「相続税についてのお尋ね」はいつ・誰に・なぜ届くの?対処法について解説

大切な方が亡くなった後、税務署から「相続税についてのお尋ね」という書類が届くことがあります。突然の見慣れない書類に、戸惑う方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、この「お尋ね」がどのようなもので、なぜ、いつ、誰に届くのか、そしてその後の適切な対処法を詳しく解説します。
目次
「相続税についてのお尋ね」とは
「相続税についてのお尋ね」は、税務署から相続人に送付される書類で、相続税の申告が必要かどうかを確認するためのものです。被相続人が亡くなってから6~8ヵ月後に届くことが一般的で、封書には「相続税の申告要否検討表」が同封されています。
税務署は市区町村役場から提供される死亡届の情報をもとに、相続税の申告が必要と思われる相続人を把握しています。相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内であるため、申告期限が近づく時期に送付されることで、相続人が申告漏れを防げるよう配慮されているのです。
参考:相続税の申告要否検討表
税務署はどうやって財産情報を把握している?
税務署が「相続税についてのお尋ね」を送付するということは、被相続人に関する情報を把握しているということです。税務署はさまざまな情報源から相続に関する情報を収集し、相続税申告の可能性が高いと判断した場合に送付します。
ここでは、税務署がどのようにして相続の発生や財産情報を把握するのかについて詳しく見ていきましょう。
相続発生は死亡届で把握
税務署は相続税法第58条に基づき、市区町村役場から通知される死亡届の情報によって相続の発生を把握します。家族が亡くなると、死亡を知った日から7日以内に死亡届を市区町村役場に提出する必要があり、この情報が管轄税務署に通知される仕組みです。
財産は確定申告書や不動産から把握
税務署は、故人の財産に関する情報を多角的に収集します。
過去の所得税の確定申告書や給与支払報告書のほか、不動産登記簿や固定資産課税台帳などの公的記録から不動産の所有状況を把握しています。また金融機関からの支払調書(生命保険金や退職手当金など)も重要な情報源となります。
これらの情報を総合的に分析し、相続税の申告が必要と思われる相続人を特定してお尋ねを送付しているのです。
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「相続税についてのお尋ね」が届く時期について
税務署から「相続税についてのお尋ね」が届く時期は、相続発生からの経過期間によって異なります。早期に届く場合と数年経過してから届く場合があり、それぞれ税務署の意図が異なるのです。
相続発生から6ヵ月から8カ月後
相続が発生してから6~8ヵ月後に「相続税についてのお尋ね」が届くケースが一般的です。相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内と定められているため、申告期限が近づく時期に送付されます。この段階では申告漏れを疑われているわけではなく、遺産内容を確認し、申告が必要な場合は準備を進めるよう促す案内の意味合いが強いといえます。
相続発生から数年後に届く場合もある
相続が発生してから数年が経過した後に「相続税についてのお尋ね」が届くケースもあります。この場合、税務署が申告漏れの可能性を把握している場合が一般的です。すでに申告期限を過ぎているにもかかわらず申告がされていない状況を確認する意図があります。
このような場合は、過去の財産状況を詳細に確認し、申告義務の有無を慎重に判断しましょう。不明な点がある場合は、税の専門家である税理士への相談がおすすめです。
関連記事:相続税の税務調査の時期はいつ?調査期間・範囲や調査が来るのが多いタイミングを解説!
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「相続税についてのお尋ね」は誰に届く?
「相続税についてのお尋ね」は、亡くなった人の遺産を相続する可能性が高いとされる相続人の代表者1名に届きます。相続の可能性が最も高いと判断した方に送付され、相続人全員に送られるわけではありません。
この書類が送付される主な対象者は以下の通りです。
- 故人の法定相続人
- 故人から遺贈を受けた人
- 故人から生前贈与を受けた人(相続時精算課税適用者など)
税務署は、故人の確定申告書や財産に関する情報をもとに送付対象者を選定しています。相続税申告書が同封されている場合は、税務署が相続税の発生を確実と見込んでいることを意味します。
なお、「相続税についてのお尋ね」が届いても、必ずしも相続税の申告が必要とは限りません。同封されている申告要否検討表で財産を計算し、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に申告が必要となります。
「相続税についてのお尋ね」の内容
「相続税についてのお尋ね」には「相続税の申告要否検討表」が同封されることが多く、この検討表を使って相続税の申告が必要かどうかを判断します。
検討表には以下の項目を記入します。
- 亡くなった方の氏名、生年月日、死亡日、職業
- 相続人の氏名、住所、亡くなった方との続柄、相続人の数
- 不動産(土地や建物)の所在地、面積、概算評価額
- 預貯金や有価証券(株式、公社債、投資信託など)の種類、金額
- 生命保険金や死亡退職金の金額
- その他の財産(自動車、書画骨董など)の種類、金額
- 生前贈与(相続時精算課税適用財産、死亡前3年以内または7年以内の贈与)の内容
- 借入金や未払い税金などの債務、葬式費用の金額
これらの情報を基に、相続財産の概算額を計算し、相続税の基礎控除額を超えるかどうかで申告の要否を判断します。
相続税の申告書が同封されている場合
「相続税についてのお尋ね」と同時に相続税の申告書が同封されている場合、税務署は相続税の申告が必要となる可能性が高いと判断しています。
申告書が同封されている場合は、速やかに遺産の内容を確認し、相続税申告の準備を始めましょう。申告期限までに正確な申告を行うため、財産評価や遺産分割協議に早めに着手することが大切です。
「相続税についてのお尋ね」への回答義務はある?
「相続税についてのお尋ね」に回答する義務はあるのか、無視した場合の影響について解説します。書類を受け取った際の適切な対応を理解しておきましょう。
義務はないが回答はした方が良い
「相続税についてのお尋ね」は、法的な提出義務がある書類ではありません。しかし、税務署からの問い合わせには回答することが望ましいとされています。回答しない場合、税務署は申告漏れや財産の隠匿を疑う可能性があります。
相続税がかからないと判断した場合でも、その旨を記載して返送することで、税務署の疑問を解消し、将来の税務調査リスクを軽減できます。適切な回答により、税務署に対して誠実な姿勢を示せるでしょう。
申告準備中の場合は10ヵ月以内に申告を
もし税理士に相続税申告を依頼し、手続きを進めている場合は「お尋ね」への回答は必須ではありません。相続税の申告期限である相続発生から10ヵ月以内に申告書を提出すれば問題ありません。
申告書の提出自体が、お尋ねへの実質的な回答となります。ただし、より丁寧な対応として、申告書とともにお尋ねの回答を提出することも可能です。
回答や提出の期限は?
「相続税についてのお尋ね」には、通常、回答期限が記載されています。書類が届いたら、まずはその期限を確認しましょう。期限までに回答書を作成し、税務署へ返送します。
相続発生から比較的早い時期に届いた場合は申告期限までに時間がありますが、相続発生から数年経過したあとに届いた場合は、すでに申告期限を過ぎている可能性が高いです。その場合は、速やかに当時の財産状況を調査し、申告要否を判断しましょう。期限後の申告となる場合、無申告加算税や延滞税が発生する可能性があります。
いずれのケースでも、お尋ねが届いたら速やかに内容を確認し、記載された期限内に対応することが大切です。
虚偽や誤った回答をした場合はどうなる?
「相続税についてのお尋ね」に虚偽内容を記載しても、直接的な罰則規定はありません。しかし税務署はさまざまな情報源から財産情報を把握しているため、虚偽の回答は発覚する可能性が高いでしょう。
虚偽の回答により税務調査に発展し、隠していた財産が発覚した場合、本来の相続税に加えて重いペナルティが課されます。
もし悪質な仮装・隠蔽と判断されれば、無申告加算税より税率の高い重加算税(40%)が課される可能性があります。正直かつ正確な情報を記載することが、結果的に自身を守ることにつながります。
参考:法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)|国税庁
「相続税の申告要否検討表」の書き方について
「相続税についてのお尋ね」に同封されている「相続税の申告要否検討表」の書き方が分からない場合、まず書類に記載されている記入例や説明を確認しましょう。
国税庁のWebサイトでも申告要否検討表の様式や記入方法に関する情報を確認できます。
それでも不明な点がある場合は、税務署の窓口に相談することも可能です。税務署では一般的な書き方や制度の説明は受けられますが、個別の財産評価や具体的な相続税額の計算に関する詳細な相談は対応が難しい場合があります。複雑なケースや財産の種類が多い場合は、不動産鑑定士や公認会計士、納税については税理士へ相談することを検討しましょう。
相続税の申告で注意したいこと
「相続税についてのお尋ね」を受け取ったら、相続税の申告が必要かどうかを判断する必要があります。申告の要否は、相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超えるかどうかで決まります。ここからは、その判断方法について詳しく見ていきましょう。
基礎控除額は合っているか
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。この基礎控除額が相続税が課税されるかどうかの基準です。
まずは法定相続人の数を確認し、上記の計算式を用いて基礎控除額を算出します。
例:法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人の場合
基礎控除額=3,000万円+600万円×3人=4,800万円 |
関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?
相続財産の評価は正しいか
相続財産には、主に以下のようなものが含まれます。
- 現金や預貯金
- 株式や投資信託などの有価証券
- 土地や建物などの不動産
- 自動車、書画骨董など
これらの財産をすべて洗い出し、相続発生時点での評価額を算出します。
不動産は路線価や固定資産税評価額を用い、株式は取引価格や基準価額を参考にします。生命保険金や死亡退職金には非課税枠(500万円×法定相続人の数)がありますが超過分は課税対象です。
すべての相続財産の評価額から借入金、未払い税金、葬式費用などを差し引いた正味の遺産額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告と納税が必要になります。
参考:財産評価|国税庁
関連記事:【税理士監修】申告で重要になる相続税路線価の概要や調べ方をわかりやすく解説
関連記事:【税理士監修】株の相続が発生したら?取るべき手続きや株の相続方法について解説
申告漏れはないかチェック
申告漏れがあった場合、本来の相続税に加えて追徴課税が課されます。主なペナルティは無申告加算税と延滞税です。
無申告加算税は、期限内に申告しなかったことに対して課される税金で、納付すべき税額の15%(50万円を超える部分は20%)が加算されます。延滞税は納付遅延に対する利息で、遅延期間に応じて増加します。
意図的な財産隠しなど悪質と判断された場合は、無申告加算税に代えて、より税率の高い重加算税(40%)が課される可能性があります。これらのペナルティは相続税負担を大幅に増加させるため、申告漏れには十分な注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】相続税の時効は5年?時効が成立することはあるのか?
まとめ:専門家への相談
「相続税についてのお尋ね」が届いた場合、内容を確認し、相続税の申告が必要かどうかを判断することが重要です。判断が難しい場合は税務署に相談するか、相続税に詳しい税理士に相談しましょう。
税務署では相続税に関する基本的な相談を受け付けており、制度の概要や申告の流れ、控除の仕組みなどの説明を受けられます。国税局電話相談センターでは譲渡所得、相続税、贈与税、財産評価に関する相談も可能です。
税理士は正確な財産評価や相続税額の計算、申告書の作成・提出をサポートし、税務署とのやり取りにも対応してくれます。また適切な特例の適用により、相続税負担を軽減するアドバイスも受けられるでしょう。
税務に関する手続きは複雑であり、誤りがあるとのちの負担が大きくなる可能性があります。安心して相続手続きを進めるためにも、専門家である税理士の力を借りてみてはいかがでしょうか。
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相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。