遺産相続で現金がないとどうなる?相続税や代償金の支払いに困ったときの対処法

相続の際、手元に現金が不足したらどうすればよいのでしょうか。不動産など換金しにくい財産が中心だと、相続税や代償金の支払いに直面したときに深刻な問題へ発展する場合もあります。本記事では、相続で現金がない場合に起こり得る主なトラブルと、それに備える制度や具体的な対処法についてわかりやすく解説します。相続資金に不安を抱えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
遺産相続で現金がないと起こる問題
遺産相続で現金が不足すると、どのような問題が生じるのでしょうか。遺産相続で現金が不足すると、手続きの中でさまざまな支障が生じる可能性があります。
現金不足によって実際に起こり得る問題について解説します。
相続税を期限までに現金で納められなくなる
相続税は原則として現金一括納付が義務付けられており、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内が納付期限ですが、手元に現金がないと資金を準備できず、納期限に間に合わない事態が生じかねません。
その結果、延滞税や加算税が発生し、相続人の経済的負担が一層重くなる可能性があるので注意しましょう。
代償分割の代償金が支払えなくなる
代償分割の代償金を支払えない状況に陥ります。代償分割とは、遺産分割の方法の1つで、特定の相続人が不動産や株式などをまとめて相続し、その代わりに他の相続人へ現金で代償金を支払うことで、分割の公平性を保つ仕組みです。
複数人で共有名義にすると利用や処分が難しくなるため、実務でもよく選択される方法ですが、現金が不足していると、この支払いが滞り、協議が進まなくなります。
特に支払い能力のない相続人が不動産を取得した場合、不公平感が強まり、相続人間の関係悪化や紛争に発展するリスクも高まるでしょう。
不動産が分けられず相続手続きが進まなくなる
不動産が分けられず相続手続きが停滞する可能性があります。不動産は現金のように容易に分割できず、共有名義になると売却や利用に相続人全員の同意が必要ですが、現金が不足している状況では、代替手段の選択も難しくなり、協議が長期化する傾向にあります。
実際に一部の相続人が売却に反対して話し合いが行き詰まるケースも多く、相続全体の大きな障害となるでしょう。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
相続税を現金で納められないときの制度
相続税は現金で一括納付するのが原則ですが、資金が足りない場合はどうすればよいのでしょうか。納税が困難なケースに対応するための制度や仕組みについて解説します。
相続税を分割して支払う「延納」
「延納」は、相続税を一度に納めるのが難しい場合に利用できる制度で、一定の条件を満たせば最長20年間の分割払いが可能です。
納税負担を分散できる点がメリットですが、担保の提供が必要となり、さらに利子税も課されるため、総額の負担は増える点に注意しましょう。
土地などをそのまま納める「物納」
「物納」は、相続税を現金で支払えない場合に、不動産や株式などの財産そのものを納税に充てられる制度です。
現金を用意できない相続人にとっては有効な手段ですが、物納が認められるには厳格な審査があり、資産の種類や評価方法によっては不適格となるケースも少なくありません。
不動産を売却して資金を得る
延納や物納が適さない場合には、相続した不動産を売却して現金を確保する方法もあります。売却によりまとまった資金を短期間で得られるため、納税資金の調達手段として実務上広く利用されています。
ただし、売却によって譲渡所得税が発生する可能性がある点を踏まえ、資金計画を立てる必要があります。
この記事で紹介した制度だけでは対応が難しい場合もあります。
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代償金を支払えないときの対処法
代償金の支払いができず協議が停滞するケースもありますが、支払いが難しい場合でも、状況に応じていくつかの解決策があります。
代償金を分割払いにする
代償金は原則一括払いですが、相続人全員の合意があれば分割払いも可能です。民法907条で「遺産の分割方法は協議で定められる」とされており、柔軟な調整が認められています。合意が得られれば、支払負担を軽減しつつ公平な遺産分割を実現できます。
ローンや借入金を活用して代償金を捻出する
代償金を支払うために金融機関から融資を受ける方法もあります。借入によって資金を確保すれば、一括払いが求められる場合でも手続きを進めやすくなりますが、返済義務や利息負担が発生するため、利用にあたっては慎重に検討しましょう。
最終的な判断と責任は相続人自身に委ねられています。
現物分割・換価分割などを検討する
代償分割以外の方法としては、不動産や株式をそのまま相続人に振り分ける「現物分割」や、遺産を売却して現金化し、その金額を分け合う「換価分割」といった方法も選択できます。
いずれも相続人間の合意に基づき実施されるため、状況に応じて柔軟に活用できます。現金が不足する状況でも、売却や現物を活用する方法を組み合わせれば、公平性を保ちながら円滑な相続を進められるでしょう。
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関連記事:不動産の換価分割とは?代償分割や現物分割との違いは?選択基準と手続きについて
保険制度を活用する
生命保険金などの保険制度を利用する方法もあります。被相続人が加入していた保険から受取人が直接保険金を受け取れるため、納税資金や代償金の支払いに充てられます。
現金が不足する相続では、早期にまとまった資金を確保できる有効な手段として実務でも多く活用されていますが、生命保険金は相続財産そのものではないものの、「みなし相続財産」として課税対象となる点に注意しましょう。
非課税枠や契約内容によって税負担は変わるため、事前にシミュレーションや専門家への確認を行い、将来の相続に備えて加入を検討しておくと安心です。
関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説
代償分割で「代償金が支払われない」事態への対応
代償分割で合意したのに代償金が支払われない場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
遺産分割協議の解除は認められない
代償金が支払われないからといって、成立済みの遺産分割協議を解除することはできません。
民法907条では遺産分割は相続人間の合意で成立すると定められており、一度合意した内容の効力は維持されるため、支払不履行があっても協議自体は有効に残り、解決には別の手続きが必要となります。
相手の財産を差し押さえたいが直ちにはできない
遺産分割協議書に代償金の支払いを記載していても、それだけで差し押さえできず、強制的に履行させるには「債務名義」と呼ばれる判決や、公正証書といった正式な書類が必要です。
強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、不払いが発生した際に速やかに強制執行へ移行できます。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
遺産分割後の紛争調整調停の申し立て
代償金が支払われない場合には、家庭裁判所に「紛争調整調停」を申し立てる方法があります。
裁判所が関与することで支払条件を見直したり、新たな合意形成を進めたりできるため、相続人同士の話し合いだけでは解決が難しい状況でも、中立的な立場を交えて解決に向けた調整が可能です。
代償金支払請求訴訟を提起する方法
調停で解決できない場合は、訴訟によって裁判所に支払義務を認めてもらう必要があります。
判決が確定すれば債務名義となり、これを根拠に相手の預金や給与を差し押さえるなど、強制執行が進められます。
履行勧告・履行命令の申立て制度
家庭裁判所には、調停や審判で決まった代償金の支払いが履行されない場合に「履行勧告」や「履行命令」を申し立てる制度があります。
これらはいずれも裁判所から相手方に支払いを促す仕組みであり、強制執行のような直接的な強制力はありませんが、裁判所が正式に関与して督促することで、相手に心理的な圧力を与え、任意の支払いを促す効果が期待できます。
強制執行(差し押さえ・競売)という最終手段
最終的には、判決や強制執行認諾文言付き公正証書を根拠に強制執行を申し立てできます。
相手の預金口座や給与、不動産を差し押さえたり、競売にかけて代償金を回収できます。任意の履行が得られない場合に選ばれる最後の手段であり、確実な解決を図る方法です。
代償金トラブルを防ぐための事前対策
代償金の不払いによる紛争を避けるには、協議の段階で十分な備えをしておくことが不可欠です。ここでは、代表的な事前対策をご紹介します。
代償金支払い義務者の資力を事前に確かめる
代償金トラブルを防ぐには、相手に支払い能力があるかを事前に確認しましょう。資金力が不足していると協議が成立しても不払いに発展しやすいためです。具体的には通帳や融資証明などを確認し、実際に代償金を支払えるかどうかを見極めましょう。
代償金の支払い方法を明確に定める
協議書には支払い方法を具体的に記載しましょう。曖昧なままにしてしまうと、解釈の違いからトラブルに繋がるためです。
例えば、「一括払い」、「分割払い」、「支払期日」、「振込口座」などを明確に盛り込みましょう。条件をはっきりさせておけば、後の誤解を防ぎ、協議の合意内容を確実に実行できるでしょう。
遅延損害金条項を遺産分割協議書に入れる
遺産分割協議書に遅延損害金条項を入れておきましょう。
支払いが遅れた場合に遅延金が発生する仕組みを設けると、金銭的な負担が増えるため、相手が期限を守りやすくなります。例えば、「支払遅延1日につき年利◯%を加算」といった条件を設けると効果的でしょう。
公正証書で協議書を作成する
協議書は公正証書にするのが望ましい方法です。公正証書に「強制執行認諾文言」を付ければ、不払い時に速やかに差し押さえなどへ移行できるためです。
例えば、代償金を分割払いとした場合でも、公正証書があれば履行確保が容易になります。事前に法的効力を強化しておけば、協議が実効性を持ち、安心して遺産分割を進められるでしょう。
担保や保証を設定しておく
高額な代償金が関わる場合には、担保や保証を設定するのが有効でしょう。支払い不能に陥っても回収の見込みを確保できるためです。
具体例としては、不動産に抵当権を設定したり、第三者に連帯保証人となってもらう方法があります。こうした備えを取っておけば、代償金の不払いリスクを大幅に軽減し、相続人間の信頼関係を保ちながら分割を進められるでしょう。
審判前の保全処分を申し立てる
不払いを防ぐ最後の備えとして、審判前の保全処分を検討するのも有効でしょう。相手が財産を処分してしまい、代償金を回収できなくなるリスクを避けるためです。
例えば、仮差押えを行って財産を一時的に凍結しておけば、後に強制執行する際にも確実性が高まります。この制度を活用すれば、相手の財産隠しを防ぎ、代償金を確実に回収する手段として実効性を高められるでしょう。
遺産相続で現金がない場合は専門家に相談
遺産相続では、不動産中心の相続や代償分割が絡むと、相続税を期限までに現金で納められなかったり、代償金が支払えず相続人間で紛争が起こるリスクがあります。
こうした問題を放置すると延滞税や加算税、長期化する裁判などに発展しかねません。
現金不足への対応策は制度や法律に基づく複数の選択肢がありますが、状況により適切な判断は異なるため、相続税や遺産分割に精通した専門家への相談が有効でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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