二世帯住宅の生前贈与と相続税対策|非課税制度の活用法を解説
二世帯住宅は、親と子が同居できるメリットがある一方、将来の相続時にトラブルの原因となるケースがあります。円満な資産承継と相続税対策を両立させるためには、生前贈与が有効な選択肢の一つです。
特に、年間110万円までの基礎控除や住宅取得資金の贈与に関する特例など、様々な非課税制度を計画的に活用することで、将来の税負担を軽減することが可能になります。
この記事では、二世帯住宅の生前贈与で使える制度や実行する上での注意点を詳しく解説します。
目次
二世帯住宅の生前贈与が相続トラブル回避につながる理由
二世帯住宅は物理的に分割することが難しく、評価額も高額になりやすいため、相続財産の中でも特にトラブルの火種となりやすい資産です。同居している子とそうでない子の間で不公平感が生じ、遺産分割協議が難航するケースも少なくありません。
生前に贈与しておくことで、所有権が明確になり、将来の相続における分割対象から外すことができます。これにより、相続人間の争いを未然に防ぎ、親の意思が明確なうちに円満な資産承継を実現することが可能になります。
二世帯住宅の生前贈与で活用できる4つの非課税特例

二世帯住宅のような高額な不動産を生前贈与する場合、通常は多額の贈与税が発生します。しかし、国の制度をうまく活用することで、税負担を大きく軽減することが可能です。
具体的には、毎年一定額まで非課税となる「暦年贈与」や、将来の相続時に精算する「相続時精算課税制度」など、複数の特例が用意されています。
ここでは、二世帯住宅の生前贈与に役立つ代表的な4つの非課税特例について、それぞれの仕組みと活用法を解説します。
毎年110万円まで非課税になる暦年贈与の仕組み
暦年贈与は、贈与税の基礎控除制度を利用した方法です。受贈者(財産をもらう人)一人あたり、毎年1月1日から12月31日までの1年間で受け取った財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税が課税されず申告も不要となります。
この非課税枠は贈与者(財産をあげる人)の数に関わらず、受贈者一人あたりの上限額です。二世帯住宅の場合、土地や建物の名義を評価額110万円以下の持分に分けて、数年にわたり少しずつ子や孫へ贈与していくことが可能です。
ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、当初からまとまった金額を贈与する意図があった「定期贈与」とみなされ、一括で課税されるリスクがあります。これを避けるため、贈与の都度、贈与契約書を作成することが重要です。
関連記事:【税理士監修】生前贈与はいくらまで非課税?効果的な節税の方法や注意点を解説
最大2,500万円まで贈与税が非課税になる相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫へ生前贈与を行う際に選択できる制度です。この制度を利用すると、贈与者ごとに累計2,500万円までの贈与が非課税となります。2,500万円を超えた分については、一律20%の贈与税が課税されます。
この制度の特徴は、贈与された財産が贈与者の死亡時に相続財産に加算され、相続税として精算される点です。2024年1月1日以降の贈与からは、この2,500万円の特別控除枠とは別に、年間110万円の基礎控除が創設されました。この基礎控除内の贈与は相続財産に加算されず、申告も不要です。
ただし、一度この制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与について暦年贈与には戻れないため慎重な判断が必要です。
関連記事:【改正版】相続時精算課税制度とは?2,500万円まで贈与税がかからない特別控除を解説
親からの建築資金援助に使える住宅取得等資金の贈与
親や祖父母から二世帯住宅の新築や購入、増改築のための資金援助を受ける場合、「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」を活用できます。
この住宅取得資金贈与の特例は、省エネ等住宅であれば最大1,000万円、それ以外の住宅でも最大500万円までの資金贈与が非課税となる制度です。この住宅資金贈与の大きなメリットは、暦年贈与の110万円の基礎控除や相続時精算課税制度と併用できる点にあります。
両方を組み合わせることで、より大きな金額を非課税で贈与することが可能です。ただし、この特例はあくまで資金の贈与が対象であり、不動産そのものを贈与する場合には適用されません。適用には受贈者の所得金額や住宅の床面積など細かな要件があるため、利用を検討する際は専門家への相談をおすすめします。
関連記事:【税理士監修】住宅取得等資金贈与のメリットは?非課税制度の適用条件と注意点
夫婦間で居住用不動産を贈与する場合の配偶者控除(おしどり贈与)
「おしどり贈与」と呼ばれるこの特例は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産やその取得資金を贈与する際に利用できる贈与税の配偶者控除です。基礎控除110万円とは別に最高2,000万円までが非課税となり、合計で最大2,110万円まで贈与税がかかりません。
適用を受けるには、贈与を受けた翌年3月15日までにその不動産に実際に居住し、今後も住み続ける見込みがあること、過去に同じ控除を受けていないことなどが条件です(一生に一度限り)。贈与税の申告書を提出する必要もあります。
たとえば、夫単独名義の二世帯住宅の持分を妻へ贈与するケースなどで活用され、一次相続だけでなく将来の二次相続における相続税負担を軽減できる可能性があります。
関連記事:夫婦間の贈与に税金はかかる?使える特例「おしどり贈与」を紹介
二世帯住宅を生前贈与する前に知っておきたい注意点

二世帯住宅の生前贈与は有効な相続対策ですが、実行する前に知っておくべき注意点があります。まず、贈与税の非課税制度に注目しがちですが、不動産取得税や登録免許税といった別の税金が発生します。
また、贈与を行うタイミングによっては、相続時に利用できたはずの有利な特例が適用できなくなる可能性も考慮しなければなりません。メリットとデメリットを総合的に比較検討し、最適な方法と時期を見極めることが重要です。
贈与税以外にも発生する不動産取得税と登録免許税
二世帯住宅を生前贈与で受け取ると、贈与税とは別に不動産取得税と登録免許税という2つの税金が発生します。
不動産取得税は、不動産の所有権を取得した際に都道府県が課税する税金で、生前贈与の場合は課税対象となります。一方、相続で取得した場合は非課税です。
登録免許税は、法務局で不動産の名義変更を行う際に納める国税で、この税率も相続の場合は固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与の場合は2%と高く設定されています。
このように、生前贈与は相続と比較して登記関連の税負担が重くなる傾向があります。これらの費用は現金での一括納付が原則となるため、贈与計画を立てる際には税金の支払い資金も考慮しておくことが不可欠です。
関連記事:【税理士監修】不動産は生前贈与するべき?相続との違いやメリット、注意点を解説
生前贈与によって相続時の「小規模宅地等の特例」が使えなくなる可能性
「小規模宅地等の特例」は、亡くなった方が住んでいた土地などを相続する際に、一定面積までの評価額を最大80%減額できる、相続税の強力な軽減措置です。この特例が適用できるかどうかで、相続税額は大きく変わります。
しかし、二世帯住宅の敷地となっている土地を生前に贈与してしまうと、その土地は親の相続財産ではなくなるため、相続が発生した際にこの特例を利用することができなくなります。
結果として、生前贈与によって節税したつもりが、特例を使えなくなったことで、かえってトータルの税負担が増えてしまうケースも考えられます。
贈与を実行する前には、贈与税の非課税メリットと、小規模宅地等の特例が適用できなくなるデメリットを天秤にかけ、どちらが有利になるか専門家を交えて試算することが重要です。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説
相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される
暦年贈与を利用して相続税対策を行う場合、「生前贈与加算」のルールに注意が必要です。これは、被相続人が亡くなる直前の贈与を相続財産に含めて相続税を計算する仕組みです。
従来、この対象期間は死亡前3年以内でしたが、税制改正により、2024年1月1日以降の贈与からはこの期間が段階的に延長されています。この延長は、2031年12月31日には7年以内に拡大される予定です。
つまり、贈与者が亡くなる前7年以内に行った贈与は、年間110万円の非課税枠内であっても相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。ただし、延長された4年間(死亡前3年超7年以内の期間)の贈与については、合計額から100万円を控除できます。
このルール改正により、相続税対策としての生前贈与は、より早期から計画的に進めることの重要性が増しています。
関連記事:暦年課税が改定|生前贈与加算の期間が7年になるとどんな影響がある?
生前贈与以外の方法で二世帯住宅の相続トラブルを防ぐには

二世帯住宅の承継問題は、生前贈与だけで解決できるとは限りません。贈与が難しい事情がある場合や他の選択肢も検討したい場合には、別の方法で相続トラブルを防ぐ準備が可能です。
特に「遺言書の作成」と「生命保険の活用」は、将来の遺産相続において非常に有効な手段となります。これらの方法は、財産を遺す側の意思を明確に示し、相続人間の不公平感を和らげることで、円満な相続を実現するために役立ちます。
遺言書を作成して分割方法を明確に指定しておく
遺言書を作成しておくことで、二世帯住宅を誰に相続させるかを明確に指定できます。
例えば、相続人が子3人で、長男が親と同居して世話をしている場合、「二世帯住宅の土地建物はすべて長男に相続させる」と遺言書に記すことが可能です。これにより、遺産分割協議による相続人同士の争いを未然に防ぐ効果が期待できます。
ただし、注意すべきは他の相続人の「遺留分」です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続割合を指します。他の相続人の遺留分を侵害する内容の遺言は、後日、金銭での支払いを求められるトラブルに発展する可能性があります。
そのため、遺言書を作成する際は、他の相続人にも預貯金などの財産を渡すことで、全体のバランスを考慮することが円満な相続につながります。
関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント
生命保険を活用して代償分割のための資金を準備する
代償分割とは、特定の相続人が二世帯住宅のような分割しにくい財産を現物で相続する代わりに、他の相続人に対してその分を金銭で支払う遺産分割方法です。この方法を用いることで相続人間の公平性を保つことができますが、住宅を相続する側には代償金を支払うための資金力が必要となります。
この資金準備に役立つのが生命保険です。親が自身を被保険者、二世帯住宅を相続する予定の子を保険金受取人として生命保険に加入しておけば、相続発生時に子は死亡保険金を受け取れます。
この死亡保険金は、受取人固有の財産とみなされ、よほど高額でない限り遺産分割の対象にはなりません。子はこの資金を他の兄弟への代償金の支払いに充てることができ、スムーズな遺産分割が可能になります。また、死亡保険金には非課税枠があるため、相続税の負担軽減にもつながります。
まとめ
二世帯住宅の円満な承継と相続税対策には、早期からの計画的な準備が不可欠です。
生前贈与は、暦年贈与や相続時精算課税制度、住宅取得等資金の贈与といった非課税特例を組み合わせることで、大きな節税効果が期待できます。
しかし、不動産取得税などのコストが発生したり、相続時に有利な「小規模宅地等の特例」が適用できなくなったりするデメリットもあります。贈与の実行には、これらのメリット・デメリットを総合的に比較検討することが求められます。
また、生前贈与だけでなく、遺言書の作成や生命保険の活用も相続トラブルを回避するための有効な手段です。
各家庭の資産状況や家族構成によって最適な方法は異なります。税理士などの専門家に相談し、将来の相続税額などをシミュレーションした上で、最も適した対策を講じることが、後悔のない資産継承につながります。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
また、金融機関や不動産関係者、葬儀関連企業、税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。
監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。