相続時精算課税制度の改正点とは?メリットもわかりやすく解説!

令和5年度の税制改正によって、相続時精算課税制度は年間110万円の基礎控除の新設など、内容が見直されました。相続税を節税できる可能性があるものの、納税者の状況によって異なると認識しておく必要があります。今回は、本制度の改正内容や対象者、メリットとデメリット、向いている方の特徴、手続きの方法などをわかりやすく解説します。
目次
令和5年度税制改正・相続時精算課税制度とは
税制改正によって、本制度には基礎控除の新設など、変更点が加えられています。制度の適用を検討する前に基本的な情報を知っておくとよいでしょう。以下で、改正内容について具体的に解説します。
改正点
税制改正によって、控除額や申告手続きの必要性などの部分が改善されており、納税者にとって使いやすさが向上していると言えます。具体的な改正点は以下の通りです。
基礎控除の新設 |
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相続時精算課税に係る土地または建物の価額の特例の新設 |
贈与された土地や建物が被災した場合、贈与価額から被災価額を控除できる |
対象者
本制度を適用できるのは以下の条件を満たす方です。
- 贈与者:贈与した年の1月1日に60歳以上の父母or祖父母
- 受贈者:贈与を受けた年の1月1日に18歳以上で、贈与者の直系卑属
贈与を受けた年の1月1日時点で、18歳以上の方に限られる点は注意が必要です。
贈与税の計算方法
本制度を適用すると、1年間で贈与によって取得した財産の合計価額から、基礎控除額と特別控除を差し引き、20%を乗じると贈与税が算出されます。具体的な計算式は以下に示します。
(贈与額−110万円✕年数−2,500万円)✕20%
基礎控除は毎年の贈与額から差し引くのが特徴です。相続税の計算時は贈与税が控除されるため、贈与税の方が高い場合は還付されます。
暦年課税制度との違い
贈与税の課税方式として2つあるうちの1つが暦年課税制度で、控除額や税率などの面で、本制度との違いがあります。2つの課税方式の具体的な違いは、以下の表にまとめました。
本制度 |
暦年課税 |
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控除 |
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基礎控除:受贈者1人あたり、年間110万円 |
税率 |
一律20% |
10〜55% |
手続き |
期限内に書類提出 |
不要 |
暦年課税制度の場合、以下の通り加算対象期間が変更されています。
贈与者が亡くなった日 |
加算対象期間 |
令和6年1月1日〜令和8年12月31日 |
贈与者が亡くなる前3年間 |
令和9年1月1日〜令和12年12月31日 |
令和6年1月1日〜贈与者が亡くなった日 |
令和13年1月1日以降 |
贈与者が亡くなる前7年間 |
贈与者ごとに、どちらの制度を適用するのか選択できるのが特徴です。
参考:(令和6年1月1日以後に贈与を受ける方へ)令和6年分の贈与から贈与税・相続税の計算方法が変わります!
関連記事:暦年課税が改定|生前贈与加算の期間が7年になるとどんな影響がある?
相続時精算課税制度のメリット
本制度の適用で、相続税の節税などのメリットを受けられるケースがあります。具体的なメリットは以下の表にまとめました。
多くの財産を早い段階で贈与できる |
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将来的に価値が高まる可能性のある資産の贈与に活用できる |
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基礎控除は相続財産に加算されない |
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贈与税の税率が一律20%である |
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収益物件の贈与で相続財産を減らせる |
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2,610万円までは贈与税が課されないため、多額の財産をまとめて次世代に移転できるのが本制度の大きなメリットです。
相続時精算課税制度のデメリット
本制度にはメリットのみでなく、デメリットも存在します。メリットのみでなく、デメリットについても正しく理解しておくとよいでしょう。本制度のデメリットは、具体的に以下の通りです。
選択後は暦年課税に戻せない |
1度選択すると、同じ贈与者と受贈者の間では暦年課税制度に戻せない |
不動産の贈与時に特例を適用できない |
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免除制度ではない |
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年間110万円を超えると申告が必要である |
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不動産を相続すると納税の負担が大きくなる |
免許登録税、不動産取得税の負担増加の可能性がある 【生前贈与の場合】
【相続の場合】
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本制度の適用による節税対策をする場合、複雑かつ専門知識が求められるため、税理士へ相談するのが望ましいです。
関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します
暦年課税制度よりも相続時精算課税の方が向いている方
一概には言えませんが、一般的には暦年課税制度よりも、本制度の方が向いている方もいます。本制度の適用がおすすめな方は、具体的に以下の表の通りです。
贈与者が余命わずかで高齢の方 |
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相続財産が基礎控除の範囲内である方 |
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将来的に値上がりしそうな財産を所有している方 |
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収益を得られる財産のある方 |
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一時的に大幅下落した資産を持っている方 |
下落したときに贈与すると、下落時の評価額で贈与できる |
贈与者が高齢者であっても、相続人が妻や孫の場合は、相続開始までの7年間の贈与が相続財産に加算されないため、暦年課税制度の方が有利になるケースもあります。
相続税を節税できるケースもありますが、実際にどの程度税負担を抑えられるのかは納税者状況によって異なるため、注意が必要です。迷う場合は税理士に依頼し、シミュレーションしたうえで判断するのが望ましいです。
相続時精算課税制度の手続き
本制度を適用するには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、所轄の税務署へ以下の書類を提出する必要があります。
相続時精算課税選択届出書 |
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贈与税の申告書 |
年間の贈与額が110万円を超えるときに用意する |
受贈者の戸籍の謄本or抄本その他書類 |
受贈者が推定相続人or孫である場合、以下の内容を証明できる書類を用意する
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受贈者の氏名・生年月日を証明する書類 |
特例事業受贈者であるときに用意する |
贈与者からの贈与で、特例受贈事業用資産を取得したと証明する書類 |
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受贈者の氏名・生年月日を証明する書類 |
特例経営承継受贈者であるときに用意する |
贈与者からの贈与で、特例対象受贈非上場株式等を取得したと証明する書類 |
期限までに提出できない場合、本制度の適用は認められません。
参考:No.4304 相続時精算課税選択届出書に添付する書類
よくある質問
本制度に関してよくある質問と回答をまとめました。以下で詳細に解説します。
相続時精算課税制度は申告不要?
個々の状況によって異なります。年間110万円以内の贈与の場合は申告不要です。
一方、贈与額が110万円を超える場合、たとえ非課税枠内であっても毎年の申告を求められる点に注意が必要です。
令和5年度税制改正の相続時精算課税制度の適用はいつから?
令和6年1月1日から適用されています。年間110万円以内の贈与に関しては、贈与税と相続税が課されなくなるなどの変更が行われています。
相続に関する相談は税理士へ
今回は、相続時精算課税制度の改正内容や対象者、メリットとデメリット、向いている方の特徴、手続きの方法などを解説しました。令和5年度税制改正によって、納税者にとってより利用しやすい制度へと見直されています。
一方で、免除制度ではなかったり税額の計算が複雑になっていたりする点など、注意点も押さえておくのがポイントです。
節税につながるのかは個々の状況によって異なるため、正確なシミュレーションが求められます。本制度の適用を含め、相続に関する悩みや相談は、専門家である税理士へ依頼すると安心です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。