遺留分割合の計算方法をケース別にわかりやすく解説

遺留分割合の計算方法をケース別にわかりやすく解説

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に法律で保障されている最低限の相続取り分です。相続人が遺言で財産配分を自由に決められる一方で、特定の相続人が極端に不利にならないよう設けられた制度です。この権利は民法で定められており、相続人の生活保障や公平性確保が目的となっています。

この記事では、遺留分の基本的な知識や相続人の組み合わせごとの割合・計算方法までわかりやすく解説します。自身の権利を正しく理解し、適切に行使するための参考にしてください。

ケース別における遺留分割合の計算

生活資金

遺留分の割合は、誰が法定相続人になるかによって異なります。まず相続財産全体に対する遺留分の割合(総体的遺留分)が決まり、それを法定相続分に応じて按分して、個別の遺留分割合を算出します。

相続人 総体的遺留分の割合 法定相続人の割合
配偶者と子 2分の1

配偶者:2分の1

子:2分の1

配偶者と直系尊属(父母など) 2分の1

配偶者:3分の2

直系尊属:3分の1

配偶者のみ 2分の1 1
子のみ 2分の1 1
直系尊属のみ 3分の1 1
兄弟姉妹のみ なし 1

総体的遺留分は直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合(配偶者や子が相続人に含まれる場合)は2分の1です。この割合を基に、各相続人の法定相続分を掛けることで具体的な取り分を計算します。

ここでは、相続人の組み合わせで変わる遺留分の割合について見ていきましょう。

関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説

ケース1:配偶者と子が相続人の場合

相続人が配偶者と子の場合、総体的遺留分は遺産全体の2分の1です。

相続人 総体的遺留分の割合 法定相続人の割合
配偶者と子 2分の1

配偶者:2分の1

子:2分の1

この総体的遺留分を法定相続分(配偶者:2分の1、子:2分の1)に応じて分けると、配偶者の遺留分は4分の1、子全体も4分の1となります。

子が複数いる場合は、子分の4分の1をさらに人数で均等に分けます。例えば子が2人なら、1人あたり8分の1の遺留分を持ちます。

ケース2:配偶者と直系尊属(父母など)が相続人の場合

子がおらず配偶者と被相続人の父母が相続人になる場合も、総体的遺留分は遺産全体の2分の1です。

相続人 総体的遺留分の割合 法定相続人の割合
配偶者と直系尊属(父母など) 2分の1

配偶者:3分の2

直系尊属:3分の1

この割合を法定相続分(配偶者:3分の2、直系尊属:3分の1)で按分すると、配偶者の遺留分は遺産全体の3分の1、直系尊属は6分の1です。

なお、両親が健在の場合は6分の1をさらに2人で分け、1人あたり12分の1になります。片親のみの場合は、その親が6分の1の遺留分を持ちます。

ケース3:配偶者のみ、または子だけが相続人の場合

相続人が配偶者のみまたは子のみの場合、総体的遺留分は財産の2分の1です。法定相続人の割合は1となるため、2分の1が遺留分割合です。

相続人 総体的遺留分の割合 法定相続人の割合
配偶者のみ 2分の1 1
子のみ 2分の1 1

子が複数人いる場合は、2分の1を人数で均等に分けます。

ケース4:直系尊属のみが相続人の場合

配偶者や子もおらず、父母や祖父母だけが相続人の場合、総体的遺留分は財産の3分の1です。

相続人 総体的遺留分の割合 法定相続人の割合
直系尊属のみ 3分の1 1

遺留分は3分の1となり、他のケースの2分の1より少ない点に注意が必要です。父母が両方健在であれば3分の1を2人で分け、各自の遺留分は6分の1となります。

直系尊属のみが相続人となるケースは珍しいですが、発生した際には適切な割合で計算する必要があります。

【注意点】兄弟姉妹には遺留分がない

兄弟姉妹は第3順位の法定相続人になりますが、遺留分は認められていません。

相続人 総体的遺留分の割合 法定相続人の割合
兄弟姉妹のみ なし 1

これは、兄弟姉妹が被相続人から独立して生計を立てていることが多く、遺産への期待が低いと考えられるためです。

実際には「兄弟だから当然権利がある」と誤解している方も多いですが、遺言で全財産を第三者に遺贈すると書かれていても、兄弟姉妹は遺留分を主張できません。相続の基本として認識しておきましょう。

関連記事:【税理士監修】兄弟姉妹も法定相続人になる?相続割合やトラブルを回避する方法も解説

遺留分の計算手順

遺留分の計算方法は、3つの手順で行います。

  • 遺留分の基礎財産の価額を算出する
  • 相続人ごとの遺留分割合を確認する
  • 基礎財産に遺留分割合を掛けて金額を求める

ここでは、遺留分の計算手順を手順ごとに詳しく解説していきます。

①遺留分の基礎財産の価額を算出する

まずは、「遺留分算定の基礎となる財産」の価額を正確に算出します。

相続開始時の財産+贈与財産の価格ー相続債務=遺留分算定の基礎となる財産

被相続人の死亡時点の財産に特定の生前贈与分を加え、債務を差し引いて求めます。

相続開始時のプラスの財産を洗い出す

プラスの財産には、預貯金、有価証券、現金、自動車、不動産などが含まれます。不動産は土地と建物で計算方法が異なるため注意しましょう。生命保険金は相続財産ではありませんが、相続税の課税対象になります。

参考:No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金|国税庁

生前に贈与された財産も加算する

遺留分制度を回避するような生前贈与を防ぐため、原則として相続開始前7年以内の贈与財産も基礎財産に加算します。相続人への特別受益にあたる生前贈与は、相続開始前10年以内のものが加算対象です。

なお、相続人以外への贈与は原則として相続開始前1年以内に行われたものが対象ですが、遺留分権利者への損害を意図した贈与は期間に関わらず加算されます。

この判断は難しいので、専門家からの助言を受けると良いでしょう。生前贈与と特別受益の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:生前贈与と特別受益ってどう違う?制概要や相続遺産の算出方法を解説

相続債務(借金など)を差し引く

プラスの財産から、被相続人の借入金、未払税金、医療費、クレジットカード未払金などの債務を差し引きます。また、被相続人が保証人になっていた場合、保証債務も含まれる可能性があります。

実際には、債務の存在が後から判明するケースもあり、遺留分計算をやり直す必要が生じることもあるでしょう。そのため、債務の把握は慎重に行いましょう。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

②相続人ごとの遺留分割合を確認する

遺留分算定の基礎財産が確定したら、次に各相続人の遺留分割合を確認します。この割合は、総体的遺留分に各相続人の法定相続分を掛けて算出します。

例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、子1人の遺留分割合は「1/2×1/4=1/8」です。相続人の人数や組み合わせによって法定相続分が異なるので、自分のケースに合った割合を正確に把握しましょう。

③基礎財産に遺留分割合を掛けて金額を求める

最後に、「基礎財産」に「個別の遺留分割合」を掛けて具体的な金額を算出します。例えば、基礎財産が6,000万円で、個別の遺留分割合が8分の1であれば、遺留分額は6,000×1/8=750万円です。

この金額と実際に受け取った財産を比較し、不足があれば差額を請求できます。数字を具体的に示すことで、権利の範囲が明確になり、冷静な判断ができるようになります。

財産評価の方法や贈与の取扱いなど、専門知識が必要です。そのため、遺留分の計算に不安がある方は、専門家への相談をおすすめします。遺留分の計算に不安がある方は、やさしい相続相談センターにお気軽にお問い合わせください。

関連記事:【税理士監修】生前贈与にも遺留分が適用される?侵害請求のやり方や注意点を解説

【ケース別】遺留分の計算例

法定相続人の組み合わせ、生前贈与の有無、債務の存在などによって計算方法が異なるので、理解しておく必要があります。

ここでは、ケース別における遺留分の計算例を解説します。

①相続人が配偶者と子2人の場合

以下の条件における遺留分の計算例を見ていきましょう。

【条件】

遺留分の基礎となる財産:8,000万円

相続人:配偶者、長男、次男

遺言内容:「全財産を配偶者に相続させる」

この場合、総体的遺留分は財産全体の2分の1なので、8,000万円×1/2=4,000万円です。各相続人の遺留分割合と金額は次の通りです。

配偶者:8,000万円×1/4=2,000万円

長男:8,000万円×1/8=1,000万円

次男:8,000万円×1/8=1,000万円

遺言により長男と次男は財産を受け取れないため、それぞれ1,000万円の遺留分侵害額を配偶者に請求できます。

②生前贈与や特別受益がある場合

以下の条件における遺留分の計算例を見ていきましょう。

【条件】

相続開始時の財産:6,000万円

長男への生前贈与:5年前に2,000万円事業資金

相続人:長男、次男

遺言内容:「相続財産6,000万円はすべて長男に相続させる」

基礎財産は、相続財産6,000万円に生前贈与2,000万円を加えた8,000万円です。相続人は子2人のみなので、総体的遺留分は2分の1、各相続人の遺留分割合は4分の1です。

次男の遺留分額は8,000万円×1/4=2,000万円となります。遺言により次男は財産を受け取れないため、2,000万円全額の遺留分侵害額を長男に請求できます。

③相続財産に借金が含まれる場合

以下の条件における遺留分の計算例を見ていきましょう。

【条件】

プラスの財産:預貯金5,000万円、不動産4,000万円(合計9,000万円)

マイナスの財産(債務):借金1,000万円

相続人:配偶者、長男

遺言内容:「プラスの財産はすべて長男に、債務は配偶者に相続させる」

上記の場合、まずはプラスの財産から債務を差し引き、基礎財産を算出します。

基礎財産:9,000万円-1,000万円=8,000万円

相続人は配偶者と子なので、配偶者の遺留分割合は4分の1です。そのため、配偶者の遺留分額は8,000万円×1/4=2,000万円です。

遺言により配偶者はプラスの財産を受け取れず、さらに1,000万円の債務を負うため、合計で3,000万円(遺留分2,000万円+負担債務1,000万円)を長男に請求できます。

自身の遺留分が侵害されていた場合の対処法

遺留分侵害が判明した場合、権利を実現するためには「遺留分侵害額請求」という意思表示を行う必要があります。ここからは、自身の遺留分が侵害されていた場合の対処法について解説します。

「遺留分侵害額請求」を内容証明郵便で送る

遺留分侵害額請求は内容証明郵便で行うのが最も確実です。内容証明郵便は、いつ、どのような内容を、誰が誰に送ったのかを郵便局が証明してくれるサービスです。

請求の意思表示を明確な証拠として残せるだけでなく、遺留分請求権の時効の進行を止める効果もあります。内容証明郵便は「言った・言わない」の争いを防ぐ重要な手段です。

当事者間の話し合い(協議)で解決を試みる

内容証明郵便で請求の意思表示後は、当事者間での話し合いによる解決を試みましょう。相続は親族間での問題であることが多いため、裁判所の手続きを経ずに解決できるのが理想的です。話し合いでは感情的にならず、計算根拠を冷静に示しながら交渉することが重要です。

相手から合意が得られた場合は「合意書」を作成し、できれば公正証書にしておくと安心でしょう。合意書を公正証書にしておくと、万が一支払いが滞った場合に強制執行ができるので、より安心です。

話し合いでの解決が難しい場合は家庭裁判所に調停を申し立てる

当事者間で解決できない場合は、家庭裁判所に「遺留分侵害額請求調停」を申し立てることになります。調停は、裁判官と調停委員が中立的立場から解決をサポートしてくれます。 調停委員が法的観点から助言や解決案を提示するため、当事者だけでは進まなかった交渉がまとまる可能性があるでしょう。

調停で合意すれば「調停調書」が作成され、これは判決と同じ効力を持ちます。調停でも解決しなければ、訴訟へ移行することになります。

参考:遺留分侵害額の請求調停|裁判所

遺留分侵害額請求には期限がある!いつまでに行うべき?

遺留分請求権には時効があり、期限を過ぎると権利が消滅します。時効には「短期」と「長期」の2種類があります。短期は「相続開始と遺留分侵害を知った時から1年」、長期は「相続開始から10年」です。

時効により請求権を失ってしまうケースがあるので、注意が必要です。特に1年という短期時効は意外と早く経過するため、侵害を知ったらすぐに行いましょう。

権利行使の意思があるなら、まずは専門家に相談して適切な対応を検討することをおすすめします。遺留分や相続の悩みについては、やさしい相続相談センターにお気軽にお問い合わせください。

関連記事:遺留分侵害額請求の時効は1年と10年!期間内にやるべきことと時効を止める方法

まとめ

遺留分は法律で認められた相続人の正当な権利です。遺留分割合は法定相続人の構成によって異なり、具体的には基礎財産の算出・遺留分割合の確認・金額の算出の手順で進めます。

権利が侵害されている場合は、時効に注意しながら請求手続きを進めましょう。遺留分の計算や手続きに不安な方は、税理士や弁護士などの専門家に相談しましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。