遺産分割前の不動産所得の扱いは?所得の帰属先やよくある質問を紹介

亡くなった人が不動産の賃貸経営をしていた場合、相続開始後も不動産収入は入り続けます。不動産収入は原則として不動産の名義人に帰属しますが、遺産分割前は当該不動産の名義人が確定していません。そのため、遺産分割前に発生する不動産収入および不動産所得は特殊な扱いがされます。
今回は遺産分割前に発生する不動産収入・不動産所得の扱いについて解説します。
目次
遺産分割前に発生する不動産収入・不動産所得の扱い
相続発生から遺産分割協議が成立するまでの間、相続財産の名義人は不確定のままです。しかし、亡くなった人が保有していた賃貸不動産からの家賃収入は発生し続けます。
以下では遺産分割前に発生する不動産収入および不動産所得の扱いについて解説します。
【前提】不動産収入を計上すべき時期
前提として、不動産収入を計上する時期は支払い方法や契約内容によって以下のように定められています。
契約等の条件 |
計上するタイミング |
|
---|---|---|
1 |
契約や慣習等で支払日の定めがある |
定められた支払日 |
2 |
支払日の定めがなく、1および3~5いずれにも該当しない |
実際に支払いを受けた日 |
3 |
請求があった時に支払うべきと定められている |
請求日 |
4 |
賃貸借契約の存否の係争等があった場合の係争期間中の賃貸料相当額 |
判決や和解等があった日 |
5 |
不動産の賃貸に伴い一時に受け取る権利金や礼金 |
資産の引渡しを必要する場合:引渡し日 |
賃貸契約による家賃収入は1に該当するケースが多いです。そのため原則として、支払日として定められた日に不動産収入があったものとして計上します。
賃貸契約の中で「当月分の賃料は当月末日までに支払う」旨が定められた場合を例にします。亡くなったのが9月15日の場合、被相続人の所得となるのは9月分賃料までです。仮に9月分賃料の支払いが9月末よりも後になった場合でも、9月末に収入が発生したものとみなして計上する必要があります。
未分割遺産から発生する不動産収入・不動産所得の扱い
結論として、未分割遺産から発生する収入および不動産所得は法定相続分で分割します。
法定相続人が配偶者と子供2人(子供A、子供B)の場合を例にします。この場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子供Aが4分の1、子供Bが4分の1です。
関連記事:【税理士監修】相続人は誰がなるのか。相続人となる人の範囲や順位について解説
亡くなった日から遺産分割協議成立までの家賃収入の合計が600万円の場合、それぞれの取得額は以下のようになります。
- 配偶者:600万円×2分の1=300万円
- 子供A:600万円×4分の1=150万円
- 子供B:600万円×4分の1=150万円
配偶者、子供A、子供Bはその年の所得税の確定申告において、上記の取得分についても申告する必要があります。
なお、賃貸経営に際して発生する経費は相続財産から支出する、すなわちマイナスの財産として扱うのが一般的です。
実務上は遺産分割協議で家賃収入の帰属先を決めるケースが多い
前述のように、原則的なルールとしては、遺産分割協議の成立前に発生した家賃収入は法定相続分で分割します。
しかし、遺産分割協議と並行して家賃収入の集計および法定相続分での分割、確定申告に必要な書類等を集めるのは負担となります。
そのため実際のところ、遺産分割協議で家賃収入の帰属先を決めるケースが多いです。特定の法定相続人が家賃収入の全額を取得する代わりに、当該相続人は他の相続財産の取得分を少なくするといった方法がみられます。
遺産分割前の不動産所得に関するよくある質問
遺産分割前の不動産所得に関するよくある質問を6つ紹介します。
Q1.通常の家賃収入の確定申告と違う部分はありますか?
遺産分割前に発生した家賃収入と通常の家賃収入の確定申告の方法は、基本的には同じです。通常の手順と同じく確定申告に必要な書類を用意し、期日までに申告および納税を行いましょう。
関連記事:家賃収入も確定申告するべき?手続きの流れや準備すべき書類について解説
Q2.遺言書で不動産の遺贈先が決められていた場合の扱いは?
遺言書で不動産の遺贈先が決められている場合、相続開始以後に発生した家賃収入は指定された受贈者のものになります。ほかの相続人との分割は必要ありません。
Q3.亡くなる前に発生した不動産収入の扱いと申告方法は?
亡くなる前に発生した不動産収入は被相続人の生前の収入・所得として扱います。そのため準確定申告の対象です。
準確定申告とは亡くなった人の所得税に関する確定申告です。被相続人に代わって相続人等が行います。
準確定申告の期日は相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月以内です。詳しくは以下の記事をご覧ください。
関連記事:【税理士監修】準確定申告書とは?申告が必要なケース、必要書類や期限などを解説
Q4.相続発生日の時点で支払日を迎えている未収家賃の扱いは?
「【前提】不動産収入を計上すべき時期」で解説したように、家賃は原則として契約で定められた支払日に計上します。そのため、相続発生日の時点で支払日を迎えている家賃は、未収状態であっても相続財産に含めます。
家賃の支払期日が8月末、相続発生日が9月15日、実際に家賃が支払われたのが9月20日のケースを例にしましょう。この場合、9月20日に支払われた家賃は相続財産になります。「相続発生日から遺産分割協議の成立日までに発生した家賃収入」とはみなされないためご注意ください。
Q5.被相続人が青色申告者であった場合、未分割遺産から発生する不動産所得についても青色申告できる?
被相続人が青色申告者であったとしても、青色申告者の地位は継承できません。そのため、未分割遺産から発生する不動産所得について青色申告をするには、青色申告の承認申請をする必要があります。
関連記事:青色申告のやり方とは?フリーランスや個人事業主が知るべきポイント解説!
Q6.相続放棄をした人がいる場合はどうなる?
相続放棄をした人は、最初から法定相続人ではなかったものとみなされます。そのため、相続放棄をした人は、未分割遺産から発生する家賃収入を得る権利もありません。亡くなってから発生した家賃収入についても、相続放棄をした人は最初からいなかったものとして分割します。
法定相続人が配偶者と子供2人(子供A、子供B)で、このうち子供Bが相続放棄をしたケースを例とします。この場合、遺産分割協議の成立日までに発生した家賃収入を取得するのは配偶者と子供Aの2人だけです。相続放棄をした子供Bは法定相続人ではないとみなされるため、未分割遺産から発生する家賃収入を取得する権利もありません。
関連記事:【税理士監修】相続で知っておくべき相続放棄の基本とデメリット。手続き方法もあわせて解説
遺産分割前に発生した不動産所得は法定相続分で分割!疑問や不安があれば専門家へ要相談
被相続人の死亡日から遺産分割協議が成立するまでに発生する不動産収入・不動産所得は、法定相続分で分割するのが原則です。各相続人が取得する不動産所得が一定額を超える場合、各人が所得税の確定申告を行う必要があります。
ルール自体はシンプルですが、実際の手続きは煩雑な部分やわかりにくい部分も多く存在します。遺産分割前に発生した不動産所得の扱いについて少しでも疑問や不安があれば、専門家である税理士に相談するのが安心です。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。