二世帯住宅の相続税対策|小規模宅地等の特例を使う方法を解説

二世帯住宅の相続税対策|小規模宅地等の特例を使う方法を解説

二世帯住宅の相続では、「小規模宅地等の特例」が節税効果をもたらします。この特例を活用すると、土地評価額を最大80%減額できます。

この記事では、二世帯住宅における小規模宅地等の特例の適用条件や登記の種類、登記変更の手続き、特例適用後の計算方法まで、詳しく解説します。相続税の負担を軽減する際に「小規模宅地等の特例」は重要なので、ぜひ本記事を参考にしてみてください。

二世帯住宅における相続の小規模宅地等の特例の適用条件

二世帯住宅で小規模宅地等の特例を適用するには、いくつかの要件を満たす必要があります。ここでは、二世帯住宅に特有の適用要件について詳しく説明します。

2014年の税制改正による変更点

2014年1月1日の税制改正で、二世帯住宅の小規模宅地等の特例の適用条件が次のように大きく変更されました。

内容
改正前 完全分離型の二世帯住宅は本特例の適用不可
改正後 区分所有登記されていない完全分離型の二世帯住宅も本特例の適用対象に変更

改正前は、完全分離型の二世帯住宅(内部で行き来できない構造)では、原則として小規模宅地等の特例が適用不可でした。

改正後は建物の構造に関わらず、区分所有登記がされていない完全分離型二世帯住宅も本特例の適用対象となりました。玄関が別々で建物内部がつながっていなくても、所有権(登記)が単独または共有であれば、同居扱いとなります。

しかし、区分所有登記がされている二世帯住宅は原則として特例対象外です。二世帯住宅を検討する際には、改正点を踏まえ、将来の相続税対策も視野に入れた登記方法を選ぶことが賢明でしょう。

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

特例を利用できる親族の範囲

小規模宅地等の特例を利用できる親族は3種類に分けられます。被相続人の配偶者、同居親族、特定の要件を満たす同居していない親族(家なき子)です。それぞれの特定の要件を満たすことで、土地評価額の80%相当額が減額されます。

配偶者が特例を使うための条件

被相続人の配偶者は最も優遇された立場にあります。被相続人の配偶者が居住用宅地等を相続する場合、同居の有無にかかわらず、無条件で特例が適用可能です。

例えば、夫が先に亡くなり妻が自宅を相続する場合や、その逆の場合も同様です。

さらに相続後に土地を売却しても、特例適用は認められます。他の親族に課せられる「相続税申告期限まで保有し続ける」「居住し続ける」といった要件がないため、配偶者にとって非常に使いやすい制度と言えるでしょう。

配偶者以外の親族が特例を使うための条件

配偶者以外の親族には、より厳しい条件が設けられています。被相続人と同居していた親族は、相続開始から相続税の申告期限まで継続して居住し、宅地を所有することが必要です。

一方、同居していない親族(家なき子)が本特例を利用できるのは、被相続人に配偶者や同居親族がいない場合に限られます。さらに、相続開始前3年以内に自己所有の家屋に居住したことがなく、相続時に居住家屋を過去に所有したことがないという要件も満たさなければなりません。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

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登記の種類と特例適用の関係

二世帯住宅の小規模宅地等の特例の適用可否は、建物登記の種類によって大きく左右されます。特に、単独登記、共有登記、区分所有登記のどれかによって、適用条件や範囲が変わります。

ここでは、二世帯住宅の小規模宅地等の特例の適用可否における登記の種類と特例適用の関係について解説します。

区分所有登記された二世帯住宅の場合

区分所有登記された二世帯住宅は、各世帯が独立した不動産として個別に登記されています。2014年の税制改正で、完全分離型の二世帯住宅でも小規模宅地等の特例が適用可能になりましたが、区分所有登記がされている場合は適用対象外です。

これは、各住居部分が独立した建物とみなされ、同居要件を満たさないと判断されるためです。例えば、親世帯の居住部分に対応する宅地のみが特例対象となり、子世帯の居住部分は減額されません。

また、相続税額が高くなる可能性が高いため、区分所有登記か否かに注意が必要です。

共有名義で登記された二世帯住宅の場合

共有名義で登記された二世帯住宅は、小規模宅地等の特例を適用可能です。二世帯住宅全体を一つの建物とみなされ、親と子が共同で所有権を持つ形で登記されます。建物全体が一つの住居として扱われるため、完全分離型でも区分所有登記がなければ、敷地全体に特例適用できます。

しかし、土地が共有名義の場合、特例適用は被相続人の所有部分のみです。一般的には、土地を親の単独所有とするか親子の共有として登記することで、敷地全体に特例適用できる可能性が高まります。

複数の建物を連結している場合

複数の建物を連結した二世帯住宅でも、区分所有登記に該当しなければ特例適用が可能です。例えば、親が住む母屋に子世帯用の建物を増築し、構造上連結されている場合、増築部分も含めて一つの建物とみなされることがあります。

この場合、内部で行き来できない完全分離型でも、建物全体が単一所有権で登記されている、または未登記であれば、小規模宅地等の特例適用を受けられます。これは、建物全体が一つの居住用宅地として評価されるため、子世帯の宅地も減額対象となる可能性があります。

区分所有登記から同一登記への変更手続き方法

区分所有登記されている場合、小規模宅地等の特例は適用できません。しかし、区分所有登記された二世帯住宅の登記変更をすることで、小規模宅地等の特例適用を受けることができます。

単独所有または共有名義に統一する必要がありますが、この変更手続きには専門知識が必要になります。ここでは、区分所有登記から同一登記への変更手続き方法について解説します。

建物の所有権を統一する方法

区分所有登記された二世帯住宅の所有権統一には複数の方法があります。子から親へ持分を「贈与」や「売買」で移転し、親の単独所有とする方法が一般的です。全体を共有名義で登記し直す方法も考えられます。

例えば、親子がそれぞれ区分所有している場合、子が親に持分を贈与または売却して、建物全体を親の単独名義にできます。

その後、二つの区分建物を「区分合併登記」で一つの建物として統一します。この際、等価交換も検討されますが、税務署からの否認回避には慎重さが必要です。

手続きは複雑で所得税や贈与税などの税務上の影響も大きいため、事前に税理士や司法書士などの専門家へ相談することが重要です。

登記変更には複数の税金がかかる場合がある

区分所有登記から単独登記や共有登記への変更時には、贈与税、不動産取得税、登録免許税などの税金が発生する可能性があります。

例えば、贈与で名義変更する場合、贈与された持分の評価額に応じて贈与税がかかります。不動産取得税や登録免許税も必要です。

特に、相続開始直前の区分所有登記の解消は、税務署から不当な租税回避とみなされる可能性があります。贈与や売買の金額が時価と大きく異なる場合も問題になる可能性が高いでしょう。

また、特例が適用された場合に節税できる相続税よりも、登記変更によって発生する不動産取得税や贈与税などの方が高額になる恐れもあります。

相続税だけでなく贈与税や所得税など関連する全ての税金について、事前に税理士などの専門家から助言を受けることをおすすめします。特例の適用可否など、相続についての悩みはやさしい相続相談センターにお気軽にお問い合わせください。

小規模宅地等の特例適用時の相続税の計算方法

小規模宅地等の特例の適用により、相続税の負担を大きく軽減できるため、計算方法を理解しておくことは重要です。ここでは、小規模宅地等の特例適用しない場合と適用場合の相続税の計算方法を解説します。

小規模宅地等の特例を適用しない場合

小規模宅地等の特例を適用しない場合、土地評価額がそのまま課税対象となり、相続税額が高額になります。例えば、被相続人の土地評価額が3億円、面積が300㎡、相続人が長男1人で、他に相続財産がない場合を考えてみましょう。

この場合、土地評価額3億円がそのまま相続財産となります。相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」なので、課税対象は次の通りとなります。

3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円

よって、課税対象は「3億円-3,600万円=2億6,400万円」です。この金額に以下に該当する税率を掛けて相続税額を算出します。

税率 控除額
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円

2億円超3億円以下の税率は45%、控除額は2,700万円なので、相続税額は次の通りになります。

2億6,400万円×45%-2,700万円=9,180万円

特例を適用しない場合、土地評価額がそのまま課税対象となるため、相続税額が高額になるでしょう。

参考:No.4152 相続税の計算|国税庁

関連記事:【相続税の税率がすぐわかる】相続税の速算表と計算例のまとめ

関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?

小規模宅地等の特例を適用する場合

小規模宅地等の特例を適用する場合、先ほどと同じ条件で特例適用の場合を計算してみましょう。例えば、被相続人の土地評価額が3億円、面積が300㎡、相続人が長男1人で、他に相続財産がないと仮定します。

二世帯住宅の敷地が特定居住用宅地等に該当し、長男が要件を満たして特例適用すると、330㎡までの部分について評価額が80%減額されます。

土地評価額3億円のうち、80%が減額されるため、「3億円×80%=2億4,000万円」が減額され、「3億円-2億4,000万円=6,000万円」が課税対象です。

次に、基礎控除額3,600万円を引くと、課税遺産総額は次の通りになります。

6,000万円-3,600万円=2,400万円

この金額に以下に該当する税率を掛けて相続税額を算出します。

税率 控除額
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円

1,000万円超から3,000万円以下の税率は15%、控除額は50万円なので、相続税額は次の通りになります。

2,400万円×15%-50万円=310万円

特例適用しない場合の9,180万円と比べ、特例適用で税額が310万円と大幅に軽減されるのです。そのため、小規模宅地等の特例は相続税額の軽減に効果的と言えます。

参考:No.4152 相続税の計算|国税庁

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小規模宅地等の居住要件に関する注意点

小規模宅地等の特例適用後も居住要件には注意が必要です。ここでは、最低居住期間や一時的な同居に関する判断基準について解説します。

最低居住期間は「申告期限まで」

小規模宅地等の特例適用には、被相続人と同居していた親族が宅地を相続する場合、相続税の申告期限まで継続して宅地所有と居住継続が必要です。

  • 申告期限:相続発生から原則10ヶ月間

この期間内に宅地を売却したり居住をやめたりすると、特例が取り消され、減額された税額を納める必要が生じます。

しかし、配偶者が宅地を相続する場合は例外で、居住継続や保有継続の要件なしで無条件に特例を受けられます。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

一時的な同居では認められない場合がある

小規模宅地等の特例適用する際の同居要件は、一時的な同居では認められない場合があります。相続開始の直前から相続税の申告期限まで、継続して被相続人居住の建物に相続人が居住し、宅地所有が原則です。

転勤による単身赴任などやむを得ない一時的別居は同居とみなされる場合がありますが、家族全員が転居すると同居とみなされない可能性があります。

また、被相続人が老人ホームに入居していた場合でも、自宅を賃貸していないなど特定要件を満たせば、小規模宅地等の特例の適用が可能です。

これらの判断は個別状況によって異なるため、相続税に詳しい税理士に相談することが重要です。相続の悩みや疑問は、まずはお気軽にお問い合わせください。

二世帯住宅の小規模宅地等の特例まとめ

二世帯住宅における小規模宅地等の特例は、相続税額を最大80%軽減できる制度です。しかし、適用にはいくつかの重要なポイントがあります。

まず、登記形態が特例適用の可否を大きく左右します。区分所有登記は原則として特例対象外ですが、単独所有や共有登記であれば、完全分離型の二世帯住宅でも特例を受けることが可能です。

次に、特例を受ける親族の要件を満たす必要があります。配偶者は無条件で特例を受けられますが、その他の親族は相続開始から申告期限まで継続して居住・所有する必要があります。

登記の変更を検討する場合は、贈与税や不動産取得税などの税務上の影響も考慮すべきです。相続直前の変更は租税回避とみなされる可能性もあるため、余裕をもって対策を立てましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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