相続税と贈与税の一体化とは?実施の目的や具体的な施策を解説

相続税と贈与税の一体化とは、財産を移転する時期に関係なく中立的な税制を構築することです。相続税と贈与税の一体化が実現すれば、財産移転が生前と死後のどちらに行われても税負担が同程度になります。

令和5年度の税制改正では、相続税と贈与税の一体化の第一歩といえるような変更が行われました。今回は相続税と贈与税の一体化について詳しく解説します。

相続税と贈与税の一体化とは

贈与税の申告書

相続税と贈与税の一体化とは、財産の移転が生前と死後のどちらに行われた場合でも税負担を同じにすることです。相続税と贈与税の一体化が進めば、相続税対策としての生前贈与という概念自体がなくなる可能性があります。

相続税と贈与税の一体化を進める背景

直近で相続税と贈与税の一体化につながる大きな変更が行われたのは令和5年度の税制改正です。同年度における税制改正の解説資料の中で、相続税と贈与税の一体化を進める背景について以下の説明が挙げられています。

  • 近年は高齢化によりいわゆる「老老相続」が増加し、若年世代への資産移転が進みにくい状況にある
  • 相続税よりも贈与税の方が税率が高いため、生前にまとまった財産を贈与しにくい
  • 相続財産が多い場合、財産を生前に分割して贈与することで相続税よりも低い税率が適用される仕組みとなっている
    →暦年課税の基礎控除を活用した少額の生前贈与を繰り返した場合と、生前贈与をせず相続だけをした場合で、相続税額に大きな違いが出てしまう

参考:相続税・贈与税のあらまし|国税庁

また、この「相続税・贈与税のあらまし」の中では、改正の背景について以下のように説明がされています。

資産の移転の時期(回数・金額含む)にかかわらず、納税義務者にとって、生前贈与と相続を通じた資産の総額に係る税負担が一定となることにより、「資産移転の時期の選択に中立的な税制」が図られている。

引用:相続税・贈与税のあらまし(2)資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築とは

まとめると「生前・死後問わず時期に関係なく税負担を同じにすることで、個々のニーズに合う資産移転を可能にする」が目的です。

ただし、急激な税制改正は混乱を招く恐れがあります。また、資産移転の時期の選択以外にも考えるべき観点が多数存在するため、現在も議論が続いています。

諸外国の相続・贈与に関する税制

相続税と贈与税の一体化を進めるにあたって参考にされている要素の1つが、諸外国の資産移転に関する税制です。

税務大学校の資料で例に挙げられている諸外国の相続・贈与に関する税制と、日本の税制の大きな相違点を紹介します。

アメリカ

ドイツ・フランス

日本

制度の名称(呼称)

遺産課税方式

遺産取得課税方式

法定相続分課税方式

特徴

一生涯の累積贈与額および相続財産額に対して課税

一定期間の累積贈与額と相続財産額に対して課税。

相続税の課税対象になる生前贈与の範囲が10~15年とかなり広い

【暦年課税】
贈与税と相続税は別体系であり、贈与税は相続税に比べて税率が高い

【相続時精算課税】
贈与税と相続税は別体系だが、相続発生後に累積贈与額と相続財産額に対して一体的な課税が行われる

資産移転の時期にかかる中立性

中立的

中立的

【暦年課税】
中立的ではない

【相続時精算課税】
中立的

参考:相続税・贈与税のあらまし|国税庁

表のように、アメリカやドイツ・フランスは資産移転の時期に中立的な体制です。若年世代への資産移転が進みにくい状況を改善するために、日本も諸外国にならって税制改正を進めようという流れがみられます。

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関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

【令和5年度税制改正】相続税と贈与税の一体化に関する変更

税制改正

令和5年度の税制改正によって実施された、相続税と贈与税の一体化に関する3つの変更について解説します。

参考:令和5年度税制改正

変更点1:相続税の課税対象とする暦年贈与の範囲拡大

暦年課税は贈与税の原則的な課税方式で、後述する相続時精算課税を選択しない場合は自動的に暦年課税が適用されます。暦年課税の場合、1月1日から12月31日までの1年間で受けた贈与財産の合計額から基礎控除を差し引いた額に対して課税されます。

令和5年度の税制改正により以下2つの変更が行われています。

  1. 暦年課税による贈与を受けた財産について相続財産に加算する期間を相続開始前3年間から7年間に延長
  2. 延長4年間に受けた贈与については総額100万円まで相続税の課税価格に加算しない

相続税の課税対象に含まれる生前贈与の範囲が広くなりました。税制改正前よりも、贈与税の基礎控除を活用した生前贈与による相続税の節税対策をし辛くなったといえるでしょう。

関連記事:【税理士監修】生前贈与はいくらまで非課税?効果的な節税の方法や注意点を解説

関連記事:【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説

変更点2:相続時精算課税に係る年110万円の基礎控除の創設

相続時精算課税とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子供・孫へ財産を贈与した場合に選択できる制度です。対象の贈与者からの贈与財産2,500万円まで贈与税がかからなくなる代わりに、贈与者が亡くなった時に相続税の課税対象になります。

以前は相続時精算課税に基礎控除枠がありませんでした。しかし令和5年度の税制改正により、年110万円の基礎控除が創設されています。

例えば、相続時精算課税を適用して1年目に500万円、2年目に800万円、3年目に1,000万円の贈与を受けた場合、相続税の課税対象は以下のようになります。

  • 1年目:500万円-110万円=390万円
  • 2年目:800万円-110万円=690万円
  • 3年目:1,000万円-110万円=890万円
  • 合計:390万円+690万円+890万円=1,970万円

もともと、相続時精算課税は相続税と贈与税の一体化措置として導入された制度です。しかし利用状況が低迷しており、制度の目的が達成されているとは言い難い状況でした。税制改正の解説資料の中で、相続時精算課税の利用を推進する観点から基礎控除の創設が行われた旨が記載されています。

参考:相続税法の改正|財務省

関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

変更点3:相続時精算課税による贈与を受けた土地・建物が災害による被害を受けた場合の軽減措置の創設

相続時精算課税による贈与を受けた土地・建物が災害による被害を受けた場合の軽減措置が創設されました。新たに創設された制度は「相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例」と呼ばれます。

本特例の適用を受ける場合、土地・建物の贈与時における価額から、災害による被害を受けた部分の価額を控除した額が相続税の課税対象となります。

参考:災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る 土地又は建物の価額の特例について

参考:B1-107 災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例に関する承認申請手続|国税庁

相続税と贈与税の一体化に向けた今後の動きにも注目するべき

令和5年度の税制改正で、相続税と贈与税の一体化に向けた大きな変更が行われました。いずれも、相続税の節税対策に関する常識を大きく変えるものといえるでしょう。

相続税と贈与税の在り方については幅広い観点から議論を行う必要があると考えられており、現在も議論が続いています。相続税や贈与税について今後また大きな変更が行われる可能性もあるため注意が必要です。

資産移転にかかる税負担を最小限に抑えるには、税制改正の内容を踏まえた上で節税対策を行う必要があります。

とはいえ、税金に関する最新情報の把握および最適な節税対策の検討・判断を行うのは容易ではありません。税制に則した効果的な節税対策を行うためには、専門家である税理士のサポートを受けるのが確実です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。