贈与税の暦年課税とは?2024年の税制改正の変更点と活用方法を解説

贈与税の暦年課税は、相続税負担を軽減する効果的な方法です。毎年110万円までの基礎控除を活用し、計画的な生前贈与が可能です。2024年の税制改正で加算期間が延長されました。この記事では、暦年課税の仕組みや2024年の改正内容、活用方法などについて詳しく解説します。

暦年課税の基本

ポイント

ここでは、暦年課税の基本について詳しく見ていきます。

暦年課税の仕組み

暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間の贈与に対して課税される制度です。課税の対象者は受贈者です。

暦年課税では、年間の贈与額から110万円の基礎控除を差し引いた金額に税率をかけて計算します。その際の贈与額が基礎控除内なら贈与税はかかりません。

基礎控除は受贈者ごとに適用されるため、贈与者に複数の子や孫がいる場合は効率的な資産移転が可能です。

年間110万円の基礎控除

暦年課税の基礎控除は、受贈者1人あたり年間110万円です。この金額以下の贈与なら贈与税はかからず、申告も必要ありません。

しかし、この基礎控除は受贈者に適用される点に注意が必要です。複数の贈与者から贈与を受け、合計が110万円を超える場合は贈与税の申告をしなければなりません。

そのため、贈与については贈与者と受贈者の間で計画的に行わなくてはいけません。

関連記事:複数から贈与を受けた場合の基礎控除は?課税方法と対策をチェック

贈与税の税率

贈与税は、贈与額に応じて高くなる累進課税制度です。贈与者と受贈者の関係によって「一般税率」と「特例税率」があります。

特例税率は、直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与に適用され、一般税率より税負担が軽減されています。一方、一般税率は特例贈与に該当しない全ての贈与が適用対象です。

贈与税の計算は、年間の財産合計額から基礎控除後の課税価格に以下の速算表に基づいた税率を掛けて算出します。

基礎控除後の課税価格 特例税率 控除額 (特例) 一般税率 控除額 (一般)
200万円以下 10% 10%
300万円以下 15% 10万円 15% 10万円
400万円以下 15% 10万円 20% 25万円
600万円以下 20% 30万円 30% 65万円
1,000万円以下 30% 90万円 40% 125万円
1,500万円以下 40% 190万円 45% 175万円
3,000万円以下 45% 265万円 50% 250万円
4,500万円以下 50% 415万円 55% 400万円
4,500万円超 55% 640万円 55% 400万円

上記のように、課税価格が200万円以下なら税率10%から始まり、金額が増えるほど税率は上がります。

参考:贈与税のしくみ|国税庁

2024年税制改正の変更点

2024年の税制改正で、贈与税制度に重要な変更がありました。特に、相続発生前の生前贈与に関するルールが変わっています。ここでは、2024年税制改正の変更点について詳しく解説します。

生前贈与加算期間の延長(3年から7年へ)

2024年の税制改正により、相続税の計算時に加算される生前贈与の期間が3年以内から7年に延長されました。本改正によって、生前贈与をする際は早めに始めることで節税効果が高まるでしょう。

加算期間の段階的な適用

生前贈与加算期間の延長は、2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用され、2031年以降の相続で完全適用されます。

延長された4年間の贈与については、合計で100万円までは相続財産に加算されない経過措置があります。生前贈与の適用時期によっては、混乱を招きやすいので注意が必要です。

関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?

暦年課税の活用方法

暦年課税は、基礎控除を毎年活用することで、相続税対策として効果的です。ここでは、暦年課税の活用方法についてご紹介します。

複数の受贈者への贈与で相続税の負担を軽減

暦年贈与は、受贈者ごとに基礎控除が適用されます。子や孫など複数の受贈者に贈与すれば、より多くの財産を非課税で移転できます。

例えば、3人の子にそれぞれ年間110万円ずつ贈与すれば、合計330万円までが非課税で贈与可能です。相続税の最高税率は55%であることを考えると、計画的な贈与の効果が期待できるでしょう。

早めの時期からの贈与が有利

暦年贈与は、贈与者の年齢が若いうちから始めるほど効果的です。2024年の税制改正で加算期間が7年に延長されましたが、早く生前贈与するほど加算対象外の贈与を増やせます。

例えば、20年間にわたって毎年贈与を行えば、加算期間を過ぎた贈与分は相続税計算に含まれません。60代から始める方が多いですが、早めの開始をおすすめします。

法定相続人以外への贈与も可能

暦年贈与は、法定相続人以外にも行えます。孫や子の配偶者など相続人ではない親族への贈与も基礎控除が適用可能です。

特に、相続または遺贈により財産を取得しない人への贈与は、生前贈与加算の対象外となる可能性があります。暦年課税は相続税対策としてだけでなく、特定の親族への財産移転手段としても有効です。

暦年贈与の手続き

暦年贈与を適切に行うには、いくつかの手続きが必要です。ここでは、暦年贈与の手続きについて説明します。

贈与契約書の作成

暦年贈与では、贈与契約書の作成が重要です。贈与契約は口頭でも成立しますが、書面として契約書を残すと、贈与の事実を明確に証明できます。特に税務調査時の名義預金認定リスクを回避できます。

贈与契約書には、贈与者と受贈者の氏名、住所、日付、贈与財産の内容を記載しましょう。継続的な贈与でも毎回作成する方が望ましいです。事前に契約書のテンプレートを用意しておくと便利です。

金融機関を通じた贈与

暦年贈与が確実に移転した証拠を残すため、金融機関の口座を通じた振込が一般的です。現金の手渡しは証拠が残りにくく、トラブルの原因になります。

振込記録は贈与の事実を証明する重要な証拠となります。振込明細書は最低7年間は保管しておきましょう。特に、税務調査では必ず確認される項目なので注意しましょう。

贈与税の申告が必要な場合

贈与税の申告は、年間の贈与額が110万円を超える場合に必要です。贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに、税務署に贈与税の申告書を提出および贈与税の納付が必要です。

申告を怠ると、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されます。税務署の窓口は3月に混雑するため、早めの準備が重要です。

暦年贈与の注意点

注意

暦年贈与を活用するには、いくつかの注意点があります。ここでは、暦年贈与における注意点について解説します。

定期贈与と判断されないために毎年贈与契約書を作成する

毎年の贈与が「定期贈与」と判断されると、分割贈与ではなく一括贈与とみなされ、税負担が増えます。定期贈与とは、「毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与する」と、最初からまとまった金額を複数年に分割しての贈与が決まっているとみなされる場合のことです。

贈与額も毎年少しずつ変動させると、独立した贈与と判断されやすくなるでしょう。定期贈与と判断されないためには、毎年の贈与の意思確認を行い、贈与契約書の作成が重要です。

名義預金と判断されないように受贈者が口座を管理する

「名義預金」と判断されるのを避けるには受贈者自身による口座管理が重要です。名義預金とは、形式上は受贈者名義でも実質的には贈与者の財産とみなされるケースです。

受贈者が贈与された資金を認識し、自由に使える状態にしましょう。特に未成年への贈与では名義預金と判断されやすいため注意が必要です。

相続開始前7年以内の加算ルールを考慮する

2024年の税制改正により、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算されるようになりました。俗に「生前贈与加算」または「持ち戻し」と呼ばれます。

延長された4年間の贈与には、合計100万円まで加算対象外となる経過措置が適用可能です。長期的な贈与計画を立てる際は、この7年の加算ルールを考慮しましょう。

また、法定相続人以外への贈与は原則として加算対象外ですが、遺言で財産を取得する場合は加算対象となる可能性があるため、事前に確認が必要です。

参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

暦年課税以外に負担軽減できる制度

暦年課税以外にも、贈与税や相続税の負担を軽減できる制度があります。ここでは、暦年課税以外の制度・特例との関係性について解説します。

相続時精算課税制度との併用

暦年課税と相続時精算課税制度の併用が効果的です。相続時精算課税制度は、特定の要件を満たす贈与者と受贈者の間で2,500万円までの特別控除と年間110万円の基礎控除が適用できる制度です。

贈与者が亡くなった時に、その贈与財産を相続財産に加算して相続税として精算します。ただし、一度相続時精算課税を選択すると、同じ贈与者からの贈与については暦年課税を選択できません。どちらの制度を選択するかは、贈与の目的や金額、期間によって異なります。

例えば、短期間に多額の贈与をする場合は相続時精算課税が適しているでしょう。一方、長期にわたって少額ずつ贈与する場合は暦年課税が適しているでしょう。

関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

その他の非課税制度や特例

教育資金贈与や住宅取得資金贈与など、目的別の非課税特例制度があります。これらは暦年課税と併用可能で、資産移転に効果的です。

主な非課税制度や特例は、次の通りです。

非課税制度や特例 内容と適用要件
教育資金の一括贈与 直系尊属から30歳未満の子や孫に教育資金を一括で贈与した場合、受贈者一人につき最大1,500万円(うち学校以外は500万円)まで非課税。
結婚・子育て資金の一括贈与 直系尊属から18歳以上50歳未満の子や孫が、結婚・子育て資金を一括贈与された場合、受贈者一人につき最大1,000万円(うち結婚資金は300万円)まで非課税。
住宅取得等資金の贈与 直系尊属から子が自己居住用家屋の新築・取得・増改築等資金を贈与された場合に、最大1,000万円まで非課税。

例えば、年間110万円の基礎控除を活用しながら、上記の特例を利用して非課税で贈与するできます。ただし、上記の特例制度は適用条件や手続きが複雑なため、専門家への相談をおすすめします。

参考:No.4405 贈与税がかからない場合|国税庁

関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説

関連記事:【税理士監修】結婚・子育て資金贈与とは?概要や手続き方法、注意点を解説

関連記事:【税理士監修】住宅取得資金の贈与には非課税枠がある。適用条件やメリットを解説

まとめ

贈与税の暦年課税は、年間110万円の基礎控除を活用した相続税対策として有効です。2024年の税制改正で加算期間が7年に延長され、より長期的な計画が必要になりました。

適切な贈与契約書の作成や金融機関を通じた振込など、正しい手続きが重要です。名義預金や定期贈与と判断されないよう注意が必要です。

相続時精算課税制度やその他の非課税特例と組み合わせると、効果的な資産移転が可能になります。税制は複雑で改正も頻繁なため、税理士などの専門家に相談しましょう。

関連記事:【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
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