生前贈与で実家を名義変更する方法と税金について

生前贈与で実家を名義変更する方法と税金について

実家を将来、子どもや孫に引き継ぐことを考えている場合、生前贈与による名義変更は有効な選択肢の一つです。この方法により、相続時のトラブルを避け、計画的な資産移転が可能となります。ここでは、生前贈与で実家を名義変更する際の具体的な方法、かかる税金、メリット・デメリット、そして注意点について詳しく解説します。

生前贈与で名義変更をする意義

生前贈与とは、財産を所有している人が生きている間に、その財産を無償で他者に譲ることです。そして生前贈与による名義変更は、財産を所有している方が生存中に、自身の意思で特定の相手に不動産(自宅や土地など)を譲り渡す手続きです。

実家の場合、親が子どもや孫に自宅である不動産(土地と建物)を贈与し、名義を親から子へ変更することが含まれます。この手続きを行う主な意義は、相続時のトラブルを未然に防ぐこと、そして計画的に次世代へ資産を移転することにあります。

贈与税が発生する可能性があるため、事前にかかる税金の種類や金額を把握することが重要です。

関連記事:【税理士監修】不動産を相続したら名義は変更するべき?手続きやトラブルなどを解説

生前贈与で実家を名義変更する手続き

名義変更

まず、贈与する不動産の評価額を算出し、かかる税金の種類と金額を把握することです。次に、名義変更に必要な様々な書類を準備して贈与契約書を作成します。その後、法務局で所有権移転登記を申請し、最後に贈与税の申告と納税を行います。以下では、各ステップについて説明します。

実家の不動産評価額を計算する

生前贈与で実家を名義変更する際には、不動産の評価額を知ることが第一歩となります。評価額は、贈与税や登録免許税などの税金を計算する基礎となるからです。不動産の評価額は、一般的に土地と建物を分けて計算します。

建物の評価額の計算方法

建物の評価額は以下の計算方法で求めます。

建物の評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0

固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書や市町村役場で取得できる固定資産評価証明書で確認できます。

土地の評価額の計算方法

土地の評価額は、地域によって以下のいずれかの方法で計算します。

路線価方式(市街地):土地の評価額 = 1平方メートルあたりの路線価 × 敷地面積

倍率方式(市街地以外):土地の評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率

例えば、路線価が20万円/㎡の地域にある200㎡の土地の評価額は、20万円/㎡ × 200㎡ = 4,000万円となります。 建物が固定資産税評価額1,000万円の場合、不動産全体の評価額は4,000万円 + 1,000万円 = 5,000万円です。

贈与税の計算方法

贈与税は、1年間(1月1日~12月31日)に贈与された財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた金額に課税されます。税率は、贈与を受けた人の年齢と贈与者との関係によって異なり、一般税率と特例税率があります。

特例税率は、18歳以上の子や孫が直系尊属(父母や祖父母)から贈与を受けた場合に適用され、一般税率よりも税率が低く設定されています。

贈与税の計算式は以下のとおりです。

(1年間に贈与を受けた財産の合計額 – 基礎控除額110万円) × 税率 – 控除額

例えば、18歳以上の子が親から年間500万円の贈与を受けた場合、基礎控除額110万円を差し引いた390万円が課税対象となり、この課税対象額に税率15%をかけ控除額10万円をひいた48万5千円が贈与税額となります。

名義変更に必要な書類の準備

生前贈与で実家の名義変更を行うには、様々な書類が必要です。これらの書類は、法務局での所有権移転登記申請のために準備します。主な必要書類は以下の通りです。

  • 登記識別情報通知(または登記済証):不動産の権利を証明する書類です。
  • 贈与者の印鑑証明書:発行から3ヵ月以内のものが必要です。
  • 受贈者の住民票
  • 固定資産評価証明書:不動産の評価額を証明する書類です。
  • 贈与契約書

これらの書類に加えて、事案によってはその他の書類が必要となる場合もありますので、事前に法務局や専門家(司法書士など)に確認することをお勧めします。

贈与契約書をの作成する

贈与契約書は、口頭でも成立する贈与契約の内容を明確にし、後々のトラブルを防ぐために重要な書類です。

特に不動産の贈与では、所有権移転登記の手続きの際「登記原因証明情報」として用いることができるため、契約書を作成しておくことが望まれます。

贈与契約書には、契約締結日、贈与者・受贈者の情報、贈与する財産の内容などを具体的に記載します。不動産の贈与契約の書で契約金額を記載しない場合、収入印紙200円が必要です。
※未成年者が受贈者の場合は、親権者の署名・押印も必要です。

所有権移転登記の申請

贈与契約書の作成と必要書類の準備が完了したら、不動産の所在地を管轄する法務局に対し、所有権移転登記を申請します。これは実家の名義を贈与者から受贈者へ正式に変更するための手続きです。

登記申請書に必要事項を記入し、準備した書類一式と共に法務局に提出します。申請には登録免許税がかかります。登録免許税は不動産の固定資産税評価額に基づいて計算され、生前贈与の場合は原則として固定資産税評価額の2%が課税されます。

贈与税の申告と納税

生前贈与により財産を取得した場合、原則として贈与税の申告と納税が必要です。贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に、管轄の税務署に贈与税の申告書を提出し、納税を行います。

年間110万円以下の贈与であれば贈与税はかかりませんが、申告が必要なケースもあるため確認が必要です。贈与税の計算は複雑であり、利用できる特例制度によって税額が大きく変わることもあります。

贈与税の申告と納税を怠ると、加算税や延滞税が課される可能性もあるため、期限内に正確な手続きを行うようにしましょう。

関連記事:【税理士監修】土地の相続では名義変更が必要!方法や必要書類、放置するリスクなどを解説

実家の生前贈与にかかる税金

不動産売却の手続き

実家を生前贈与する場合、贈与税以外にもいくつかの税金がかかります。主な税金として、不動産取得税、登録免許税、印紙税が挙げられます。また、将来的に相続が発生した際には相続税も考慮する必要があります。

不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課税される都道府県税です。生前贈与で実家を取得した場合も、原則として不動産取得税がかかります。税額は、以下の計算式で求められます。

不動産取得税 = 課税標準額 × 税率

課税標準額は原則として不動産の固定資産税評価額が用いられます。 土地と住宅用建物にかかる不動産取得税の税率は3%です(2027年3月31日まで)。 ただし、宅地や宅地と同じ扱いを受ける土地については、固定資産税評価額の2分の1が課税標準額となる軽減措置があります。

例えば、固定資産税評価額が土地2,000万円(宅地)、建物1,000万円の不動産を贈与された場合、不動産取得税は以下のように計算されます。

土地: 2,000万円 × 1/2 × 3% = 30万円

建物: 1,000万円 × 3% = 30万円


合計: 30万円 + 30万円 = 60万円

住宅用の建物については、新築された時期に応じた控除を受けられる軽減措置もあります。 これらの軽減措置の適用には要件がありますので、確認が必要です。

登録免許税

登録免許税は、不動産の所有権移転登記を行う際に課税される国税です。生前贈与による名義変更の場合、登録免許税がかかります。税額は不動産の固定資産税評価額に基づいて計算されます。贈与による所有権移転登記の税率は、固定資産税評価額のおよそ2%です。

例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産を贈与した場合、登録免許税は40万円(2,000万円×2%)となります。相続による名義変更の場合の税率が0.4%であるのと比較すると、生前贈与の方が登録免許税の負担は大きくなります。

印紙税

印紙税は贈与契約書など特定の文書に課される税金で、収入印紙を貼って納めます。不動産の贈与契約書ので契約金額を記載しない場合、印紙税は200円です。

相続税

相続税は、将来的に財産を相続した際に課税される税金です。相続税の計算方法は、まず相続財産の総額から借金などのマイナスの財産を差し引き、そこから基礎控除額を控除します。基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。基礎控除後の金額が相続税の課税対象となります。

課税対象となる遺産総額を民法で定められた法定相続分で按分し、それぞれの取得金額に対して税率を適用して、相続税の総額を計算します。実際の相続税額は、各相続人が実際に相続した財産の割合に応じて、税額控除などを適用して算出されます。

例えば、法定相続人が2人、課税遺産総額が5,000万円の場合、基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)となり、相続税の対象は800万円です。

関連記事:土地や不動産を親から子へ名義変更した場合の税金はいくらになる?

関連記事:生前贈与で受け取った土地・不動産を売却する場合の税金・費用とは?

実家の生前贈与による名義変更のメリット

実家を生前贈与により名義変更することは、将来の相続に備え、円滑な資産承継を実現する上で有効です。主なメリットとして、相続時のトラブル回避、相続手続きの一部簡略化、そして将来的な不動産管理の円滑化が挙げられます。

相続時のトラブル回避

実家を生前贈与しておくことで、贈与者の意思に基づき特定の相続人に確実に財産を承継させることができます。これにより、贈与者の死後、複数の相続人(例えば兄弟など)間で誰が実家を相続するかといった争いを未然に防ぐことが期待できます。遺産分割協議が不要になるため、相続人全員での話し合いによる負担や時間が省ける点もメリットと言えるでしょう。

相続手続きの一部簡略化

実家を生前贈与して名義変更を済ませておくことで、贈与者の死亡後の相続手続きの一部を簡略化できます。相続発生後には、遺産分割協議や相続税申告など様々な手続きが必要となりますが、不動産の名義変更が生前に完了していれば、その分の手続きは不要となります。ただし、生前贈与加算の対象となる贈与がある場合は、相続税の計算に影響するため注意が必要です。

将来的な不動産管理の円滑化

親が高齢になり実家の管理が難しくなった場合など、実家を生前贈与することで、その後の不動産管理を贈与を受けた子や孫に任せることができます。もし贈与者が認知症などで判断能力を失うと、不動産の売却やリフォームといった手続きができなくなるおそれがあります。その前に名義を移しておけば、受贈者が主体的に不動産を管理・活用できます。

関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説

実家の生前贈与による名義変更のデメリット

実家を生前贈与により名義変更することには、メリットだけでなくいくつかのデメリットも存在します。主なデメリットとして、贈与税負担の可能性、相続税計算への影響、そして登記にかかる費用と手間が挙げられます。

贈与税負担の可能性

生前贈与には贈与税がかかる可能性があり、贈与額が大きい場合は多額の贈与税が発生することがあります。贈与税の基礎控除は年間110万円と相続税の基礎控除に比べて少なく、税率も相続税より高い税率が適用されるケースが多いため、同額の財産を移転する場合、贈与税の方が高額になる傾向があります。

例えば、評価額が高い実家を一度に贈与すると、多額の贈与税が課される可能性があり、いくらになるかは個別の状況によって大きく異なります。

相続税計算への影響

生前贈与を行った場合でも、贈与者が亡くなった際には、相続開始前一定期間内に行われた贈与は相続財産に加算されて相続税が計算されます(生前贈与加算)。

また、相続時精算課税制度を利用した場合も、贈与財産は相続時に相続財産に合算されます。このように、生前贈与が将来的な相続税の負担に影響を与える可能性がある点を考慮する必要があります。

登記にかかる費用と手間

生前贈与で実家の名義を変えるには、法務局で所有権移転登記を行う必要があり、登録免許税(評価額の2%)や司法書士報酬などの費用がかかります。評価額によっては数十万〜数百万円になることもあり、手続きを自分で行えば大きな手間が、専門家に依頼すればその分の費用が発生します。

贈与税を抑える名義変更の方法

贈与税を抑える方法として、暦年贈与や相続時精算課税の利用、生前ではなく相続時に名義を変更する選択肢があります。

暦年贈与制度の利用

暦年贈与制度は、年間110万円までの贈与が非課税となる制度です。実家のように価値の高い不動産を一度に贈与すると多額の贈与税が発生しますが、この制度を活用して、複数年にわたり贈与を行うことで税負担を軽減できます。

例えば、実家そのものではなく、毎年110万円以下の現金を長期間にわたって贈与し、その資金を将来的に実家の改修費用や別の不動産の購入資金に充てるという方法が考えられます。

ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると「定期贈与」とみなされ、非課税枠が適用されず、まとめて贈与税が課税される可能性もあるため注意が必要です。

関連記事:【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説

相続時精算課税制度の利用

相続時精算課税制度は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度です。累計2,500万円まで非課税で、超過分には一律20%の贈与税がかかります。

贈与時の税負担を抑えられますが、贈与財産は相続時に評価額を加算して相続税が計算されます。2024年以降は年間110万円の基礎控除が新設され、利用しやすくなりました。

相続時の名義変更

生前贈与ではなく、相続によって実家の名義を変える方法です。相続登記は2024年から義務化されています。相続税は基礎控除額が大きく、贈与より税負担が軽い場合が多いのが特徴です。

さらに、「小規模宅地等の特例」を使えば不動産評価を減額でき、大幅な節税につながる可能性があります。名義変更は、生前贈与と相続それぞれの税金や手続きの負担を比較し、メリットの大きい方を選ぶことが大切です。

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例が適用される条件とは?宅地等の相続税を減額するための要件や添付書類を解説

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例の「家なき子特例」とは?要件や必要な手続き、注意点を徹底解説

生前贈与か相続か:実家の名義変更タイミング

実家の名義変更を生前贈与と相続のどちらで行うかは、それぞれの家庭の状況や目的に応じて最適なタイミングが異なります。

生前贈与は、親の意思を確実に反映させ、特定の相手に引き継ぎたい場合や将来の相続トラブルを避けたい場合に有効です。また、親の判断能力が低下する前に手続きを完了させておきたい場合にも適しています。

一方、相続によって名義変更を行う場合は、相続税の基礎控除や小規模宅地等の特例を利用できるため、税負担を抑えられるケースが多いです。しかし、相続の場合は相続人全員での遺産分割協議が必要となり、話し合いがまとまらない場合はトラブルに発展するリスクも考慮する必要があります。

どちらの方法が適しているかは、かかる税金や手続きの手間、そして家族関係を総合的に判断し、慎重に検討しましょう。

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生前贈与による実家の名義変更における注意点とトラブル事例

不動産の分割・相続で悩む兄弟

生前贈与による実家の名義変更には、税負担や相続トラブルといったリスクも伴います。後々のトラブルを避けるためには、事前に贈与税のシミュレーションを行い、家族間で十分に話し合うことが大切です。ここでは、起こりうるトラブル事例を紹介します。

【ケース1】他の兄弟からの遺留分侵害額請求

特定の子に実家を生前贈与したことで、他の兄弟が法律で定められた最低限の相続分である遺留分を侵害されたとして、遺留分侵害額請求を行う可能性があります。

【ケース2】名義預金とみなされるケース

親が子の名義の預金口座に資金を移動させ、これを生前贈与のつもりでいたとしても、子がその預金の存在を知らなかったり、管理を行っていなかったりする場合、「名義預金」とみなされ、贈与契約が無効となることがあります。この場合、その預金は相続税の対象となります。

【ケース3】贈与者の意思能力の問題

贈与者が認知症などで判断能力が低下してしまってからでは、有効な贈与契約を締結することが難しくなります。生前贈与は健康状態が良好なうちに進めることが重要です。

まとめ

生前贈与は資産承継や相続対策に有効ですが、税負担や相続人間の公平性、将来の相続への影響など注意点も多くあります。税金計算や特例の適用判断は専門知識を要するため、トラブルを防ぐには相続・贈与に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。