遺産使い込みの時効はいつ?発覚後の対処法と取り戻す方法

相続トラブルの中でも意外と多い、遺産の使い込み。相続財産を勝手に使い込まれてしまった場合は、時効に注意して取り戻す方法を検討する必要があります。本記事では、遺産の使い込みの時効の考え方や、発覚したときの具体的な対処法をわかりやすく解説します。
目次
そもそも遺産の使い込みとは?法的観点から解説
遺産の使い込みとは、本来は相続人全員で分けるべき相続財産を、一部の相続人や相続権のない親族などが無断で処分・消費してしまうことです。
例えば、以下のような行為が典型的な遺産の使い込みにあたります。
- 故人の通帳から勝手にお金を引き出して自分の生活費に充てる
- 故人名義の不動産の家賃収入を独り占めする
- 故人が所有する株式や投資信託を勝手に売却し、得たお金を使い込む
故人との関係や使い込み行為の内容によっては刑法に抵触する可能性もあります。また、刑法上の犯罪行為にあたるか否かに関わらず民事で争うケースもあり、家族間で深刻な対立を招く原因となります。
遺産の使い込みはどんな罪になる?刑法上の問題
遺産の使い込みが刑法に触れるかどうかは、その行為の内容によって判断されます。例えば、以下のような行為は刑法上の犯罪行為にあたる可能性があります。
行為の内容 |
罪状 |
財産の管理を任されていた人が預貯金を使い込んだ |
横領罪 |
他の相続人に隠れて、被相続人の家から現金や貴金属を持ち去った |
窃盗罪 |
「故人には多額の借金があった」と嘘をつき遺産分割を有利に進めた |
詐欺罪 |
遺品整理中に発見した現金をこっそり自分のものにした |
占有離脱物横領罪 |
ただし、故人の生前の意思や家族内の合意があった場合、刑事責任を問うのは難しい場合もあるため、状況の精査が必要です。
また、上記のような犯罪を犯した人が被害者の配偶者や直系血族(親子など)の場合、「親族相盗例」により刑が免除されます。
民事で争うこともできる
遺産の使い込みが刑事事件として扱われるかどうかにかかわらず、民事で争うことができます。刑事事件になったとしても、使い込まれた遺産は戻ってきません。使い込みの証拠を示して、返してもらうのが民事手続きの目的です。具体的にどのような方法があるのかは後述します。
民事手続きでは、証拠に基づいた主張と冷静な対応が鍵となりますが、感情的な対立に発展するリスクがあります。問題をこじらせないためにも、早い段階で弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
遺産使い込みの時効|種類と期間
遺産の使い込みに対して法的措置を取る場合に重要なのが時効です。使い込まれた財産を取り戻す手段は、不法行為に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、相続回復請求など複数あります。それぞれの手段の時効の違いを詳しく見ていきましょう。
不法行為に基づく損害賠償請求権
不法行為に基づく損害賠償請求権とは、故意(わざと)または過失(うっかり)によって他人の権利や利益を侵害し、損害を与えた者に対し、被害者がその損害の賠償を請求できる権利です。相続の場面では、遺産の使い込みが他の相続人の権利を侵害する行為にあたります。
不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、以下のいずれか早い方です。
- 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間
- 不法行為の時から20年間
「損害および加害者を知った時」がいつであるかが争点になることが多いです。
不当利得返還請求権
不当利得返還請求権とは、法律上の正当な理由がないにもかかわらず、他人の財産によって利益を得た者に対し、利益の返還を求める権利です。
ある相続人が故人の預金を勝手に引き出して使った場合、「法律上の原因なく」利益を得ていることになります。損害を被った他の相続人は、不当利得返還請求権を行使して、お金の返還を求められます。
不当利得返還請求権の時効は、以下のいずれかの早い方です。
- 利得を得たことおよび相手を知ったときから5年間
- 行為の時から10年間
不法行為に基づく損害賠償請求権と比べて、故意や過失を証明する必要がないため、使い込みを立証しやすいという利点があります。相続放棄をしたはずの人が相続財産に手を付けていた場合にも検討できます。
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相続回復請求権
相続回復請求権とは、本来の相続人が、相続人であるかのように振る舞っている人に対し、相続財産の返還を求める権利です。相続人ではない第三者が遺産を占有している場合に限らず、共同相続人が遺産を独占している場合にも適用されることがあります。
相続回復請求権の時効は、以下の通りです。
- 相続権の侵害を知った時から5年間
- 相続開始の時から20年間
例えば、相続人ではない人が「自分こそが相続人だ」と言って相続財産を専有している場合に適用されます。「そもそも誰が本当の相続人であるか」という点から争う点が特徴で、相続人の立場を取り戻し、遺産全体の返還を求めます。
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関連記事:【税理士監修】内縁の妻は相続可能?内縁関係で相続を行うためのポイントを解説
時効の起算点を知ることが重要
遺産の使い込みに気づいた時、「もう何年も前のことだから、手遅れかも」と心配する方もいます。しかし、時効は、故人が亡くなった日から数え始めるわけではありません。ポイントとなるのは、「いつ使い込みの事実を知ったか」です。
不法行為に基づく損害賠償請求権では「損害と加害者が誰であるかを知った時」から時効がスタートします。不当利得返還請求権や相続回復請求権では「不当な利益や相続権侵害の事実を知った時」からです。
それぞれの請求権には、最長でも10年や20年といった最終的な期限が設けられています。期限を過ぎてしまうと請求権は行使できません。不審な点があると感じたら、手遅れになる前に調査を開始しましょう。
遺産使い込みの解決に向けたアクションプラン
遺産の使い込みに気づいても、感情的になってすぐに本人や親族に連絡するのは得策とは言えません。使い込まれた財産を返してもらうために、冷静に証拠を集め、時効を意識しながら適切な手続きを進めましょう。
ここでは、解決に向けた3つのステップを照会します。
ステップ1:証拠を収集する
遺産使い込みを立証するには、まずは確かな証拠が必要です。以下のような観点から、客観的な証拠を集めましょう。
- 誰が故人の財産にアクセスできる状況にいたか(例:通帳や印鑑の保管状況)
- いつからいつまで使い込みが行われていたか
- 何をどの程度使い込んだか(例:〇〇銀行の預金を100万円引き出した)
- どのようにして使い込んだか(例:ATMで不正に引き出した)
- 何に使ったのか
客観的な証拠とは、例えば故人の預金通帳の出入金履歴、不動産の名義変更記録、メールやメモなどです。仮に預金が引き出されていても、故人の医療費などを支払うためであれば不当な使途とは言えません。領収書や支払い記録の有無を確認し、不当な出費であることを証明することも大切です。
証拠がなければ、請求が通らないばかりか、名誉毀損などで逆に訴えられるリスクもあります。生前贈与などの故人が承認した財産の受け渡しではないか、故人の医療費などの支払いではないかなど十分に注意しましょう。
関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説
ステップ2:話し合い(交渉)を行う
証拠が集まったら、まずは当事者同士の話し合いによる解決を目指しましょう。法的な争いは親族間の感情的対立を深め、関係が修復不可能なほど悪化してしまうおそれがあります。弁護士費用や時間的コストも抑えられるため、話し合いで解決できるに越したことはありません。
事実関係を整理し、冷静に話し合いを進めるのが理想ですが、当事者同士では感情的になってしまうケースもあります。弁護士が代理人として間に入れば、冷静かつ法的な根拠に基づいた話し合いを進めやすくなるでしょう。
ステップ3:調停や裁判で解決を図る
話し合いがうまくいかなかった場合、または話し合い自体が困難な場合は、法的手段での解決が必要です。いきなり裁判を起こすことも可能ですが、調停という選択肢もあります。
調停は、調停委員という中立的な第三者が間に入り、双方の意見を聞きながら解決を目指す話し合いの手続きです。裁判と比べて、費用が安く、非公開で行われるため、家族間のプライベートな問題を穏便に解決したい場合に有効です。
調停でも合意に至らない場合は、最終手段として裁判を起こすことになります。裁判では、裁判官が証拠に基づいて双方の主張を公平に判断し、判決を下します。裁判の判決には強制力があるため、相手が判決に従わない場合は、財産の差し押さえなども可能です。しかし、裁判は時間と費用がかかり、精神的な負担も大きいため、あくまで最後の手段として考えましょう。
時効の成立を阻止するための方法
遺産の使い込みに気づいても、感情の整理や事実確認に時間を要するケースもあります。時効が迫って「もう間に合わない」と思っても、諦めるのはまだ早いかもしれません。ここでは、時効の成立を阻止する方法を解説します。
時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、時効期間のカウントダウンがゼロになるのを一時的に食い止めるための措置です。
例えば、内容証明郵便で支払いを請求する「催告」を行うと、時効の完成が6ヵ月間猶予されます。この期間内に裁判を起こすなどの法的手段を講じなければ、猶予の効力が消滅し、時効は完成してしまいます。なお、裁判中は6ヵ月という期間に限らず、時効は完成しない状態が続きます。
時効の更新|ゼロから再スタート
時効の更新とは、時効期間をリセットし、ゼロから数え直す制度です。2020年の民法改正で導入された考え方で、以前の「時効の中断」にあたります。
時効の更新の目的は、裁判や調停で法的に確定した権利を保護することにあります。裁判の判決確定時や、調停の和解成立時に時効期間をリセットすることで、権利を行使する期間に余裕が生まれるのです。
せっかく裁判で勝ち取った権利が、すぐに時効で消滅してしまうといった不都合を防ぎ、権利の安定を図ることができます。
法的な問題に発展したら弁護士へ相談を
遺産の使い込みに関する時効や請求の手続きは、法的な知識と判断を要する複雑な問題です。弁護士に相談すると、時効の中断に向けた書類の作成や交渉の代理、訴訟提起などを専門的にサポートしてもらえます。
また、相続人間での感情的対立を避ける意味でも、第三者の専門家が間に入ることで冷静な解決が期待できるでしょう。
まとめ
遺産の使い込みが疑われる場合、時効を意識しながら財産を取り戻す方法を検討しましょう。本当に使い込みがあったのか、客観的な証拠を集めることも忘れてはいけません。
親族間の問題は、法的措置をとらずに話し合いで解決できるのが望ましいですが、難しい場合もあるでしょう。使い込まれた財産を取り戻す方法は、不法行為、不当利得返還、相続回復請求など複数あり、それぞれ時効期間が異なります。弁護士に相談し、あなたの状況に合った方法を選ぶことが大切です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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