共有名義人の片方が死亡した場合の相続登記はどうなる?進め方や注意点を解説

不動産の共有名義人のうち片方が死亡した場合、亡くなった人の共有持分は相続財産として扱われます。そのため、単独名義の不動産と同じように相続登記が必要です。
相続発生から相続登記までの基本的な流れも、単独名義の不動産と大きな違いはありません。ただし、共有名義ならではの注意点が存在するため、相続手続きをスムーズに進めるためのポイントを事前に確認しておきましょう。
今回は共有名義人の片方が死亡した場合の相続登記について詳しく解説します。
目次
前提|共有名義人の片方が死亡した場合の不動産の扱い
はじめに共有名義の不動産における、共有名義人の片方が死亡した場合の扱いについて解説します。
単独名義の不動産と同様に遺産分割協議や相続登記が必要
結論として、亡くなった人の共有持分は通常通り相続財産として扱われます。したがって、単独名義の不動産と同様に遺産分割協議や相続登記が必要です。
共有持分を引き継ぐ者の決め方
死亡した人の共有持分は、他の共有名義人に引き継がれるとは限りません。
亡くなった人が生前に作成した遺言書がある場合、遺言書で指定された人が共有持分を引き継ぎます。遺言書がない場合は、死亡した人の共有持分を誰が引き継ぐかを遺産分割協議によって決める必要があります。
共有持分を引き継ぐ者になり得るのは法定相続人のみです。亡くなった人の配偶者と以下のうち、最も順位の高い血族が法定相続人になります。
第1順位 |
直系卑属(子供または孫) |
---|---|
第2順位 |
直系尊属(父母または祖父母) |
第3順位 |
兄弟姉妹または甥姪 |
遺産分割協議の結果によっては共有名義人とは別の人が相続する可能性もあります。
関連記事:法定相続人ごとの相続割合は?複雑な事例の考え方や注意点も解説
共有名義人の片方が死亡した場合の相続登記までの流れ
共有名義人の片方が死亡した場合、亡くなった人の共有持分については通常通りの相続手続きが必要です。
以下では、共有名義人の片方が死亡した場合の相続登記までの流れを5つのステップに分けて解説します。
[ステップ1]遺言書の有無を確認する
相続手続きにおいて、最初に行うべき作業は遺言書の確認です。
遺言書がある場合は、遺言書の通りに財産の引継ぎを行うため、相続人の調査や遺産分割協議は必要ありません。ステップ4に進んでください。
[ステップ2]相続財産および相続人の調査を行う
遺言書がない場合は、相続財産および相続人の調査を行う必要があります。
相続財産に該当するのは被相続人が死亡時点で所有していたすべての財産です。現預金や不動産といったプラスの財産だけでなく、負債や未払金といったマイナスの財産も相続財産に該当します。
相続財産の範囲
プラスの財産・マイナスの財産それぞれの具体例を紹介します。
【プラスの財産】
- 現預金
- 有価証券
- 不動産および不動産上の権利(借地権や抵当権など)
- 自動車
- 貴金属や骨とう品
- 知的財産権
- 損害賠償請求権
- 被相続人が受取人として指定されている生命保険金
【マイナスの財産】
- 借入金やローン
- 各種未払金(税金、公共料金、医療費、クレジットカード未払金など)
- 保証債務
- 損害賠償債務
相続人調査の方法
相続人の調査は文字通り法定相続人を特定するための調査です。
相続人調査には被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。戸籍謄本から被相続人の配偶者や血族を調査し、法定相続人の特定を行います。
戸籍謄本の取得方法については以下の記事で解説しています。
関連記事:【税理士情報】相続手続きには戸籍謄本が必要。使う場面や入手方法、注意点などを解説
関連記事:原戸籍とは?相続で必要な場面や取得方法、似た書類との違いを解説
次の[ステップ3]で行う遺産分割協議は、法定相続人全員の参加および合意が必要です。法定相続人が1人でも欠けていれば遺産分割協議が無効になってしまうためご注意ください。
[ステップ3]遺産分割協議を行う
相続財産および相続人の調査が完了次第、遺産分割協議を行います。前述のように遺産分割協議は法定相続人全員の参加および合意が必要です。
遺産分割協議が完了次第、遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書の作成方法については以下の記事をご覧ください。
なお、遺産分割協議で新たな財産が見つかった場合、原則的には遺産分割協議を最初からやり直す必要はありません。新しく見つかった遺産についての分割方法のみ話し合って決めるのが一般的です。ただし手間にはなるため、相続財産の調査もこの段階で完璧に終わらせるのが理想といえます。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
[ステップ4]相続登記に必要な書類を用意する
遺産分割協議が完了して共有持分の相続人が決まり次第、相続登記の手続きを進めます。
まずは相続登記に必要な書類の用意を進めましょう。相続登記の必要書類は遺言書の有無や遺産分割の方法によって以下のように異なります。
【すべてのケースで必要な書類】
- 登記申請書
- 登録免許税分の収入印紙または領収証書を貼り付けた書類
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票
- 不動産を取得する人(新たな名義人になる人)の住民票の写し
- 固定資産評価証明書
【遺産分割協議を行なった場合】
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 相続人全員の印鑑証明書
【遺言書がある場合】
- 遺言書
- 受贈者の戸籍謄本
- 遺言執行者または受贈者の印鑑証明書
ケースによっては上記以外の書類が必要になることもあります。必要書類は数が多く複雑なため入念に確認しましょう。
参考:相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック):法務局
[ステップ5]相続登記の申請をする
必要書類の準備が完了したら相続登記の申請手続きをします。
相続登記の申請先は不動産の所在地を管轄する法務局です。申請方法は窓口申請、郵送申請、オンライン申請から好きな方法を選択できます。
相続登記の申請から法務局での手続き完了までにかかる期間の目安は1〜2週間程度です。
なお、相続登記の完了後には登記識別情報が記載された「登記識別情報通知書」が発行されます。登記識別情報は不動産に設定されるパスワードのようなものです。所有権移転登記をはじめとした不動産関連の登記に際して使用します。
登記識別情報通知書は再発行ができません。また、第三者に知られてしまうと勝手に登記手続きをされるといったリスクがあります。登記識別情報通知書の管理には十分に注意しましょう。
関連記事:【税理士監修】相続登記の必要書類は?登記の必要性や法務局での申請手順も解説
共有名義の不動産の相続手続きに関する注意点
最後に、共有名義の不動産の相続手続きに関する注意点を3つ紹介します。
[注意点その1]死亡した人の共有持分を他の共有名義人が引き継げるとは限らない
「共有持分を引き継ぐ者の決め方」で少し触れたように、死亡した人の共有持分を他の共有名義人が引き継ぐとは限りません。遺産分割協議により他の相続人が引き継ぐことになる可能性もあります。
そもそも、法定相続人でなければ相続する権利はありません。したがって、共有名義人が法定相続人でない場合、遺言書に指定がない限りは死亡した人の共有持分を引き継ぐことはできないのです。
片方が死亡した場合、共有持分を他の共有名義人に確実に引き継がせるためには遺言書で指定する必要があります。
ただし、遺言書の内容に不備がある等の理由により、遺言書が無効とされるケースがあります。遺言書が無効になる事態を防ぐためにも、遺言書の正しい書き方を必ず確認しましょう。
関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント
[注意点その2]3年以内に相続登記をしないと罰則の対象になる
以前は相続登記の義務がなく、実施しなくても法的な問題はありませんでした。
しかし2024年4月から相続登記が義務化されています。現在は相続等により不動産を取得した事実を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。相続登記の義務化より前(2024年4月より前)に相続によって取得した不動産は、2027年3月31日までに相続登記が必要です。
期限までに相続登記を行わなければ10万円以下の過料の対象になるためご注意ください。
関連記事:【2024年4月開始】相続登記が義務化!放置のリスクや罰則、よくある質問を紹介
[注意点その3]法定相続分で相続すると共有者が増える
法定相続分で遺産分割をする場合、相続対象である共有持分を法定相続人全員で共有することになります。すなわち法定相続人が複数人いる場合、不動産の共有者が増える仕組みです。
以下のケースを例に解説します。
- 故人でない方の共有名義人:子供A
- 故人と子供Aの持分割合:それぞれ2分の1
- 法定相続人:配偶者、子供A、子供B
この場合、各法定相続人の持分割合は以下の通りです。
法定相続人 |
持分割合 |
内訳 |
---|---|---|
配偶者 |
4分の1 |
故人の共有持分2分の1×配偶者の法定相続分2分の1 |
子供A |
8分の5 |
もとの共有持分2分の1+故人の共有持分2分の1×子供Aの法定相続分4分の1 |
子供B |
8分の1 |
故人の共有持分2分の1×子供Aの法定相続分4分の1 |
以上のように共有名義人が増える上、持分割合も複雑になってしまいます。また、共有名義人のうち1人が死亡すると、後の遺産分割がさらに複雑になる恐れもあります。不動産売却が煩雑になる点や、管理方法をめぐるトラブルが起こりやすい点などもデメリットです。
このようにさまざまなリスクがあるため、共有名義の不動産がある場合に法定相続分で遺産分割するのはおすすめできません。
共有名義人の片方が死亡した場合も通常通り相続登記が必要!手続きの流れや注意点を確認しよう
共有名義人の片方が死亡した場合、亡くなった人の共有持分は単独名義の不動産と同様に相続対象となります。したがって、共有持分を相続によって取得した人による相続登記が必要です。
法定相続分で相続する場合、相続対象となる共有持分を法定相続人の全員で共有することになります。共有名義人が増えて手続きや管理の手間が増えトラブルのリスクも高まるため、法定相続分での遺産分割はおすすめできません。
相続登記の基本的な流れは単独名義の不動産と同じです。相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければ罰則の対象になるため、早めに手続きをしましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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