遺産分割中に発生するかもしれない数次相続とは?相次相続との違いは?

遺産分割協議の途中で相続人が亡くなると「数次相続」という状況が発生します。これは、最初の相続(一次相続)の遺産分割が終わらないうちに、次の相続(二次相続)が始まる状態のことです。
数次相続では一次相続と二次相続の両方の手続きが必要になり、通常よりも複雑になります。
この記事では、数次相続の定義や事例について解説します。また、混同しやすい相次相続、代襲相続、再転相続との違いや、数次相続が発生した場合の手続きの流れについても詳しくご説明します。
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目次
数次相続とはどのような状況か
数次相続とは、被相続人が亡くなって相続が開始された後、遺産分割協議が終わる前に相続人の一人が亡くなる状況です。最初の相続を「一次相続」、次の相続を「二次相続」と呼びます。
数次相続では、一次相続の遺産分割を二次相続の相続人も含めて行います。相続が2回以上連続して発生するため、手続きが複雑になりやすいです。
数次相続が発生するケースとは
数次相続は、高齢の親子が短期間に亡くなったり、遺産分割が長引いている間に相続人が亡くなった時に発生します。典型的なケースは、父親が亡くなり(一次相続)、遺産分割協議前に母親も亡くなる(二次相続)パターンです。
上記の場合、父親の遺産分割協議には、母親の相続人である子供たちが参加します。また、父親が亡くなった後、長男が遺産分割協議前に亡くなると、長男の相続人が父親の遺産分割に参加します。
不動産の名義変更をせずに長期間経過し、その後相続人が亡くなるケースも数次相続の対象になります。
数次相続と他の相続方式の違い
相続には数次相続と混同しやすいものに、相次相続、代襲相続、再転相続があります。ここでは、これらの相続の意味と数次相続との違いについて解説します。
相次相続との相違点
数次相続と相次相続は「相続が立て続けに発生する」点では似ていますが、概念が異なります。
相次相続は、短期間に連続して相続が発生し、それぞれの相続で相続税が発生している状況を指します。数次相続は最初の相続の遺産分割が完了する前に次の相続が発生している状況そのものを指します。
代襲相続との相違点
数次相続と代襲相続は、相続人が亡くなるタイミングが違います。代襲相続は被相続人が亡くなる前に、相続人となるはずだった人がすでに亡くなっている状況です。
例えば、祖父が亡くなる前に父親が亡くなっている場合、父の子(祖父の孫)が父に代わって祖父の遺産を相続します。一方、数次相続は被相続人が亡くなった後に相続人が亡くなるケースです。
相続人が亡くなるのが「被相続人の死亡より前か後か」が数次相続と代襲相続の違いです。相続手続きの進め方も異なるため、この違いはしっかり理解しておきましょう。
再転相続との相違点
数次相続と再転相続も、相続人が亡くなる状況が異なります。
数次相続は、遺産分割協議を終える前に相続人が亡くなる状況です。一方、再転相続は亡くなった相続人の相続人が承認または放棄の権利を引き継ぎます。
「相続の承認または放棄の熟慮期間中かどうか」で違いがあります。再転相続は民法上の特殊な権利の承継に関する概念で、利用される頻度は高くありません。
数次相続発生時の手続きの流れ
数次相続が発生した場合、通常の相続手続きに加えて考慮すべき点があります。ここでは、相続人の確定から遺産分割、相続登記まで解説していきます。
1.相続人を確定する
数次相続では、一次相続と二次相続の相続人の確定が必要です。まず、一次相続の被相続人の戸籍謄本を集め、法定相続人を確認します。次に、一次相続の相続人のうち亡くなった相続人の戸籍謄本を集め、二次相続の法定相続人を確認します。
複数の相続に関わる全ての相続人の把握が基礎です。
関連記事:【税理士情報】相続手続きには戸籍謄本が必要。使う場面や入手方法、注意点などを解説
2.相続財産を調査する
数次相続では、一次相続と二次相続それぞれの相続財産の調査が必要です。一次相続の被相続人の預貯金、不動産、株式などのプラス財産と借金などのマイナス財産を洗い出します。同様に、二次相続の被相続人の相続財産も調査します。それぞれの相続財産の正確な把握が、遺産分割や相続税申告において重要です。
特に注意すべきは、一次相続の財産が二次相続の財産に含まれるケースです。財産の二重計上や漏れが生じやすい点に注意が必要です。
補足:相続放棄について検討する
数次相続では複数の相続が発生しているため、場合によっては相続放棄を検討しなければならないケースもあります。
たとえば、一次相続で多額の借金があり、二次相続でも借金を引き継ぐ可能性がある場合は相続放棄を選択できます。ただし、一次相続のみを単純承認し、二次相続は放棄することはできません。
以下は一時相続、二次相続それぞれの相続放棄の可否についてまとめたものです。
一次相続 | 二次相続 | 相続放棄の可否 |
放棄 | 放棄 | 〇 |
放棄 | 承認 | |
承認 | 承認 | |
承認 | 放棄 | × |
相続放棄は一度行うと撤回できません。また、相続放棄には期限(相続開始を知った日から3ヵ月以内)があるため、手続きは慎重に進めましょう。
関連記事:【税理士監修】相続放棄の必要書類と手続きをケースごとに解説
3.遺産分割協議を行う
数次相続の場合、一次相続の遺産分割協議は一次相続の相続人に加え、二次相続で相続人となった人も参加して行います。例えば、父親(一次相続の被相続人)の相続人である母親と子がおり、母親が遺産分割前に亡くなった場合、父親の遺産分割協議は子が行います。
遺産分割協議では、誰がどの相続分をどのように引き継ぐかを相続人全員で話し合った後の合意が必要です。なお、二次相続の遺産分割協議は二次相続の相続人のみで行います。
関連記事:【税理士監修】遺産相続をすることになったら。誰にどのように分配するのかについて解説
4.遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。数次相続の場合、一次相続と二次相続の遺産分割協議をまとめて1つの書類にするのも可能です。
1つの書類にまとめる場合は、一次相続と二次相続の被相続人を併記し、二次相続の被相続人については「相続人兼被相続人」と記載します。署名欄には、一次相続の相続人は「相続人」、二次相続で相続人となった人は「相続人兼○○の相続人」のように記載します。
遺産分割協議書は相続登記などに必要な書類なので、記載内容に省略がないよう正確に作成しましょう。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
5.相続登記の手続き
数次相続で不動産がある場合、相続登記が必要です。原則として一次相続による所有権移転登記を行い、次に二次相続による所有権移転登記を行います。
ただし、一定要件を満たす場合は、中間省略登記として一度の申請でまとめて登記できるケースがあります。中間省略登記が可能であれば、手続きの手間や費用を削減可能です。
相続登記には、被相続人の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本や住民票、遺産分割協議書などの書類が必要であり、準備には時間がかかります。この相続登記は、2024年から義務化されましたので必ず行わなくてはなりません。
関連記事:【税理士監修】相続登記の必要書類は?登記の必要性や法務局での申請手順も解説
数次相続における相続税の扱い
数次相続が発生した場合、相続税の計算や申告においても通常の相続とは異なります。ここでは、数次相続における相続税の取り扱いについて詳しく解説します。
一次相続の相続税は二次相続人が引き継ぐ
数次相続では、一次相続の被相続人の相続人が一次相続に関する相続税を申告・納税する義務を負います。もし、相続人が相続税を申告・納税しないまま亡くなった場合、その申告・納税義務は二次相続で相続人となった人が引き継ぎます。
二次相続の相続人は、一次相続と二次相続の両方の相続について相続税の申告・納税義務を負う可能性があるので注意です。そのため、一次相続の状況を正確に把握しておきましょう。
相続税申告の期限は知った日から10ヵ月
相続税の申告期限は通常、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内です。しかし、数次相続が発生した場合は、申告期限が延長されます。申告期限は、二次相続の被相続人の死亡を知った翌日から10ヵ月まで延長されます。
基礎控除額の計算
相続税の計算では、基礎控除額が重要です。基礎控除額は、相続財産から差し引ける非課税枠であり、相続税がかかるかの基準となります。基礎控除額は、以下の計算式を用います。
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
数次相続の場合でも、一次相続の相続税を計算する際の法定相続人の数は、一次相続の被相続人が亡くなった時点での法定相続人の数に基づきます。二次相続で相続人が増えても、一次相続の基礎控除額の計算には影響しません。
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人の場合、基礎控除額は以下のように計算します。
3,000万円+600万円×3人=4,800万円 |
この場合の基礎控除額は4,800円です。
一次相続の遺産総額が上記の金額以下であれば、一時相続については相続税はかかりません。
相次相続控除の適用
数次相続が発生し、短期間に複数の相続で同じ財産に相続税が課税される場合には「相次相続控除」を適用できる可能性があります。相次相続控除とは、被相続人が相続開始前10年以内に開始した相続により財産を取得し、相続税が課税されていた場合、一定額を控除できる制度です。
数次相続では、一次相続で相続した財産に相続税がかかり、二次相続で取得する財産にも相続税がかかる可能性があります。このようなケースでは相次相続控除の適用を検討しましょう。
配偶者控除や小規模宅地特例の適用について
数次相続が発生した場合でも一定の要件を満たせば、配偶者控除や小規模宅地等の特例など相続税の軽減措置を適用できる可能性があります。配偶者控除は、被相続人の配偶者が遺産を相続した場合に一定額まで相続税がかからない制度です。小規模宅地等の特例は、居住用や事業用宅地の評価額が減額される制度です。
数次相続においては、一次相続と二次相続それぞれで適用できる控除や特例の適用を検討しましょう。
例えば、一次相続で配偶者が財産を取得した場合の配偶者控除と、二次相続で子が居住用宅地を取得した場合の小規模宅地特例といった組み合わせも可能です。
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数次相続に関する注意点
数次相続は通常の相続より手続きが複雑になるため、注意点があります。ここでは、数次相続に関する注意点について解説します。
遺産分割協議書の作成に注意
数次相続における遺産分割協議書の作成は、通常の記載方法とは異なるため注意が必要です。一次相続の遺産分割協議書には、二次相続の被相続人を「相続人兼被相続人」として記載します。
署名欄には、一次相続の法定相続人は「相続人」、二次相続で相続人となった人は「相続人兼○○の相続人」として署名・押印します。上記の記載方法を間違えると、遺産分割協議書が無効となる可能性もあるので、注意しましょう。
一次相続と二次相続それぞれで相続税が発生する可能性
数次相続が発生した場合、一次相続と二次相続それぞれで相続税の申告と納税が必要となる場合があります。一次相続の相続税申告義務は、二次相続で相続人となった人が引き継ぐため、それぞれの相続開始日や申告期限の把握が必要です。
計算間違いによる納税額のミスや納税の遅延があると、加算税や延滞税が発生する恐れがあります。数次相続による申告は複雑なため、できれば税理士に相談することを検討しましょう。
相続税の計算や納税に関するご相談は、ぜひ「やさしい相続センター」にお問い合わせください。
一次相続における法定相続人の数え方に注意
数次相続で一次相続の相続税を計算する際の基礎控除額は、一次相続の被相続人が亡くなった時点での法定相続人の数に基づきます。例えば、父親(一次相続の被相続人)が亡くなった時点での法定相続人が母親と子2人だった場合、法定相続人の数は3人として基礎控除額を計算します。
その後、息子が亡くなり孫が相続人に加わったとしても、父親の相続における法定相続人の数は3人のままです。
二次相続で税負担が増える可能性がある
数次相続では、一次相続で相続した財産が短期間のうちに二次相続で再び相続されると、相続税が増加しやすいです。特に、一次相続で配偶者が多くの財産を相続し、その配偶者が短期間で亡くなった場合、配偶者控除の適用範囲にも二次相続で相続税が課税されます。
相次相続控除の適用で税負担を軽減できるケースもありますが、一時相続の時点で二次相続での相続額を概算して事前対策をすることが大切です。
相次相続控除の適用を忘れない
数次相続が発生し、短期間に相続が繰り返された場合、一定の要件を満たせば相次相続控除を適用できます。
相次相続控除を適用すると、相続税の二重課税を防ぎ税負担を軽減できます。とはいえ、数次相続のすべてに適用できるわけではありません。適用要件は細かく定められているため税理士に確認しましょう。
数次相続における相続放棄について
数次相続が発生した場合、相続放棄を検討する場合も多いです。ここでは、数次相続における相続放棄の可否や期限について解説します。
相続放棄の可否には条件がある
数次相続が発生した場合でも、相続放棄は可能です。ただし、一次相続を単純承認している場合は、二次相続で一次相続に関する部分のみの放棄はできません。二次相続では、一次相続人の相続人として相続権を承継しています。
そのため、二次相続を放棄すると、一次相続についても最初から相続人ではなかったとみなされます。一方、一次相続を放棄した後に二次相続の承認は可能です。
相続放棄の期限は知った日から3ヵ月
相続放棄の申述は、「自己のために相続開始があったことを知った時」から3ヵ月以内に行う必要があります。数次相続の場合、複数の相続についてそれぞれの期限を考慮します。
一次相続の相続放棄は、一次相続が発生し、自分が相続人であることを知った時から3ヵ月以内です。二次相続の相続放棄は、二次相続が発生し、自分が相続人であることを知った時から3ヵ月以内です。
この3ヵ月の「熟慮期間」内に家庭裁判所で手続きする必要があります。なお、特別な事情がある場合は、期間延長が認められる場合もありますが、原則は期限内の手続きが必要です。
複雑な数次相続は専門家に相談を
数次相続は、相続人が複数にわたり、手続きも複雑になりがちです。相続人の確定、遺産分割協議、相続税の計算・申告、相続登記など、各段階で専門的な知識が求められます。特に相続税に関しては、一次相続と二次相続の申告が必要となるケースや相次相続控除の適用判断など、複雑な計算や判断が伴います。
誤った手続きや申告をすると、後々のトラブルに繋がる可能性があるので、注意が必要です。自身の状況が数次相続にあたるかどうか判断に迷う場合や、手続きに不安がある場合は、相続に詳しい弁護士や税理士への相談をおすすめします。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。