遺産の使い込みは時効に注意!相続財産を取り戻す方法と弁護士相談

遺産の使い込みは時効に注意!相続財産を取り戻す方法と弁護士相談

親の遺産相続において、特定の相続人による遺産の使い込みが疑われるケースは少なくありません。遺産を不正に使い込まれた場合、返還を請求する権利がありますが、この請求権には時効があるため注意が必要です。

本記事では、遺産の使い込みを証明するための証拠集めから法的な返還請求の手順、そして問題解決のために弁護士へ相談する重要性について解説します。

目次

そもそも遺産の使い込みとは?よくある5つのケース

ATMで現金を引き出すイメージ

遺産の使い込みとは、相続人の一人が被相続人の財産を自己の利益のために無断で費消・処分し、他の相続人の権利を侵害することを指します。このような行為は、状況によっては横領罪などの罪に問われる可能性もあります。

ここでは、具体的にどのような行為が使い込みに当たるのか、代表的なケースを紹介します。

ケース1:被相続人の預貯金を無断で引き出す

被相続人の意思に反して預貯金を引き出すのは、使い込みの典型例です。被相続人が認知症などで判断能力が低下している状況を悪用し、生活費以外の目的で多額の現金を引き出したり、自分の口座に送金したりするケースがこれに当たります。

ケース2:被相続人名義の不動産を勝手に売却する

被相続人所有の土地や建物を、他の相続人の同意なく売却し、その代金を着服する例です。実印や権利証を預かっていた親族が行うことが多く、不動産は遺産の中でも特に価値が大きいため、他の相続人が被る経済的な損害は甚大です。

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ケース3:被相続人が受け取るはずだった賃料を横領する

被相続人が所有するアパートや駐車場などの賃料の、物件管理を任されていた相続人が自分のものにしてしまうケースも使い込みの一種です。長期間にわたって行われると、横領された総額はかなりの金額に上る可能性があります。

ケース4:株式や投資信託などの金融資産を無断で解約・売却する

被相続人が保有していた株式や投資信託、国債といった金融資産を、相続人の一人が勝手に解約・売却し、得た現金を着服する行為です。ネット証券の場合、IDやパスワードを管理する親族が、他の相続人に気づかれずに取引してしまうことがあります。

ケース5:介護費用と称して必要以上のお金を引き出す

被相続人の介護を担っていた相続人が、介護に必要な費用という名目で、被相続人の預金口座から過剰な金額を引き出すケースです。実際に介護にかかった費用を財産から支出することに問題はありません。しかし、その範囲を明らかに超えて、自分の生活費や遊興費などに流用していた場合、その超過分は遺産の使い込みとみなされます。

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遺産の使い込みを証明するために不可欠な証拠集めの方法

遺産の使い込みで悩む遺族

遺産の使い込みを主張して返還を求めるには、客観的な証拠が不可欠です。「使い込んだはずだ」という推測だけでは、相手に否定されてしまえば話が進みません。感情的になる前に、冷静に証拠を集めるための調査を行いましょう。

ここでは、有効な証拠と具体的な収集方法を解説します。

金融機関から預貯金の取引履歴を取り寄せる

遺産の使い込みを証明する最も基本的な証拠は、被相続人名義の預貯金口座の取引履歴です。相続人であれば、被相続人が亡くなった日以降の残高証明書だけでなく、生前の取引履歴(入出金明細)の開示を金融機関に請求できます。

通常、過去10年程度の履歴を取得することが可能です。不自然な高額出金や使途不明な送金がないかを精査しましょう。特に、被相続人が入院や施設入所などで、自身で預金を管理できなくなった後の頻繁な引き出しには注意が必要です。

介護記録や医療記録から不審な支出がないか確認する

介護費用や医療費としてお金が引き出されている場合、その支出が本当に必要だったのかを検証するために、介護記録や医療記録が重要な証拠となります。

介護施設やケアマネジャーから介護サービスの内容や頻度がわかる記録を、また病院やクリニックからは診療明細書や領収書を入手しましょう。これらの記録と預金の出金履歴を照らし合わせることで、引き出された金額と実際の費用に差がないかを確認できます。これにより、名目とは異なる目的で金銭が使われた可能性を裏付けられます。

不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)を取得する

被相続人名義の不動産が勝手に売却された疑いがある場合は、法務局で全部事項証明書(登記簿謄本)を取得します。

この証明書には、不動産の所有権がいつ、誰から誰に移転したのかという履歴が記録されています。被相続人が亡くなる直前や判断能力が低下していた時期に所有権移転の登記がなされている場合、その経緯を詳しく調べる必要があります。この書類は誰でも取得できます。

また、市町村役場で取得できる名寄帳も有効な資料です。名寄帳には、被相続人が所有していたすべての不動産が一覧で記載されているため、一部の不動産が不正に処分されていないかを確認できます。この書類は、相続人であれば取得可能です。

これらの書類は、不正な不動産取引の事実を客観的に示すための第一歩として有効です。

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使い込まれた遺産を取り戻すための3ステップ

遺産の使い込みが疑われる事実と証拠が揃ったら、次はその返還を求める具体的な行動に移ります。

いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは当事者間での話し合いから始めます。そのとき合意に至らなかった家庭裁判所での調停、最終的に訴訟という段階的な手続きを進めていくのが一般的です。

ここでは、各ステップで何を行うべきかについて解説します。

ステップ1:まずは当事者間で直接話し合いを行う

最初に試みるべきは、使い込みをしたと疑われる相手方との直接の話し合いです。収集した証拠を提示し、不正な出金や財産の処分について説明を求めます。

相手が事実を認め、返還に応じる意向を示せば、この段階で円満に解決できる可能性があります。話し合いで合意に至った場合は、後日のトラブルを防ぐため、合意内容を記した書面(合意書や示談書)を作成し、署名・捺印しておくことが重要です。

ただし、当事者同士の話し合いは感情的になりやすく、相手が事実を認めなかったり、話し合いにすら応じなかったりすることも少なくありません。その場合は、次のステップに進みましょう。

ステップ2:話がまとまらなければ遺産分割調停を申し立てる

当事者間の話し合いで解決しない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。調停は、裁判官と民間の有識者からなる調停委員が間に入り、当事者双方の主張を聞きながら、話し合いによる解決を目指す手続きです。

調停の場では、使い込みの事実を主張し、その分を考慮した遺産分割の方法(例えば、使い込んだ相続人の取得分を減らすなど)を求めることができます。第三者である調停委員が関与することで、冷静な話し合いが進みやすくなるという利点があります。

ただし、調停はあくまで話し合いを基本とするため、相手が使い込みの事実を頑なに否定し続けるなどして合意に至らない場合は、調停不成立となります。

関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説

ステップ3:調停不成立の場合は訴訟で返還を請求する

遺産分割調停でも解決しない場合、最終的な手段として地方裁判所に訴訟を提起することになります。

具体的には、法的な根拠なく得た利益の返還を求める不当利得返還請求訴訟や、使い込みという不法行為によって生じた損害の賠償を求める不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こすのが一般的です。また、使い込みの金額が大きく、他の相続人の遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求訴訟を提起することも可能です。

訴訟では、請求する側(原告)が、集めた証拠に基づいて相手の使い込みの事実を立証しなければなりません。裁判所がこの事実を認めれば、相手に対して返還を命じる判決が下されます。訴訟は専門的な手続きであり、時間も費用もかかるため、この段階では弁護士に依頼して手続きを進めるのが一般的です。

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

遺産の使い込み返還請求には時効がある

時効

ハンマーと時計

遺産の使い込みに対する返還請求権は、法律で定められた期間を過ぎると失効します。この期間を時効と呼び、時効が成立するとたとえ事実があっても返還を求めることができなくなります。

不当利得返還請求権の時効

使い込んだ財産は、不当に得た利益(不当利得)とみなされます。この返還を請求する権利は、使い込みの事実と加害者を知った時から5年、または使い込み行為があった時から10年のいずれか早い方で時効が成立します。

例えば、15年前に引き出された預金については、たとえ最近その事実を知ったとしても、10年の期間が経過しているため、原則として不当利得返還請求はできません。

不法行為に基づく損害賠償請求権の時効

遺産の使い込みは、不法行為にも該当します。この損害賠償請求権の時効は、損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年のいずれか早い方です。不当利得の時効が過ぎていても、不法行為の時から20年が経過していなければ、こちらの権利を主張できる可能性があります。

ただし、被相続人の死亡前に長期間にわたって行われた使い込みについては、20年の期間が経過して請求できなくなる部分も出てくるため注意が必要です。

遺留分侵害請求権の時効

使い込みが遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額請求権の時効も重要です。この請求権は、相続開始と遺留分侵害の事実を知った時から1年、または相続開始の時から10年のいずれか早い方で時効となります。特に1年という期間は、思っている以上に短いため、期限には注意しましょう。

関連記事:遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法

遺産の使い込み問題を弁護士に相談する5つのメリット

遺産の使い込み問題は、法律知識や交渉力が必要な上、親族間の感情的な対立も絡み、当事者だけで解決するのは非常に困難です。精神的な負担を減らし、問題解決の可能性を高めるために、弁護士への相談を検討しましょう。ここでは、弁護士に依頼することで得られる具体的なメリットを紹介します。

【メリット1】法的な観点から有効な証拠収集をサポートしてくれる

使い込みを証明するには、法的に有効な証拠が不可欠です。しかし、どのような資料が必要で、それをどこに、どのように請求すればよいのかを一般の人が判断するのは容易ではありません。

弁護士に依頼すれば、事案に応じて必要な証拠を的確にアドバイスしてくれます。また、弁護士会照会制度を利用して、個人では難しい金融機関の取引履歴などの開示を求めることも可能です。

【メリット2】感情的になりがちな相手との交渉を代理で行ってくれる

親族間の金銭トラブルは感情的になりやすく、冷静な話し合いが困難です。弁護士が交渉窓口に立つことで、精神的なストレスから解放されます。法的な根拠に基づき冷静に交渉が進むため、早期解決の可能性が高まります。

【メリット3】複雑な法的手続きを正確かつ迅速に進めてくれる

話し合いで解決せず、調停や訴訟に進む場合、専門的な書類作成や手続きが必要です。弁護士に依頼すれば、これらの煩雑な手続きをすべて任せられ、手続き上のミスによる不利益を回避できます。

【メリット4】遺産分割協議や調停を有利に進められる可能性が高まる

弁護士は、集めた証拠に基づき、使い込みの事実を法的に構成し、依頼者の正当な権利を主張します。専門的な知識と交渉経験を持つ弁護士が味方につくことで、自分だけで対応するよりも有利な条件で解決できる可能性が高まります。

【メリット5】相続トラブル全般に関する的確なアドバイスがもらえる

遺産の使い込みは、他の相続問題と絡み合っていることが少なくありません。例えば、遺言書の有効性、寄与分、特別受益など、使い込み以外にも争点がある場合があります。

相続専門の弁護士は、関連するあらゆる法的問題について的確なアドバイスをくれます。全体像を見据えた上で、最適な解決策を提示してもらえる点が大きなメリットです。

関連記事:生前贈与と特別受益ってどう違う?制概要や相続遺産の算出方法を解説

将来のトラブルを回避!生前のうちにできる使い込み防止策

成年後見制度

遺産の使い込みは、相続が発生してからでは解決に多大な労力を要します。最も望ましいのは、そもそも使い込みが起こらないように、生前のうちから対策を講じておくことです。被相続人の判断能力がしっかりしている段階で準備を進めることで、将来の親族間の争いを未然に防ぐことができます。ここでは、有効な生前の使い込み防止策を紹介します。

判断能力の低下に備える成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、認知症などにより本人の判断能力が低下した場合に備え、財産を保護するための制度です。家庭裁判所に申立てをして、財産を管理する「成年後見人」を選任します。

成年後見人には、親族のほか、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることもあります。後見人は家庭裁判所の監督のもとで本人の財産を管理するため、特定の親族による財産の私的流用を防ぐ効果が期待できます。

また、本人の判断能力がまだ十分なうちに、将来後見人になってほしい人をあらかじめ契約で決めておく「任意後見制度」もあります。これにより、信頼できる人に財産管理を託すことが可能となり、不正な使い込みのリスクを低減させます。

柔軟な財産管理が可能な家族信託を活用する

家族信託とは、本人が元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理・処分を任せる制度です。例えば、父親(財産を託す人)が長男(管理を任される人)に、不動産や預貯金などの財産を託します。この契約では、財産から得られる利益は父親のために使うことや父親が亡くなった後の財産の引き継ぎ先まで、細かく自由に決めることができます。

成年後見制度よりも柔軟で自由度が高いことが特徴です。家族による財産の無断処分を防ぐ強力な対策となり、あらかじめ決めておいた契約内容によって、不正利用を防止する仕組みも作れます。

関連記事:【税理士監修】家族信託とは?メリットとデメリット、手続きの方法をわかりやすく解説

定期的な財産状況の報告を義務付ける

財産管理を特定の親族に任せる場合でも、その管理状況を他の親族にも定期的に報告することを義務付けるルールを作っておくことが有効です。

財産管理の透明性を確保するため、毎月の預金通帳のコピーや収支報告書を、定期的に兄弟姉妹の全員に共有する仕組みを作ります。これにより、管理を任されている親族は、他の親族の目があることを意識するため、不正をしにくくなります。

また、万が一不審な点があっても早期に発見でき、問題が大きくなる前に対処することが可能になります。口約束ではなく、書面でルールを定めておくことが望ましいです。

まとめ

遺産の使い込みが疑われる場合、まずは冷静に証拠を集め、時効を意識しながら法的な手続きを進める必要があります。

当事者間の話し合いで解決しない場合は、調停や訴訟といった裁判所の手続きを利用することになりますが、これらの対応には専門的な知識が不可欠です。親族間のトラブルであるため精神的な負担も大きく、弁護士に相談することで円滑かつ有利な解決が期待できます。

また、使い込まれた財産を取り戻した場合、使い込みがあった時期や財産の性質によっては遺産分割の対象となる可能性があります。相続税の申告にも影響を及ぼすことでしょう。

このような税務がからむケースでは、できれば税理士をはじめとした専門家に相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。