遺産分割のやり直しはできる?条件や手続きの進め方、注意点を詳しく解説

遺産分割のやり直しはできる?条件や手続きの進め方、注意点を詳しく解説

「一度は遺産分割に合意したけれど、やっぱり納得いかないからやり直したい」「新たな遺産が見つかったから遺産分割協議をやり直すべきだと思う」このような事例は珍しくありません。結論として、条件を満たせば遺産分割協議のやり直しは可能です。

ただし、一度成立した遺産分割協議のやり直しには様々な注意点が存在します。今回は遺産分割のやり直しについて詳しく解説します。

前提|遺産分割のやり直しの時効

時計とカレンダー

法律行為を行う上で注意するべき条件の1つが時効です。はじめに、遺産分割のやり直しの時効について解説します。

原則として時効の定めはなし

結論として、遺産分割およびやり直しに時効の定めはありません。相続人全員の合意があれば、相続開始からの経過年数を問わず遺産分割のやり直しが可能です。

遺産分割の取消には時効がある

前述のように、遺産分割およびやり直しに時効の定めはなく、相続人全員に合意があればいつでもやり直し可能です。

しかし例外として、遺産分割の取消の請求には時効の定めがあります

法律における取消とは法律行為に何らかの問題があったために、当事者の意思表示に基づいて法律行為をなかったものとすることです。取消権の時効は以下のうちいずれか早い方です。

  1. 追認ができるとき(錯誤、詐欺、強迫に気付いたとき)から5年
  2. 行為のときから20年

参考:民法 | e-Gov 法令検索

遺産分割における2の「行為のとき」とは、一般的には遺産分割協議書を作成したタイミングとみなされます。

取消に該当する事由があるために遺産分割のやり直しをしたい場合は、時効に注意して早めに手続きを進めましょう。

遺産分割のやり直しができる条件

遺産分割のやり直しに時効がないとはいえ、無条件でやり直せるわけではありません。遺産分割のやり直しができるのは以下のいずれかに該当する場合のみです。

  1. 共同相続人全員が合意している(解除)
  2. 遺産分割の同意が錯誤、詐欺、強迫を理由とするものであった(取消)
  3. 遺産分割の効力が最初から存在していなかったとみなされる理由がある(無効)

2の取消は前章で紹介したように時効の定めがあるため注意が必要です。

1~3それぞれの詳細や、該当するケースの具体例について解説します。

1.共同相続人全員が合意している(解除)

法律における解除とは、すでに成立した契約や合意などの法律行為を遡って無効にすることです。

遺産分割のやり直しについて共同相続人全員が合意している場合、成立した遺産分割の解除ができます。

2.遺産分割の同意が錯誤、詐欺、強迫を理由とするものであった(取消)

前章で紹介したように、取消とは法律行為に何らかの問題があったために、当事者の意思表示に基づいて遡って無効とすることです。

遺産分割の取消が認められる条件として、遺産分割の同意が錯誤、詐欺、強迫を理由とするものであった場合が挙げられます。該当するケースの例を紹介します。

  • 遺産の内容について重大な勘違いや誤認をしていた(錯誤)
  • ほかの相続人が遺産を隠していた(詐欺)
  • ほかの相続人から遺産について虚偽の情報を伝えられていた(詐欺)
  • 遺産分割に合意しないと危害を加えると脅されていた(強迫)

取消を成立させるには当事者の意思表示が必要です。前述のように、取消の時効は錯誤・詐欺・強迫に気付いてから5年、または遺産分割協議書の作成から20年と定められています。

3.遺産分割の効力が最初から存在していなかったとみなされる理由がある(無効)

法律における無効とは、契約や合意などの法律行為に初めから効力がなかったとみなされることです。法律行為の前提条件や過程に何らかの問題があった場合に無効となります。

遺産分割が無効となるケースの例を紹介します。

  • 遺産分割協議に参加していない相続人がいた
  • 重度の認知症である等、意思能力をもたないとみなされる相続人がいた
  • 未成年の相続人が単独で遺産分割協議に参加した
  • 親と子の利益が相反する場合に、親が子の代理人として遺産分割協議に参加した
  • 遺産分割協議に相続人でない者が参加した
  • 遺産分割の内容が公序良俗に反する

遺産分割の成立要件を満たしていない場合に無効となるイメージです。

前述の取消と違い、無効は当事者の意思表示なく成立します。そもそも最初から法律行為の効力は生じていないため、当然ながら時効の定めもありません。

遺産分割のやり直しの流れ

遺産分割協議書

遺産分割のやり直しの流れは、やり直しに関する争いの有無によって異なります。争いがある場合とない場合それぞれ詳しく解説します。

遺産分割の解除、またはやり直しに争いがない場合

遺産分割の解除とは相続人全員の合意がある場合に成立するものです。解除ができる状態は争いが生じていない状態といえるでしょう。

解除以外でやり直しに争いがない場合とは、取消や無効の主張が問題なく受け入れられた状態ともいえます。この場合も特別な手続きなく遺産分割のやり直しが可能です。

解除の場合またはやり直しについての争いがない場合の大まかな流れは以下の通りです。

  1. 相続人全員で再度遺産分割協議を行う
  2. 遺産分割協議書を作成し直す
  3. 新たに発生する税金を計算し、申告・納付をする

「1」と「2」は通常の遺産分割と同じ流れです。初回と同じように遺産分割協議を行い、相続人全員が合意したら遺産分割協議書を作成します。

特に重要なのが「3」の税金に関する工程です。遺産分割のやり直しの後で新たに発生する税金は相続税ではありません。譲渡所得税や贈与税が発生する可能性があります。税金について詳しくは後述する「[注意点4]贈与税や譲渡所得税が発生する可能性がある」で解説します。

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

遺産分割のやり直しに争いがある場合

遺産分割の取消や無効の主張に反対し、やり直しに応じない相続人がいる場合は家事調停の申立を行いましょう。調停によって遺産分割の取消や無効が認められれば、遺産分割はなかったものとみなされます。調停が成立しなかった場合は「遺産分割の無効確認請求訴訟」の提起をすることになります。

調停が成立した場合は「遺産分割の解除、またはやり直しに争いがない場合」と同じように、遺産分割協議をやり直します。

遺産分割のやり直しをする際の注意点5点

財産の分割でもめる親族

最後に、遺産分割のやり直しをする際の注意点を5つ紹介します。

[注意点1]1人でも反対する相続人がいる場合は解除ができない

遺産分割の解除ができるのは相続人全員の合意がある場合のみです。1人でも反対する相続人がいる場合は解除できません

解除に反対する相続人がいて取消や無効が認められる理由がない場合、遺産分割のやり直しは難しいといえるでしょう。

[注意点2]第三者に売却した相続財産の返還は求められない

遺産分割のやり直しの実施が決まっても、第三者に売却した相続財産の返還を求めることはできません。例えば相続財産の不動産をすでに売却済みの場合、対象の不動産を取り戻すのは不可能です。

売却済みの相続財産がある場合には、売却益を相続財産に組みこんで遺産分割協議を進めることになります。

第三者に売却済みの相続財産がある場合は返還を求められない以上、完全なやり直しができない点に注意しましょう。

[注意点3]調停や審判で成立した遺産分割のやり直しは原則不可

調停や審判で成立した遺産分割のやり直しは原則として不可能です。裁判所が関与する公的な手続きを経た以上、特別な事情がない限りやり直しは認められません。

例外として、遺産分割に参加していない相続人が発覚した等、無効となる事由がある場合はやり直しが可能となります。

関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説

[注意点4]贈与税や譲渡所得税が発生する可能性がある

税法上、遺産分割のやり直しにより財産の移転が起きた場合、贈与や売買が行われたものと扱われます。そのため、財産移転に対する贈与税や譲渡所得税が発生する可能性に注意が必要です。

遺産分割のやり直しにより、新たに財産を取得した人が対価を払わない場合、財産を取得した人に贈与税が課せられます。反対に対価を払った場合は売買取引とみなされて、対価を受け取った人に譲渡所得税が課せられます。

関連記事:遺産の換価分割による譲渡所得税はいくらになる?計算方法を解説

関連記事:譲渡所得がいくらから確定申告する?必要書類や書き方も解説

[注意点5]すでに納付済みの税金は返還されない

相続税や相続登記の際に支払った登録免許税など、すでに納付済みの税金の返還はされません。しかし前述のように、財産移転に伴う贈与税や譲渡所得税は発生します。不動産の所有者が変わる場合、新たに不動産の移転登記も必要です。

このように、遺産分割のやり直しにより税負担が重くなる恐れがあります。

遺産分割のやり直しに時効はない!ただし成立の条件や注意点の確認が必須

原則として、遺産分割のやり直しに時効の定めはありません。ただし取消権の行使には5年または20年の時効があるため、早めに手続きを行う必要があります。

遺産分割のやり直しができるのは条件を満たした場合のみです。解除、取消、無効それぞれ成立条件が異なる点にご注意ください。また、第三者へ売却した相続財産は取り戻せない点や、贈与税・譲渡所得税が発生する可能性がある等、さまざまな注意点も存在します。

遺産分割のやり直しは可能ではあるものの、複雑なルールが多い上、やり直しの主張が原因でトラブルになる恐れもあります。当事者のみですべて対応しようとせず、まずは専門家に相談するのが安心です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。