相続税と贈与税のどっちが得?違いや計算例を解説!

相続税と贈与税のどっちが得?違いや計算例を解説!

「相続税と贈与税のどっちが得?」と感じる方は多いかもしれませんが、財産や特例の適用などによって異なるため、一概には言うことはできません。具体的な計算方法や適用できる特例・控除などを知っておくと、より節税につながる方法を選択しやすくなります。今回は、相続税と贈与税のうち、適用すると得するケース、計算方法や特例の種類、注意点などを解説します。

関連記事:2025年度税制改正による相続税・贈与税の変更点は?近年の大きな変更も解説

相続税と贈与税のどっちが得かはケースバイケースである

養子縁組をする二世帯・夫婦

税率のみで比較すると相続税の方が低いものの、実際に相続税と生前贈与どちらが得するのかは、財産や特例・控除の適用の有無などによって異なります。以下では、一般的な傾向として、どちらが得しやすいかのケースを分けて紹介します。

相続が得するケース

相続税が得しやすいケースは以下の表の通りです。

高齢で暦年贈与をするのが難しい場合

基礎控除内の贈与による節税効果を得にくい

配偶者や子ども・孫がいない場合

節税につながる特例や控除を適用できない

相続財産が基礎控除内である場合

(3,000万円+600万円✕法定相続人の数)内の相続には相続税が発生しない

小規模宅地等の特例を適用する場合

  • 残された家族が今までと同じ家に住み続けられるように、納税の負担軽減を目的とする制度である
  • 生前贈与すると適用できない
  • 相続した土地の評価額を最大80%減額できる
  • 生前贈与の場合、不動産取得税がかかる

相続財産として不動産が多い場合

  • 不動産の相続税評価額は、市場価格よりも低くなる傾向にある
  • 現金や有価証券と比べると、節税につながりやすい

配偶者が相続する場合

配偶者控除の特例によって、1億6,000万円までor法定相続分相当額まで課税されない

生前贈与が得するケース

贈与の目的の1つは、相続税の課税回避の防止であるため、税額が高く設定されています

一方で、贈与の方が得しやすいケースもあり、具体的には以下の表の通りです。

相続財産が高額である場合

  • 相続税は累進課税制度で、税率は最大55%に達するため
  • 生前贈与で財産を減らしておくと、税負担を軽減できる可能性がある

まとまった金額を早めに贈与する場合

  • 控除制度などの適用によって、納税の負担を抑えられるため

相続税用の資金を用意する場合

  • 相続税は相続開始より10ヵ月以内に、現金一括での納税が求められる
  • 生前贈与によって、相続税として支払うお金を準備できる
  • 特に不動産や有価証券が多い場合に有効

生前贈与の場合、贈与する方を自由に選択できるため、相続人同士のトラブルを回避しやすくなるのもメリットの1つです。

納税額の計算例

生活資金

後述する税率表や計算式を使うと、相続税や贈与税の納税額を算出できます。数字に弱い方は難しく感じられるかもしれませんが、計算方法はシンプルです。以下で、実例を参考にしながら解説するため、参考にするとよいでしょう。

関連記事:【税理士監修】早見表付き:相続税の計算方法や大まかな税額を把握しておこう

相続税

遺産総額から基礎控除を差し引き、相続税がかかるのか判断します。以下の通り、控除できるものの適用などにより金額がかわります。

相続税がかかる財産

被相続人が遺した資産・債務整理した正味の資産

  • 預貯金
  • 株式
  • 土地
  • 建物
  • 生命保険金
  • 死亡退職金
  • 生前贈与財産など

相続税がかからない財産

  • 墓地・墓石、仏壇など祭祀財産
  • 生命保険金のうち一定金額など

控除できるもの

  • 被相続人の債務
  • 葬儀費用など
  1. 課税遺産相続の簡易計算:相続税がかかる財産−控除できるもの−基礎控除(3,000万円+〈600万円✕法定相続人の数〉)
  2. 相続税の総額の計算:課税遺産相続を法定相続分で按分したあと、速算表をもとに計算し合算する
  3. 実際の相続分で按分し、各種控除適用する

遺産の全額に税率が係るのではなく、基礎控除や法定相続分での仮計算を経て求められます。想像よりも税負担が軽減されたり、逆に予期せぬ税金がかかるケースもあったりする点について、押さえておくとよいでしょう。例として、以下のケースを紹介します。

  • 被相続人:Aさん
  • 配偶者:Bさん
  • 子ども:長男Cさん、次男Dさん
  • 相続財産:8,000万円
  • 遺産分割協議の結果、配偶者は遺産の5分の3、子どもたちは5分の1ずつ相続した
  1. 基礎控除:3,000万円+(600万円✕3)=4,800万円
  2. 課税遺産総額:8,000万円−4,800万円=3,200万円
  3. 課税遺産総額の法定相続分の按分は下記の通り
  • Bさん(2分の1)3,200万円✕2分の1=1,600万円
  • Cさん・Dさん(それぞれ4分の1)3,200万円✕4分の1=800万円ずつ

【相続税総額】

  • Bさん・1,600万円✕15%−50万円=190万円
  • Cさん:(800万円✕10%)=80万円
  • Dさん:(800万円✕10%)=80万円
  • 合計:190万円+80万円+80万円=350万円

【最終的な税額】

  • Bさん:5分の3、210万円→配偶者控除により0円
  • Cさん・Dさん:5分の1、70万円ずつ

遺言書や相続人同士の協議などにより、法定相続額の割合が変わるケースもあります。

今回の事例では、相続割合が変更になったと過程し、金額を算出しています。一家で合計350万円の納税が必要ですが、配偶者控除によって税金が変わります。

贈与税

暦年贈与で現金にて贈与を受けたケースで紹介します。例えば、40歳の子どもが父親から800万円の贈与を受けた場合、税額は以下の通りです。

  • 基礎控除後の課税価格の算出:800万円−110万円=690万円
  • 特例贈与に該当する場合の税額の算出:690万円✕30%−90万円=117万円

なお、暦年贈与には特例税率と一般税率があります。

混在するケースでは、贈与税の計算が複雑になるのでご注意ください。

相続税・贈与税の税率表(速算表)

国税庁の公式サイトには、税率表(速算表)が記載されています。税率表をもとに自分で納税額を算出できるため、有効に活用するとよいでしょう。

関連記事:【相続税の税率がすぐわかる】相続税の速算表と計算例のまとめ

相続税

税率表は以下の通りです。

取得金額

税率

控除額

1,000万円以下

10%

なし

1,000万超〜3,000万円以下

15%

50万円

3,000万超〜5,000万円以下

20%

200万円

5,000万超〜1億円以下

30%

700万円

1億円超〜2億円以下

40%

1,700万円

2億円超〜3億円以下

45%

2,700万円

3億円超〜6億円以下

50%

4,200万円

6億円超

55%

7,200万円

参考:No.4155 相続税の税率

贈与税

贈与税の場合は、相続者と贈与者の関係により税率が決まります。以下で詳しく紹介します。

【一般税率:兄弟間、夫婦間など】

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

200万円以下

10%

なし

300万円以下

15%

10万円

400万円以下

20%

25万円

600万円以下

30%

65万円

1,000万円以下

40%

125万円

1,500万円以下

45%

175万円

3,000万円以下

50%

250万円

3,000万円超

55%

400万円

【特例税率:18歳以上の子・孫が父母・祖父母から贈与】

基礎控除後の課税価格

税率

控除額

200万円以下

10%

なし

400万円以下

15%

10万円

600万円以下

20%

30万円

1,000万円以下

30%

90万円

1,500万円以下

40%

190万円

3,000万円以下

45%

265万円

4,500万円以下

50%

415万円

4,500万円超

55%

640万円

参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

相続税を節税できる特例・控除

少しでも多く節税するには、特例や控除を適用すると効果的です。以下の表で詳細に解説します。

【特例】

小規模宅地等の特例

  • 一定の要件を満たす方が相続したとき、土地の評価額を最大80%減額できる
  • 適用の条件
  • 被相続人か親族が住んでいた土地である:330㎡部分まで80%減額
  • 被相続人や親族が事業で利用していた土地である:400㎡部分まで80%減額
  • 被相続人や親族が貸し出している土地である:200㎡部分まで50%減額

納税猶予の特例(農地等の納税猶予制度)

  • 農地を相続したとき、納税を先延ばしor免除できる
  • 農家を継ぐ方に限定される
  • 以下を満たすと、実質的に免除される
  • 農地を相続した方が亡くなった
  • 後継者に生前一括贈与した

【主な控除】

基礎控除

  • 被相続人の遺産総額から一定金額を差し引ける
  • 基礎控除を差し引いた後、ゼロもしくはマイナスになる場合、相続税が課されない
  • 控除額:(3,000万円+600万円✕法定相続人の数)

配偶者の税額軽減

  • 配偶者は相続財産が1億6,000万円or法定相続分の範囲内まで非課税になる
  • 相続税が0円でも申告は必要である

未成年者の税額控除

  • 未成年の場合、一定額を差し引ける
  • 控除額:(18歳−相続時の年齢)✕10万円

障害者の税額控除

  • 控除額が相続税額を上回る部分について、他の扶養義務者の控除に適用できる
  • 85歳未満の障害者の場合、一定額を差し引ける
  • 控除額
  • 一般障害者:(85歳−相続開始時の年齢)✕10万円
  • 特別障害者:(85歳−相続開始時の年齢)✕20万円

相次相続控除

  • 相続発生から10年以内に次の相続が発生したとき、一定額を差し引ける
  • 以下の条件を満たすと適用できる
  • 被相続人の相続人である
  • 前回、相続税を納税している

贈与税額控除

相続税から贈与税を差し引ける

贈与税を節税できる特例・控除

贈与税の節税につながる特例・控除もあり、具体的には以下の表にまとめました。

【控除】

年間110万円の非課税枠

  • 非課税枠内の場合、贈与税の申告・納税が不要である
  • 暦年贈与の場合、贈与者が亡くなった日の3〜7年以内の贈与は加算される
  • 相続時精算課税制度を適用するには届出をする必要がある

配偶者控除

  • 婚姻期間20年以上の夫婦が居住用不動産or取得資金を贈与するとき、最大2,000万円まで控除できる
  • おしどり贈与とも言われる

特定障害者等に対する贈与税の非課税制度

  • 特定障害者への贈与は最大6,000万円まで贈与税が課されない※特別障害者以外の方は最大3,000万円
  • 特定障害者扶養信託契約の締結が必要

【特例】

教育資金の一括贈与の特例

  • 最大1,500万円まで非課税にできる
  • 受贈者は30歳未満の子や孫で、教育資金の贈与が条件である
  • 子や孫が30歳になったときに残っている贈与分や、教育資金以外で贈与されたお金を使ったときは贈与税がかかる

結婚・子育て資金の一括贈与の特例

  • 18歳以上50歳未満の子どもや孫に対し、結婚・子育て資金を贈与した場合、1,000万円まで非課税にできる
  • 受贈者が50歳になったとき、残っている贈与分に贈与税がかかる
  • 贈与者が亡くなったとき、残高は相続財産に加算される

住宅資金贈与の特例

  • 18歳以上の子・孫が住宅購入するための費用などを贈与した場合、最大1,000万円まで控除される
  • 夫婦で適用すると最大2,000万円まで控除される
  • 住宅の種類に応じて控除額が決まる
  • 省エネ等住宅:1,000万円控除
  • 上記以外の住宅:500万円

生前贈与の注意点

生前贈与をするときにトラブルを回避するためにも、注意点を押さえておく必要があります。以下で詳しく見ていきましょう。

相続財産に加算される可能性がある

贈与を受けた後、贈与者が3〜7年以内に亡くなった場合、加算される※甥や姪などの被相続人は対象外になる可能性がある

無効になるケースがある

  • 贈与は贈与者と受贈者間の契約である
  • 口頭で成立するものの、贈与契約書を作成し、通帳や印鑑の保管が望ましい
  • 契約書への記載項目:贈与する日、贈与者・受贈者の氏名・住所など、贈与財産

定期贈与と見なされる可能性がある

  • 定期贈与と見なされると、課税対象になる可能性がある
  • 定期贈与:一定期間に渡り一定財産を贈与する契約を示す
  • 財産を贈与するたびに契約書を作成したり、金額や時期を変えたりするなどで対策できる

相続・贈与で困ったときの相談は税理士へ

相続税と贈与税の計算例や税率表、節税につながる特例・控除、生前贈与の注意点などを解説しました。どちらが得するのかは一概には言えないため、正確にシミュレーションするのがポイントです。

特例・控除の適用などによって納税額が変わりますが、一方で計算方法や制度について難しく感じる方もいるでしょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。