遺言書と遺留分の優先関係とは?有効要件と注意点を解説

遺言書と遺留分の優先関係とは?有効要件と注意点を解説

遺言書がある場合と遺留分が主張される場合、どちらが優先されるのか気になる方は多いのではないでしょうか。実際に、遺言が有効でも遺留分によって修正されるケースがあるため、制度の理解は欠かせません。本記事では、遺言書と遺留分の優先関係を中心に、有効要件や作成時の注意点を整理し、円滑な相続を実現するためのポイントを解説します遺言や遺留分に不安を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。

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遺言書とは

公正証書遺言の作成

まずは、遺言書がどのようなものか解説します。遺言書の基本的な意味や役割を理解しましょう。

遺言書の定義と役割

遺言書とは、自分の死後に財産をどう分けるかを定める法的文書です被相続人の意思を明確にすることで、相続人同士の争いを防ぐ役割があります。

遺言書があれば、被相続人の意思を反映した財産分配が可能となり、相続人同士の不要な争いを避けられるでしょう。

例えば、介護を担った子に多めに分ける、不動産を特定の相続人に承継させるなど、法定相続分とは異なる柔軟な配分を実現できる点も特徴です。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

参考:No.4132 相続人の範囲と法定相続分|国税庁

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

遺言書の種類と有効要件

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、それぞれ特徴や有効要件に違いがあります。

民法第960条では、定められた形式を守らなければ効力が生じないとされているため、内容だけでなく作成方法にも注意しましょう。

種類

有効要件

自筆証書遺言

  • 本文を遺言者がすべて自筆で書く
  • 日付・氏名を自筆で記入押印する

公正証書遺言

  • 遺言者が公証人に口述する
  • 公証人が筆記し読み聞かせる
  • 遺言者と証人2人が署名押印

秘密証書遺言

  • 遺言書に署名押印する
  • 封印して封筒に押印する
  • 公証人と証人2人に提出し署名押印

「自筆証書遺言」は、費用をかけずに一人で作成でき手軽ですが、全文を自筆で書く必要があり、形式不備や紛失・改ざんのリスクが高い点に注意しましょう。

「公正証書遺言」は、公証人と証人の立ち会いで最も確実性が高く、原本も公証役場に保管され安心ですが、手数料や証人の確保が必要です。

「秘密証書遺言」は、内容を秘密にしたまま作れる一方、家庭裁判所での検認(遺言書が改ざんされていないかを確認する手続き)が必須で、形式不備や紛失のリスクも大きいため、実務上は利用される機会が少ないのが現状です。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

関連記事:【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説

遺留分とは

次に、遺留分について解説します。遺留分の仕組みや役割を確認しておきましょう。

遺留分の定義と役割

遺留分とは、亡くなった人が遺言や生前贈与で自由に財産を分け与える権利を制限し、配偶者や子どもなどの相続人に最低限の取り分を必ず残すための制度です。

例えば、遺言に「全財産をxxxxに相続させる」と書かれていても、配偶者や子には一定の割合が法律で保障されており、完全に取り分がなくなることはありません。

このように遺留分は、被相続人の意思を尊重しつつ、残された家族の生活を守るために設けられた仕組みであり、相続制度の重要なセーフティーネットとして機能しています。

参考:民法 | e-Gov 法令検索

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

遺留分の対象者

遺留分が認められるのは、配偶者・子(直系卑属)・父母や祖父母などの直系尊属に限られます。兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

これは、兄弟姉妹は配偶者や子と異なり、生活保障の必要性が低いと考えられているためです。

遺留分の割合

遺留分の割合は、相続人の構成によって異なります。

配偶者とや子が相続人となる場合は、遺産全体の4分の1が遺留分として保障され、配偶者のみが相続人となる場合は、遺産の2分の1、直系尊属のみが相続人となる場合は、遺産の3分の1に限られます。一方、兄弟姉妹だけが相続人となる場合には遺留分はありません。

相続人の構成

遺留分の割合

配偶者と子がいる場合

遺産の1/4

配偶者のみ

遺産の1/2

直系尊属のみ(親・祖父母など)

遺産の1/3

兄弟姉妹のみ

なし

参考:民法 | e-Gov 法令検索

遺言書と遺留分の優先関係

遺言と遺留分はどちらが優先されるのか、疑問に思う方は多いでしょう。

遺言書は被相続人の最後の意思として尊重されますが、遺留分は相続人の生活を守るために保障された権利です。両者の関係を整理し、相続における優先順位の考え方を解説します。

まずは遺言書の効力が優先される

遺言書は、亡くなった人の「最後の意思」として法律上強い効力を持ちます。たとえ「全財産を長男に相続させる」と記載されていて他の家族に一切分け与えられていなくても、その時点で遺言が無効になるわけではありません。

遺言書は民法で厳格に定められた方式に従って作成されていれば有効とされ、相続の基本的なルールよりも優先して適用されるため、相続のスタートはあくまでも遺言書の内容に基づいて進められることになります。

遺留分がある場合は修正される(遺留分侵害額請求)

しかし、配偶者や子どもといった相続人には、法律で最低限の取り分である「遺留分」が保障されています。

遺言によって取り分がゼロにされた場合でも、そのまま泣き寝入りする必要はなく、遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」を行えば、不足分を金銭で取り戻すことができます。

ここで重要なのは、遺留分は自動的に守られる権利ではないという点です。

相続人が自ら請求の意思を示さなければ、遺言書の内容どおりに相続が進んでしまうため、遺言内容を知った際には、自分の遺留分が侵害されていないか早めに確認しましょう。

参考:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正) | 法務省

参考:遺留分侵害額の請求調停 | 裁判所

相続人全員の合意(遺産分割協議)で変更できる

さらに、遺言書の内容があっても、相続人全員が合意すれば「遺産分割協議」によって分け方を変更できます。例えば、遺言で特定の財産を1人に相続させると記されていても、全員が話し合いで「この財産は別の人に渡したい」と合意すれば、そのように変更することも可能です。

遺言は強い効力を持ちますが、相続人同士が納得すれば現実に即した形に修正できる点をおさえておいてください。

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小谷野税理士法人では豊富な実務経験をもとに、円滑な相続をサポートしています。

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参考:不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~ | 法務省

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説

遺留分侵害額請求の手続き

遺留分侵害請求による相続人割合

遺留分を侵害された場合、相続人は不足分を取り戻すために「遺留分侵害額請求」を行えます。その仕組みと手続きの流れについて解説します。

遺留分侵害額請求とは

2019年の民法改正までは、侵害された部分を不動産などの現物で取り戻す「遺留分減殺請求」が認められていましたが、共有名義が増えて売却や利用が困難になるなどのトラブルが多発したため、現在は不足分を金銭で請求する「遺留分侵害額請求」が原則とされています

請求期限

遺留分を侵害された事実を知った日から1年以内、または相続開始から10年以内に請求しなければ権利は消滅します

期間内に請求を行わなければならず、内容証明郵便で意思表示をすれば時効の中断が可能です。期限管理を怠ると、遺留分を主張できなくなる点に注意しましょう。

関連記事:遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法

請求方法

まずは、相手方に対して内容証明郵便で通知を行うのが一般的です。そのうえで、当事者間の話し合いによって解決を目指します。

もし協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、さらに解決が困難な場合には訴訟によって判断を仰ぐ流れとなります。

留分侵害額請求の対応は専門知識が不可欠です。

多くの方が「請求期限や方法」でつまずいています。

トラブルになる前に、専門家へ一度ご相談ください。

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参考:遺留分侵害額の請求調停 | 裁判所

遺産分割協議の手続き

遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分け方を決めるために欠かせない手続きです。遺産分割協議の流れや注意点を解説します。

遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分け方を話し合い、合意を形成するための手続きです

協議自体には法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)があるため、それまでに協議を終えることが実務上は求められます。

参考:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

遺産分割協議の進め方

協議を始める前に、まず相続人と遺産の範囲を確定させます。そのうえで相続人全員が集まり、どの財産を誰に分けるかを話し合います。

口頭でも行えますが、後日のトラブル防止のために必ず「遺産分割協議書」として書面に残しましょう

参考:No.4132 相続人の範囲と法定相続分|国税庁

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

協議が成立しない場合の対応

相続人の一部が同意しない場合、遺産分割協議は成立しません

その場合は家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立て、裁判所を介して解決を図り、調停でもまとまらなければ自動的に審判に移行し、裁判所が分割方法を最終的に決定します。

参考:遺産分割調停 | 裁判所

関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説

遺言書作成時の際に注意すべきポイント

注意点、気を付けるポイント

遺言は被相続人の意思を尊重するための重要な手段ですが、内容や形式を誤ると、かえって相続人同士の争いを招く可能性もあります。遺言書を作成する際に注意すべきポイントを解説します。

遺留分を考慮した遺言の作成

遺留分を考慮した内容にしましょう。遺留分を無視した遺言は、相続人から請求が起こり争いの原因になりやすいです

公正証書遺言など効力の強い形式を選び、遺留分を侵害しないように整えるのが大切です。また、事前に相続人へ説明して理解を得ておくと、より円滑な相続に繋がるでしょう。

遺留分放棄の活用

遺留分放棄を上手に活用しましょう。相続人が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄すれば、より自由度の高い遺言が可能になります。例えば、事業承継で特定の子に会社を継がせたい場合などに有効でしょう。法的手続きを経て放棄してもらうことで、将来的な紛争を防ぎやすくなります。

参考:遺留分放棄の許可 | 裁判所

参考:遺留分放棄の許可の申立書 | 裁判所

関連記事:遺留分放棄とは?相続放棄との違いや手続きの流れ、注意点を解説

付言事項などで意思を補足する

付言事項を活用しましょう。付言事項とは「なぜこのように遺産を分けたか」という気持ちや事情を書き添えるものです

法的拘束力はありませんが、相続人の理解を得やすくなり、感情的な対立を和らげる効果があるでしょう。数字だけの分配では伝わらない思いを残せる点がメリットです。

参考:遺言書は大切な人への あなたのメッセージ  | 法務局

遺言書に関してよくある質問

遺言書は相続トラブルを防ぐための有効な手段ですが、実際に作成や運用を考えると多くの疑問が生じます。よくある質問を取り上げるので、制度の理解を深めるための参考にしてください。

遺言書は何歳から作れますか?

遺言書は満15歳から作成できます。ただし、作成には「内容を理解できる判断能力」が必要です。

認知症などで判断力が低下している場合は、後に無効とされる可能性があるため注意してください。

遺言書はいつでも取り消せますか?

遺言書は作成後であっても、本人の意思でいつでも撤回できます。新たに別の内容の遺言を作れば、矛盾する部分は新しい遺言が優先されます。古い遺言を破棄する方法でも撤回は可能です。

結婚や離婚、子どもの誕生など生活環境が変化した場合は、速やかに書き直しましょう。

遺言書はどこに保管するのが安全ですか?

公正証書遺言や「自筆証書遺言保管制度」を利用するのが安心でしょう

2020年に始まった自筆証書遺言保管制度では、自筆証書遺言を法務局で預けられます。これにより家庭裁判所での検認が不要となり、紛失や改ざんのリスクも防止できます。

参考:自筆証書遺言書保管制度 | 法務省

遺言書と遺留分の優先関係に不安がある方は専門家に相談を

遺言書と遺留分の優先関係は、「遺言はまず有効だが、相続人が遺留分を請求すれば修正される」という二段階の仕組みであり、そのため遺言の内容次第では相続後に紛争へ発展する可能性があります。

特に「全財産を特定の人に相続させたい」といったケースでは、後のトラブル防止のために慎重な対応が欠かせません。こうした問題を未然に防ぐには、専門家のアドバイスを受けながら遺言内容や手続きを整えるのが重要です

小谷野税理士法人では、遺言や遺留分の実務に精通した専門家が最適な解決策を提案しています。遺言書や遺留分について不安を感じる方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。