遺言書で指定した相続人が先に死亡したら?ケース別の対策を解説

遺言書で指定した相続人が先に死亡したら?ケース別の対策を解説

近年、将来の相続に備えて遺言書を作成する方が増えています。しかし、もし遺言書で指定した相続人に先立たれたら、財産承継が思い描いたようにならないかもしれません。本記事では、相続人が遺言者よりも先に死亡した場合の影響と対策について解説します。

遺言書で指定した相続人が死亡したらどうなる?

せっかく遺言書を作成しても、事故や病気などの予期せぬ出来事によって財産を渡す予定だった相続人が亡くなるケースもあります。遺言書の内容が実現不可能になってしまった場合、遺言書の効力や財産の行き先はどうなるのでしょうか。

遺言書の指定部分は原則無効になる

遺言を書いた方より先に財産を受け取る予定だった方が死亡した場合、原則として遺言書の中でその方を指定した部分は無効になります。指定された方が存在しないと、遺言内容が実現不可能なためです。遺言書全体が無効になるわけではなく、亡くなった方を指定した部分のみが無効になります。

遺言書で「長男Aに自宅の土地と建物を相続させる」「次男Bに預貯金を相続させる」と指定したケースを考えてみましょう。長男Aさんが先に亡くなった場合、遺言書の「長男Aに自宅の土地と建物を相続させる」という部分は無効になります。一方、「次男Bに預貯金を相続させる」という部分は有効なままです。

遺言の一部無効によって受け取り手がいなくなった財産は、遺言書に別の指定がない限り、民法の法定相続のルールに従って分割されます。

法定相続人と法定相続分

遺言がなければ、民法で定められた法定相続人が自動的に、亡くなった方の財産や権利・義務を承継します。法定相続人の範囲と優先順位は以下の通りです。

  • 第1順位:子(養子を含む)
  • 第2順位:直系尊属(父母・祖父母など)
  • 第3順位:兄弟姉妹

配偶者は常に相続人となり、上記のいずれかと一緒に相続します。

民法では法定相続人の相続分(法定相続分)も定められており、相続人の組み合わせによって割合が変わります。配偶者以外の相続人が複数いる場合は、相続分を人数で割ります。例えば、配偶者と子2人で相続するケースでは、子の相続分2分の1を2人で等分するため、1人あたりの相続分は4分の1です。

相続人の組み合わせ

配偶者の相続分

その他の相続人の相続分

配偶者と子

2分の1

子:2分の1

配偶者と直系尊属(父母など)

3分の2

直系尊属:3分の1

配偶者と兄弟姉妹

4分の3

兄弟姉妹:4分の1

相続人全員が合意すれば法定相続分とは異なる分け方をしても問題ありません。土地や建物のように均等分割が難しい財産もあるため、実際は遺産分割協議によって分け方を決めるのが一般的です。

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遺言書で指定した方の子が相続する?

二次相続

代襲相続とは、法定相続人が既に亡くなっているなどの理由で相続権を失っている場合に、その人の子が代わりに相続する制度です。要件を満たせば自動的に代襲相続が発生します。ただし、遺言書による指定が自動的に指定された方の子に引き継がれることはありません。

代襲相続とは

代襲相続は、法定相続人が既に亡くなっている場合や、欠格・廃除によって相続する権利を失ったときに発生します。代襲相続人となるのは、本来相続人になるはずだった方の子です。

代襲相続の代わりに相続するのは、法定相続人の子です。被相続人(亡くなった方)の子が先に亡くなっている場合、子の子(被相続人から見ると孫)が代襲相続人です。被相続人の兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、兄弟姉妹の子(被相続人から見ると甥・姪)が代襲相続人となります。

遺言書による指定は原則として代襲相続できない

遺言書で特定の財産を相続する人を指定した場合、原則として代襲相続は適用されません。法定相続のルールである代襲相続を遺言にまで適用すると、遺言者の想いに反した財産承継が行われる可能性があるためです。

例えば、遺言に「長女〇〇に預金を相続させる」とある場合、預貯金はあくまで長女に渡したいと解釈されます。たとえ長女が先に亡くなっても、長女の子が自動的に預貯金を相続できるわけではありません。

相続人が先に亡くなっても有効な遺言とは?

遺言書で指定した相続人が存在しない事態に備えるには、代わりに誰に相続させるかをあらかじめ遺言書に書いておく方法や、遺言書を書き直す方法があります。思わぬトラブルを生まないように適切な対策を講じましょう。

予備的遺言|代わりに誰に相続させるかを明記する

予備的遺言とは、遺言の内容が特定の事情によって実現できなくなった場合に備えて、あらかじめ代替の定めを設けることです。

「もし〇〇の場合には、△△とする」といった形で記載します。相続人が先に死亡した場合のほか、相続の対象となる財産が死亡時に存在しなかった場合などの備えとして有効です。

例えば、「長女〇〇に預金を相続させる。ただし、長女が私より先に亡くなった場合は、次女△△に当該預金を相続させる。」といった記載方法があります。誰に代わりに相続させるかを明確に記すのがポイントです。

誰にどの財産を渡すかを明確に記載する

「もし長女がいない場合は長女の家族に相続させる」などとあいまいな表現で記すと、解釈をめぐって相続人間で争いになるリスクがあります。家族という言葉では法定相続人でない方も含まれ、誰が受け取るべきか判然としないためです。

また、誰がどの財産を受け取るかが明確でない遺言書は法的に無効となるおそれもあります。遺言書は誰が見てもはっきり分かるように記載するのが原則です。専門家や家族と相談しながら、円滑な相続の助けとなる遺言書を作成しましょう。

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

家族の状況に応じて遺言書を書き直す

遺言書は一度作成したら終わりではありません。遺言はいつでも何度でも書き換えられます。これを遺言書の撤回と言います。家族構成、財産状況、気持ちの変化があった場合は、遺言書も都度見直しましょう。

複数の遺言書がある場合、日付が最も新しい遺言書が優先です。古い遺言書のうち、新しい遺言書と矛盾する部分は撤回されたものとみなされます。

しかし、家族の混乱を避け、意思を確実に反映するには、全文を書き直すのがよいでしょう。古い遺言書を公正証書として作成した場合は、新しい公正証書遺言の作成を強くおすすめします。

関連記事:【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説

【事例で学ぶ】想定外の相続トラブルを避ける方法

悩むシニア夫婦

遺言書があるからと安心していたのに、相続人に先立たれたことで想定外の事態に陥るケースがあります。ここでは、実際によくある3つのトラブル事例をもとに、その原因と対策を紹介します。

事例1:息子に実家を継がせるはずが売却されてしまった

Aさんは、代々守ってきた実家を確実に息子に継がせたいと考え「長男〇〇に実家の不動産を相続させる」と遺言を残していました。しかし、息子は交通事故でAさんより先に他界。遺言書には息子が亡くなった場合の代替指定がなかったため、実家に関する遺言は無効となりました。

その後、遺言書を見直すことなくAさん自身の相続を迎えますが、Aさんがこだわっていた実家の扱いは決まっていない状態です。法定相続人である妻と娘で話し合い、Aさんの実家は維持管理が難しいと考え、売却することにしました。

【原因と対策】

Aさんの実家を残したいという願いが叶わなかった主な原因は、予備的遺言がなかったことです。Aさんの相続開始の時点で長男がなくなっている場合に実家の不動産をどうすればよいか指示がないため、相続人はAさんの意向を知る術がありません。実家を誰がどのように承継するかは、相続人次第です。

もし「長男が先に死亡した場合は、妻に実家を相続させる」と書かれていたら、結果は違ったかもしれません。

若い方でも、不慮の事故や病気の可能性がまったくないとは言い切れません。万が一に備えた予備的遺言の活用をおすすめします。

事例2:想定外の相続人から遺留分侵害額請求をされた

Bさんには妻と既に結婚して子どもがいる長女がいます。自分が亡き後の妻の生活を考え、妻と娘に相談の上で、遺言書に「全財産を妻に相続させる」と記しました。

しかし、長女は病気でBさんより先に亡くなってしまいます。Bさん亡き後、財産は妻と長女の代襲相続人である孫が相続することになりました。

Bさんの妻は、相続人が娘から孫に代わっても遺言書の通り全財産を受け取れるだろうと思っていましたが、ここで思わぬ事態が起こります。長女の代襲相続人である孫が、Bさんの妻に遺留分侵害額請求をしたのです。

このケースにおける孫の法定相続分は2分の1、法律で最低限認められる取り分(遺留分)は全財産の4分の1です。遺言が他の相続人の遺留分を侵害する場合、財産を受け取る方は遺留分に相当する額の金銭を支払う必要があります。Bさんの妻は、大きな金銭的負担を強いられることとなりました。

【原因と対策】

Bさんは長女の死亡によって将来の相続人が変わった時点で、遺言書の見直しを行うべきでした。当初から遺言書に「長女が先に死亡した場合は、長女の子に遺留分相当額を相続させる」と定めておく方法もあります。

相続人全員の構成と遺留分を確認し、事前に話し合いを行うなど、生前のコミュニケーションも大切ですです。

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

事例3:相続人が誰もいないため財産が国庫に帰属

Cさんは数十年前に作成した遺言書で財産の分け方を指定していました。しかし、Cさんは健康長寿で、遺言書で指定した妻も子どもも先に他界してしまいました。他に法定相続人となる人はなく、遺言書にも指定した相続人が不在の場合に財産をどうするか指示がありません。結局、Cさんの財産はすべて国庫に帰属することになってしまいました。

【原因と対策】

遺言書を長期間にわたって更新しなかったため、Cさんの財産は行き場を失ってしまいました。遺言書は家族構成や財産状況に変化があったら都度見直しが必要です。

相続人が誰もいない場合は、お世話になった方や団体に遺贈する選択肢もあります。生涯をかけて築いた財産を有効活用する方法を検討しましょう。

上記の3つの事例が示すように、遺言書は一度作成したら終わりではありません。相続人の死亡という予期せぬ事態があっても、適切な備えがあればトラブルを回避できます。予備的遺言を活用するとともに、遺言の定期的な見直しを行うことを強くおすすめします。

まとめ

せっかく作成した遺言書も、相続人が先に亡くなると部分的に効力が失われ、思い描いた財産承継が実現できないリスクがあります。思わぬトラブルを防ぐには、遺言書に「予備的遺言」を盛り込み、財産の行き先を明確に指示することが重要です。

また、遺言書は何度でも書き換えが可能なため、家族構成や財産状況の変化に合わせて、定期的に見直しましょう。

遺言書の作成や変更には、専門知識が必要です。あいまいな表現は遺言書そのものを無効にしたり、かえって家族間の深刻なトラブルを引き起こしたりする原因になります。

司法書士や税理士に相談すると、遺留分や税金も考慮した適切な対応が可能です。大切なご家族のためにも、遺言書に関するお悩みは、ぜひ早めに専門家へご相談ください。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。