子や孫へ贈与する特例贈与財産とは?一般贈与財産との違いや活用法について解説

子や孫へ贈与する特例贈与財産とは?一般贈与財産との違いや活用法について解説

特例贈与財産は、直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与に適用される税率優遇制度です。一般贈与財産より税負担が少なくなるため、相続税対策として効果的です。この記事では、特例贈与財産の概要や一般贈与財産との違い、計算方法、贈与を行う上での注意点について詳しく解説します。

特例贈与財産とは

生前贈与

ここでは、特例贈与財産の定義と適用対象の要件について詳しく見ていきましょう。

特例贈与財産の定義

特例贈与財産は父母や祖父母などの直系尊属から、18歳以上の子や孫への贈与財産です。特例贈与財産には「特例税率」という低い税率が適用され、贈与税負担を軽減できます。

特例贈与財産以外の贈与は一般贈与財産と呼ばれ、異なる税率が適用されます。財産移転を計画する際は、特例贈与財産に該当するかの確認が重要です。

参考:贈与税のしくみ|国税庁

特例贈与財産の適用対象者

特例贈与財産の適用対象者は、贈与者と受贈者の関係性、受贈者の年齢によって定められています。特例贈与財産として扱われる条件は、次の通りです。

  • 贈与者が父母や祖父母などの直系尊属であること
  • 受贈者が贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
  • 受贈者が贈与者の直系卑属(子や孫など)であること

上記の条件を満たすと、有利な特例税率が適用され、贈与税負担を軽減できます。なお、養子も直系卑属に含まれますが、養親との関係によっては一般贈与となる場合があります。

特例贈与財産と一般贈与財産の違い

贈与税には特例贈与財産と一般贈与財産の区分があり、それぞれ税率や計算方法が異なります。ここでは、特例贈与財産と一般贈与財産の違いについて詳しく解説します。

税率の違い

特例贈与財産と一般贈与財産では適用される税率が異なります。特例贈与財産に適用される「特例税率」は、一般贈与財産の「一般税率」より低い税率なのが特徴です。

基礎控除後の課税価格が300万円を超えると、特例税率による税額軽減の効果が期待できます。そのため、贈与金額が多いほど税率差が大きくなり、税負担の差も拡大します。

実際に、特例税率の適用で数百万円の税負担減になったケースも多いです。

贈与税の計算方法の違い

贈与税は、贈与財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた課税価格に税率を乗じて計算します。ただし、特例贈与財産と一般贈与財産では適用税率が異なります。

贈与税の計算方法は次の通りです。

1. 1年間の贈与財産の合計額を計算する

2. 合計額から基礎控除額110万円を差し引き、課税価格を算出する

3. 課税価格に贈与財産の種類に応じた税率を乗じて税額を計算する

上記の算出方法をもとに、次のケースで計算例を見てみましょう。

<特例贈与財産の場合>父親から18歳以上の子に1,000万円の贈与

  • 課税価格:1,000万円-110万円=890万円
  • 特例税率(890万円の場合):税率30%、控除額90万円
  • 贈与税額:890万円×30%-90万円=177万円

<一般贈与財産の場合>兄弟間で1,000万円の贈与

  • 課税価格:1,000万円-110万円=890万円
  • 一般税率(890万円の場合):税率40%、控除額125万円
  • 贈与税額:890万円×40%-125万円=231万円

上記のように、同じ1,000万円の贈与でも54万円の税額差が生じます。多額の贈与ほど差が拡大するため、贈与方法の検討は重要です。

特例贈与財産の申告手続き

特例贈与財産の贈与税申告では、通常の申告に加えて特例要件を証明する書類が必要です。ここでは、特例贈与財産の申告に必要な書類と戸籍謄本が必要となるケースについて詳しく説明します。

申告に必要な書類

特例贈与財産の贈与税申告には、次の書類が必要です。

必要書類 補足
贈与税の申告書第一表 (兼贈与税の額の計算明細書)

贈与税申告に必要な基本書類です。

申告書は国税庁HPよりダウンロードできます。(PDF/430KB)

受贈者の戸籍謄本または抄本 受贈者が贈与者の直系卑属で18歳以上であることの証明に必要です。
財産評価に関する書類 不動産を贈与の場合は、固定資産税評価証明書や登記事項証明書などの書類が必要です。

過去に同じ贈与者から贈与を受け、戸籍謄本を提出済みの場合、再提出は不要です。課税価格が300万円以下の場合も添付書類は不要です。申告書作成の際は記入ミスがないよう注意しましょう。

参考:令和6年分贈与税の申告書等の様式一覧|国税庁

戸籍謄本が必要なケース

特例贈与財産として申告し、特例税率の適用を受けるには、原則として受贈者の戸籍謄本または抄本の提出が必要です。

父母から子への贈与では、子の戸籍謄本で親子関係と生年月日を確認できます。祖父母から孫への贈与では、孫の親(贈与者の子)の戸籍謄本も必要です。ただし、過去に同一の贈与者から贈与を受け戸籍謄本を提出済み場合は再提出不要です。

なお、書類準備には時間がかかるため、申告期限に余裕をもって準備しましょう。

生前贈与における注意点

生前贈与は相続税対策として有効ですが、将来の相続時の扱いや特定関係での贈与についての理解が重要です。ここでは、生前贈与が相続税に与える影響や特定関係での贈与の注意点について解説します。

相続税への影響(持ち戻し)を考慮する

生前贈与は、将来の相続財産を減らし相続税負担を軽減できます。しかし、相続前一定期間内での贈与は「持ち戻し」により、相続税の計算対象に加算されます。

2024年1月1日以降の贈与からは、持ち戻し期間が相続開始前7年以内に延長されました。従来の3年から大幅に延長されたため注意が必要です。

長期的な相続対策として生前贈与を行う場合、持ち戻し期間延長を考慮した上で計画的に進めましょう。高齢の方の贈与計画には注意が必要です。

参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁

関連記事:暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?

子連れ養子への贈与は一般贈与財産となる

養子への贈与も要件を満たせば特例贈与財産として扱われます。税法上、養子は実子と同様に直系卑属に含まれるため、特例税率の適用対象です。

しかし、養親が子連れで養子にした場合、養親と養子の子(養親から見れば孫)には直接の法定血族関係がないため、養親から養子の子への贈与は一般贈与財産となります。

また、養子縁組前の贈与は、贈与時点では直系尊属・直系卑属の関係ではないため、特例贈与財産には該当しません。養子への贈与を検討する際は、関係性やタイミングに注意しましょう。

関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?

配偶者控除で贈与税がかからない場合でも申告を

夫婦間での贈与には「贈与税の配偶者控除」という特例があります。婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合、最高2,000万円まで控除可能です。

本特例は基礎控除110万円とは別枠で、合計で2,110万円までの贈与が非課税になります。配偶者控除は、特例贈与財産とは別制度なので、混同しないよう注意しましょう。

また、配偶者控除の適用には、贈与税がかからなくても申告が必要です。

関連記事:【税理士監修】贈与税の配偶者控除とは?要件や必要書類、注意点等を紹介

特例贈与財産を活用した贈与

特例贈与財産の利用で、一般贈与財産より低い税率で贈与できます。さらに、非課税特例を組み合わせると税負担をさらに軽減できます。

主な非課税特例および内容・適用要件は次の通りです。

利用できる特例 特例の内容と適用要件
相続時精算課税制度

将来相続の発生時に、贈与財産と相続財産を合計して相続税を計算する制度。

累計2,500万円までは贈与税が非課税。

令和6年1月1日から、年間110万円の基礎控除も創設。

住宅取得等資金の贈与の非課税

直系尊属から子が自己居住用家屋の新築・取得・増改築等資金を贈与された場合に、最大1,000万円まで非課税。


教育資金の一括贈与の非課税 直系尊属から30歳未満の子や孫に教育資金を一括で贈与した場合、受贈者一人につき最大1,500万円(うち学校以外は500万円)まで非課税。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税 直系尊属から18歳以上50歳未満の子や孫が、結婚・子育て資金を一括贈与された場合、受贈者一人につき最大1,000万円(うち結婚資金は300万円)まで非課税。 上記の特例には適用要件や非課税限度額があり、目的や金額に応じての選択が重要です。

記の特例には適用要件や非課税限度額があり、目的や金額に応じての選択が重要です。

関連記事:相続時精算課税制度とは?小規模宅地の特例と併用はできる?

関連記事:【税理士監修】住宅取得資金の贈与には非課税枠がある。適用条件やメリットを解説

関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説

関連記事:【税理士監修】結婚・子育て資金贈与とは?概要や手続き方法、注意点を解説

まとめ

特例贈与財産は、父母や祖父母などから18歳以上の子や孫への贈与に適用される税率優遇制度です。一般贈与財産より税負担を軽減できるため財産移転に効果的です。

しかし、贈与税の計算や申告手続きは複雑で、生前贈与が将来の相続税に与える影響も考慮する必要があります。2024年からの持ち戻し期間延長は注意しましょう。

適切な贈与計画を立て、税負担を最小限に抑えるためには、専門知識が欠かせません。ご自身の状況に合った贈与方法や手続きについては、税理士への相談をおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。