代襲相続の相続税で気をつけたい基礎控除や2割加算とは?

本来相続人となる方が既に亡くなっている場合、その相続人の子が相続を引き継ぐことがあるかと思います。このようなケースを代襲相続といいますが、その場合、基礎控除や2割加算の適用有無によって相続税の計算方法が変わることをご存じでしょうか。
この記事では、代襲相続の仕組みから基礎控除や2割加算への影響などについて解説していきます。
目次
代襲相続の概要
まず、ここでは代襲相続の定義や発生する状況について詳しく見ていきましょう。
代襲相続の定義
代襲相続とは、本来相続人となる方が既に死亡している場合に、その子が代わりに相続する制度です。民法で定められており、代わりの相続人を「代襲相続人」と呼びます。
例えば、被相続人の子が既に亡くなっている場合、孫が代襲相続人となり、相続分を受け継ぎます。
代襲相続が発生するケース
代襲相続は、被相続人の財産を次世代に引き継ぐための仕組みです。この制度により、相続の権利が途絶えることなく、血縁関係に沿って財産が承継されます。
代襲相続が発生するケースは、次の通りです。
相続人が既に亡くなっているケース
代襲相続の多くは、本来の相続人が被相続人より先に死亡したケースがほとんどです。例えば、父(被相続人)より先に兄が亡くなっていた場合、兄の子(被相続人の孫)が代襲相続人となります。
孫が複数いる場合は、亡くなった子の相続分を均等に分け合います。また、孫も亡くなっていた場合には、ひ孫が再代襲相続人となるなど、直系卑属が続く限り代襲相続は発生し続けます。
一方、兄弟姉妹が先に亡くなったケースでは、その子(甥や姪)までしか代襲相続は認められません。甥・姪より下の世代への再代襲は発生しないため、注意が必要です。
相続欠格の場合
相続欠格に該当すると、相続人は相続資格を失います。例えば、被相続人を故意に死亡させたり、遺言書を偽造したりした場合が該当します。
相続欠格者に子がいた場合、その子が代襲相続人として相続権を得ることになります。特別な手続きは不要で、法律の規定によって自動的に代襲相続が発生します。
相続廃除の場合
相続廃除とは、被相続人に対する虐待や重大な侮辱があった場合に、家庭裁判所の決定で相続権を剥奪される制度です。廃除された相続人に子がいれば、その子が代襲相続人となります。
相続廃除は被相続人の意思による点が相続欠格と異なりますが、どちらの場合も代襲相続人による相続は発生します。
関連記事:代襲相続とは?代襲相続人の範囲と相続割合をパターン別に解説
代襲相続の対象外となる状況
代襲相続には例外もあります。相続人が相続放棄した場合や養子縁組前の子が孫にあたる場合が代襲相続の対象外です。
それぞれについて詳しく解説します。
相続人が相続放棄した場合
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を一切相続しない意思表示です。相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったとみなされるため、その子が代襲することはありません。
相続権は次の順位の相続人へと移ります。実際には、負債の多い相続で相続放棄するケースが多いです。
養子縁組前の子が孫にあたる場合
養子縁組前に生まれた養子の子(被相続人から見て孫)は、原則として代襲相続の対象外です。
しかし、養子が被相続人の実子の場合や、養子縁組後に生まれた子については代襲相続の対象となります。
代襲相続と相続税の基礎控除
代襲相続は相続税の基礎控除額に影響します。基礎控除とは、相続財産から差し引かれる非課税枠であり、代襲相続人の数によって変動します。
ここでは、代襲相続が与える基礎控除額や非課税枠への影響について見ていきましょう。
基礎控除額への影響
代襲相続による法定相続人の増加は、基礎控除額の増加につながる可能性があります。
特に代襲相続人が複数いる場合の基礎控除額について、理解しておきましょう。
代襲相続人が複数いる場合の基礎控除額
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算出します。代襲相続人も法定相続人の数に含まれるため、代襲相続人が増えるほど基礎控除額も増加します。
例えば、配偶者と子が1人の場合、法定相続人は2人ですが、子が死亡し孫が2人がいれば、計3人(配偶者と孫2人)となり基礎控除額が増えます。
代襲相続人が複数いると相続税負担が軽減される可能性が高くなります。
基礎控除額の例
例えば、配偶者と子2人の場合の基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。
子1人が死亡し、孫2人がいる場合の基礎控除額は「3,000万円+600万円×4人=5,400万円」に増加します。代襲相続人の差によって、相続税額に大きく影響します。
特に相続財産が基礎控除額に近い場合、代襲相続による人数増加で相続税がゼロになるケースも多いです。
非課税枠への影響
代襲相続は、死亡保険金や死亡退職金の非課税枠にも影響します。これらの非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算するため、代襲相続人が増えれば非課税額も増加します。
関連記事:生命保険を活用して賢く相続税対策!非課税枠や注意点を解説
関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説
代襲相続と相続税の2割加算
代襲相続では2割加算の適用も重要なポイントです。2割加算とは、一定の相続人が財産を相続する場合に税額が20%加算される制度です。代襲相続人の立場によって2割加算の適用有無が分かれます。
ここでは、2割加算の対象・対象外となる代襲相続人について解説します。
2割加算の対象となる代襲相続人
被相続人の甥や姪が代襲相続人として財産を相続する場合、2割加算の対象です。また、孫養子も対象となる場合があります。
相続税申告では、2割加算を見落とすと修正申告となるケースがあるので、注意しましょう。
2割加算の対象外となる代襲相続人
代襲相続人である孫には2割加算が適用されません。これは、直系卑属は血縁関係が近いとみなされるためです。
例えば、亡くなった人の子である孫が代襲相続した場合、2割加算は適用されません。相続税の計算では、この点を正確に把握することが重要です。
代襲相続における相続割合
代襲相続では、法定相続人の人数だけでなく相続割合も重要です。相続税額は最終的に実際の取得割合で計算されるため、正確な把握が必要です。
ここでは、代襲相続における法定相続分と遺留分について解説します。
法定相続分について
代襲相続人は本来相続人となるはずだった者の法定相続分を引き継ぎます。
例えば、被相続人の子が死亡していた場合、その子の複数の子(孫)は、親の相続分を人数で均等に分割して相続します。
相続時には、この分割計算を正確に行いましょう。
遺留分について
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められた最低限の相続分です。
孫が代襲相続人となった場合は遺留分がありますが、甥・姪には認められません。
遺留分の計算は、遺産総額に遺留分割合を乗じて算出し、代襲相続人が複数いれば分割されます。
この遺留分の有無が相続時のトラブルの原因になるので、相続人全員で認識しておきましょう。
関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説
代襲相続発生時の相続税の計算手順
代襲相続があっても、相続税計算の基本手順は変わりません。
ここでは、代襲相続発生時の相続税の計算手順について解説します。
1.相続財産の評価方法を確認する
まずは、相続財産の評価方法を確認します。
現金や預貯金、有価証券、不動産など、各財産は国税庁の定める方法で評価します。また、死亡保険金や死亡退職金も「みなし相続財産」として課税対象となります。
相続時には、不動産の評価方法の選択が税額に大きく影響するので、注意しましょう。
関連記事:【税理士監修】相続税はいくらからかかるのか?遺産総額別の相続税の概算まとめ
2.基礎控除額を算出する
次に基礎控除額を算出します。基礎控除額は、次の計算式で求めます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
代襲相続人も法定相続人に含まれるため、人数を正確に把握する必要があります。
例えば、配偶者と子1人(計2人)の場合を考えてみましょう。
被相続人の子はすでに亡くなっていた場合、その子である孫が相続することになります。
仮に孫が2人(孫A:25歳、孫B:15歳)いた場合、法定相続人は3人となるため、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」となります。
代襲相続時は代襲相続人を含めたすべての法定相続人を把握することが必要です。
3.法定相続分で仮分割する
課税対象となる遺産総額を法定相続分で仮分割し、各取得金額に税率を適用して計算します。
上記の法定相続人(配偶者と代襲相続人の孫2人)の場合にて、遺産総額が1億2,800万円のだったとします。
各法定相続分は以下の通りです。
- 配偶者: 1/2(6,400万円)
- 孫A: 1/4(3,200万円)
- 孫B: 1/4(3,200万円)
まず、遺産総額から基礎控除額を引いて、課税遺産総額を計算します。
- 課税遺産総額: 1億2,800万円 – 4,800万円 = 8,000万円
次に、算出した課税遺産総額(8,000万円)を法定相続分で仮分割します。
- 配偶者: 8,000万円 × 1/2 = 4,000万円
- 孫A: 8,000万円 × 1/4 = 2,000万円
- 孫B: 8,000万円 × 1/4 = 2,000万円
代襲相続人も本来の相続人の法定相続分を承継するという考え方で計算します。
この段階での計算ミスをすると修正申告する必要があるので正確に計算しましょう。
4.各相続人の相続税額を計算する
次に、上記で分けた金額にそれぞれ相続税の税率(速算表を参照)を掛けて控除額を引きます。
- 配偶者の税額:4,000万円 × 20% – 200万円 = 600万円
- 孫Aの税額:2,000万円 × 15% – 50万円 = 250万円
- 孫Bの税額:2,000万円 × 15% – 50万円 = 250万円
よって、相続税総額は600万円+250万円+250万円=1,100万円となります。
5.相続税総額を実際の取得割合で按分する
相続税の総額(1,100万円)を、実際に財産を取得した割合で分けます。例えば、法定相続分を実際に取得したケースでは以下です。
- 配偶者:1,100万円× 1/2=550万円
- 孫A:1,100万円× 1/4=275万円
- 孫B:1,100万円× 1/4=275万円
6.最終的な納税額を確定する
最後に配偶者控除や未成年者控除などを適用し、2割加算が必要な場合は加算して最終的な納税額を確定します。代襲相続人に甥・姪がいる場合は2割加算の対象です。
今回のケースでは、孫Aと孫Bは代襲相続人なので2割加算の対象にはなりません。
配偶者控除を適用する場合
配偶者には「配偶者控除」が適用されます。
配偶者の実際の取得割合で按分後の税額から配偶者控除を引きます。
- 配偶者の納税額 = 按分後の税額 – 配偶者の税額軽減額
なお、配偶者が取得した財産額が、以下のどちらか多い金額までは相続税がかかりません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
今回のケースでは、配偶者が取得した財産は6,400万円であり、上記1・2のどちらの金額も下回っています。
そのため、配偶者が負担すべき相続税は全額軽減され0円になります。
関連記事:【税理士監修】相続税の配偶者控除とは?計算方法や申告方法をわかりやすく解説
未成年者控除を適用する場合
次に、孫A、Bの最終納税額を計算します。
孫Aは成人しており、他に適用できる控除はないと仮定するため、275万円のままです。
孫Bは15歳で未成年者のため、「未成年者控除」が適用されます。
未成年者控除を適用する際の計算式は次の通りです。
- 未成年者控除額 = (18歳 – 相続開始時の年齢) × 10万円
よって、孫Bの未成年者控除額は(18歳−15歳)×10万円=30万円です。
この控除額を、按分後の税額から差し引きます。
- 275万円(按分後の税額)−30万円(未成年者控除額)=245万円
最終的な納税額
以上の計算により、各相続人が最終的な納税額は次の通りです。
- 配偶者:0円
- 孫A(25歳):275万円
- 孫B(15歳):245万円
納税額合計は、0円+275万円+245万円=520万円となります。
このように、相続税の総額は1,100万円でしたが、配偶者控除や未成年者控除などの制度を適用することで、実際に納める税金の合計額は520万円となります。
これらの控除や加算の適用漏れがある場合、後日の税務調査で指摘されるため、注意しましょう。相続税申告が不安な方は、専門家への相談をおすすめします。
関連記事:【税理士監修】相続税は節税できる?利用したい控除と効果的な対策方法
代襲相続時の注意点
代襲相続では、相続税の計算以外にも様々な注意点があります。ここでは、養子との関係や手続きの複雑化について解説します。
養子縁組の時期によって代襲相続の扱いが異なる
養子がいる場合の代襲相続は、養子縁組の時期によって扱いが異なります。養子は実子と同様に法定相続人となり、養子が先に死亡した場合はその子が代襲相続人になります。
しかし、養子縁組前に生まれた養子の子は、原則として代襲相続の対象外です。養子縁組は縁組後の親族関係のみを形成するため対象外となります。
関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?
相続手続きが複雑化する
代襲相続では、通常の相続より手続きが複雑になります。代襲相続人が増えると法定相続人の数が増えるため、遺産分割協議の調整が難しいです。
特に被相続人と面識がない相続人や遠方に住む相続人がいると、連絡や書類のやり取りに時間がかかります。
また相続税申告では、代襲相続の証明のために多くの戸籍謄本が必要です。これらの書類収集には時間がかかるため早めの準備が重要です。
関連記事:【税理士情報】相続手続きには戸籍謄本が必要。使う場面や入手方法、注意点などを解説
相続トラブルが発生しやすい
代襲相続では、これまで相続に関わる機会が少なかった遺族が突然相続人になるため、トラブルに発展しやすいです。
また、代襲相続人と他の相続人との間で遺産分割に関する認識の違いからトラブルが生じることがあります。特に被相続人と親しい関係になかった代襲相続人が現れると、他の相続人は困惑するでしょう。
相続欠格者・廃除者の子でも代襲相続は発生する
相続欠格や相続廃除に該当する人物がいても、代襲相続は発生します。
相続欠格・相続廃除の場合、本来の相続人は相続権を失いますが、その子は代襲相続人として相続権を得ます。
しかし、基礎控除額の計算時には相続欠格者や相続廃除者は法定相続人の数に含めません。
まとめ
代襲相続は本来の相続人が死亡したり相続権を失ったりした場合に、その子が代わりに相続する制度です。相続税の基礎控除額増加による税額軽減の可能性がある一方、甥や姪が代襲相続人となる場合は2割加算の対象となります。
また、代襲相続人が増えると相続手続きが複雑化し、遺族間のトラブルリスクも高まります。事前に代襲相続の仕組みを家族で共有しておくことで、円滑な相続につながるケースが多いです。
相続税の計算や手続きに不安がある方は、税理士などの専門家への相談をおすすめします。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。