遺産相続に時効はあるの?未分割のままだと相続税はどうなるの?

遺産相続に時効はあるの?未分割のままだと相続税はどうなるの?

遺産相続において、遺産が未分割のまま相続税の申告期限を迎えると、相続税の申告や納税に大きな影響を及ぼします。

相続税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内に申告し、納税する義務があります。この期限までに遺産分割が完了していないと、特例が適用できないなどのデメリットが生じ、計算が複雑になるだけでなく、追加で税金を支払う可能性もあります。

本記事では、遺産が未分割の場合の相続税への影響、遺産分割や相続税申告の期限、利用できる特例、そして申告後の対応策について詳しく解説します。

遺産分割の期限と相続税申告

相続税申告書

遺産相続では、故人の遺産を相続人でどのように分けるかという遺産分割と、相続税の申告・納税という2つの重要な手続きがあります。これらにはそれぞれ異なる期限が設けられており、特に相続税に関しては厳格に期限が定められています。

遺産分割協議に期限はない

民法上、遺産分割協議自体には明確な期限が設けられていません。このため、相続人全員の合意があれば、何年経っても遺産分割協議を行うことは可能です。しかし、遺産が未分割のまま長期間放置されると、様々なデメリットが生じる可能性があります。

例えば、時間が経過するにつれて相続人の間で意見の相違が大きくなり、協議が難航するケースが考えられます。また、新たな相続が発生し、さらに相続人の数が増えることで、関係者が複雑になり、合意形成がより困難になることもあります。

遺産の中に不動産が含まれる場合、遺産分割が完了していないと名義変更ができず、不動産の売却や活用が制限されます。さらに、2024年4月1日からは相続登記が義務化されたため、遺産分割が完了していない不動産についても、相続開始を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があり、怠ると過料の対象となる可能性があります。

預貯金についても、放置しておくとトラブルにつながる可能性があるため、早期の遺産分割と手続きが望ましいとされています。

関連記事:【2024年4月開始】相続登記が義務化!放置のリスクや罰則、よくある質問を紹介

相続税の申告期限

相続税の申告と納税の期限は、原則として 被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内 です。例えば1月6日に被相続人が亡くなった場合、申告と納税は同年の11月6日までに行う必要があります。

申告は所轄の税務署に行い、納税も同様に税務署または金融機関で行います。期限が土日祝日にあたる場合は、翌開庁日が期限となります。

この10ヵ月の間に、遺産分割協議、財産評価、相続税の計算、申告書の作成・提出といった手続きをすべて行う必要があるため、決して長い期間ではありません。

なお、申告期限までに遺産分割が完了していなくても、相続税の申告義務は発生するので注意が必要です。

関連記事:【税理士監修】遺産相続に期限はあるの?期限切れのリスクと手続きのポイントを解説

申告期限を過ぎた場合の影響

相続税の申告期限を過ぎると、追加で税金が課される可能性があります。

まず、無申告加算税が課税されます。これは、期限内に申告をしなかった場合に課される税金で、税務調査で無申告が発覚した場合は、原則として納税すべき税額の15%から20%が加算されます。自主的に期限後申告を行った場合は、税率が5%に軽減されることがあります。

次に延滞税が発生します。これは納税が遅れた日数に応じて課される利息のようなもので、納付期限の翌日から納付する日までの日数に応じた税率で計算されます。

これらの追加税金は、相続人の負担を大きく増やすことになります。国税庁の定めた期日を守ることが重要です。申告期限に間に合わない可能性がある場合は、早めに税理士に相談し、適切な対処法を検討しましょう。

関連記事:【税理士監修】遺産相続の手続きは何から始めるべきか?手順や期限、最適な相談先をわかりやすく解説

未分割申告と特例の取り扱い

相続税の申告期限までに遺産分割が完了していなくても、相続税の申告は必要です。このような申告を 「未分割申告」 と呼びます。未分割申告では、各相続人が法定相続分に従って財産を取得したと仮定し、相続税を計算して申告します。

未分割申告の注意点

遺産分割が完了していないからといって申告期限が延長されることはなく、申告を怠るとペナルティが課せられる可能性があります。

また、未分割申告の場合には「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」など、相続税額を大きく軽減する特例を申告時に適用することはできません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、3年以内に遺産分割がまとまった際に、後からこれらの特例を適用することが可能です。

関連記事:相続税の未分割申告とは?手続きの流れと4つの注意点を解説

配偶者の税額軽減

配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が取得した遺産について、1億6,000万円または配偶者の法定相続分のいずれか多い金額まで相続税が非課税となる制度です。この特例を適用するためには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割が完了し、配偶者が実際に取得した財産が確定している必要があります。

遺産が未分割のまま申告を行うと、申告時には配偶者の税額軽減を適用できません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、申告期限から3年以内に遺産分割がまとまれば、特例の適用を受けることが可能です。

この場合、分割が成立した日の翌日から4ヵ月以内に「更正の請求」という手続きを行うことで、払いすぎた相続税の還付を受けることができます。

関連記事:配偶者控除を適用した後の相続税はいくらになる?ケース別に紹介!

小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用や事業用に使われていた宅地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。この特例を適用するためには、原則として相続税の申告期限までに遺産分割が完了し、特例対象の宅地を取得する相続人が確定している必要があります。

未分割のまま申告を行うと、特例は適用できません。ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、申告期限から3年以内に遺産分割がまとまれば、特例の適用を受けられます。この場合、分割が確定した日の翌日から4ヵ月以内に「更正の請求」を行うことで、払いすぎた相続税の還付を受けることができます。

関連記事:【小規模宅地等の特例の計算方法】減額割合・計算例・注意点などポイントを解説

一括納税が難しい場合(延納と物納)

準確定申告のイメージ

相続税は原則として現金で一括納付することになっています。しかし、高額で一度に支払うことが難しい場合に備え、「延納」と「物納」という納税制度が設けられています。

これらの制度は、納税者の負担を軽減することを目的としていますが、適用には厳しい条件があり、必要書類の提出も求められます。ここでは、「延納」と「物納」の条件について解説します。

延納の活用

延納は、相続税を分割して支払える制度です。利用には次の条件を満たす必要があります。

  • 相続税額が10万円を超えること
  • 金銭で一括納付することが困難と認められること
  • 延納申請書と担保に関する書類を納税期限までに提出すること
  • 原則として、延納税額および利子税額に相当する担保を提供すること

延納制度は高額な相続税の負担を軽減できますが、担保の提供や客観的な一括納付困難の証明が必要です。

参考:No.4211 相続税の延納|国税庁

物納の活用

物納は、延納でも金銭での納付が困難な場合に、相続財産そのもので納税する制度です。物納を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 延納によっても金銭で納税することが困難であること
  • 物納に充てられる財産が定められた優先順位に従っていること
  • 物納申請が原則として相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に行われること

物納に充てられる財産には厳格な優先順位が定められており、不動産、船舶、国債証券などの順に検討されます。優先順位の高い財産から提供する必要があり、不動産や社債がある場合に動産による物納は認められません。

また、遺産分割が完了していない場合は物納を利用できない点に注意が必要です。

参考:No.4214 相続税の物納|国税庁

相続税申告後に遺産分割した場合の手続き

相続税の申告を終えた後でも、遺産分割が遅れていたり、申告内容に誤りがあったりする場合には、追加の手続きが必要となることがあります。

特に、未分割のまま申告を行った後に遺産分割が成立した際や税額に過誤があった場合には、税務署に対して適切な手続きを行うことで、払いすぎた税金の還付を受けたり、不足分の税金を納めたりすることができます。

ここでは、申告後の主な手続きである「更正の請求」と「遺産分割協議のやり直し」について解説します。

更正の請求

更正の請求とは、相続税の申告・納税後に、計算間違いや新たな遺産の発見などによって、当初申告した税額が過大であった場合に、税務署に対して納めすぎた税金の還付を請求する手続きです。

遺産が未分割のまま法定相続分で申告・納税した後、遺産分割協議が成立し、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が適用できるようになった場合に、この手続きを行います。

更正の請求の期限は、原則として法定申告期限から5年以内ですが、遺産分割が確定した場合など、特定の事由が発生したことを知った日の翌日から4ヵ月以内という特則が適用されるケースもあります。

遺産分割協議のやり直し

一度成立した遺産分割協議は、原則としてやり直すことはできません。しかし、相続人全員の合意がある場合や遺産分割協議に詐欺や強迫といった法的瑕疵があった場合、または重要な遺産が後から発見された場合など、特定の状況においては、遺産分割協議をやり直すことが可能です。

ただし、遺産分割協議をやり直すと、相続人間の関係に影響を及ぼし、新たなトラブルを招く恐れがあります。特に、再分割によって各相続人の取得財産額が変動した場合、相続税額も変動するため、修正申告や更正の請求が必要になることがあります。

遺産分割協議のやり直しを検討する際には、法的な専門家である弁護士や税理士に相談し、慎重に進めることをおすすめします。

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

その他の時効と期限

砂時計

遺産相続には、相続税の申告納税期限以外にも、様々な権利や手続きに関する時効や期限が定められています。これらの期限を見過ごしてしまうと、本来得られるはずの権利を失ったり、予期せぬ不利益を被ったりする可能性があります。

特に「相続回復請求権」や「特別受益寄与分」、そして最近義務化された相続登記については、その期限や時効について正確に理解しておくことが重要です。ここでは、相続に関するその他の時効と期限について解説します。

相続回復請求権

相続回復請求権とは、相続権を侵害された真の相続人(真正相続人)が、相続権のない者(表見相続人)に対して、相続財産の返還を請求できる権利です。

例えば、有効な遺言書が見つかったことで、それまで相続人ではないとされていた人が真の相続人であることが判明した場合などに、この権利を行使することが考えられます。

相続回復請求権の消滅時効は、相続人またはその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間、または相続開始の時から20年間と定められています。

これらの期間を過ぎると、原則として相続回復請求権は時効によって消滅し、財産を取り戻すことができなくなります。時効が成立する前に、内容証明郵便の送付などによって請求権を行使する意思表示をすることが重要です。

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

特別受益・寄与分

相続では、相続人の間で公平に財産を分けることが大切です。しかし、特定の相続人が生前に多くの贈与を受けていたり、逆に財産の維持や増加に特別な貢献をしていたりする場合、そのまま法定相続分で分けると不公平が生じることがあります。これを調整する仕組みが「特別受益」と「寄与分」です。

特別受益とは、相続人の一部が被相続人から生前贈与や遺贈を受けていた場合に、その分を相続額から差し引いて計算する考え方です。

一方、寄与分とは、特定の相続人が被相続人の療養看護や事業の手伝いなどを通じて財産の維持や増加に大きく貢献した場合に、その分を上乗せして相続額を調整するものです。

これらは相続人同士の公平を保つための仕組みですが、2023年4月1日の民法改正により、主張できる期間が制限されました。相続開始から10年が経過すると、特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分に従って遺産分割が行われることになります。

ただし、10年以内に遺産分割の調停や審判を申し立てていた場合ややむを得ない事情がある場合には、例外的に認められることもあります。遺産分割が長引いている場合は、この期限を意識して進めることが重要です。

関連記事:生前贈与と特別受益ってどう違う?制概要や相続遺産の算出方法を解説

相続登記の義務化

これまで任意であった不動産の相続登記が、2024年4月1日から義務化されました。これにより、相続等によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければなりません。

この義務化は、所有者不明土地問題の解消を目的としています。正当な理由なくこの期限を過ぎた場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

また、この義務化は、施行日(2024年4月1日)より前に相続が発生した場合の不動産についても適用されます。その場合、施行日から3年以内に相続登記を行う必要があります。

相続登記が完了していないと、不動産の売却や担保設定ができないだけでなく、さらに相続が発生すると権利関係が複雑になり、手続きがより困難になる可能性があります。

関連記事:土地の遺産相続の期限は?2024年の義務化で何が変わる?

まとめ

遺産相続において、遺産が未分割のまま相続税の申告期限を迎えることは、相続税の申告や納税に重大な影響を与えます。相続税の申告・納税期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内であり、この期限までに遺産分割が完了しない場合でも、法定相続分で計算し申告する必要があります。

未分割申告では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が適用できないデメリットが生じますが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、後から特例を適用し、払いすぎた税金の還付を受けることが可能です。

また、相続には相続税以外にも、相続回復請求権や特別受益・寄与分、そして義務化された相続登記など、様々な時効や期限があります。これらの期限を見過ごすと、不利益を被る可能性があるため、注意が必要です。

複雑な相続税の計算や手続き、法改正への対応などで不安や疑問がある場合は、専門家である税理士に早めに相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。