定資産税だけがかかることも珍しくありません。

共有名義は、時間が経つほど合意形成の壁が重くのしかかります。もし検討する際は、相続時に名義の持ち方を慎重に決め、早めに専門家に相談すると安心です。

相続税対策に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

他の兄弟から家賃相当額の支払いを求められる可能性がある

共有名義の家に一人だけが無償で住み続けると、他の共有者から家賃相当額(使用料相当損害金)を請求される可能性があります。

例えば兄弟3人がそれぞれ3分の1の持分を相続した家を想定してください。一人だけが住み続けた場合、残り2人は持分割合に応じた使用料を請求できる立場にあります。無断で占有が続けば感情的な対立が深まり、家庭裁判所での調停や訴訟に発展することもあるでしょう。

共有名義の不動産は、「誰が住むのか」「費用をどう分担するのか」といった問題を巡ってトラブルに発展しやすい性質を持っています。相続の段階でルールを明らかにし、必要に応じて専門家へ相談しておくことが重要です。

家に住み続けたい人が単独で相続するための具体的な手順

準確定申告のイメージ

実家に住み続けたいと考える人は、自分の希望だけでなく他の兄弟にも納得してもらえるよう話し合いを進めることが欠かせません。ここでは、実家を単独で相続するための手順を、4つの段階に分けて解説します。

  1. 相続財産の総額を正確に把握する
  2. 専門家に依頼して家の価値を査定してもらう
  3. 遺産分割協議を開き分割方法を話し合う
  4. 法務局で相続登記を行い家の名義を変更する

ステップ1:相続財産の総額を正確に把握する

家を単独で相続して住み続けたい場合、最初にすべきは相続財産の全体像を知ることです。相続財産には不動産だけでなく、預貯金、株式、保険、自動車などの資産や借金、未払金などの負債も含まれます。

相続財産の全体像を知るには、負債も含めたすべての資産を洗い出し、一覧表にまとめる財産目録の作成が大切です。財産目録を作成すれば、それぞれの相続人がどの程度の財産を取得できそうかの見込みを立てられます。遺産分割の方法についても、具体的な検討がしやすくなるでしょう。

ステップ2:専門家に依頼して家の価値を査定してもらう

次のステップは、専門家に査定を頼み、家の価値を把握することです。公正な査定額があれば、兄弟間の話し合いで感情的な対立を避けやすくなり、スムーズな合意形成に役立ちます。

不動産の価値にはいくつかの基準があります。固定資産税評価額は税額計算の目安、相続税路線価は相続税用の基準ですが、いずれも市場価格とは差が出るのが一般的です。

実際の価値は、築年数やリフォーム歴、近隣の取引事例などで変動します。そのため、不動産会社の机上査定や訪問査定を活用し、複数社から根拠資料を取り寄せて比較検討することが望ましいでしょう。

ステップ3:遺産分割協議を開き分割方法を話し合う

相続財産と家の評価額が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を開き、分割方法を決めましょう。協議では、不動産査定書、預金残高証明、相続税の試算といった客観的な資料を基に、代償金額や支払期日を明らかにします。

また、合意内容は必ず「遺産分割協議書」にまとめ、対象財産や取得者、代償金額、支払方法、費用負担を記載しましょう。必要に応じて担保や期限の利益喪失条項を盛り込み、相続人全員が署名・実印押印し、印鑑証明書を添付することで、法的効力を確実にできます。協議内容を正式な文書に残し、円滑で確実な遺産分割を実現しましょう。

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

ステップ4:法務局で相続登記を行い家の名義を変更する

遺産分割協議がまとまったら、法務局で相続登記(不動産の名義変更)を行いましょう。相続人への正式な名義変更を済ませてはじめて、家を自由に活用できます。

相続登記は2024年4月から義務化されており、相続開始を知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく遅れれば10万円以下の過料の対象になり、登記を放置すると売却や担保設定などに支障が出る可能性があります。

登記に必要な主な書類は、以下の通りです。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍
  • 相続人の戸籍・住民票
  • 固定資産税評価証明書
  • 遺産分割協議書

登記費用には、登録免許税がかかります。また、書類の収集や添付資料の準備には手間がかかるため、オンライン申請を利用するか、司法書士に依頼すると確実です。

参考:相続登記の申請義務化について|法務省

兄弟間の相続トラブルを未然に防ぐための対策

親・兄弟の相続問題

兄弟間の相続トラブルは、一度こじれると今後の関係にも影響を及ぼしかねません。ここでは、兄弟間の相続トラブルを未然に防ぐための対策を紹介します。

  • 親が元気なうちに遺言書を作成してもらう
  • 家族全員で生前に相続について話し合っておく
  • 自分たちでの解決が難しい場合は専門家へ相談する

親が元気なうちに遺言書を作成してもらう

遺言書とは、亡くなった後の財産の分け方を法的に示す文書です。親が元気なうちに遺言書を用意してもらうことで、記載内容に沿って遺産分割が進み、争いを防ぐ防波堤になります。

例えば「長男に自宅を相続させる」と具体的に記せば、遺産分割協議を省略できる場合もあります。ただし、遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)を侵害すると、遺留分侵害額請求の対象となる点には注意しましょう。

遺言書は形式を整えて法的にクリアするだけでなく、相続人の感情面にも配慮することも大切です。内容を確実に有効なものとするためにも、弁護士や司法書士などの専門家に相談しながら準備を進めるのが望ましいでしょう。

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

家族全員で生前に相続について話し合っておく

兄弟間の相続トラブルを未然に防ぐには、親が元気なうちに家族会議を開き、相続について話し合っておきましょう。相続方針を共有することで、親がどのように財産を承継させたいのかを示すと同時に、子ども側の希望も整理できます。双方の誤解や期待のずれも減らせるでしょう。

例えば「自宅に住み続けたい人がいるのか」「誰も住まないので売却を前提とするのか」といった点を確認するだけでも、分割の方向性が明確になります。事前に自宅の扱いや預貯金の配分など論点を決めておき、会議後に合意のメモを残すことで、将来のトラブルを予防できるでしょう。

また、家族会議は一度で終えるのではなく、ライフイベントや資産状況の変化に合わせて定期的に見直すと良いでしょう。継続的に話し合いを重ねることで、より円満で安心できる相続へとつながります。

自分たちでの解決が難しい場合は専門家へ相談する

兄弟間での話し合いがまとまらない場合や、相続手続きが複雑だと感じる場合には、早めに専門家へ相談しましょう。相続には法律、税務、登記といった複数の分野が関わるため、当事者だけの知識では適切な判断や対応が難しいからです。

弁護士は交渉や遺産分割の調停、審判を代理し、合意形成をサポートします。司法書士は相続登記や必要書類の作成を担当し、税理士は相続税の申告や小規模宅地等の特例判定、納税資金の計画を担います。

専門家の知識を活用することで、法的に正しく、かつ円滑に手続きを進められるでしょう。相続問題を当事者だけで抱え込まず、税理士をはじめとした専門家の力を借りながら、問題解決をすることをおすすめします。

相続税対策に関するお悩みは、ぜひやさしい相続相談センターにご相談ください

まとめ

相続は、感情と法律の両面が絡み合うため、円満に進めるのが難しい場面もあるでしょう。特に実家のような不動産は分けにくく、兄弟それぞれの立場や希望が異なることで、意見の衝突が起こりやすくなります。

大切なのは、トラブルが生じてから対応するのではなく、早めに準備と話し合いを進めることです。財産の全体像を把握し、公正な評価をもとに協議を重ねれば、感情的な対立を和らげられます。また、遺言書や生前の合意形成といった事前の対策も有効です。

相続は家族にとって転機であると同時に、将来の関係性にも影響します。必要に応じて専門家のサポートも得ながら、一人ひとりが納得できる形を目指すことが、円満な承継への一歩になるでしょう。

相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。

相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

また、金融機関不動産関係者葬儀関連企業税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。

監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。