一次相続から10年以内に二次相続が発生したら相次相続控除が使える!適用条件や計算方法などを解説

短期間に連続して相続が起きると、同じ財産に対して税金が二重に課される場合があります。このような二重課税を緩和するのが「相次相続控除」制度です。具体的には、10年以内の二次相続は相次相続控除によって、相続税の負担を減少できるでしょう。
この記事では、相次相続控除の概要や適用条件、計算方法、申告手続き方法について詳しく解説します。
目次
10年以内に二次相続が発生したらどうなる?
10年以内に立て続けに相続が発生することを相次相続といいます。相次相続が発生すると、短い期間で同じ財産に対して、相続税が課されるため相続人は相続税の負担が増えます。
相次相続による相続税の負担を軽減する制度として、相次相続控除の活用が有効です。相次相続控除を活用すれば、数百万円の税金が軽減される場合もあります。
相次相続控除の概要
相次相続控除は、10年以内に2回以上の相続が発生し、それぞれに相続税が課された場合に適用できます。具体的には、一次相続で相続税を納めた人から財産を相続した人に対して適用されます。
例えば、父親が亡くなり母が財産を相続し、数年後に母が亡くなり子が再び相続するケースが典型的です。控除額は前回の相続からの期間が短いほど大きくなり、1年ごとに10%ずつ減額します。
特に、5年以内の二次相続は高い節税効果を得られるケースが多いです。
相次相続控除の適用条件
相次相続控除の適用には、次の3つの条件を全て満たす必要があります。
条件 | 詳細 |
被相続人の相続人であること | 今回の相続で財産を取得した人が、民法上の相続人であることが条件です。遺贈で財産を受け取った人や、相続放棄をした人は対象外となります。 |
今回の相続の開始前10年以内に一次相続が生じたこと | 前回の相続開始日から今回の相続開始日までが10年以内である必要があります。相続開始日とは被相続人が亡くなった日を指します。 |
今回の被相続人が一次相続で相続税を課されていたこと | 今回亡くなった被相続人が、前回の相続で財産を取得し、その際に相続税を納めていることが条件です。配偶者の税額軽減などで相続税がゼロだった場合は適用できません。 |
相次相続控除の計算方法
相次相続控除額は、前回の相続で納めた相続税額を基に算出します。期間が短いほど控除額が大きくなり、税負担の軽減効果が高まります。
控除額の計算式
相次相続控除額は、以下の式で算出します。
- 各相続人の控除額=A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10
- A:今回の被相続人が前の相続で課された相続税額
- B:今回の被相続人が前の相続で取得した純資産価額
- C:今回の相続で財産を取得した全員の純資産価額の合計額
- D:今回のその相続人の純資産価額
- E:前の相続から今回の相続までの年数(1年未満切り捨て)
この計算は複雑ですが「前回納めた税金のうち、今回相続した財産に対応する分を、経過年数に応じて控除する」という考え方です。
なお、上記で求められた割合(C÷(B-A))が100%を超える場合、割合は100%として計算されます。また、法定相続人が複数いる場合、算出された控除額は財産の取得割合によって按分されます。
具体的な計算例
先ほどの計算式を基に、以下のケースにおける相次相続控除を計算してみましょう。
父親が令和2年1月30日に死亡し、母親が1億2,000万円を相続して2,000万円の相続税を納めたとします。その後、母親が令和6年10月20日に死亡し、長男が6,000万円、次男3,000万円を相続した場合を考えます。
この場合、一次相続から二次相続までの期間は4年8か月となり、1年未満は切り捨てて4年となります。先ほどの相次相続控除額の計算式に当てはめてみましょう。
- A(母親が納めた相続税額):2,000万円
- B(母親が取得した純資産価額):1億2,000万円
- C(二次相続の純資産価額の合計額):9,000万円
- D(各相続人の純資産価額):長男6,000万円、次男3,000万円
- E(経過年数):4年
これを計算式に当てはめると、次の通りです。
控除額 | |
長男 |
720万円 2,000万円×9,000万円÷(1億2,000万円-2,000万円)×6,000万円÷9,000万円×(10-4)÷10=720万円 |
次男 |
360万円 2,000万円×9,000万円÷(1億2,000万円-2,000万円)×3,000万円÷9,000万円×(10-4)÷10=360万円 |
今回のケースでは長男が720万円、次男が360万円の相次相続控除を受けられます。このように、相次相続控除は二次相続の相続税が大幅に軽減されます。
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相次相続控除の手続き方法
相次相続控除を適用するには、相続税申告時に必要書類を提出し、控除額を計算して申告する必要があります。ここでは、相次相続控除の手続き方法について解説します。
必要書類
相次相続控除の適用には、以下の書類が必要です。
- 相続税申告書第7表「相次相続控除額の計算書」
- 一次相続で提出した相続税申告書の控えのコピー(第1表、第11表など)
これらの書類を被相続人の最終住所地を管轄する税務署に提出します。国税庁のサイトでも必要書類に関する情報が掲載されているので、確認することをおすすめします。
申告期限
相次相続控除の申告期限は、通常の相続税と同様、相続開始から10か月以内です。例えば、10月20日に相続が発生した場合、翌年の8月20日が申告期限となります。申告期限を過ぎると原則として控除を受けられなくなるため、期限を厳守しましょう。
また、相次相続控除の申告方法に不安がある方は、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。相談する際は、一次相続で提出した相続税申告書の控えのコピーがあるとスムーズに相談可能です。
二次相続や相続対策などについては、やさしい相続相談センターに気軽にお問い合わせください。
関連記事:【税理士監修】遺産相続に期限はあるの?期限切れのリスクと手続きのポイントを解説
相次相続控除の注意点
相次相続控除は、相続人の確認、前回の相続での課税状況、同時死亡の場合、兄弟間の相続の場合、相続税申告後の適用可否などいくつかの注意点があります。
ここでは、相次相続控除の注意点について解説します。
相続人以外は適用不可
相次相続控除を適用できるのは、法定相続人のみです。遺言による受遺者や相続放棄した人は相次相続控除の対象外です。しかし、代襲相続の場合は孫なども適用を受けられます。
相続放棄を検討する際は、この点も考慮して判断する必要があります。相続放棄によって控除が受けられなくなるケースもあるので注意しましょう。
前回の相続で課税されていない場合は適用不可
前回の相続で配偶者の税額軽減などにより相続税がゼロだった場合、相次相続控除は適用できません。そのため、配偶者が税額軽減を使わず、あえて一部の相続税を納めておくことで、将来の二次相続に備えるケースもあります。
上記のケースは各家庭状況によって判断が異なるので、事前に税理士に相談すると良いでしょう。
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両親が同時に死亡した場合は適用不可
交通事故などで両親が同時に死亡した場合、相次相続控除は適用できません。これは、一次相続が発生していないからです。
同時死亡の判定が難しいケースもありますが、死亡時刻の記録が重要になります。わずかな時間差があれば相次相続と認められる可能性もあります。
兄弟間の相続の場合、条件を満たせば適用可能
相次相続控除は世代間の相続だけでなく、兄弟姉妹間の相続にも適用できます。例えば、父親が死亡後に長男が相続し、父親死亡後10年以内に長男が死亡して次男が相続した場合も適用可能です。
ここで重要なのは「相続人であること」と「前回の相続で相続税が課税されていること」という条件を満たしているかどうかです。
相続税申告後でも5年以内なら適用可能
相続税申告時に相次相続控除の適用を忘れていた場合でも、申告期限から5年以内なら更正の請求で控除を適用できます。修正申告の際にも適用できますが、延滞税や加算税には控除は適用されません。そのため、適用漏れがないよう注意しましょう。
遺産が未分割の場合でも適用可能
遺産分割協議がまとまらず、遺産が未分割の状態でも相次相続控除を適用可能です。この場合、法定相続分で分割したと仮定して申告します。他の特例と異なり、分割確定が要件ではないため、未分割でも適用できる点がメリットでしょう。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、遺産分割が確定していないと適用できない場合が多いですが、相次相続控除は分割確定要件がないため、未分割でも適用できるという違いがあります。
相続対策は、相次相続控除以外に小規模宅地等の特例なども有効ですが、制度を知らないと税金を多く納めるリスクがあります。相続の悩みや疑問については、まずはお気軽にお問い合わせください。
関連記事:相続税の未分割申告とは?手続きの流れと4つの注意点を解説
相次相続控除のまとめ
相次相続控除は短期間に複数の相続が発生した場合に、相続税負担を大幅に軽減できる制度です。しかし、計算方法が複雑で、適用条件も細かいため、専門知識が必要です。
相次相続控除額の算出には、一次相続時の課税状況や純資産価額、今回の相続での取得割合、経過期間などを正確に把握する必要があります。相次相続控除の計算や申告に不安がある場合は、相続税専門の税理士への相談がおすすめです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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