争族とは?相続トラブルを防ぐために知っておきたい原因と対策

「争族」という言葉を耳にされたことはありますでしょうか。これは相続の場面で、遺産の分け方や取り分をめぐって親族間の意見が食い違い、思わぬトラブルへと発展してしまう状況を指します。本記事では、争族の意味や背景、発生しやすい典型的なケース、正しい相続の仕組み、さらに未然に防ぐための基本的な対策について解説します。相続に不安をお持ちの方や、円満に相続を進めたいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
争族とは?
「争族」とは一体何を意味するのでしょうか。争族の定義となぜ社会問題として注目されているのかについて解説します。
争族の定義
「争族」とは、相続人同士が遺産分割をめぐって対立し、争いに発展する状態を指す言葉です。法律用語ではなく俗称ですが、実際の相続の場面では頻繁に使われています。
本来、相続は家族の財産を円滑に承継するための仕組みですが、分配方法や取り分への不満から争いが生じ、親族関係に深刻な亀裂を生む場合があります。こうした状況が「争族」と呼ばれる理由です。
なぜ争族が社会問題化しているのか
司法統計によれば、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件は毎年10,000件を超えて推移しており、調停が成立した事件の多くは遺産総額が5,000万円以下に集中しています。
つまり、遺産分割をめぐる対立は、一部の富裕層だけの問題ではなく、一般家庭にも広く起こっていることが分かります。
件数の多さと対象層の広さが重なり、相続をめぐる争いは「争族」として社会的に無視できない課題となっています。
争族が発生する典型的な10のケース
前述したように、争族は資産の多少や家庭の状況にかかわらず、どの家でも起こり得る問題です。争族が発生する典型的な10のケースを紹介します。
遺産の大半が不動産である場合
現金が少なく、不動産が中心となる相続では分け方を巡って意見が対立しやすくなります。
特に自宅に同居していた相続人がいる場合、「住み続けたい」という希望と「公平に分けたい」という思いがぶつかりやすく、深刻な争いに発展する場合があります。
不動産など換金しづらい財産が含まれている場合
不動産や非上場株式など、換金が難しい財産を含む相続は評価額や分割方法を巡って意見が割れがちです。
協議が難航しやすいため、最終的に家庭裁判所の調停に持ち込まれるケースも少なくありません。
特定の相続人が多額の生前贈与や援助を受けていた場合
教育費や住宅購入資金などで特定の相続人が多額の援助を受けていた場合、他の相続人が「不公平だ」と感じやすくなります。
持ち戻し計算の扱いをどうするかで意見が対立し、場合によっては深刻な争いに発展します。
特定の相続人が財産を管理していた場合
被相続人の財産を特定の相続人が管理していた場合、その管理の透明性が問題視されやすいです。
記録や説明が不十分だと「使い込みではないか」といった疑念が生じ、相続人同士の信頼関係を大きく損なう要因となります。
不公平な内容の遺言書が残されている場合
一部の相続人に大きく偏った内容の遺言が残されていると、他の相続人が納得できない場合があります。
遺留分を侵害されていると主張され、遺産分割の協議が長期化しやすく、調停や審判に発展するケースもあります。
介護や世話の負担が偏っている場合
長期間にわたり介護や看病を担った相続人やその配偶者がいると、その貢献をどう評価するかが争点となります。
寄与分を主張することで他の相続人との取り分を巡る対立が生じ、感情的に激しい議論へ発展するケースがあります。
特定の相続人だけが被相続人と親しかった場合
被相続人と近くで生活していた相続人と、疎遠だった相続人の間では受け止め方に差が生じます。
その結果、不信感が強まり、遺産分割協議がスムーズに進まず、争いが複雑化する場合があります。
相続人の兄弟仲が悪い、または疎遠である場合
もともと兄弟仲が悪い、あるいは疎遠である場合、冷静に協議を進めるのが難しくなります。
財産の内容に関係なく感情的な対立が表面化し、合意に至るまでに時間と労力がかかりやすい状況となります。
介護を担ったのが相続人の配偶者である場合
相続人本人ではなく、その配偶者が介護を担っていた場合、その貢献をどう扱うかで意見が分かれます。
配偶者の尽力が十分に考慮されないと不満が募り、争族の火種となる場合があります。
特定の相続人に高額な支援が集中していた場合
進学費用や生活費など、特定の相続人に長期間支援が集中していた場合、他の相続人が「不平等だ」と感じやすくなります。
この不満が積み重なると話し合いがこじれ、相続全体の協議が進まなくなる原因となります。
正しい相続の仕組みを理解する
相続の基本ルールを知らないまま進めると、不公平感や誤解から争族に発展しやすくなります。まずは、法律で定められた仕組みを理解しておきましょう。
法定相続分の基本
民法900条では、配偶者や子供、直系尊属、兄弟姉妹といった法定相続人の取り分が明確に定められています。例えば、配偶者と子供が相続人の場合、配偶者は全体の2分の1、残りの2分の1を子供が人数で等分します。子供が2人であれば、それぞれ4分の1ずつという形です。
また、子供がいない場合には配偶者と直系尊属(父母など)が、直系尊属もいない場合には配偶者と兄弟姉妹が相続人となり、それぞれの法定割合が適用されます。
関連記事:【税理士監修】遺産相続の割合は?法定相続分と注意が必要なケースをわかりやすく解説
遺留分による最低限の保障
仮に遺言で「全財産を特定の相続人に渡す」と記載されていたとしても、一定の相続人には民法1042条以下で定められた遺留分が保障されています。遺留分とは、配偶者や子などの近親の相続人に認められる最低限の取り分を指します。
例えば、配偶者と子が相続人の場合、遺産全体の2分の1が遺留分として確保され、この権利が侵害された場合、相続人は「遺留分侵害額請求」を行い、金銭による補填を求めることが可能です。
この仕組みによって、極端に不公平な相続が行われることを防ぎ、相続人の最低限の生活保障や家族としての権利が守られます。
関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説
遺産分割協議の原則と全員参加の必要性
相続人が複数いる場合、遺産分割は民法907条に基づき「相続人全員の合意」によって成立します。一部の相続人を除外して行われた協議は無効とされるため、必ず全員の参加と同意が必要です。
もし協議がまとまらなければ、家庭裁判所での遺産分割調停に進むこととなり、最終的には裁判所の判断に委ねられます。
参考:No.4202 相続税の申告のために必要な準備|国税庁
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
争族が起きてしまった場合の対処法
争族が発生すると、相続人だけで解決するのは難しく、家庭裁判所の手続きを通じた対応が必要になります。基本的な解決の流れを確認しましょう。
調停で合意形成を図る
争族が生じた場合、まず家庭裁判所での遺産分割調停が基本的な解決手段となります。調停では、中立的な立場の調停委員が間に入り、当事者同士の話し合いをサポートします。
裁判のように一方的に判断されるのではなく、相続人の意向を反映しながら柔軟に合意を目指せる点が特徴です。
参考:遺産分割調停 | 裁判所
関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説
調停が不成立の場合は審判に移行する
調停で合意に至らなかった場合、自動的に審判へ移行します。審判では、裁判所が法定相続分や各相続人の事情を踏まえて、分割方法を最終的に決定します。
当事者の合意は不要となり、結果は裁判所の判断に委ねられるため、納得できない相続人が残る場合もあります。
争族を未然に防ぐための基本対策
争族は一度起きてしまうと解決に時間と費用がかかり、家族関係も損なわれかねません。だからこそ、事前に備えておくことが何より大切です。代表的な基本対策を紹介します。
遺言書を作成する
遺言書は、遺産を誰にどのように引き継がせたいかを明確に示すための有効な手段です。民法960条では遺言の方式が定められており、法律に沿った方法で作成すれば確かな法的効力を持ちます。
特に不動産について具体的に記載しておくと争いを防ぎやすく、公正証書遺言で作成すれば信頼性も高まります。判断能力がしっかりしているうちに早めに準備しておきましょう。
関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント
財産を把握し目録を作成する
不動産や預貯金、株式などすべての財産を正確に把握し、目録として整理しておきましょう。財産内容をあらかじめ明らかにしておけば、「そんな財産があるとは知らなかった」といったトラブルを防ぐことができます。
さらに、遺産分割協議を円滑に進める土台となり、相続人全員での合意形成を助ける効果もあります。
家族で事前に話し合う
相続開始後に突然話し合いを始めると、感情的な衝突が生じやすくなります。そのため、日頃から財産の内容や将来の希望を家族で共有しておくのが大切です。
定期的に家族会議を開くなど、良好な関係を維持しながら相続に対する意識を高めることで、争族を未然に防げるでしょう。
家族信託を活用する
「家族信託」は、現金や有価証券、土地といった財産の管理を信頼できる家族に託す仕組みです。病気や認知症によって判断能力が低下した場合にも財産が凍結されるリスクを避けられるため、有効な対策と言えます。
将来の相続準備としても活用でき、争族の発生を防ぐための有力な方法です。
関連記事:【税理士監修】家族信託とは?メリットとデメリット、手続きの方法をわかりやすく解説
専門家に相談する
相続人が多い場合や財産の内容が複雑な場合には、専門家の助言を得るのが重要です。弁護士や司法書士、税理士などに相談すれば、遺言書の作成から財産整理までを法的に適切かつスムーズに進められます。
結果として、争族のリスクを大きく減らし、安心して相続に備えられるでしょう。
争族に不安がある方は専門家に相談を
相続は、遺産の分け方をめぐる意見の食い違いから「争族」に発展し、家庭裁判所での調停や審判にまで至るリスクがあります。争いが長期化すれば、家族関係の悪化や大きな費用負担に繋がるでしょう。
こうしたトラブルを避けるためには、遺言書の作成や財産の整理、家族での話し合いなど、事前対策が重要ですが、法律や税務の知識が必要となるため、自分たちだけで準備するのは容易ではありません。
そこで大切なのが、専門家への相談です。専門家に依頼すれば、法律や税務の観点から最適な対策や解決策を提案してもらえるでしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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