【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説
更新日:2023.9.8
暦年贈与とは、年間110万円までの贈与には贈与税がかからないという制度を活用した相続税対策の方法です。制度を上手く活用し正しい方法で進めれば、相続税の大きな節税効果が期待できます。
(注:暦年贈与は本来、1年単位での贈与のことを指します。それが転じて、「贈与税の非課税枠を利用した相続税対策」として使用されることがあります。)
一方で、暦年贈与による相続税対策は、正しい方法で行わないと否認されるリスクがあります。そのため、暦年贈与の正しい知識と深い理解が必要不可欠です。
本記事では暦年贈与について、仕組み・方法・注意点などを解説します。
目次
暦年贈与とは
暦年贈与とは、贈与を受けた金額が年間110万円までであれば贈与税がかからない(非課税)という仕組みを用いた相続税対策です。贈与税の基礎控除を活用した相続税の節税方法といえます。
暦年贈与では文字通り贈与を行うため、贈与税に関する理解が必要です。ここでは贈与税について詳しく解説します。
贈与税の仕組み
贈与税は1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産額が課税対象になります。計算式は以下のとおりです。
(1年間の贈与額合計-基礎控除額)×税率-控除額=贈与税額
暦年贈与による相続税対策は、贈与税の基礎控除制度を活用したものです。
計算式のとおり贈与税の計算では、1年間の贈与額合計から基礎控除を差し引きます。1年間の贈与額合計が基礎控除額以下であれば、基礎控除を差し引くことで課税対象となる贈与額がなくなります。したがって、贈与税を発生させずに財産の移転が可能になるのです。
2022年時点において、贈与税の基礎控除額は110万円です。そのため、年間110万円以下の贈与であれば、贈与税が発生しません。
なお、贈与税は財産額が大きくなるにつれて税率が高くなる累進課税制度が採用されています。暦年贈与では大きな贈与を行うケースは稀なため、税率を意識する場面は多くありませんが、贈与税の仕組みとして必ず押さえたいポイントです。
贈与税の税率
贈与税の税率は、一般贈与財産用と特例贈与財産用の2種類が存在します。
一般贈与財産用は、特例贈与財産に該当しない贈与に用いる税率です。兄弟間・夫婦間・親から未成年への子の贈与など、幅広い贈与に適用されます。
特例贈与財産用は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上※の者が、直系尊属から贈与を受けた際に用いる税率です。親から子・祖父母から孫への贈与などが該当します。
※令和4年3月31日までは20歳以上となっています。
一般贈与財産用・特例贈与財産用それぞれの贈与税の速算表は以下のとおりです。
一般贈与財産用
基礎控除後の贈与額合計(課税対象価格) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0 |
200万円超300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例贈与財産用
基礎控除後の贈与額合計(課税対象価格) | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0 |
200万円超400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
なお、義理の両親からの贈与は、特例贈与財産用ではなく一般贈与財産用の税率を用います。
暦年贈与と併用できる贈与税の非課税制度
贈与税には基礎控除以外にも、さまざまな控除・非課税制度が存在します。暦年贈与と各種非課税制度を上手く活用すれば、税負担を抑えながら、より大きな額の贈与が可能です。
暦年贈与と併用できる贈与税の非課税制度として、主に以下の4つが挙げられます。
• 贈与税の配偶者控除:婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を贈与した場合、2,000万円まで非課税になる制度です。基礎控除と併用できるため、合計して最大で2,110万円が非課税となります。
• 住宅取得等資金の非課税制度:親や祖父母など直系尊属から住宅取得等を目的とした資金の贈与を受けたとき、要件を満たす場合に適用できる制度です。省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の場合は500万円までが非課税限度額となります。
• 教育資金の一括贈与:30歳未満の人が直系尊属から教育資金として一括贈与を受けた場合、1,500万円まで非課税になる制度です。
• 結婚・子育て資金の一括贈与:20歳以上50歳未満の人が直系尊属から結婚・子育て資金として一括贈与を受けた場合、1,000万円まで非課税になる制度です。なお、結婚資金は300万円が非課税限度額として設定されています。
贈与税の配偶者控除または住宅取得等資金の非課税制度を用いた結果として贈与税がゼロになる場合でも、贈与税の申告は必要です。贈与税が発生しないからといって申告せずにいると、非課税制度の適用を受けられず贈与税の納税義務が生じてしまいます。
教育資金の一括贈与および結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を用いる場合、金融機関での手続きが必要です。金融機関を経由して税務署への届け出が行われます。
暦年贈与による相続税対策の方法
暦年贈与による相続税の節税効果を高めるには、贈与の証拠を残すことと、早いうちから始めることの2点が大切です。暦年贈与のポイントについて詳しく解説します。
贈与契約書を作成する
暦年贈与では本当に贈与があったのかが問題になりやすいため、証拠として贈与契約書の作成が必要です。
贈与契約書に必須の記載事項として、以下の4点が挙げられます。
- 贈与する財産の種類や価額:現金の場合は金額、不動産や株式の場合は詳細(不動産の場合は住所や面積、株式の場合は社名・数など)を記載する必要があります。
- 贈与の方法:現金の場合、手渡し・銀行振込などの明記が必要です。不動産の贈与では、登記手続きや固定資産税などの費用を誰が負担するかなどの記載が求められます。
- 贈与者および受贈者の住所氏名:贈与をする人・受ける人両方の住所氏名が必要です。なお、氏名部分は署名の意味合いを込めて手書きが求められます。
- 日付:贈与契約の締結日や贈与の履行日などを記載する必要があります。西暦・和暦どちらでも問題ありません。署名と同様、一般的には手書きする部分です。
贈与契約書に記載するべき内容は贈与する財産によって異なるケースがあるため、契約書の作成前に必ず詳細をご確認ください。
契約書の内容をお互いに確認し合意したら、贈与契約書を2通作成してそれぞれに署名捺印を行います。贈与した側・された側両方で保管が必要です。
なお、民法第550条において、書面によらない贈与は当事者による撤廃が可能とされています。贈与に関するトラブルを防ぐため、暦年贈与に限らず、贈与の際は贈与契約書を作成するのが安心です。
贈与の証拠が残るように実施する
贈与契約書は十分に証拠として活用できますが、当事者のみで作成すると、どうしても漏れや誤りが生じる恐れがあります。贈与の事実を確実に証明できるよう、契約書の作成に加え、贈与の証拠が残るように実施すると効果的です。
贈与の証拠を残す方法として、主に以下の3つが挙げられます。
- 銀行振込を行う:現金を贈与する場合、手渡しではなく記録が残る銀行振込が安心です
- 公証人役場での確定日付の取得:贈与契約書に確定日付(手数料700円)を取得することで、贈与契約書を作成した日付を証明することができます
- あえて贈与税の申告および納税を行う:あえて贈与税の申告・納税を行うことで、贈与の事実を確実に残せます。基礎控除を少し超える程度の金額であればそれほど大きな税負担にはなりません
毎年贈与を続けることで相続財産を小さくできる
暦年贈与による相続税の節税効果は、早いうちから毎年継続して続けるほど大きくなります。
贈与税が非課税となる基礎控除額は年間110万円と、それほど大きくはありません。そのため、短期的に大きな効果を得られるとはいえない方法です。
しかし、毎年コツコツ贈与を続けていけば、いずれトータルで大きな額になります。暦年贈与は相続税の課税対象となる遺産総額(相続財産)を小さくすることが目的です。1年で得られる効果は小さくても、最終的にどれほどの効果が得られるかが重要となります。
暦年贈与による相続税の節税を検討しているのであれば、早いうちから始めることが大切です。
暦年贈与の注意点
暦年贈与による相続税の節税効果を得るには、正しい方法で実施する必要があります。そのためには、注意点の確認および意識が必要です。
暦年贈与で特に押さえたい注意点として、以下の4つが挙げられます。
- 贈与のタイミングや金額は毎年変える
- 亡くなる3年以内の贈与は相続税の計算対象
- 名義預金にならないようにする
- 贈与税の基礎控除の条件に注意
それぞれ詳しく解説します。
贈与のタイミングや金額は毎年変える
毎年同じ時期に同じ額の贈与を行うと、定期贈与とみなされるリスクが高いです。そのため、贈与のタイミングや金額は毎年変える必要があります。
定期贈与とは、一定期間にわたって一定の給付を目的に贈与をする行為です。贈与の開始時点で、すでにまとまった額の贈与を決めていたと判断されます。
定期贈与とみなされてしまうと、贈与額の合計に一括で税金がかかる恐れがあります。贈与税の税率は、相続税よりもはるかに高額です。相続税の節税効果が得られないどころか、相続よりも大きな税額の納付が必要になってしまいます。
定期贈与とみなされないよう、贈与のタイミングおよび金額を変えることが大切です。贈与の月日をバラバラにする・金額を多少変えるなど、毎年同じにならないよう注意する必要があります。
亡くなる3年以内の贈与は相続税の計算対象
故人が亡くなるまでの3年の間に受けた贈与は、贈与税ではなく相続税の計算対象です。これを生前贈与加算といいます。
亡くなる3年以内に行われた贈与は、1年の贈与額が110万円以下の場合でも遺産総額として加算されます。すなわち、暦年贈与によって遺産総額を小さくしたという効果は完全になくなってしまうのです。
暦年贈与による相続税の節税効果を発揮するには、なるべく早いうちから始めるのが確実です。
名義預金にならないようにする
銀行振込で現金の贈与を行う場合、名義預金にならないよう注意する必要があります。
名義預金とは、口座の名義人と預金者の実態が異なる預金口座です。主な例として、名義は子供であるものの、親が通帳や印鑑を管理している口座が挙げられます。
名義人と実質的な管理者が別の口座に振り込まれたお金は、口座の名義人が自由に使えるとは言い難いです。そのため、名義預金は贈与と認められないリスクが高いといえます。前述した例の場合、実態としては親の口座とみなされ、贈与ではなく相続財産となってしまう恐れがあります。
名義預金にならないよう、贈与によって受け取ったお金は口座の名義人が管理することが大切です。
贈与税の基礎控除の条件に注意
暦年贈与は贈与税の基礎控除の仕組みを活用した節税方法です。そのため、贈与税の基礎控除の条件に関する正しい理解が欠かせません。
贈与税の発生有無を考える際は、1人から受けた贈与の額ではなく、1年間で受けた贈与の合計額を用います。
たとえばAから110万円、Bから110万円の贈与があった場合、贈与された額の合計は220万円です。それぞれの贈与額は基礎控除の枠内ですが、合計額が基礎控除を超えるため、贈与税が発生します。このように複数人から贈与がある場合、それぞれから受けた贈与ではなく合計額に注意が必要です。
なお、贈与税は贈与をする人ではなく、財産を受け取る人に対して適用されます。Cが1年の間にD・E・Fの3人に110万円ずつ贈与した場合、合計額は330万円と基礎控除を超えますが問題ありません。D・E・Fのそれぞれがほかに贈与を受けていなければ、各々が受けた贈与は基礎控除の枠内であるため、贈与税は発生せずに済みます。
まとめ
贈与税の非課税枠を用いた暦年贈与で大きな効果を得るためには、早いうちから行うことが大切です。暦年贈与によってトータルで大きな財産を移転できれば、相続財産が小さくなり、相続税の節税につながります。
ただし、暦年贈与は誤った方法で行なってしまうと節税効果が得られない恐れがあります。そのため、正しい方法や注意点など、暦年贈与に関する理解が必要です。
贈与や相続には、複雑なルールや煩雑な手続きが多く存在します。確実な相続税対策を行うためには、専門家である税理士のアドバイスやサポートを受けるのが安心です。
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監修者
山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【執筆実績】「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他、【メッセージ】亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って、相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。