【相続税対策】子の配偶者や孫と養子縁組した場合のメリットと落とし穴

相続税対策として養子縁組は有効な手段の一つです。法定相続人を増やすことで基礎控除額が増加し、相続税の負担を軽減できる可能性があります。しかし、養子縁組にはメリットだけでなく注意すべき点もあります。本記事では、相続税対策のための養子縁組について、メリット・デメリット、手続き方法などを詳しく解説します。
目次
相続税対策としての養子縁組
相続税対策として養子縁組を検討される方が増えています。養子縁組は法律上の親子関係を新しくつくる制度であり、これを活用することで相続税の計算において有利になる場合があります。ここでは、養子縁組の基本的な概要と相続税対策として養子縁組を行う具体的なケースについて詳しく見ていきましょう。
養子縁組とは
養子縁組とは、血縁関係のない者同士が法的に親子関係を結ぶことを認める民法上の制度です。養子縁組が成立すると、養子は養親の嫡出子と同じ身分を持つことになり、養親の法定相続人としての地位を取得します。
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2つの類型があり、それぞれ手続きや法的な効果が異なります。
普通養子縁組は、実親との親子関係を維持したまま、養親とも新たに親子関係を結ぶ制度です。実親と養親の双方から相続権を得ることができます。
一方、特別養子縁組は、実親との親子関係を終了させ、養親とのみ法的な親子関係を築く制度です。主に児童福祉の観点から導入されたもので、厳格な条件と手続きを伴います。
なお、相続税対策として用いられることが多いのは普通養子縁組であり、特別養子縁組はその性質上、節税目的には適しません。養子縁組を検討する際は、それぞれの制度の違いを十分に理解した上で進めることが重要です。
相続税対策で養子縁組を行うケース
相続税対策として養子縁組を行う主な目的は、法定相続人の人数を増やして基礎控除額を引き上げ、結果的に課税対象となる遺産の額を減らすことにあります。基礎控除が増えれば、課税される財産が少なくなるため、税負担を軽減しやすくなります。
具体的には、自分の子どもの配偶者や特に可愛がっている孫を養子に迎えるケースが多く見られます。例えば、息子さんの妻を養子にすると、法定相続人が1人増えることになるため、その分だけ基礎控除額が増加します。
また、「孫養子」と呼ばれる孫を養子にする方法もよく使われます。孫養子は、通常子どもが相続するはずの財産を孫に直接渡す「代飛ばし」の効果があり、子どもの相続の際に発生する相続税を回避できる可能性があるのが特徴です。これにより、世代をまたいで相続税の負担を抑えられるケースも多いです。
ただし、注意点として、養子縁組を相続税の節税だけを目的に行うと、税務署に否認されるリスクがあります。税務署は、単なる節税目的と判断した場合、その養子縁組を認めず節税効果を否定することがあります。
そのため、養子との間に生前から扶養関係や実質的な生活費の支援など、生計を共にしている証拠があるかどうかも重要なポイントです。節税目的だけで急いで養子縁組を行うのではなく、実際の親子関係や扶養関係の有無を踏まえて慎重に検討することが大切です。
このように、養子縁組は相続税対策に効果的な手段である一方、適切な手続きと準備が不可欠であることを理解しておきましょう。
養子縁組による相続税対策のメリット
養子縁組は、相続税対策の一環として有効な手段の一つです。法定相続人の数を増やすことで、相続税の基礎控除額や非課税枠が拡大し、相続税の総額を抑える効果が期待できます。ここでは、養子縁組がもたらす代表的な節税効果について、3つの観点から詳しく解説します。
1.相続税の基礎控除額が増加する
相続税の課税対象となる遺産総額は、まず基礎控除額を差し引いた後の金額で決まります。この基礎控除額は、次の算式で計算されます。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
したがって、養子縁組により法定相続人の数を増やすことで、この控除額も大きくなり、課税対象額を圧縮できます。
たとえば、実子が1人のケースで、その配偶者を養子に迎えた場合、法定相続人は2人となり、基礎控除額は3,600万円から4,200万円に増加します。これにより、600万円分の遺産が非課税となり、相続税の負担が軽減される仕組みです。
2.生命保険金などの非課税枠が増える
被相続人が契約していた生命保険や勤務先から支払われる死亡退職金には、以下の非課税枠が設定されています。
500万円 × 法定相続人の数 |
養子縁組で相続人が増えれば、この非課税枠も連動して増加します。
たとえば、相続人が実子1人だけのケースで、孫を養子にした場合、相続人は2人となり、生命保険金の非課税枠は500万円から1,000万円に増加します。生命保険金が相続財産に含まれている場合、この差は節税効果として大きく影響します。
特に、相続税対策として生命保険を活用している方にとっては、非課税枠の拡大は見逃せない利点となります。
3.相続税の税率が下がる可能性がある
相続税は累進課税制度を採用しているので、相続する財産の金額が大きくなるほど税率も高くなります。養子縁組によって法定相続人の数が増えると、一人あたりの相続分が分散されるため、個別に適用される税率が低くなる可能性があります。
たとえば、課税遺産総額が6,000万円の場合、相続人が1人だと、課税される課税価格が6,000万円を超えるため、税率は30%(6,000万円〜1億円以下の部分)となります。
一方、相続人が2人いれば、それぞれ3,000万円ずつ相続することになり、3,000万円は税率15%(1,000万円〜3,000万円以下の部分)に該当します。結果として、相続人1人の場合よりも低い税率が適用されることになります。
このように、相続人を増やすことで相続財産の取り分が分散し、結果的に全体の相続税率の平均が下がるため、納税額を大幅に減らせる効果が見込めるのです。養子縁組はこの点でも相続税対策として有効な手段となります。
関連記事:【税理士監修】相続税は節税できる?利用したい控除と効果的な対策方法
養子縁組による相続税対策の落とし穴
相続税対策として養子縁組は有効な手段となり得ますが、実行するにあたってはいくつかの注意点があります。これらの注意点を十分に理解しておかないと、思わぬトラブルや税務上の不利益を招く可能性があります。ここでは、養子縁組を活用した相続対策で注意すべき主なポイントを解説します。
遺産分割で問題が生じる可能性
養子縁組によって法定相続人が増えるということは、本来相続人となるはずだった実子の相続分が減少することを意味します。もし、養子縁組を行うことについて他の相続人の理解や同意が得られていない場合、相続発生時に遺産分割を巡るトラブルに発展する可能性が高まります。
特に、養子となった人が遺産分割協議に加わることで、話し合いが複雑化したり、感情的な対立が生じたりすることも考えられます。養子縁組を行う前に、実子などの推定相続人に対して十分に説明を行い、納得を得ておくことが円満な相続につながります。
関連記事:養子縁組関連の相続トラブルとは?よくある事例や生前に実施できる対策を紹介
孫養子の場合の相続税は2割加算となる
相続税額は、被相続人の配偶者や一親等の血族(子や親など)以外の人が財産を取得した場合に、その相続税額に2割加算されるという制度があります。
孫を養子にした場合、民法上は一親等の血族となりますが、相続税においては原則として「被相続人の一親等の血族」から除外されるため、孫が養子として財産を相続すると、その相続税額は2割加算の対象となります。
たとえば、孫養子が1,000万円の財産を相続し、本来の相続税額が100万円だったとすると、2割加算によって120万円の納税が必要になります。この加算は税額に対して行われ、財産評価や基礎控除には影響しません。
ただし、被相続人の子が既に亡くなっているなどして、孫が代襲相続人として相続する場合は2割加算の対象外となります。
孫養子による節税効果を検討する際には、この2割加算を考慮することが不可欠です。
節税だけを目的とした養子縁組は認められない場合がある
相続税の節税を目的として養子縁組をするケースは少なくありませんが、節税のためだけに行われた養子縁組は、税務署に認められない可能性があります。もし税務署が「節税だけを狙った不自然な縁組」と判断した場合、その養子を法定相続人としてカウントしないという対応を取ることがあります。
そうなると、本来期待していた基礎控除の増加や生命保険の非課税枠の拡大といった節税効果が失われてしまい、逆に税額が増えてしまうリスクがあります。
実際、過去の判例でも、養子との間に親子としての実態がない場合には、税務上の「相続人」として認められなかった例が複数存在します。
そのため、節税目的で養子縁組を検討する際には、単なる形式的な手続きではなく、実際に養子との関係性(扶養実績や生活実態など)をしっかりと築いているかが重要になります。
安易な節税目的の養子縁組は後で否認されるリスクもあるため、慎重に判断し、必要に応じて税理士など専門家に相談して進めることが大切です。
養子にできるのは1人または2人まで
相続税対策として養子縁組を活用する場合、何人もの養子を法定相続人にできるわけではありません。養子の人数には税法上の制限があることを知っておきましょう。これは、節税目的のみで多数の養子をとることを防ぐために設けられた制度です。
具体的には、以下のような制限が設けられています。
- 被相続人に実子がいる場合:相続税の計算では、養子1人までを法定相続人の数に含めることができます。
- 被相続人に実子がいない場合:養子2人までを法定相続人に含めることができます。
この人数制限を超えて養子縁組をしたとしても、相続税の計算上は制限内の人数しか法定相続人としてカウントされません。たとえば、実子が1人いる状態で孫2人を養子にしても、相続税上は1人分しか法定相続人に含まれないということになります。
そのため、相続税の節税効果を狙って養子縁組を検討する場合には、この人数制限を前提としたうえで、全体の相続設計を行うことが大切です。単に養子を増やすだけでは想定した効果は得られないので注意が必要です。
未成年の孫を養子にする場合の手続き
未成年の孫を養子にする場合は、成人同士の養子縁組とは異なり、家庭裁判所の許可が必要です。これは、養子縁組が未成年者にとって本当に利益となるかを判断し、その利益を保護するための制度です。ただし、孫等を養子とする場合は許可は必要ありません。
家庭裁判所の許可を得るためには、いくつかの段階を経る必要があります。
まず、「養子縁組許可申立書」の作成と提出が求められ、それに加えて戸籍謄本や住民票などの必要書類も提出します。その後、家庭裁判所による書類審査や面談、場合によっては家庭訪問などを通じて、養親と未成年の孫との関係性、養子縁組が孫の生活や将来に与える影響などが多角的に審査されます。
孫を養子に迎えることを検討している場合は、家庭裁判所での手続きの流れや要件を事前に確認し、計画的に進めることが重要です。
関連記事:[生前贈与の節税対策]孫への相続を非課税にする方法
養子縁組の手続き
相続税対策の一環として養子縁組を検討する際には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の違いと、それぞれの手続きや法的効果を正しく理解しておくことが重要です。以下では、それぞれの制度の特徴と留意点について解説します。
普通養子縁組の場合
普通養子縁組は、養親と養子となる人の合意に基づいて行う制度で、市区町村役場への届出によって成立します。養子縁組届には、養親と養子(およびその法定代理人)の署名・押印のほか、成人2人の証人の署名・押印が必要です。必要書類が整い、役場に受理されれば、その時点で法的効力が発生します。
この制度は比較的簡易な手続きで行えることが特長で、主に親族間の相続対策や家業の承継などを目的として利用されるケースが多く見られます。
ただし、以下のような特定のケースでは、家庭裁判所の許可が必要となる点に注意が必要です。
- 養子が未成年者である場合(自己または配偶者の直系卑属を養子にする場合は不要)
- 成年後見人が被後見人を養子にしようとする場合
- 養親となる人が未成年の場合(原則として養親は成人に限られます)
また、普通養子縁組では実親との親子関係はそのまま維持されるため、養子は養親と実親の両方の相続権を持つことになります。
特別養子縁組の場合
特別養子縁組は、通常の養子縁組とは異なり、実親との法的な親子関係を完全に解消し、養親とのみ親子関係を結ぶ制度です。このため、相続権や戸籍上の扱いにも大きな影響を与えます。
特別養子縁組は、主に家庭に恵まれない子どもの福祉を保障するための制度であり、成立には家庭裁判所の厳格な審査と審判を経る必要があります。具体的には、以下のような要件を満たすことが求められます。
- 養子となる子どもが原則15歳未満
- 実親による監護が著しく困難または不適当であること
- 養親が6か月以上子どもを継続して監護していること など
手続きの流れとしては、家庭裁判所への申立てから始まり、調査官による調査、面談、審判といった複数のプロセスを経て、最終的に養子縁組の可否が判断されます。これには数ヵ月から1年以上かかるケースもあり、時間的・心理的な負担も無視できません。
なお、特別養子縁組は子どもの福祉が最優先される制度であるため、相続税対策のみを目的とした養子縁組は認められていません。そのため、税務対策としてこの制度を利用しようとすることは、法的にも倫理的にも適切ではなく、注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?
まとめ
相続税対策として養子縁組を活用することは、基礎控除額の増加や生命保険金などの非課税枠の拡大といったメリットがあり、節税効果が期待できる有効な方法です。しかし、孫を養子にした場合の相続税の2割加算や遺産分割をめぐるトラブル、節税のみを目的とした養子縁組が税務署に否認されるリスクなど、注意すべき点も多くあります。
養子縁組を検討する際は、税務面のメリット・デメリットだけでなく、親族間の関係性や養子となる方の意向も慎重に考慮することが大切です。
なお、相続税や養子縁組の手続きは複雑なため、対策をお考えの際は相続税に詳しい税理士など専門家に相談されることをおすすめします。専門家の助言を受けることで、ご自身の状況に最も適した効果的な対策を見つけることができるでしょう。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。