遺産分割後に発覚した債務の扱いは?事前に押さえるべきポイントも解説

遺産分割後に発覚した債務の扱いは?事前に押さえるべきポイントも解説

債務は相続財産に含まれるものの、遺産分割の対象ではありません。債務などマイナスの財産は法定相続分での相続が前提とされています。

遺産分割後に債務が見つかった場合も、法定相続分で分割するのが原則となります。遺産分割後の債務発覚はトラブルの原因になりやすいため、事前にトラブル防止に向けた対策をしておくのが理想です。

今回は遺産分割後に発覚した債務の扱いや、トラブルを防ぐために押さえたいポイントについて解説します。

前提|遺産相続における債務の扱い

はじめに、遺産分割における債務の扱いについて解説します。

債務は遺産分割の対象外

前提として、債務は相続財産に含まれるものの遺産分割の対象ではありません。

被相続人の負債は、相続発生と同時に法定相続分で分割されて、各相続人に承継されるのが前提とされています。分割割合が明確かつ相続人が返済義務を承継するのが当然のため、遺産分割協議の対象にはならないのです。

ただし、相続人全員の合意があれば法定相続分以外での分割・承継も可能です。厳密には遺産分割ではなく、ある人の債務を別の人が引き受けるという債務引受が成立したものとみなされます。

債務に該当するもの

債務に該当するものとして以下の例が挙げられます。

  • 借入金
  • 未払金(税金、公共料金、家賃など)
  • クレジットカード利用料金
  • 損害賠償債務や連帯保証債務 など

なお、被相続人の債務に該当するものを相続人が支払った場合、単純承認が成立したとみなされます。相続放棄をするか否かを決めていない段階では、被相続人の債務返済を代わりに行う行為は避けるべきでしょう。

単純承認については「基本的に遺産分割後の相続放棄や限定承認は認められない」で詳しく解説します。

遺産分割後に発覚した債務の扱い

土地や不動産を兄弟で分割するイメージ

続いて、遺産分割後に発覚した債務の扱いについて具体的に解説します。

法定相続分での分割が原則

結論として債務が見つかったタイミングに関係なく、被相続人の債務は法定相続分での分割が原則です。遺産分割や相続関連の手続きがすべて終了した後に見つかった債務についても、法定相続分で分割・承継するのが原則とされています。

関連記事:【税理士監修】遺産相続の割合は?法定相続分と注意が必要なケースをわかりやすく解説

特定の相続人が全額負担も可能

債務は法定相続分での分割が前提ですが、特定の相続人が全額負担することも可能です。前述のように、債務は遺産分割の対象ではありません。仮に法定相続分以外で分割した場合、遺産分割ではなく、債務引受の効果が発生します。

基本的に遺産分割後の相続放棄や限定承認は認められない

被相続人に多額の債務がある場合、通常は相続放棄や限定承認が効果的な手段となります。

しかし、基本的に遺産分割後の相続放棄や限定承認は認められません遺産分割協議への参加は法定単純承認事由、すなわち相続の単純承認をしたとみなされる行為に該当するためです。

単純承認とは、亡くなった人の財産をプラス・マイナス問わず無条件ですべて相続することです。単純承認が成立するケースについては以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説

関連記事:【税理士監修】相続放棄の必要書類と手続きをケースごとに解説

遺産分割後の相続放棄や限定承認が認められるケースの例

前述のように、基本的に遺産分割後の相続放棄や限定承認は認められません。そもそも申述期限である「相続開始を知った日から3ヵ月」を経過した後の相続放棄や限定承認は原則として不可能です。申述期限の経過後は単純承認が成立したとみなされます。

例外として、以下の3つをすべて満たす場合には、単純承認の成立後も相続放棄および限定承認が認められる可能性があります。

  1. 相続放棄や単純承認を行う判断に至る財産や債務の存在を知らなかった、対象となる財産が存在しないと信じていた
  2. 財産や債務の存在を知らなかったことや、対象の財産等が存在しないと信じたことについて相当な理由がある
  3. 財産等の存在を認識してから3ヵ月以内に申述する

参考:相続の放棄の申述 | 裁判所

特に重要なのは2の「相当な理由がある」です。相当な理由があると認められるケースとして以下の例が挙げられます。

  • 専門家である弁護士に財産調査の依頼をしており、その時に対象の財産や債務の存在が判明しなかった
  • 借用書や金銭消費貸借契約書などの証明書が破棄されていた
  • 生前の被相続人との交流が乏しく、財産を正確に調査・把握するのが難しい状況にあることが明確であった

どのような理由があっても、申述期限後の相続放棄や単純承認が認められにくいのは事実です。相続トラブルの知識や経験がなければ適切な対応をするのは難しいでしょう。遺産分割後の相続放棄や単純承認について、まずは弁護士に相談するのが確実です。

遺産分割後の債務発覚によるトラブルを防ぐためのポイント

ポイント

債務関連に限らず、相続トラブルを防ぐためには事前にポイントを押さえた対処を行うのが最善です。以下では遺産分割後の債務発覚によるトラブルを防ぐためのポイントを3つ紹介します。

[ポイント1]債務がある前提で相続財産の調査を行う

基本的に、相続財産の調査は債務がある前提で行うのが理想です。被相続人の生前の暮らしや被相続人から聞いた話などの情報に関係なく、債務を見つけるつもりで相続調査を行いましょう。

近しい家族や親族が相手でも、債務の有無や金額を明かせないと考える人は珍しくありません。死後に初めて債務が発覚したケースは多くみられます。「遺産分割後に債務が発覚」というトラブル事例が存在するのも、被相続人が債務を隠し通しているケースが多いためといえるでしょう。

トラブルを防ぐ方法として最も効果的なものは、そもそもトラブルの原因になる要素をなくすことです。とはいえ、被相続人の債務自体を失くすことはできません。相続人にできるのは相続財産の調査を徹底的に行い、遺産分割後に新たな相続財産が見つかるリスクを減らすことです。

債務の調査を行う方法として最も確実なのは、信用情報機関に対する情報開示請求です。手続きのやり方は信用情報機関によって異なるため、詳しくは公式サイト等をご確認ください。

ただし、知人等からの借入や滞納家賃などの信用情報機関を通さない債務は開示対象になりません。その他の債務は口座の入出金履歴やメール等のやり取り、借用書の有無などを細かく確認して調べる必要があります。

参考:開示を申し込む | 開示サービス | 日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関

[ポイント2]新たな財産が発覚した時の扱いについて遺産分割協議書に記載しておく

債務に限らず、新たに発覚した相続財産の扱いについて遺産分割協議書に記載しておくのが安心です。「特定の相続人がすべて相続する」「法定相続分で分割する」「新たに発覚した財産について遺産分割協議を行う」等、対応を明記しましょう。少なくとも、財産の扱いに関する揉め事のリスクは抑えられます。

関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説

[ポイント3]債務の消滅時効が完成しているか確認する

遺産分割の完了後に見つかった債務がある場合に行うべき対応として、債務の消滅時効が完成しているかの確認が挙げられます。

債務の消滅時効とは、債権者が債務者に対して請求・通知等をしないまま一定期間が経過すると、貸金返還請求権が消滅する制度です。すなわち債務の消滅時効が成立すれば、債務者は借入金の返済義務がなくなります。

貸金の消滅時効は5年、または権利を行使できる時から10年間です。ただし債務の消滅時効は自動で成立するわけではなく、時効の援用手続をする必要があります。たとえ消滅時効が成立するだけの期間が経過していても、債権者からの督促に応えてしまえば時効がリセットされてしまいます。

時効のリセットにより返済義務が発生してしまうのを防ぐためも、まずは消滅時効の成立の有無を確認しましょう。

債務を法定相続分以外で分割する際の注意点|債務引受に対外的な効力はない

被相続人の債務が見つかるタイミングが遺産分割の前でも後でも、基本的な扱いは同じです。相続人が複数人いる場合は法定相続分での分割が前提となります。

相続人全員の合意があれば、法定相続分以外での分割も可能です。その場合は遺産分割ではなく、ある人の債務を別の人が引き受けるという債務引受が成立したとみなされる旨を解説しました。

免責的債務引受について相続人全員が合意していても、債権者の承諾を得られなければ、各相続人は法定相続分での返済義務を負います。債権者から弁済を求められれば、相続人は法定相続分に応じて債務の返済をしなければなりません。

債権者との交渉や適切な債務引受のためには法律の知識が必要です。少しでも疑問や不安があれば相続人だけですべて対応しようとせず、専門家へ相談することをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。