相続税の未分割申告とは?手続きの流れと4つの注意点を解説

相続税の分割協議

相続税の申告および納付期限は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。もし申告期限までに遺産分割が完了していない場合、法定相続分で遺産分割をしたと仮定して相続税申告を行う必要があります。このような手続きを相続税の未分割申告と呼びます。

相続税の未分割申告ならではの必要書類や注意点などについて事前に確認が必要です。今回は相続税の未分割申告について詳しく解説します。

相続税の未分割申告とは

相続税の未分割申告とは、遺産分割が終わっていない場合に、法定相続分で遺産分割したものと仮定して相続税申告を行うことです。

相続税の申告および納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内と定められています。仮に遺産分割が終わっていなくても期限の延長はできません。そのため申告期限までに間に合いそうになければ、一旦未分割の状態で申告をし、後に正しい内容で申告し直す必要があるのです。

相続税の未分割申告の流れ

相続税の未分割申告の流れは大きく5つの工程に分けられます。工程ごとに詳しく解説します。

[手順1]相続税申告書を作成する

まずは相続税の申告書を作成します。遺産分割が終了しておらず、各人の課税価格が不明な状態のため、法定相続分で遺産分割をしたと仮定します。

なお、未分割申告では一部の特例制度の適用を受けられません。要件を満たす制度があっても未分割申告の段階では適用せず、後に行う更正の請求または修正申告で改めて適用する必要があります。

関連記事:【税理士監修】相続税を自分で計算する方法と、シミュレーションする際のポイントを解説

[手順2]添付書類である「申告期限後3年以内の分割見込書」を作成する

未分割申告では申告書とあわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が必要です。この書類を添付することで、遺産分割後に更正の請求や修正申告を行う際に、各種特例の適用を受けられるようになります。

書類の記載事項として以下の3つが挙げられます。

  • 分割されていない理由
  • 分割の見込みの詳細
  • 適用を受けようとする特例等

なお、相続税の申告期限から3年を過ぎてしまうと、原則として特例の適用を受けられません。やむを得ない事由により3年を超過してしまう場合は所定の申請手続きが必要です。

参考:No.4208 相続財産が分割されていないときの申告|国税庁

[手順3]期限までに未分割申告および納税を行う

相続税の申告および納付期限までに、申告書の提出や納税を行いましょう。[手順2]で作成した分割見込書の添付も忘れないようご注意ください。

[手順4]相続税の申告期限後3年以内に遺産分割を終わらせる

更正の請求や修正申告によって特例の適用を受けられるのは、原則として申告期限から3年以内に遺産分割が終了した場合です。期限までに遺産分割を終わらせるために、早めに話し合いや必要な手続きを進めましょう。

前述のように、所定の申請手続きを行えば3年が経過した後でも特例の適用を受けられることがあります。ただし、申告期限後3年を経過した後の特例適用ができるのは、やむを得ない事由があると認められる場合のみです。

やむを得ない事由に該当するケースについては、後述する『相続税の未分割申告に関するよくある質問』のQ1.で詳しくご説明します。

[手順5]更正の請求または修正申告を行う

遺産分割が完了次第、遺産分割の内容に基づいて更正の請求または修正申告を行います

更正の請求は未分割申告の内容よりも実際の税額が少ない、すなわち還付が発生する場合に行います。未分割申告で更正の請求ができるのは遺産分割が成立した日の翌日から4ヵ月以内です。

実際の税額が多い、すなわち追加で納税が必要な場合は修正申告を行います。修正申告に期限の定めはありませんが、長期間放置するとペナルティを課せられる恐れがあるため早めに対応しましょう。

相続税の未分割申告の注意点

続いて、相続税の未分割申告を行う上で押さえるべき注意点を4つ紹介します。

[注意点|その1]未分割申告の時点では4つの特例が適用不可

前述のように、相続税の未分割申告では一部の特例の適用を受けられません。適用できない特例は以下の4つです。

  1. 配偶者の税額の軽減
  2. 小規模宅地等の特例
  3. 特定計画山林の特例
  4. 特定事業用資産の特例

参考:B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続

特に注意するべきなのが1の「配偶者の税額の軽減」と2の「小規模宅地等の特例」です。いずれも税額を大幅に減額する特例であり、特例の適用によって納付税額がゼロになるケースも多くみられます。

未分割申告ではこれらの特例の適用を受けられないため、高額の納付が必要になる恐れがある点にご注意ください。

関連記事:【税理士監修】相続税の配偶者控除とは?計算方法や申告方法をわかりやすく解説

関連記事:【税理士監修】小規模宅地等の特例とは?計算方法や適用要件をわかりやすく解説します

[注意点|その2]相続財産を延納の担保に充てられない

相続税は現金による一括納付が原則ですが、以下のすべてを満たす場合は延納が可能です。

  1. 相続税額が10万円超
  2. 金銭での納付が困難な事情があり、延納が納付を困難とする金額の範囲内である
  3. 相当額の担保を提供する
  4. 期限までに延納申請書を提出する

参考:No.4211 相続税の延納|国税庁

通常、相続等により取得した財産を3の担保として提供できます。しかし、未分割申告では相続財産を担保に充てることができません。所有権の係争中の財産や売却できる見込みのない財産は、担保として不適格な財産とされるためです。

参考:相続税・贈与税の延納の手引

相続財産を担保に充てられないため、自身の保有する財産を担保にする必要があります。

[注意点|その3]物納ができない

国税は原則として金銭で納付する必要がありますが、相続税に限り、一定の要件を満たす場合は物納が可能です。

しかし、未分割申告では物納ができません。物納に用いる財産は納税者が取得した相続財産に限られるためです。遺産分割が未済では保有する相続財産が存在しないため、必然的に物納が不可能となります。

参考:No.4214 相続税の物納|国税庁

[注意点|その4]更正の請求は原則として遺産分割の完了から4ヵ月以内に行う必要がある

前述のように、更正の請求は原則として遺産分割の完了後4ヵ月以内に行う必要があります。相続税の申告期限後3年以内であっても遺産分割の完了から4ヵ月を超えている場合、更正の請求による還付は受けられません。

相続税の未分割申告に関するよくある質問

最後に、相続税の未分割申告に関するよくある質問4つを紹介します。

Q1.申告期限後3年以内に遺産分割が終わらない場合はどうすれば良い?

申告期限後3年以内に遺産分割が終わらない場合、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しましょう。やむを得ない事由と認められれば、申告期限後3年を過ぎた後でも特例の適用が可能になります。

やむを得ない事由として以下の例が挙げられます。

  • 調停や審判の申立てが行われている
  • 調停や訴訟の途中である
  • 遺言書で一定期間の遺産分割が禁止されている

申請書の提出期限は、相続税の申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヵ月以内です。納税地を所轄する税務署に提出します。

関連記事:遺産分割調停とは?手続きの流れや費用、有利に進めるためのポイントを解説

Q2.修正申告はいつまでに行うべき?

前述のように、未分割申告の修正申告に期限の定めはありません。

また、期限までに未分割申告をすれば、遺産分割後の修正申告では原則として延滞税や過少申告加算税等のペナルティは発生しません。ただし、長期にわたり修正申告をせずにいた場合、期限までに未分割申告をしていてもペナルティを課せられる恐れがあります。

期限の明確な定めがないからこそ、早めに対応するべきといえるでしょう。

Q3.課税遺産総額が基礎控除額以下でも未分割申告を行うべき?

課税遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税は発生せず、申告義務もありません。そのため未分割申告も不要です。

相続税の基礎控除額は以下の式で計算します。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

例えば法定相続人が3人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。この場合、課税遺産総額が4,800万円以下であれば相続税の申告は不要となります。

関連記事:【税理士監修】相続税の基礎控除と法定相続人の解説。相続税の申告が不要になるケースは?

関連記事:【税理士監修】相続税の申告が不要になるのはどのようなケースか?相続税の注意点についても解説

遺産分割が終わらなくても期限までの申告が必須!必ず未分割申告をしよう

相続税の申告および納付期限は相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。遺産分割協議が終わっていない場合でも期限を延ばすことはできません。申告・納付期限に間に合いそうにない場合は相続税の未分割申告を行う必要があります。

未分割申告には通常の相続税申告とは異なる注意点が複数存在します。ルールが厳格な上に複雑でわかりにくい部分も多いため、少しでも疑問や不安があれば専門家である税理士に相談するのが安心です。

相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。

相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。