贈与税の税務調査はどれくらいの確率で行われる?対象ケース・ペナルティ・対策まで解説

贈与税の税務調査の対象となる人は限られますが、調査を受ければ厳しく確認される傾向があります。どんな場合に調査が入りやすいのか、そして受けた際に何が起きるのかを知っておくことは重要です。本記事では、調査の確率や対象ケース、確認されるポイント、無申告時のペナルティ、備えるための具体的な対策を解説します。贈与税の調査リスクや対策に不安を感じる方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
贈与税の税務調査はどれくらいの確率で行われる?
贈与税の税務調査は、すべての申告が対象となるわけではなく、限られた件数に絞って行われています。
実際にどの程度の割合で行われているのか、令和元年度から令和5年度までの申告件数と実地調査件数を整理し、その傾向を見ていきましょう。
事務年度 |
贈与税の申告件数 |
贈与税の実地調査件数 |
贈与税の申告件数に占める実地調査件数の割合 |
申告漏れ等の非違件数 |
贈与税の申告件数に占める非違件数の割合 |
実地調査件数に占める非違件数の割合 |
令和5年度 |
約51万件 |
2,847件 |
約0.6% |
2,630件 |
約0.5% |
約92.4% |
令和4年度 |
約49万7,000件 |
2,907件 |
約0.6% |
2,732件 |
約0.5% |
約94.0% |
令和3年度 |
約17万2,000件 |
2,383件 |
約1.4% |
2,225件 |
約1.3% |
約93.4% |
令和2年度 |
約48万5,000件 |
1,867件 |
約0.4% |
1,769件 |
約0.4% |
約94.7% |
令和元年度 |
約48万8,000件 |
3,383件 |
約0.7% |
3,132件 |
約0.6% |
約92.6% |
参考:令和5年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
参考:令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
参考:令和3年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
参考:令和2年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
参考:令和元年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について|国税庁
実地調査の確率
贈与税の税務調査は、申告件数全体の中でごく一部にしか行われていないと言えます。
統計を見ると、令和5事務年度は約51万件の申告に対し2,847件(約0.6%)、令和4年度は約49万7,000件に対し2,907件(約0.6%)の実地調査が行われており、いずれも申告件数に対する実地調査の割合は1%未満にとどまっています。
申告漏れ・無申告の割合
調査が行われた場合、多くのケースで申告漏れや無申告が確認されています。
令和5事務年度では、実地調査件数2,847件のうち2,630件(約92.4%)で、申告漏れや無申告といった「非違(税務上の誤りや不備)」が確認されました。令和4年度は約94.0%、令和3年度は約93.4%と、毎年9割前後に達しています。
つまり、贈与税の税務調査は、対象になる確率は低いが、対象になると高確率で修正が必要になると言えるでしょう。
相続税調査との比較
贈与税と相続税を比較すると、調査率に差があるのが分かります。
統計からは、贈与税の調査率が1%前後にとどまる一方で、相続税は例年9%台と約10倍近い割合で調査が行われていることが分かります。
事務年度 |
税目 |
申告件数 |
実地調査件数 |
申告件数に占める実地調査の割合 |
令和5年度 |
贈与税 |
約51万件 |
2,847件 |
約0.6% |
相続税 |
約15万8,000件 |
14,645件 |
約9.3% |
|
令和4年度 |
贈与税 |
約49万7,000件 |
2,907件 |
約0.6% |
相続税 |
約14万9,000件 |
13,993件 |
約9.4% |
|
令和3年度 |
贈与税 |
約17万2,000件 |
2,383件 |
約1.4% |
相続税 |
約14万7,000件 |
13,888件 |
約9.5% |
実務上は、相続税の調査をきっかけに過去の贈与が確認されるケースが多いと指摘されています。贈与税そのものの調査確率は低くても、相続税調査との関連で発覚する可能性がある点に注意しましょう。
贈与税の税務調査で対象になりやすいケース
贈与税の税務調査は、申告件数全体の一部にしか行われませんが、対象となる場合には特定のきっかけや根拠がある場合が多いです。調査対象となりやすい代表的なケースを紹介します。
相続税の調査過程で発覚した場合
最も多いのは、相続税の調査に付随して過去の贈与が判明するケースでしょう。相続税の調査では、故人の預貯金や不動産の状況を詳しく調べるため、相続開始前に行われた贈与が確認されやすくなります。
現金の引き出しや口座間の資金移動の記録を通じて、申告されていない贈与が発覚するケースがあるので注意しましょう。
不動産登記から明らかになった場合
不動産に関しては、名義変更や所有権移転が登記情報として残るため、税務署に把握されやすいです。
贈与によって不動産を取得したにもかかわらず贈与税の申告をしていない場合、登記内容と申告状況の不一致から調査に繋がるので注意しましょう。
法定調書で把握された場合
法定調書は、源泉徴収票や支払調書など、税務署へ提出義務が義務付けられている書類の総称です。金融機関や保険会社などから提出される支払調書は、税務署にとって重要な情報源です。
例えば、生命保険の満期金や一時金を受け取った際には支払調書調書が提出されるため、その入金が贈与に該当すると判断されれば、税務調査の対象となる可能性があります。
第三者からの通報や密告によって発覚した場合
税務署は「課税・徴収漏れに関する情報提供窓口」を設けており、第三者からの通報に基づいて無申告が発覚する場合があります。
親族間のトラブルや利害関係者からの通報をきっかけに調査が始まる場合もあり、電話・メール・書面など複数の手段で情報が寄せられます。
現金手渡しでの生前贈与が行われた場合
現金を直接手渡しで贈与すると、通帳や振込記録といった証拠が残らないため、税務署から疑念を持たれやすくなります。
特に多額の現金贈与を記録なしで行った場合、資金の出所を確認され、調査対象となるリスクが高くなります。
関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説
関連記事:【税理士監修】現金を生前贈与するとなぜばれる?贈与税を軽減する方法
贈与税の税務調査で確認される主なポイント
贈与税の税務調査では、単に「贈与があったかどうか」だけでなく、その実態や証拠まで幅広く確認されます。代表的な確認ポイントを抑えておきましょう。
贈与の事実と受贈者の認識
まず確認されるのは、贈与が本当に行われたのか、そして受贈者本人がその事実を認識しているかです。単なる形式的な書類だけでは不十分であり、実態が伴っているかが重視されます。
具体的には、贈与契約書の有無や申告の内容、本人への聞き取りなどを通じて、形式だけの「名ばかり贈与」でないかどうかが確認されます。
財産取得に関する客観的証拠
次に調べられるのは、財産の取得や管理に関する客観的な証拠です。実際に誰が手続きを行い、誰が財産を管理しているのかを明らかにし、贈与の実態を把握します。
調査の際は、通帳や権利証の保管状況、契約書類の署名者、資金の出所や郵便物の宛先など、外形的な証拠が重視されます。
「お尋ね」による資金の出所確認
さらに、資産取得や資金移動の有無を確認するため、税務署から「お尋ね」と呼ばれる文書が送付される場合があります。これは国税通則法に基づく質問検査権による任意の照会で、贈与の有無や資金源を明らかにするために行われます。
この段階で十分な回答が得られない場合や、放置してしまった場合には、疑念が深まり本格的な調査に進む可能性が高くなります。
贈与税の無申告に対するペナルティ
贈与税を申告しなかった場合には、行政上のペナルティや刑事罰の対象となる可能性があります。
無申告加算税
申告期限までに申告しなかった場合には、無申告加算税が課されます。これは、追加で納める贈与税額の大きさと申告のタイミングによって税率が決まる仕組みです。
贈与税額 |
自主的に申告した場合 |
調査通知後〜調査前に申告した場合 |
調査後に申告した場合 |
50万円以下の部分 |
5% |
10% |
15% (再犯時25%) |
50万円超〜300万円以下の部分 |
5% |
15% |
20% (再犯時30%) |
300万円超の部分 |
5% |
25% |
30% (再犯時40%) |
関連記事:タンス預金の無申告は税務署にばれる!最適な相続・贈与税対策は?
過少申告加算税
期限内に申告していても税額が少なかった場合は、追加で納めるべき贈与税額に対して「過少申告加算税」が課されます。
追加で納めることになった贈与税額に対して、修正のタイミングに応じた割合が上乗せされます。
区分 |
自主的に修正申告した場合(調査前) |
税務調査の事前通知後〜調査前に修正申告した場合 |
税務調査で指摘を受けてから修正申告した場合 |
期限内申告額と50万円の いずれか多い方「以下」の部分 |
なし(免除) |
5% |
10% |
期限内申告額と50万円のいずれか多い方を「超える」部分 |
なし(免除) |
10% |
15% |
「50万円以下の部分」とは、追加で納める税額のうち、期限内に申告した金額と50万円のいずれか多い金額までにかかる部分を指します。これを超える金額は「50万円を超える部分」とされ、より高い税率が適用されます。
つまり、追加で納める税額が少なければ低い税率で済みますが、多くなるほど税率も上がります。さらに、修正のタイミングが遅れると税率は一段と高くなり、調査後に発覚すれば最大15%が上乗せされるため注意しましょう。
重加算税
重加算税は、仮装や隠蔽といった故意の不正行為があった場合に課される、もっとも重い行政上のペナルティです。
区分 |
通常の場合 |
過去5年以内に加算税を受けた場合(再犯時) |
過少申告の場合 |
35% |
45% |
無申告の場合 |
40% |
50% |
重加算税では、期限内に少なく申告していた場合(過少申告)と、まったく申告していなかった場合(無申告)で税率が分かれています。
関連記事:相続税の税務調査の時期はいつ?調査期間・範囲や調査が来るのが多いタイミングを解説!
延滞税
申告はしたものの納付が遅れた場合には、延滞税が課されます。納付の遅れた日数に応じて税率が変わる仕組みになっており、遅れが長引くほど負担は重くなります。
【令和7年度の場合】
納付の遅れ |
適用税率 |
納期限から2ヵ月以内 |
年2.4% |
納期限から2ヵ月を超える場合 |
年8.7% |
遅れれば遅れるほど負担が重くなるため、早めに納付しましょう。
参考:延滞税の割合|国税庁
刑事罰
悪質なケースでは、行政上のペナルティだけでなく刑事罰の対象となります。
相続税法第68条の規定は贈与税にも準用されており、過失であっても1年以下の懲役または50万円以下の罰金、故意による隠蔽行為であれば5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科される可能性があります。
贈与税の税務調査に備えるための対策
贈与税の調査は、形式や証拠が不十分な場合や申告が適切でない場合にリスクが高まります。日頃から基本的な準備をしておけば、不要な疑いを避けられるでしょう。
贈与の事実を証明できる書類を整えておく
贈与は、当事者間の合意と財産の移転があってはじめて成立するため、贈与契約書や受領書、通帳の出入金記録など、贈与の実態を示す証拠を必ず残しておきましょう。
書類が整っていれば、調査の際に余計な疑いを持たれるリスクを減らせます。
基礎控除を超えた贈与は必ず申告する
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、これを超えた場合は必ず申告が必要です。
「少額だから申告しなくてもよい」と考えるのは誤りで、無申告とみなされれば調査対象となる可能性が高まるため、控除の仕組みを正しく理解し、適切に申告しましょう。
将来の相続を見据えて整合性を意識する
将来の相続を見据えて、贈与と相続の申告内容に整合性を持たせるのが重要です。相続開始前7年以内に行った贈与は相続財産に加算されるため、贈与と相続で数字や内容に矛盾があると調査で指摘されやすくなります。
過去の贈与をきちんと整理しておけば、相続時にもスムーズに対応でき、余計なトラブルを避けられるでしょう。
参考:No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)|国税庁
贈与税の税務調査に不安がある方は専門家に相談を
贈与税の税務調査は確率自体は高くないものの、一度調査が入れば高い割合で申告漏れが指摘され、多額の追徴課税に繋がるリスクがあります。
無申告や証拠不足のまま放置すると、相続税調査とあわせて問題が大きくなる可能性もあります。
こうしたリスクを避けるには、専門家のサポートを受けるのが確実でしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。