相続税対策|相続財産から債務控除できるもの

債務・借金の整理・確認をする配偶者

相続税の計算では、被相続人の財産だけでなく、負債も引き継ぎます。そのため、被相続人が残した借入金などの債務や相続に際して発生する特定の費用を遺産総額から差し引くことになります。言い換えれば、この債務により相続税の負担を軽減することも可能です。この仕組みを「債務控除」といいます。

今回の記事では、債務控除の対象となるもの、ならないものについて詳しく解説します。

債務控除の基本

債務控除は、相続税を計算する際の重要な要素です。ここでは、債務控除の基本的な考え方とその対象となる範囲について解説します。

関連記事:【税理士監修】相続税は節税できる?利用したい控除と効果的な対策方法

債務控除とは

債務控除とは、相続税を計算する際に被相続人が遺した借入金や未払金などの債務、および葬式費用を相続財産の総額から差し引ける制度です。これにより相続税の課税対象となる財産額を減らし、相続税額を軽減できます。

相続財産には、現金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。これらマイナスの財産を考慮するのが債務控除の目的です。債務控除が適用されるのは、相続開始時点で存在が確実と認められる債務と特定の葬式費用です。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

債務控除の対象となる範囲

債務控除の対象は、被相続人が亡くなった時点で「確実に存在した」と認められる債務と、特定の葬式費用です。具体的には以下のものが挙げられます。

【債務控除の対象となるもの】

  • 金融機関からの借入金
  • 連帯債務(被相続人の負担分)
  • 未払いの税金(所得税、住民税、固定資産税など)
  • 未払い医療費
  • その他の未払い費用(公共料金、クレジットカード利用料、敷金など)
  • 葬式費用(通夜・告別式費用、火葬・埋葬・納骨費用、お布施など)

【債務控除の対象とならないもの】

  • 保証債務(例外あり)
  • 団体信用生命保険付きの住宅ローン
  • 非課税財産(墓地、仏壇など)に関する未払い金
  • 相続財産の管理や遺言執行に関する費用
  • 葬式費用に含まれない費用(香典返し、法事・法要費用など)

これらの項目について、以降で詳しく解説します。

参考:第13条《債務控除》関係|国税庁

債務控除の対象となる借入金

銀行口座、金融機関のイメージ

被相続人が生前に負っていた借入金は、相続税の債務控除の対象となる場合があります。以下より、どのような借入金が控除できるのか具体的に見ていきましょう。

金融機関からの借入金

銀行などの金融機関からの借入金は、相続税の債務控除の主な対象です。相続開始時点での借入金残高と未払い利息が控除対象となります。例えば、住宅ローンや事業資金の借入金などがこれに該当します。

金融機関での相続手続きの際は、借入金の残高証明書を取得し、債務控除の申告に備えましょう。ただし団体信用生命保険付きの住宅ローンは、被相続人の死亡により保険金で債務が補填されるため、債務控除の対象となりません。

参考:団体信用生命保険に係る課税上の取扱いについて|東京国税局

関連記事:【税理士監修】相続税の申告が不要になるのはどのようなケースか?相続税の注意点についても解説

連帯債務

連帯債務とは、複数の債務者が同一の債務に対してそれぞれ全額の弁済義務を負う債務形態です。被相続人が連帯債務者の一員であった場合、被相続人の負担すべき金額が明らかであれば、その金額を債務控除できます。

もし他の連帯債務者が弁済不能となり、被相続人がその負担部分を超えて弁済しなければならない場合で、かつ求償権を行使しても弁済を受ける見込みがないときは、その弁済不能部分の金額も債務控除の対象となります。

連帯債務の取扱いは、債務者間の負担割合や他の債務者の状況によって控除額が変わる可能性があるため、個別の状況に応じた判断が必要です。連帯債務がある場合は専門的な検討が必要となるため、税理士への相談をおすすめします。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

債務控除の対象とならない借入金

さまざまな税金(住民税・所得税・消費税・固定資産税・相続税・贈与税)

被相続人が負っていた借入金の中には、相続税の債務控除の対象とならないものもあります。ここでは、どのような借入金が控除できないのかを解説します。

保証債務

保証債務とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、代わりに履行する義務を負う債務です。被相続人が他人の保証人となっていた場合、原則として債務控除の対象となりません。これは保証債務は主たる債務者が弁済不能になった場合に初めて履行義務が発生するものであり、相続開始時点ではその履行が確実ではないと考えられるためです。

例外として、主たる債務者が弁済不能の状態にあり、かつ、保証人(被相続人)がその保証債務を履行しても、主たる債務者への求償権を行使しても弁済を受ける見込みがない場合には、求償できない金額に限って債務控除が認められることがあります。この場合、その事実を証明するための資料が必要になります。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

団体信用生命保険付きの住宅ローン

団体信用生命保険付きの住宅ローンは、被相続人の死亡時に保険金でローンが完済されるため、債務控除の対象となりません。相続人が住宅ローンを引き継ぐことがなく、実質的に相続財産から差し引くべき債務が存在しないためです。

したがって、団体信用生命保険付きの住宅ローンは相続税の債務控除の対象とはなりません。住宅ローンが残っている場合でも、団信の加入状況によって控除の可否が分かれるため、契約内容を確認することが重要です。

参考:団体信用生命保険に係る課税上の取扱いについて|東京国税局

関連記事:【税理士監修】遺産への相続税はいくらまで無税になるのか。控除や減税のポイントを解説

債務控除の対象となる未払費用

被相続人が亡くなった時点で未払いだった費用も、相続税の債務控除の対象となる場合があります。ここでは、どのような未払費用が控除できるのか具体的に見ていきましょう。

公租公課(税金)

被相続人が亡くなった時点で未払いだった公租公課、つまり国や地方公共団体に納めるべき税金は、相続税の債務控除の対象です。所得税消費税住民税固定資産税などが該当します。これらは被相続人の死亡時点で既に納税義務が発生していたためです。

延滞税なども、被相続人の責任で発生したものであれば控除できます。ただし、相続人の都合で発生した延滞税は控除の対象外となるため注意が必要です。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

所得税・消費税

被相続人が年の途中で亡くなった場合、相続人は被相続人の所得について準確定申告を行い、所得税を納付する必要があります。この準確定申告で納付する所得税は、被相続人の死亡時点までに発生した所得に対する税金であるため、債務控除の対象です。

また、被相続人が消費税の課税事業者であった場合、死亡に伴う消費税の準確定申告により納付する消費税も同様に債務控除の対象となります。これらの税金は被相続人が生存していれば納めるべきものであったため、相続人が負担した場合に債務として認められます。

参考:No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)|国税庁

関連記事:【税理士監修】準確定申告書とは?申告が必要なケース、必要書類や期限などを解説

住民税・固定資産税

住民税は前年の所得に対して課税され、通常は年の途中から分割して納付します。被相続人の死亡時点で未払いの住民税は、既に納税義務が発生しているため債務控除の対象です。

固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます。被相続人が1月1日時点で固定資産を所有し、死亡時点で未納分がある場合、その金額は債務控除の対象です。死亡後に納期が到来する分も、死亡時点で納税義務が発生しているため控除対象となります。

参考:地方税法 第三百四十三条| e-Gov 法令検索

未払い医療費

被相続人が亡くなる前に治療を受けていた際の未払いの医療費も、相続税の債務控除の対象です。これには入院費用手術費用薬剤費などが含まれます。被相続人が生存中に発生した医療費であり、その支払いが死亡後にずれ込んだ場合でも、相続人が負担した場合は控除が可能です。

また死亡診断書の費用も、医療費としてではなく葬式費用として債務控除の対象となる場合があります。ただし、生命保険金請求のために追加で発行した死亡診断書の費用は、被相続人の債務とは見なされないため控除の対象外です。

参考:No.4129 相続財産から控除できる葬式費用|国税庁

その他の未払い費用

上記以外にも、被相続人が生前に利用したサービスや購入した商品の未払い費用も、債務控除の対象です。具体的には以下のものが該当します。

  • 未払いの公共料金(水道光熱費、電話料金など)
  • クレジットカードの未決済利用額
  • 賃貸不動産の借主から預かっている敷金
  • 個人事業主の買掛金などの事業上の未払金

これらは被相続人の生存中に発生し、相続開始時点で未払いだったものを相続人が支払った場合に、債務控除として認められます。個人事業主であった場合の買掛金などの事業上の未払金も対象です。

債務控除の対象とならない未払費用

被相続人の死亡時点で未払いだった費用であっても、相続税の債務控除の対象とならないものがあります。ここでは、どのような未払費用が控除できないのかを詳しく解説します。

非課税財産に関する未払い金

相続税法において非課税財産とされているものを購入した際の未払い金は、債務控除の対象とはなりません。例えば墓地仏壇仏具などは相続税がかからない非課税財産であるため、これらの購入代金が未払いだったとしても、その金額は債務控除の対象とはならないのです。

これは非課税財産に関する負債まで控除を認めると、相続税のかからない財産によってさらに税負担が軽減され、制度の趣旨に反するためです。非課税財産に関連する未払い金は、相続財産から控除できないことを理解しておきましょう。

参考:No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁

相続財産の管理や遺言執行に関する費用

相続発生後の費用の多くは債務控除の対象外です。また相続財産の維持管理費用や遺言執行費用は控除できません。

具体的には以下の費用が該当します。

  • 遺産分割完了までの不動産管理費用
  • 遺言執行費用
  • 遺産分割協議の弁護士費用
  • 相続税申告の税理士費用
  • 戸籍謄本取得費用

これらは相続人が相続手続きのために負担する費用であり、被相続人の債務ではないためです。

参考:平13.12.25裁決、裁決事例集No.62 412頁

債務控除の対象となる葬式費用

葬式のイメージ

葬式費用は被相続人の債務ではありませんが、相続税の計算上、相続財産から差し引くことが認められています。

葬式費用として債務控除の対象となるのは、お通夜や告別式、火葬、埋葬、納骨など、葬儀に直接関連する費用です。具体的には以下が該当します。

  • 会場使用料、飲食費(通夜振る舞いや精進落としなど、葬儀に関連するもの)
  • お布施、読経料、戒名料
  • 火葬料、埋葬料、納骨料
  • 遺体や遺骨の運搬費用
  • 葬儀を手伝ってくれた方への心付け、死亡診断書の費用

参考:No.4129 相続財産から控除できる葬式費用|国税庁

債務控除の対象とならない葬式費用

葬式関連の支出でも、以下は債務控除の対象外です。

  • 香典返戻費用
  • 初七日、四十九日などの法事・法要費用
  • 墓石、仏壇、仏具の購入費用
  • 永代供養料
  • 相続人以外の参列者が負担した供花代

これらの費用は、葬儀そのものに直接関連する費用とは見なされないため、相続税の計算においては控除できないのです。葬式費用として控除できる範囲は定められているため、どの費用が対象となるか不明な場合は、税理士などの専門家に確認することが大切です。

参考:第13条《債務控除》関係|国税庁

債務控除が適用されない人

相続放棄

債務控除は相続税の負担を軽減する制度ですが、相続人等であれば誰でも無条件に適用を受けられるわけではありません。特定の状況にある人は、債務控除の全部または一部が適用されない場合があります。ここでは、債務控除が適用されないのはどのような人なのかを解説します。

相続放棄をした人

相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったとみなされるため、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産(債務)も一切引き継ぎません。したがって、債務控除を適用できません。

ただし相続放棄をした人が、被相続人の葬儀費用を実際に負担した場合は、その人が遺贈によって財産を取得している場合に限り、遺贈により取得した財産の価額を限度として、負担した葬式費用の債務控除が認められます。

参考:第13条《債務控除》関係|国税庁

特定遺贈で財産を取得した人(受遺者)

遺言によって特定の財産を指定されて受け取った人(特定受遺者)は、原則として債務控除を適用できません。特定受遺者は遺言で指定された特定の財産のみを引き継ぎ、被相続人の債務を包括的に引き継がないためです。

包括遺贈(遺産の全部または何分のいくつというように、遺産の全体に対する割合で財産を受け取る遺贈)を受けた人や相続人は債務控除の対象となりますが、特定遺贈を受けた人は、たとえ遺言で債務も引き継ぐとされている場合でも、債務控除は適用されない点に注意が必要です。

制限納税義務者

制限納税義務者とは、日本国内に住所を有しないなど、納税義務が一部に限定される人を指します。

制限納税義務者が相続または遺贈により財産を取得した場合、債務控除が適用されるのは、取得した財産のうち国内にある財産に係る債務に限られます。国外にある財産に関する債務や葬式費用は、原則として債務控除の対象となりません。

ただし、特定の条件下では国外財産に関する債務も控除の対象となる場合があるため、個別の状況に応じた確認が必要です。

関連記事:【税理士監修】早見表付き:相続税の計算方法や大まかな税額を把握しておこう

債務控除のまとめ

相続税の計算において、債務控除は税負担を軽減する重要な制度です。債務控除の対象となるのは、被相続人が遺した借入金や未払いの税金、医療費などの「確実な債務」と、葬式費用です。

金融機関からの借入金、未払いの税金(所得税、住民税、固定資産税)、未払い医療費、公共料金なども控除できます。

一方で保証債務や団体信用生命保険付きの住宅ローン、非課税財産に関する未払い金、相続発生後の管理費用や遺言執行費用、香典返しや法事費用などは控除の対象外です。

また相続放棄をした人や特定遺贈を受けた人、制限納税義務者は、債務控除が適用されないか、適用範囲が限定されるため注意が必要です。ただし、相続放棄をした人でも、実際に葬式費用を負担し、遺贈により財産を取得している場合は、その範囲内で控除が認められます。

適切な債務控除を行うためには、対象となるものとならないものを正確に把握することが大切です。不明な点がある場合は、必要に応じて税の専門家である税理士へ相談しましょう。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

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