相続放棄が遺留分割合に与える影響とは?計算方法や注意点を解説

相続放棄

相続放棄をすると、その人は最初から法定相続人ではなかったものとして扱われます。相続放棄によって法定相続人の数が変わるため、法定相続人の数を用いた計算の結果が変わります。相続放棄が影響を与える要素の1つが遺留分割合です。

今回は相続放棄をした人がいる場合の遺留分割合の計算方法や、遺留分割合を考える上で注意するべき点について解説します。

前提|相続放棄および遺留分割合の意味

はじめに、相続放棄と遺留分割合それぞれの意味を解説します。

相続放棄とは

相続放棄とはプラスの財産・マイナスの財産の区別なく、すべての財産の相続権を放棄することです。預貯金などのプラスの財産よりも借金などマイナスの財産の方が大きい場合や、ほかの相続人に譲りたい場合などに適しています。

相続では以下のように、計算に法定相続人の数を用いる場面が存在します。

  • 相続税の基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数
  • 死亡保険金や死亡退職金の非課税限度額:500万円×法定相続人の数

相続放棄をした人は最初から法定相続人ではなかったものとみなされる仕組みです。そのため相続放棄をした人がいると、計算に用いる法定相続人の数が変わる可能性があります。

なお、相続放棄をするには、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申述書および添付書類の提出が必要です。

関連記事:【税理士監修】相続放棄の必要書類と手続きをケースごとに解説

遺留分とは

遺留分とは、一定の法定相続人に認められた相続財産の最低限の取り分です。遺族の生活を保障するために設けられています。

遺留分の割合は以下の通りです。

法定相続人の組み合わせ

遺留分

配偶者のみ

配偶者:2分の1

配偶者と子(第1順位)

配偶者:4分の1
子:4分の1

配偶者と親(第2順位)

配偶者:3分の1
親:6分の1

配偶者と兄弟姉妹(第3順位)

配偶者:2分の1
兄弟姉妹:なし

子のみ

子:2分の1

親のみ

親:3分の1

兄弟姉妹のみ

なし

同順位に複数人いる場合は全員で等分します。例えば法定相続人が子供2人で配偶者なしの場合、各人の遺留分は2分の1の半分で4分の1になります。また表の通り、兄弟姉妹には遺留分がありません。

関連記事:【税理士監修】遺留分とは?相続財産を必ず受け取れる制度をわかりやすく解説

相続放棄が遺留分割合に与える影響

配偶者の相続放棄

前述のように遺留分は特定の法定相続人に定められており、かつ、法定相続人の組み合わせによって割合が異なります。そして、同順位に複数人がいれば全員で等分する仕組みです。

相続放棄をした人がいれば法定相続人の組み合わせや数が変わるため、遺留分割合も変化する可能性があります。以下では遺留分割合が変わるケースと変わらないケース、それぞれ具体例を用いて詳しく解説します。

相続放棄後に遺留分割合が変わるケース

相続放棄によって遺留分割合が変わるのは、以下のいずれかに該当する場合です。

  1. 配偶者が相続放棄をした
  2. 第1順位または第2順位の人が相続放棄をした

相続放棄による遺留分割合の変化について、具体例を用いて確認しましょう。

[ケース1]配偶者が相続放棄をした

以下のケースを例に考えます。

  • 元の法定相続人は配偶者、子A、子Bの計3人
  • 配偶者が相続放棄をした

今回の例では、配偶者が相続放棄をすると法定相続人の組み合わせが「子のみ」になります。法定相続人が子のみの場合の遺留分割合は子供全員で2分の1のため、各人の遺留分は以下のように変わります。

法定相続人

元の遺留分割合

相続放棄後の遺留分割合

配偶者

4分の1

子供A

8分の1
(4分の1×2分の1)

4分の1
(2分の1×2分の1)

子供B

8分の1

4分の1

[ケース2]第1順位または第2順位の人が相続放棄をした

続いて、第1順位または第2順位の人が相続放棄をしたケースについて解説します。

遺留分の権利をもつ人が相続放棄をすると法定相続人の数や組み合わせが変わるため、遺留分割合も変化します。

まずは同順位に複数人がいて、そのうち1人が相続放棄をしたケースを考えましょう。今回用いる例は以下の通りです。

  • 元の法定相続人は子供X、子供Y、子供Zの3人
  • 子供Xが相続放棄をした

今回の例では、相続放棄によって遺留分割合は以下のように変わります。

法定相続人

元の遺留分割合

相続放棄後の遺留分割合

子供X

6分の1
(2分の1×3分の1)

子供Y

6分の1

4分の1
(2分の1×2分の1)

子供Z

6分の1

4分の1

同順位の人数が減るため、残った人の遺留分割合が増える仕組みです。

また、以下のように法定相続人の数は変わらず組み合わせのみが変化するケースもあります。

  • 元の法定相続人は配偶者と子供Mの1人
  • 第2順位は母1人のみ存命
  • 子供Mが相続放棄をして第1順位がいなくなったため、配偶者および第2順位の母が法定相続人になった

上記の例の場合、相続放棄の前も後も法定相続人は2人です。しかし法定相続人の組み合わせが変わったため、遺留分割合にも変化が生じます。今回のケースでは、相続放棄によって法定相続人および遺留分割合は以下のように変わります。

法定相続人

元の遺留分割合

相続放棄後の遺留分割合

配偶者

4分の1

3分の1

子供M

4分の1

法定相続人ではないため無

6分の1

法定相続人の数自体は同じですが、配偶者の遺留分割合は増加し、血族相続人の遺留分は減少しました。

相続放棄をした人がいても遺留分割合が変わらないケース

相続放棄をした人がいても遺留分割合が変わらないのは、兄弟姉妹(第3順位)が相続放棄をした場合です。兄弟姉妹にはもともと遺留分がないため、相続放棄をしても遺留分に影響しません。

関連記事:【税理士監修】兄弟姉妹も法定相続人になる?相続割合やトラブルを回避する方法も解説

相続放棄と遺留分割合に関する注意点

相続の注意点

最後に、相続放棄と遺留分割合に関する注意点を2つ紹介します。

注意点1:相続放棄の撤回は認められない

前述のように、相続放棄をするには期日までに家庭裁判所へ相続放棄の申述書の提出が必要です。

そして、家庭裁判所で受理された相続放棄の撤回は認められません。申述をしてから受理されるまでの間であれば取り下げが可能ですが、受理された後での撤回は不可能です。

例外として、以下のようなケースに該当する場合は申述の取消しが認められます。

  • 未成年者や成年被後見人など、法律行為に制限のある人が単独で申述をした
  • 詐欺や脅迫などによるもので、本人の意思ではない
  • 相続放棄の判断に至るまでに重大な錯誤があったと認められた

相続放棄の申述の受理時点ですでに問題が生じていた(受理するべきではなかった)と認められる場合のみ取消しが可能です。言い換えると、特別な事情がない限り相続放棄の受理の取消しは行われません。

相続放棄が最善な選択肢であるか慎重な判断が必要です。

関連記事:【税理士監修】相続放棄の費用はいくら?手続きの進め方や注意点も解説

関連記事:【税理士監修】相続放棄の受理期間は3カ月。経過後の放棄は認められる?

注意点2:遺留分放棄は遺留分割合に影響を与えない

遺留分放棄とは文字通り、遺留分の権利を放棄する手続きです。遺産分割や遺贈により遺留分の侵害を受けた場合でも遺留分侵害額請求をしない旨の意思表示といえます。

遺留分放棄によって失うのは遺留分の権利のみで、法定相続人の地位は失われません。そのため、遺留分放棄をした人がいても遺留分割合は変わりません。

「遺留分放棄をした人がいれば、別の法定相続人の遺留分が増える」ということは起こらない点に注意が必要です。

関連記事:遺留分放棄とは?相続放棄との違いや手続きの流れ、注意点を解説

相続放棄により遺留分割合が変わる可能性が高い!相続放棄をした人がいる場合は要注意

遺留分割合は法定相続人ごとに定められています。同じ順位に複数人がいる場合、遺留分割合は同順位の全員で等分する決まりです。

相続放棄をした人は最初から法定相続人ではなかったとみなされます。したがって、相続放棄をした人がいれば法定相続人の数や組み合わせが変わり、遺留分割合にも変化が生じる可能性が高いためご注意ください。

相続放棄をした人がいる場合の法定相続人の数え方や遺留分割合はわかりにくい部分も多く、判断の誤りが起こりやすいです。正しい遺留分割合を把握できるよう、専門家である税理士のサポートを受けることをおすすめします。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。