遺産相続は相続税以外の税金にも注意!ケースバイケースの税金一覧

遺産相続では、故人の財産を引き継いだ者が支払う相続税以外にも、様々な税金が発生する可能性があるのをご存じですか?どのような税金がかかるかは相続する財産の種類や状況によって異なります。そのため、どういった税金がかかるのか事前に把握しておくことが重要です。
この記事では、相続税以外の税金に焦点を当て、それぞれが発生するケースや課税される場合に必要な手続きについて解説します。
目次
相続で課される相続税・相続税以外の税金
遺産相続の際に発生する可能性のある税金として、主に次の5つが挙げられます。
- 相続税
- 所得税
- 譲渡所得税
- 住民税
- 固定資産税
- 登録免許税
上記が課税されるかどうかは、相続財産の種類や状況によって異なります。以下より、各税金の特徴や課税されるケースについて詳しく見ていきましょう。
1.相続税
まず、当然ながら相続税がかかります。相続税は相続や遺贈によって亡くなった人から財産を取得した場合にかかる税金です。相続税がかかるかどうかは、基本的には遺産の総額が以下の計算式で算出される相続税の基礎控除額を超えるかどうかで判断されます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
遺産総額には、現金や預貯金、不動産、有価証券などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も含まれます。また、死亡保険金や死亡退職金の一部もみなし相続財産として課税対象となるケースがあるため、相続人・被相続人の間で情報を共有しておくことも重要です。
これらを含む遺産の総額から基礎控除額や債務、葬式費用などを差し引いた課税遺産総額が相続税の対象となり、一定の税率をかけて相続税額が計算されます。計算方法等の詳細は、国税庁公式サイトでご確認ください。
関連記事:【税理士監修】家の相続には相続税がかかる?手続きの方法や注意点を解説
2.所得税
所得税は、個人の所得に対して課される税金です。相続時に所得税が課税されるケースとしては、相続財産から生じる所得や、亡くなった人の所得に対する申告などが考えられます。遺産の総額ではなく「相続した財産から得られる個別の所得」に対して発生する点が、相続税との大きな違いと言えるでしょう。
【相続財産から生じる所得ケース】
- 相続した不動産を売却し譲渡所得が発生した
- 賃貸物件を相続し家賃収入を得るようになった
- 被相続人にかけていた保険金を受け取った
【亡くなった人の所得から生じるケース】
- 被相続人が確定申告をしていた
亡くなった人が確定申告をしていなかった場合は、亡くなった年の1月1日から死亡日までに確定した所得金額と税額を計算し、相続開始を知った翌日から4ヵ月以内に申告と納税を行う準確定申告の手続きが必要です。
例えば、1月15日に亡くなった場合、相続人が死亡を知った日の翌日1月16日から4ヵ月以内の5月15日までに準確定申告を行います。申告を怠ると加算税や延滞税が発生する可能性があるため注意が必要です。
参考:【納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)】|国税庁
3.譲渡所得税
譲渡所得税は、相続した土地や建物などの資産を売却して得た譲渡所得に対して課される所得税および住民税を指します。相続で得た不動産を売却した場合、売却による利益に対して譲渡所得税が課税されます。ただし、給与所得などと合計して納税や申告をします。
譲渡所得は、次の方法で求められます。
譲渡所得=売却価額-(相続不動産の取得にかかった取得費+売却に関連する譲渡費用)
譲渡所得は不動産の所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分けられ、それぞれ異なる税率が設定されています。
所得種別 |
所有期間 |
税率 |
短期譲渡所得 |
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年以下 |
所得税30%、住民税9% |
長期譲渡所得 |
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年超 |
所得税15%、住民税5% |
また、上記以外に2037年までは復興特別所得税が発生します。
相続した不動産の取得費が不明な場合、概算取得費として売却価額の5%を適用することが認められていますが、本来支払うべき税額より大きくなる可能性もあるため、正確な金額を共有しておくのが望ましいでしょう。
4.住民税
住民税は、住所地の地方自治体に納める税金です。相続によって賃貸用不動産を取得した場合、その不動産を所有していることに対して固定資産税とともに住民税(都市計画税)が課税されます。また、相続に関連して所得税が課税されるケースでは、その所得に対する住民税も発生します。
住民税は前年の所得に対して課税されるため、相続した年に大きな変動が出ることはないでしょう。ただし、相続した財産の種類や相続財産の扱い方によっては、翌年以降の住民税額に影響が出る可能性が考えられるため、あらかじめ把握しておくことが大切です。
5.固定資産税
固定資産税は、土地や家屋、償却資産などの固定資産を所有している人に課される地方税です。相続によって土地や家屋を取得した場合、所有者に対して固定資産税が毎年課税されます。
相続登記が完了するまでは、相続人全員が連帯して納税を行いますが、遺産分割協議によって所有者が決まれば、新たな所有者が納税義務を負うことになります。
固定資産税の税額は、固定資産税評価額をもとに計算されます。評価額は、土地や家屋の場合3年ごとに、償却資産であれば毎年評価替えが行われるため、税額も変動する可能性がある点に注意が必要です。
6.登録免許税
登録免許税は、登記や登録などの手続きを行うときに課される税金です。土地や家屋などの不動産を相続した場合、名義を亡くなった人から相続人に変更するための相続登記の際に、登録免許税が課税されます。
相続の場合、登録免許税の税率は土地・建物いずれも1,000分の4に設定されており、固定資産税評価額に税率をかけて計算されます。ただし、自動車などの固定資産以外の相続財産に係る名義変更の場合、対象物によって税率が異なる可能性があるため、専門家に相談するなどして、正確な税額を確認しましょう。
関連記事:【税理士監修】相続登記の必要書類は?登記の必要性や法務局での申請手順も解説
ケース別|相続時にかかる可能性のある税金
前章では、相続時に課される可能性のある税金について解説しました。ここでは、相続時に想定される代表的なケースを挙げ、各状況で課税される税金について見ていきましょう。
[ケース1]家を相続した場合にかかる税金
家を相続した場合、課税される可能性がある税金は以下の5つです。
- 相続税
- 登録免許税
- 固定資産税
- 都市計画税
- 譲渡所得税(所得税・住民税)
相続税評価額に基づいて計算された家の評価額と他の相続財産と合算した遺産総額が、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、超過分に対して相続税が課せられます。
また、相続登記を行う際の登録免許税や、相続した家屋を所有することによる固定資産税と都市計画税、売却した際の利益が対象となる譲渡所得税も、課税される可能性があります。
[ケース2]子が相続した場合にかかる税金
子が相続した場合、相続税の課税対象となる可能性があります。遺産総額が相続税の基礎控除額を超えるケースでは、子も他の相続人とともに相続税の納税義務を負います。
ただし、以下をはじめとする特定の条件下においては、控除や非課税枠の対象となり、税負担を軽減できる可能性があります。
子の条件 |
控除内容 |
子が未成年者 |
未成年控除が適用され一定額が控除される |
子が障害者 |
障害者控除が適用され一定額が控除される |
子が死亡保険金の受取人 |
法定相続人が受取人の場合非課税枠の対象となる |
条件の詳細は、国税庁公式サイトでご確認いただけます。
参考:【相続税の計算】|国税庁
死亡保険金にかかる税金の取り扱い
亡くなった人にかけられ相続人が受け取る死亡保険金に対して課される税金の種類は、「被保険者」「保険料負担者」「保険金受取人」が誰であるかによって、以下の3つに分けられます。
税金の種類 |
被保険者 |
保険料負担者 |
保険料受取人 |
相続税 |
A |
A |
B |
所得税 |
A |
B |
B |
贈与税 |
A |
B |
C |
次の章より、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説
相続税の対象となる場合
死亡保険金が相続税の対象となるのは、保険料負担者と被保険者が同一人物のケースです。受取人が被保険者の相続人である場合、死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象に含まれます。相続人以外が受取人となった際も、遺贈により取得したものとみなされ、相続税が課されます。
死亡保険金には非課税枠が設けられており、「500万円×法定相続人の数」で計算した金額までは相続税が課税されません。ただし、法定相続人以外が死亡保険金を受け取った場合は、この非課税枠は適用されないため注意が必要です。
所得税の対象となる場合
死亡保険金が所得税の対象となるのは、保険料負担者と受取人が同一人物の場合です。このケースでは、死亡保険金は以下のように「一時所得」または「雑所得」として課税されます。
所得区分 |
保険金の受け取り方 |
課税対象額の計算方法 |
一時所得 |
一時金で受領する |
(受け取った保険金総額-払込保険料または掛金の額-特別控除50万円)×2分の1 |
雑所得 |
年金で受領する |
その年に受け取った年金総額-その金額に対応する払込保険料または掛金の額 |
受け取った保険金額が払い込んだ保険料を下回る場合は、課税されないことがあります。
贈与税の対象となる場合
死亡保険金が贈与税の対象となるのは、保険料の負担者、被保険者、受取人すべてが異なるケースです。この場合、保険料を負担した人から受取人へ保険金を受け取る権利が贈与されたとみなされ、贈与税が課税されます。
贈与税には年間110万円の基礎控除が設けられているため、受け取った保険金から110万円を差し引いた残額が贈与税の対象となります。
相続税の負担軽減につながる制度一覧
相続時に課せられる主な税金の一つである相続税には、納税者の負担を軽減するための様々な控除や特例が設けられています。主な相続税の負担軽減制度は、以下の通りです。
制度の種類 |
内容 |
相続税の基礎控除額 |
遺産総額が基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下であれば課税されず、申告も原則不要 |
死亡保険金や死亡退職金の非課税枠 |
死亡保険金や死亡退職金に関して、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の金額までは相続税が課税されない |
配偶者の税額軽減 |
配偶者が相続した財産のうち、1億6,000万円、または配偶者の法定相続分に相当する金額までは相続税が課税されない |
小規模宅地等の特例による土地の評価減 |
被相続人などが住んでいた宅地や事業をしていた宅地などについて、一定の要件を満たす場合に相続税評価額を減額できる |
未成年者控除 |
相続人となる未成年者の年齢に応じて控除額「(18歳-相続開始時の年齢)×10万円」が適用される |
障害者控除 |
相続開始時点で85歳未満の障害者である相続人に対して、85歳に達するまでの年数1年につき、一般障害者は10万円、特別障害者は20万円の控除が適用される |
納付済みの贈与税額の控除 |
相続開始前一定期間内に被相続人から贈与を受け既に贈与税を納めている場合、納付済み税額を相続税額から差し引くことができる |
相次相続控除 |
今回の相続開始前10年以内に被相続人が相続、遺贈等によって財産を取得し相続税が課税されていた場合、一定の金額を相続税額から差し引くことができる |
外国税額控除 |
相続や遺贈によって国外にある財産を取得した場合、外国で納付した相続税額と、日本の相続税額のうち国外財産にかかる部分の金額とを比較し、少ない方の金額を日本の相続税額から控除することができる |
これらの制度を理解し適切に活用することで、相続に係る税負担を抑えられる可能性があります。専門家である税理士に相談しながら手続きを進めることで、適用可能かどうかの判断や申告に向けた準備をスムーズに行えるでしょう。
相続に関連する税金のよくある疑問
相続に関連する税金制度は複雑であるため、様々な疑問が生じやすいものです。ここでは、よくある3つの疑問とそれぞれに対する回答をご紹介します。
Q1.未払いの税金は誰が支払うのか
被相続人が亡くなった時点で未払いの税金がある場合、その納税義務は相続人に引き継がれます。負担した未払い税金は、債務として相続財産から控除することが可能です。
相続人が複数いる場合は、原則として各相続人が法定相続分に応じて納税義務を負います。ただし、相続人全員が連帯して義務を負うため、一人がまとめて支払うこともできます。
Q2.遺族年金に税金はかかるのか
遺族年金は、遺族の生活を保障するための公的年金制度であり、所得税や相続税は課税されません。
ただし、公的年金以外の遺族年金については、所得税や贈与税が課税される場合があるため、あらかじめ契約形態や課税対象であるか否かを確認しておくことが大切です。
Q3.相続放棄した場合の納税義務
相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったとみなされます。したがって、相続放棄をした人は、被相続人の財産も借金も引き継がず、それに伴う納税義務も負いません。
生命保険金については、保険金受取人固有の財産とみなされ、相続放棄をしても受け取りが可能です。ただし、受け取り分に関して別途税金が発生する可能性があります。
関連記事:【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説
まとめ
遺産相続においては、相続税以外にも、相続財産の種類や状況によって所得税、住民税、固定資産税、登録免許税、譲渡所得税など、様々な税金が関連してきます。また、死亡保険金についても、相続税、所得税、贈与税のいずれかが課税されるため注意が必要です。
相続に係る適正な納税を行うためには、専門的な知識が不可欠です。相続財産の評価や各種控除、特例の適用判断など、複雑な手続きも多いため、相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
また、金融機関や不動産関係者、葬儀関連企業、税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。
監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。