事業用資産も相続税の課税対象!評価額の計算方法や節税対策、注意点を解説

事業用資産も相続税の課税対象!評価額の計算方法や節税対策、注意点を解説

被相続人が生前に事業を営んでいた場合は事業用資産も相続財産、すなわち相続税の課税対象になります。

相続税評価額は貸借対照表等の数字をそのまま使えば良いとは限りません。資産の種類ごとに定められた方法による計算が必要です。

今回は事業用資産を相続する場合の相続税評価額の計算方法や注意点などについて解説します。

事業用資産の相続税評価額の計算方法

事業用の資産

事業用資産の相続税評価額の計算方法は、資産の種類によって異なります。以下よりそれぞれの資産種別ごとの計算方法について詳しく解説します。

不動産|ほかの不動産と同様の方法で計算

不動産の相続税評価額の計算方法に、事業用か否かの違いはありません。事業用資産の中に不動産が含まれている場合は、ほかの不動産と同様の方法で相続税評価額を計算します。

関連記事:【税理士監修】相続した不動産の評価額はいくら?調べ方と評価額を軽減する方法を解説

減価償却資産|売買実例価額、精通者意見価格、残存価額のいずれか

機械装置、工具器具備品、車などの減価償却資産の評価額計算における主なルールとして以下の3つが挙げられます。

  1. 1個または1組ごとに評価額を計算する
  2. 原則として「売買実例価額」または「精通者意見価格」で評価をする
  3. 2の「売買実例価額」「精通者意見価格」の両方が不明の場合は残存価額を評価額とする

売買実例価額とは実際に市場で取引されている金額、精通者意見価格は専門家の評価や鑑定に基づく金額です。2の通り、原則として「売買実例価額」または「精通者意見価格」のいずれかを相続税の計算に用いる評価額とします。

「売買実例価額」「精通者意見価格」の両方が不明である場合、3の通り残存価額を評価額として用います。残存価額は取得価額から被相続人が亡くなる日までの減価償却費を差し引いた額です。

棚卸資産|資産の種類ごとに定められた計算方法

棚卸資産とは原材料や製造途中の仕掛品、未販売の商品・製品などを指します。

棚卸資産の評価額の計算方法は棚卸資産の種類によって以下のように異なります。

棚卸資産の種類

特徴

評価方法

商品

販売目的で仕入れた品

課税時期に販売する場合の販売価格から、適正利潤・販売者が負担するべき経費・消費税等を控除

製品・生産品

原材料を用いて製造した品

課税時期に販売する場合の販売価格から、適正利潤・販売者が負担するべき経費・消費税等を控除

原材料

製品を作るために仕入れた品

課税時期に購入する場合の仕入額に、原材料の引取りにかかる運賃その他の経費を加算

半製品・仕掛品

製造途中の品

課税時期において購入する場合の仕入額に、原材料の引取りにかかる運賃その他の経費と加工費を加算

参考:第2節 たな卸商品等 |国税庁

貸付金債権|「元本+亡くなった日までの利息」のうち受取期限未到来分

貸付金債権とは事業に関連する貸付金や売掛金などの金銭債権です。

貸付金債権は、元本に亡くなった日までの利息のうち、受取期限が到来していない分を加算した額を相続税の計算に用います。受取期限が到来済みの未収利息は、貸付金債権ではなく未収入金として扱います。

事業用資産の相続税対策3選

事業用資産の内容によっては相続税額が高額になる恐れがあるため、税負担を抑えるための対策をするのが理想です。以下では事業用資産にかかる相続税の対策方法を3つ紹介します。

[相続税対策その1]個人版事業承継税制を活用する

事業用資産にかかる相続税対策の代表的な手法として挙げられるのが、個人版事業承継税制の活用です。

個人版事業承継税制とは、個人の事業用資産の相続において一定の要件を満たす場合、当該資産にかかる相続税の納税が猶予される制度です。また、特例を活用して事業用資産を相続した人が亡くなった場合は、対象の相続税の一部または全部が免除されます。

事業用資産にかかる相続税の納付を遅らせることができるため、納税の負担を抑えながら事業承継が可能です。

参考:No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)|国税庁

関連記事:事業承継による相続の手続きと相続税の支払いについて

なお、亡くなった人が個人事業ではなく会社を経営していた場合、個別の事業用資産ではなく自社株式の相続になります。利用できる特例は、個人版事業承継税制ではなく法人版事業承継税制であり全く異なる制度のためご注意ください。

関連記事:事業承継税制を利用すれば相続税は免除できる?納税猶予について紹介!

[相続税対策その2]経費や減価償却費を漏れなく計上する

事業用資産にかかる相続税を最小限にするには、課税対象となる相続税評価額を抑える必要があります。

事業用資産のうち、減価償却資産や棚卸資産は取得価額等から経費や減価償却費を差し引いた額を相続税評価額とします。すなわち経費や減価償却費の計上額が大きいほど、相続税の計算に用いる評価額が少なくなる仕組みです。

相続税を必要以上に払うことになるのを避けるため、経費や減価償却費を漏れなく計上しましょう。

[相続税対策その3]帳簿や証憑書類を適切に管理する(生前の対策)

前述の「相続税対策その2」に関連しますが、事業の帳簿や証憑書類を適切に管理することも大切です。相続人が行うというよりは、被相続人が生前に実施するべき対策といえます。

経費や減価償却費として計上できるのは根拠となる証憑書類が保管されている取引のみです。領収書等の書類を紛失してしまうと、経費として計上できる額が少なくなり、評価額が必要以上に高額になる恐れがあります。

また、帳簿や証憑書類の管理状態がわかりにくければ、相続人は経費等を適切に把握できない可能性が高いです。経費や減価償却費として認識できる額が少なくなり、結果として評価額が高くなってしまう事態が起こりやすくなります。

そもそも、資料が適切に管理されていなければ、評価額の計算という作業の負担が重くなります。相続税の額を抑えるのはもちろん、作業の負担を軽減させるためにも、事業の帳簿や証憑書類は正しい方法でわかりやすく管理しましょう。

事業用資産を相続する際の注意点3点

事業承継税制による相続税対策

最後に、事業用資産を相続する際の注意点を3つ紹介します。

[注意点その1]個人版事業承継税制は「免税」ではなく「納税猶予」の制度

「相続税対策その1」でも軽く触れましたが、個人版事業承継税制は事業用資産にかかる相続税の納税猶予を受けられる制度です。納税が免除されるのは後継者である相続人が亡くなった場合や、一定の障害事由に該当する場合など特殊なケースに限ります。

個人版事業承継税制は税負担の軽減に効果的とはいえ、免税ではなく、あくまでも納税猶予の制度である点にご注意ください。

参考:個人の事業用資産についての贈与税・相続税の 納税猶予・免除(個人版事業承継税制)の

[注意点その2]個人版事業承継税制と小規模宅地等の特例の併用には制限がある

相続人が複数人おり、かつ相続財産に事業用資産以外の宅地等が含まれる場合に注意するべき事項です。

個人版事業承継税制の対象になる特定事業用資産には、400平方メートルまでの宅地等が含まれます。しかし、相続等によって取得した宅地等について「小規模宅地等の特例」の適用を受ける相続人がいる場合は注意が必要です。

小規模宅地等の特例を適用した宅地等が以下いずれかの場合、個人版事業承継税制の対象となる宅地等の限度面積が小さくなります。

  • 特定同族会社事業用宅地等
  • 貸付事業用宅地等

小規模宅地等の特例は宅地等の評価額を最大80%減額できる制度であり、相続税の大きな節税効果を得られます。一方、個人版事業承継税制は、税額の軽減ではなく納税猶予の制度であり、直接的な節税効果はありません。また、同じ宅地等について個人版事業承継税制と小規模宅地等の特例の併用はできません

どの特例を利用するのが最善かはケースによって異なるため一概にはいえません。特例の併用に制限がある旨を押さえた上で、自身に合う方法を選ぶ必要があります。

参考:No.4153 個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除(個人版事業承継税制)|国税庁

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します

[注意点その3]減価償却方法の引き継ぎはされない

相続によって引き継がれるのは事業用資産自体のみで、事業用資産に適用されていた減価償却費の計算方法は引き継がれません原則的な減価償却方法とは異なる方法を採用する場合、税務署に届出をする必要があります。

個人の場合、法定の償却方法は定額法です。亡くなった人が定率法で計算していたとしても、新たに届出を提出しない限りは定額法により計算する必要があります。

「亡くなった人と同じ方法で減価償却をすれば問題ない」とは限らない点に注意が必要です。

関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!

事業用資産の種類によって相続税評価額の計算方法が違う!評価方法をしっかり確認しよう

一口に事業用資産といっても、不動産、減価償却資産、棚卸資産などさまざまな資産が存在します。相続税を正しく計算するためには、資産の種類ごとの評価方法を押さえる必要があります。

事業用資産にかかる相続税の負担を最小限に抑えるためには、特例の活用や経費の計上などの対策も欠かせません。被相続人が生前のうちに帳簿や証憑書類を適切に管理することも大切です。

事業用資産にかかる相続税のルールや特例制度には、複雑でわかりにくい部分が多く存在します。適切な評価や特例活用を行うためには、専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。