農地売却に課せられる税金の特別控除って?農地を相続した際の相続税についても解説

農地を売却すると、その売却益には税金が課せられます。本記事では、農地を売った際に課せられる税金の概要や特別控除について解説しています。
また、農地を相続した際の相続税は、どのようにすれば節税できるのかという点についても併せて紹介しています。農地の相続や売却は、税金に関する知識や制度を理解することが重要であるため、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
農地を相続すると相続税が課せられる
亡くなった方が所有していた農地を相続すると相続税が課せられます。
相続税とは、亡くなった方が保有する財産を引き継いだ際に、受け取った側に対して課せられる税金です。被相続した農地から現金収入が得られなかったとしても、相続税が発生するケースはめずらしくありません。
相続税の税率は相続した財産の金額により異なります。詳細な税率を知りたい方は、農林水産省のHPで確認しておきましょう。
相続税の基となる農地の評価方法
農地にかかる相続税を算出する際には、相続した農地の評価額というものを基準にする仕組みになっています。農地は4種類に区分され、評価方法は3種類あり、農地の場所や利用状況によって異なります。
農地の区分 |
評価方法 |
特徴 |
---|---|---|
純農地・中間農地 |
倍率方式 |
固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価する |
市街化区域農地 |
宅地並み評価 |
宅地として評価を行い、造成費などを差し引く |
市街化調整区域農地 |
原則として倍率方式を採用 |
原則として農地評価を行う |
農地の評価においてポイントとなるのは、農地の区分と利用状況です。上記で説明した3つの方法のうち、宅地として評価される市街化区域農地は特に評価が高くなると言われています。また、耕作中の農地は原則として農地として評価されるのに対して、耕作を行っていない遊休農地については雑種地や宅地並みとして評価されるため、評価が高くなる可能性があります。
関連記事:【税理士監修】土地にかかる相続税はいくらになる?計算方法や節税方法などポイントを解説
相続税の納税には猶予制度がある
農地を相続した人が相続税をすぐに支払えない場合は、猶予制度の利用を検討してみましょう。この猶予制度は、農地を相続した人の相続税の負担を軽減する目的で設けられているため、相続した人が農業後継者になり、受け継いだ農地を継続して耕作する必要があります。この制度を利用した場合の猶予される金額は、以下の計算式で算出可能です。
本来の納税額-農業投資価格で求めた納税額 |
また、猶予された税金については一定の条件を満たすと納税が免除されます。具体的な条件は以下の通りです。
- 農業相続人が亡くなった場合
- すべての農地を後継者に一括で生前贈与する場合
- 三大都市圏の特定市以外の市街化区域農地に該当し、農業相続人が20年間農業を継続した場合
上記のいずれかに当てはまる場合は、猶予された税金が免除されます。
農地売却によって課せられる税金
受け継いだ農地を売却する場合は、印紙税、登録免許税、譲渡所得税といった税金が課せられます。以下では、それぞれの税金についてより詳しく解説していきます。
印紙税
農地を売却する際には、契約書を交わさなければなりません。この契約書は課税文書に該当するため、印紙税の支払いが義務付けられています。印紙税の税額は取引金額によって異なり、原則として収入印紙を使用して納税します。
登録免許税
農地を売却する際には、その土地の持ち主が変更となるため登記の変更が必要です。登記を変更する場合には登録免許税が発生しますが、原則として登録免許税を負担するのは買い手側です。ただし、場合によっては一部を売り手が負担するケースもあります。
不動産売買における登録免許税の税率は2%です。ただし、令和8年3月31日までに登記の変更を行う場合は軽減税率の1.5%が適用されます。
譲渡所得税
農地を売却した際に発生した利益には譲渡所得税という税が課され、農地を所有していた期間によって税率が異なります。具体的な税率は、所有期間が5年以下の場合は30.63%、5年超の場合は15.315%です。この税率は譲渡所得税と復興特別所得税を合わせたもので、復興特別所得税が課せられるのは2037年12月31日までとなっています。
譲渡所得税は譲渡所得の金額に税率を掛けて求めます。税額の基となる譲渡所得の計算方法は以下の通りです。
売却価格-(取得費+譲渡にかかった費用) |
取得費とは、農地を取得するにあたって生じた費用を指します。その金額と譲渡の際に発生した経費を合算し、売却価格から差し引くのです。また、特別控除が適用される場合は、その金額からさらに控除額を差し引くことが認められています。
参考:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁
住民税
農地の売却により利益を得ると、その利益に対して住民税が発生します。住民税の税率は、譲渡所得税と同様に農地を所有していた期間によって区分されており、所有期間が5年以下の場合は9%、5年超の場合は5%です。
農地売却時の譲渡所得税には特別控除が適用されるケースも
農地売却によって課せられる譲渡所得税には、所得から一定額を差し引ける特別控除という制度が設けられています。特別控除には主に5,000万円、3,000万円、1,500万円、800万円の4種類があり、それぞれ適用される条件が異なるのです。以下では、それぞれの特別控除について詳しく解説していきます。
5,000万円の控除
珍しいケースではありますが、国が公共事業のために農地を買い取る場合は、5,000万円の特別控除が適用されます。この場合、確定申告時に買取を証明する書類を添付することで5,000万円が控除されます。
3,000万円の控除
農地の一部に居住用の住宅があり、そこに住んでいた場合は最大3,000万円の控除が適用される場合があります。この制度には適用要件が設けられており、この要件を満たす場合にのみ利用できます。主な適用要件は以下の通りです。
- 売却する人が住んでいた住宅である
- 住まなくなってから3年目の12月31日までに売る
- 売却した年とその前年、前々年にローン控除の適用を受けていない
この他にも細かな要件が設けられているため、自身が当てはまるか否かは国税庁が作成しているチェックシートを用いると良いでしょう。
参考:居住用の家屋や敷地(居住用財産)を譲渡した場合の特例チェックシート|国税庁
1,500万円の控除
農地が農業経営基盤強化促進法に基づき、買入協議によって売却した場合は1,500万円の控除が受けられる可能性があります。具体的には、農地を所有している人が農業委員会に対してあっせんの申し入れをした後に、自治体と協議したうえで農地の売却を行った場合に適用される制度です。
売却した農地は農地中間管理機構に譲渡される仕組みになっています。上記に当てはまる場合でも、自治体によって定められた面積などの条件を満たす必要があるため、この制度を利用したい場合は一度自治体に確認しておくと安心です。
要件を満たす場合は、下記の書類が必要となります。
- あっせん申出書
- 農地の全部事項証明書
- 公図
- 農業経営基盤強化促進事業による所有権移転申出書
この制度についての不明点は、自治体または農業委員会に問い合わせてください。
800万円の控除
農業委員会では、農地の拡大を希望している人に向けて土地をあっせんする業務も担っています。このようなケースでは800万円の控除を利用できます。また、この他にも、農地保有合理化法人や認定農業者等などに売却した場合も対象となります。
この控除を利用する場合は、確定申告時に下記の書類を添付しなくてはなりません。
- 土地、建物用の譲渡所得の内訳書
- 農地保有の合理化を目的とした譲渡であることの証明書
ただし、本制度は抵当権が設けられている場合は適用できない点に留意しておきましょう。
農地売却の手順と注意点
原則として、農地を売る場合は農業委員会に許可を得なければなりません。農業委員会の許可が下りなければ登記や所有権の移転は無効になるきまりです。ただし、市街化区域内の農地から宅地に転用する場合や公的機関に譲渡する場合は、届け出のみで認められる可能性があります。売却の流れは次の通りです。
- 農地の区分の確認
- 買主を探す
- 農業委員会への申請
- 農業委員会による審査および許可
- 売買契約の締結
- 所有権移転登記
以下では、それぞれの項目についてより具体的に解説していきます。
農地の区分の確認
農地を売るにあたってまず必要なのが、農地の区分確認です。農地の評価方法でも触れましたが、農地には市街化区域や市街化調整区域といった区分が設けられており、区分によって売却手続きに若干の違いが生じます。原則として、市街化調整区域は農地のまま売却しなくてはなりません。
具体的な確認方法は、自治体の都市計画課または農業委員会に問い合わせることで、回答してもらえます。
買主を探す
農地のまま売却する場合は、買主が農業事業者でなければなりません。転用の場合は買主に縛りはありませんが、農業委員会の審査に通らなければ売れなくなるという点をあらかじめ説明し、了承を得なければなりません。買手が見つからない場合は、農地バンクや農協などに相談すると良いでしょう。
買主が見つかったら、仮の売買契約を結び契約案を作成します。これは、申請の際に売却後の農地がどのように扱われるのかを証明する目的があります。売却後の所在が不透明なままでは許可が下りない可能性が高いため、あらかじめ契約案の作成が必要なのです。
農業委員会への申請
農業委員会への申請内容は、農地のまま売却するか否かによって異なります。農地のまま売却する場合は農地法の第3条の許可申請、宅地などに転用して売る場合は農地法の第5条の許可申請を行います。
許可申請には、登記簿謄本、公図、位置図、売買契約書案などが必要となるため、前もって準備しておきましょう。
農業委員会による審査および許可
通常、審査には1〜2か月程度の期間を要すると言われています。審査を経て許可が下りるまでは、売買契約の効力は発生しません。許可が下りた場合は、都道府県知事から許可証が交付されます。これをもって、本契約の締結へと進めるのです。
売買契約の締結
申請の際に作成していた売買契約案をベースに、正式に売買契約を結びます。原則として、契約書には農地法の許可が得られることを条件とする項目を入れます。審査期間中に、土地の境界確認や測量を済ませておくと契約がスムーズに進められます。
所有権移転登記
契約が締結できたら、代金の引き渡しと登記を行いましょう。この際には、登録免許税が発生します。登記をもって、持ち主は元の所有者から買い手に変更となります。
関連記事:【税理士監修】土地の評価額は複数存在する。評価額の調べ方や計算方法、注意点も解説
農地を売却する場合は特別控除を利用して節税しよう
農地の売却は、通常の土地の取引よりも手続きに時間を要します。特に、誰にどのような目的で売るのかによって、申請内容が異なる点が特徴的です。また、売却益にかかる譲渡所得税には税額を抑えられる特別控除という制度が設けられています。
特別控除は売却の内容によって適用される控除額が異なるため、条件や売却内容について把握しておく必要があります。特別控除を利用すれば、大幅な節税に繋がるため、地域の農業委員会や税理士などの専門家と連携を取りながら手続きを進めていきましょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。