相続した株式譲渡で使える取得費加算の特例をわかりやすく解説!

取得費加算の特例とは、被相続人が亡くなってから3年10ヵ月以内に相続した株式などを売ったとき、譲渡所得税などの負担を軽減してもらえる制度です。株式などを取得した方が相続税の対象であるなどの要件を満たす場合、書類を用意したうえで確定申告すると適用できます。節税につながるメリットがあるため、株式などを相続した方は押さえておきたい特例です。今回は本特例の概要や注意点、手続きの方法などをわかりやすく解説します。
目次
取得費加算の特例とは
取得費加算の特例とは、相続や遺贈によって取得した土地や株式などの財産を、一定期間内に譲渡したとき、一定金額を取得費に加算できる制度です。遺贈とは、遺言書により、亡くなった方の遺産の全部または一部を、法定相続人以外の方に相続させる方法です。
財産を売ることで得た収入金額より、購入にかかる費用(取得費)や、売るために必要な費用(譲渡費用)を差し引くと譲渡所得が算出され、譲渡所得税の対象となります。
本特例の適用によって、以下の通り取得費を収入金額から差し引けるため、課税所得が減り、譲渡所得税の納税を軽減できるケースがあります。
収入金額-(取得費+譲渡費用)
具体的には、購入時の取得費が不明なものの、財産価値の上がっている財産を売るとき、本特例を適用すると税負担の軽減につながる可能性があります。本特例を適用するための要件は以下の3つです。
- 相続や遺贈によって財産を取得した方である
- 財産を取得した方が相続税の対象である
- 被相続人が亡くなった日の翌日から、申告期限の翌日以後3年経過までに譲渡している
株式や土地の相続時のみでなく、売るときにも納税を求められるため、手元に残る資産が大きく減少する可能性が高いと言えます。相続税との二重課税を防ぎ、納税者の負担軽減を目的に本特例が設けられています。
関連記事:【税理士監修】早見表付き:相続税の計算方法や大まかな税額を把握しておこう
相続した株式を譲渡するときの税金の計算方法
相続した株式を売るときには譲渡所得税などがかかり、具体的には以下の計算式で算出できます。
(収入金額-取得費-売却費用)✕20.315%
相続した上場株式を売却して利益が出た場合、取得費は被相続人のものを受け継ぐと決められています。そして、取得費加算の特例を適用した場合には、取得費に相続税額を加算できる仕組みです。
今回は例として、以下のケースで比較検討します。
- 相続財産の総額:1億円
- 譲渡した株式の相続税評価額:4,000万円
- 相続時に支払った相続税:400万円
- 株式の譲渡所得:800万円
- 取得費加算額:400万円✕4,000万円/1億円=160万円
本特例を適用する場合は、譲渡所得800万円から株式にかかった相続税額160万円を控除し、最終的な税額は「(800万円-160万円)✕20.315%=130万160円」と計算可能です。
一方、本特例を適用しない場合、800万円✕20.315%=162万5,200円となります。今回の例の場合、約30万円分の納税の負担を軽減できると分かりました。
相続で取得した株式と同じ銘柄の株式をもともと所有している状態で、一部の株式を譲渡した場合も、本特例を適用できます。
本特例の適用によって節税効果が期待できるため、まずは要件や手続きの方法をチェックするとよいでしょう。
関連記事:遺産の換価分割による譲渡所得税はいくらになる?計算方法を解説
取得費加算の特例を適用するときの注意点
本特例は節税につながるメリットがある反面、注意点として知っておくべき内容もあります。トラブルを未然に防ぐためにも、以下の通り注意点についてもしっかりと把握しておきたいところです。
注意点 |
内容 |
期限までに遺産分割協議を終える |
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被相続人が亡くなった日の翌日から3年10ヵ月以内に売却する |
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取得費が不明な場合は、計算上取得費が少なくなり、税負担が増大する可能性がある |
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代償分割を適用すると、節税効果が減る可能性がある |
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事業所得や雑所得での申告には適用できない |
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夫婦間では適用できないケースがある |
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概算取得費のルール適用などで、本来よりも多くの税金を支払う必要が生じるケースもあります。
余分に税金を支払うリスクに対策するには、早めに税理士へ相談するとよいでしょう。
関連記事:相続割合の決め方は?よくあるパターン3つと注意点を解説
取得費加算の特例の手続き
本特例を適用するには、財産を譲渡した年の翌年2月16日から3月15日までに、住所を管轄する税務署で確定申告が必要です。本特例を適用した結果、納税額が0円であっても確定申告する必要があります。確定申告で必要な書類は以下の通りです。
- 相続税の申告書のコピー
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書:特定口座年間取引報告書や、株式譲渡契約書などをもとに作成
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
平成30年までは相続税申告書の添付も求められてきましたが、現在では不要です。相続税の申告・納税の期限の前に、所得税の確定申告の申告・納税期限が来る場合、一旦特例を適用しない計算で納税する必要があります。
相続税の申告・納税の手続きを終えたあとに「更正の請求」によって、正しい税額に修正されると還付金が振り込まれます。
万が一、申告を忘れると本特例を適用できないため、早めに準備しておくのがポイントです。確定申告について不明な点は、専門家である税理士へ相談するとよいでしょう。
関連記事:相続税の納税猶予制度とは?要件や注意点についてわかりやすく解説
よくある質問
取得費加算の特例に関して、よくある質問と回答をまとめました。以下で詳しく解説します。
令和5年の取得費加算の特例チェックシートはどこで見られますか?
国税庁の公式サイトでチェックできます。チェックシートは確定申告のときに提出が必要で、すべての項目が「はい」になっているのが特例適用のための条件です。
複数の株式を相続・売却するとき、銘柄ごとに取得費加算の計算が必要ですか?
はい。銘柄ごとで、取得費に加算できます。売却益がマイナスの場合は取得費に加算できません。
相続財産の譲渡で使える取得費の特例とは?
被相続人が亡くなってから3年10ヵ月以内に相続財産を売ると、一部の相続税額を取得費に加算できる制度です。相続で取得した財産を早期に売却するときの納税負担の軽減を目的に、本特例が設けられています。
相続税の節税対策・相談は税理士へ
取得費加算の特例の内容や注意点、手続きの方法、併用できる税制などを解説しました。相続した株式を譲渡するときは譲渡所得税などがかかるものの、本特例の適用によって納税額を下げられる可能性があります。
一方で、本特例の適用のためには、必要書類を添付したうえで確定申告が必要です。申告を正確に行い、手間を減らすためには、専門家である税理士への依頼がおすすめです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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