遺贈・相続・贈与の違いとは?必要な手続きや発生する税金など注意点を解説

特別受益のイメージ

遺贈・相続・贈与はいずれも財産の譲渡行為を意味しますが、それぞれの有する性質には大きな違いがあります。遺贈・相続・贈与のどれに該当するかによって、必要な手続きや発生する税金が異なります。手続き等のミスや漏れを起こさないためには、遺贈・相続・贈与のどれに当たるか正しく判断できるよう違いを押さえることが大切です。今回は遺贈・相続・贈与の違いについて詳しく解説します。

遺贈・相続・贈与の違い一覧表

遺贈・相続・贈与の違いとして、「発生要因」「発生する税金」「譲渡前に必要な手続き」「譲渡先に関する制限」の4つが挙げられます。以下の表は、それぞれの違いをまとめたものです。

遺贈

相続

贈与

発生要因

元の所有者の死亡

元の所有者の死亡

【生前に行う贈与】
特になし。双方の合意があり、手続きが完了すれば贈与が成立する

【死因贈与】
双方の合意により贈与契約が締結された後、元の所有者の死亡によって効果が生じる

税金

相続税

相続税

原則として贈与税

※死因贈与および相続時精算課税を適用した贈与は相続税

譲渡前に必要な手続き

遺言書の作成

特になし

譲渡人と譲受人双方の合意

譲渡先に関する制限

特になし

民法で定められた法定相続人のみ

特になし

表の通り、贈与は元の所有者の存命中に財産移転が完了する贈与と、元の所有者の死亡によって成立する死因贈与の2つに大別されます。さらに、存命中の贈与には暦年課税と相続時精算課税の2つの課税方式があり、それぞれ税金が異なる点にも注意が必要です。

以下で、遺贈・相続・贈与それぞれについてさらに詳しく解説します。

関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説

遺贈とは

遺贈

遺贈とは、遺言によって特定の相手に財産を譲渡することです。遺贈を行うためには、事前に遺言書を作成する必要があります。

関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント

発生する税金

遺贈に対して発生するのは相続税です。名称に「贈」の文字が使われていますが、贈与税の課税対象ではありません。

譲渡先に関する制限はない

遺贈の場合、譲渡先に関する制限は特にありません。法定相続人以外への譲渡も可能です。また、人物だけでなく団体や法人を譲渡先にすることもできます。

遺贈が適した場面の例

遺贈が適した場面として以下の例が挙げられます。

  • 遺産を相続順位の低い親族へ引き継がせたい
  • 遺産を法定相続人以外へ引き継がせたい
  • 団体や法人などの個人以外を譲渡先にしたい
  • 相続人ごとに引き継がせる財産の種類を指定したい
  • 法定相続分とは異なる割合で遺産を引き継がせたい
  • 相続人同士のトラブルを防ぐため遺産分割について事前に指定したい

基本的に、民法が定めるルールとは異なる方法で遺産を譲渡したい場合に適した手法です。また、遺産分割協議によるトラブルを防止する手段としても用いられます。

相続とは

相続

相続とは、亡くなった人の財産を特定の人が引き継ぐことです。生前に遺言書の作成や死因贈与の契約などの特別な手続きを行なっていない限り、死亡によって自動的に相続が発生します。

発生する税金

相続に対して発生するのは相続税です。

相続税は相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に申告および納税を行う必要があります。ただし、課税対象となる遺産総額が相続税の基礎控除額以下の場合は相続税が発生せず、申告義務もありません。相続税の計算方法や基礎控除の仕組みについては以下の記事をご覧ください。

関連記事:【税理士監修】相続税の自分で計算する方法と、シミュレーションする際のポイントを解説

相続できるのは法定相続人のみ

相続により財産を取得できるのは原則として法定相続人のみです。

法定相続人とは相続権を有する人のことで、配偶者および以下のうち最も順位の高い血縁者が法定相続人となります。

  • 第一順位:直系卑属(子または孫)
  • 第二順位:直系尊属(親または祖父母)
  • 第三順位:兄弟姉妹または甥姪

例えば被相続人の配偶者、子供、親が存命の場合、法定相続人になるのは配偶者と第一順位の子供です。第一順位の血縁者がいるため、この例の場合は親は法定相続人になれません。

また、民法では法定相続人ごとの相続割合も定められています。相続割合については以下の記事をご覧ください。

関連記事:【税理士監修】遺産相続の順位とは?法定相続人の意味や相続割合、具体的な例などを解説

贈与とは

贈与

贈与とは、一方が相手方に財産を無償で譲渡する行為です。

贈与は生前贈与死因贈与の2つに大別できます。

死因贈与とは贈与者の死亡によって効力が生じる贈与です。贈与契約自体は生前に行われますが、実際に財産の移転が起こるのは贈与者の死後となります。

生前贈与は存命中に財産移転が完了する贈与全般を指す言葉です。生前贈与には以下のようにさまざまな種類が存在します。

  • 暦年贈与
  • 定期贈与
  • 負担付贈与
  • 条件付贈与
  • 相続時精算課税制度を利用した贈与

いずれの贈与も、贈与を行う人(贈与者)と贈与を受ける人(受贈者)の双方の合意が必要です。贈与者が財産を無償で譲渡する旨の意思表示を行い、受贈者が承諾することで贈与が成立します。

生前贈与と死因贈与の違い

前述のように生前贈与には複数の種類がありますが、今回は個々の詳細は割愛します。

生前贈与と死因贈与の大きな違いは税金です。生前贈与には贈与税、死因贈与には相続税が課せられます。

ただし例外として、生前贈与でも相続時精算課税制度を利用した場合は相続税の対象です。相続時精算課税制度については以下の記事をご覧ください。

関連記事:【税理士監修】相続時精算課税制度とは?基本事項からポイントまでわかりやすく解説

遺贈と死因贈与の違い

遺贈と死因贈与の大きな違いは、双方の合意が必要か否かです。

遺贈は遺言書による一方的な意思表示で成立します。遺贈のように、当事者のうち一方の意思表示のみで効果が発生する法律行為を単独行為といいます。

死因贈与は贈与の一種であり、前述のように贈与者と受贈者の双方の合意が必要となります。法律上は口約束でも契約が成立するとされていますが、口約束を立証するのは難しいため、契約書を作成するのが一般的です。

相続税と贈与税のどちらが発生するかの判断基準とは

遺贈は名称に「贈」が含まれていますが、相続税の対象です。また、同じ贈与に該当する取引でも、生前贈与と死因贈与では発生する税金が異なります。

相続税と贈与税のどちらが発生するかの判断基準は、財産の移転が完了するタイミングが元の所有者の生前・死後のどちらであるかです。

元の所有者の存命中に財産の移転が完了して所有者が変わるのであれば、原則として贈与税が課税されます。一方で相続・遺贈・死因贈与のように、財産の移転が元の所有者の死後に行われるのであれば相続税の課税対象です。

例外として、相続時精算課税を適用した贈与は財産の移転自体は元の所有者の存命中に行われるものの、相続税が課せられます。

適切な手続きのために遺贈・相続・贈与の違いを押さえよう

遺贈・相続・贈与は似ている部分が多く混同されやすいですが、全く異なる行為です。それぞれ正しく区別するためには、「発生要因」「発生する税金」「譲渡前に必要な手続き」「譲渡先に関する制限」の4つの違いを押さえるのが良いでしょう。

特に注意するべきなのが発生する税金の違いです。基本的に、財産の移転が元の所有者の生前に完了する場合は贈与税、死後に完了する場合は相続税の対象になります。ただし「相続時精算課税を適用した贈与」という例外があるためご注意ください。

贈与税と相続税は税率や計算方法が全く異なります。どちらの税金が発生するかの正しい判断はもちろん、それぞれの税金の違いについても押さえる必要があります。

贈与税と相続税は、いずれも計算方法が複雑であり、少しのミスや節税対策の有無が税額を大きく左右する可能性も高いです。適切な申告・納税および節税対策のためには、専門家である税理士のサポートを受けることをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。