【税理士監修】土地の生前贈与と相続はどちらが得?家族が笑顔になる資産承継術

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親や自分自身が年齢を重ねるにつれ、相続について考える方も多いでしょう。特に土地を所有している場合、生前贈与と相続はどちらが得かは気になるポイントです。本記事では、両者の税金や手続きの違いを解説します。あなたとご家族にとって最適な資産承継の方法を見つけましょう。

まずはここだけ!生前贈与と相続の基本

土地の生前贈与と相続は、状況によってどちらが得策か異なります。適切な判断のためには、まずそれぞれの基本的な特徴と違いを理解することが重要です。

生前贈与の税金と手続き:メリット・デメリットは?

生前贈与とは、生きているうちに財産を無償で譲り渡すことです。譲り渡す方が自分の意思で財産の行き先を決められるメリットがあります。特定の方に受け継いでほしい財産がある場合には、遺言書を遺すよりも確実な方法です。

贈与税のメリット

贈与税は贈与時の土地の評価額に対して課税されます。将来価値が上がる見込みのある土地を早めに贈与することで、将来の評価額上昇による税負担増を回避できる可能性があります。

また、不動産経営で賃貸物件を所有している場合、土地とともに将来の賃料収入も引き継ぐため、贈与する方の相続財産を減らし、相続税の負担を間接的に軽減できます。

贈与税のデメリット

一方、年間で110万円を超える贈与を受けると贈与税の対象となります。高額な贈与の場合、税負担が重くなりがちです。土地を贈与する際は、贈与税の特例を活用することで税額を抑えられる可能性があります。

相続の税金と手続き:メリット・デメリットは?

相続は、亡くなった方の財産を一括して承継する制度です。相続財産は相続税の対象ですが、相続税には税制上の優遇措置が充実しています。

相続税のメリット

相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人」の基礎控除があり、一定の財産額までは相続税がかかりません。また、自宅や個人事業用の土地などは、一定条件を満たすと「小規模宅地等の特例」により、最大で評価額が80%差し引かれます。

相続税のデメリット

一方、相続財産を引き継ぐ際は、基本的には遺言書の内容に従うか、相続人全員による遺産分割協議を行うかの二択です。必ずしも亡くなった方の思った通りに財産が分配されるとは限りません。例えば、先祖代々の土地を引き継いでほしくても、相続人全員が売却して現金で分割したいと考える可能性もあります。

相続と贈与どちらを選ぶかは、単純な税金対策の問題ではなく、家族の問題でもあると言えます。

関連記事:[相続税と贈与税の基礎知識]それぞれの違いと税率・金額を知っておきましょう

土地の生前贈与と相続の税金比較

家・不動産を相続する家族と税金

土地の生前贈与と相続では、税額に大きな差が生じる場合があります。ここでは、両者の仕組みや具体的な特例、控除を比較し、節税効果とリスクを検討していきましょう。

土地評価額と税率の違い

贈与税と相続税における土地の評価方法は基本的には共通しており、国税庁が定める路線価倍率方式といった基準で評価します。一般的には時価よりも2割程度低く評価される傾向があります。一般的には時価よりも2割程度低く評価される傾向があります。

税額に影響を与える重要なポイントは評価の「時点」です。生前贈与された土地を相続時精算課税制度で申告する場合、贈与時の価額で評価されます。一方、相続によって取得する場合は相続発生時(亡くなった時点)の価額で評価されます。そのため、将来的に地価が大きく上昇する見込みがある土地の場合、生前贈与により結果的に税負担を抑えられる可能性があるのです。

税率にも注目しましょう。贈与税も相続税も、課税される財産の金額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税制度」を採用しています。いずれも最大税率は55%ですが、相続税の場合は基礎控除や特例が充実しており、実効税率が抑えられるのが一般的です。また、相続人の人数によって基礎控除額が増える点も、相続の有利なポイントと言えます。

参考:路線価|国税庁

参考:(倍率方式)|国税庁

参考:財産評価基準書|国税庁

関連記事:相続時精算課税制度とは?小規模宅地の特例と併用はできる?

特例・控除で差が出る!節税効果シミュレーション

評価額3,000万円の自宅土地を長男に承継する場合、実際に税額にどれだけの差が出るのか簡易的にシミュレーションしてみましょう。法定相続人は長男のみとします。

<生前贈与(特例なし)の場合>

贈与税額:約600万円
計算式:(3,000万円−110万円)×45%−265万円=600.5万円

評価額から基礎控除額110万円を除いた2,890万に45%の贈与税がかかります。265万円の控除額があるものの、贈与税額は約600万円となり高額です。自宅の土地を譲り受けたからといって、600万円を現金一括で納税するのは大変です。

<生前贈与(相続時精算課税制度を適用)>

贈与税額:78万円
計算式:(3,000万円−110万円−2,500万円) × 20% = 78万円

まず、年110万円の基礎控除が適用され、この部分については贈与税も相続税の加算対象にもなりません。残りの2,890万円に対して、相続時精算課税制度の特別控除2,500万円を適用します。特別控除を超過した部分390万円に対して、一律20%の贈与税が課税されます。なお、納めた贈与税は、贈与者の相続発生時に相続税額から差し引かれます。

相続(小規模宅地等の特例を適用)
土地の評価額:3,000万円× 20%=600万円

相続税の基礎控除額が適用され、さらに小規模宅地等の特例により課税対象額が大幅に減るため、税負担が軽減されます。実際の相続税額は、相続人の構成や他の財産の有無により変動します。

このように、特例の活用により最終的な税負担が数百万円単位で変わるケースもあります。税額のシミュレーションには専門知識が必要なため、税理士に相談するとよいでしょう。

参考:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

参考:No.4103 相続時精算課税の選択|国税庁

見落としがちなリスクと円満な資産承継の工夫

土地の生前贈与と相続を比較するうえで、見落とされがちなのが税額以外のリスクです。節税効果だけでなく、家族の安心を守る視点も大切にしましょう。

生前贈与を後悔するリスク

贈与後に贈与した方の経済状況が悪化したり、贈与を受けた家族との関係性が悪化したりした場合も、財産を取り戻すことは困難です。特に、自身が住んでいる土地や建物を贈与してしまうと、住む場所を失うリスクがあります。

また、特定の家族にだけ贈与することで、他の家族が不満や不信感を抱き、家族間のトラブルに発展する可能性もあります。贈与は不可逆的な行為であることを十分に理解し、将来のリスクも考慮した上で慎重に検討しましょう。

相続における遺産分割協議の長期化と紛争リスク

遺言書がない場合、相続人全員で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議が必要です。折り合いがつかないと、話し合いが長期化したり、深刻な家族間の紛争に発展したりするリスクがあります。

特に、土地のように分割が難しい財産がある場合、当事者同士で解決できず、家庭裁判所の調停・審判といった第三者に間に入ってもらうケースもあります。円満でスムーズな相続のためには、遺言書の作成など生前の対策が大切です。財産の内容についても、相続人となる家族全員が把握しているのが望ましいでしょう。

共有名義による土地管理の複雑化

土地を誰かひとりのものとするのではなく、複数の相続人の共有名義とする場合もあります。一見、公平な相続を実現しているように思えますが、共有名義の土地は管理や処分が難しいのが難点です。

例えば、土地の売却や大規模な修繕を行う際には、共有者全員の同意が必要です。一人でも反対する人がいると手続きが進まなくなる可能性があります。

将来的には共有者の死亡により、さらに共有者が増えて権利関係が複雑化し、土地を有効活用できないリスクがあります。安易に共有名義とせず、財産を活用しやすい分割方法を慎重に検討しましょう。

関連記事:不動産・土地を兄弟で相続する場合の分割方法とは?注意点も解説!

あなたの状況で判断!土地の生前贈与と相続、最適な選択肢

生前贈与と相続、どちらが得かは家庭の事情や資産の種類によって大きく異なります。一律に「こちらが得」と判断するのではなく、ご自身の状況を多角的に見極めることが重要です。ここでは、最適な資産承継の方法を考える上で重要な視点を解説します。

贈与者・受贈者の状況とニーズ

自分の意思で財産を譲り渡すため、元気で判断能力があるうちに計画的に贈与を進めましょう。2024年1月1日以降の贈与では、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算されます。まだ早いと思わずに準備を始めることをおすすめします。財産を受け取る方のニーズや贈与税の負担も考慮し、税理士に相談しながら進めると安心です。

土地を含む財産の全体像と将来性

税額を正確にシミュレーションするためには、土地だけでなく、預貯金や有価証券など、すべての財産を把握する必要があります。財産の総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかを確認しましょう。基礎控除額内で収まるのであれば、相続税対策の必要性は低いでしょう。

現在の土地の評価額と、将来的な価値の変動予測も重要です。例えば、地価が上昇する見込みがある土地であれば、評価額が低いうちに贈与した方が将来の税負担を抑えられる可能性があります。賃貸物件などの収益不動産の場合、生前贈与によって賃料収入もあわせて移転できるため、相続財産を減らす効果も期待できます。

関連記事:【税理士監修】土地の評価額は複数存在する。評価額の調べ方や計算方法、注意点も解説

家族構成と関係性

遺された家族で円満に分けてほしいと相続人に一任すると、取り返しのつかないトラブルになるリスクがあります。資産承継に自分の意思を反映させるためには、遺言書の作成や民事信託(家族信託)などの方法があります。生前に家族と話し合いの場をもち、財産の内容や遺産分割についての意向を伝えることも大切です。

土地は分割が難しい財産の一つですが、将来にわたって土地を有効活用するため、共有を避ける方法も検討しましょう。例えば、相続人のうち一人が土地を相続し、他の相続人は土地を相続した方から代償金を受け取る方法があります。

名義変更に伴うコスト

土地の所有者が変わったら所有権移転登記が必要です。登記の際にかかる登録免許税は、生前贈与と相続で税率が異なります。相続による所有権移転の税率は固定資産評価額の0.4%と低く抑えられています。一方、生前贈与による所有権移転の税率は2.0%です。

不動産の取得に対して課される地方税である不動産取得税にも違いがあります。相続の場合、不動産取得税は課税されません。しかし、生前贈与により土地を取得した場合は、固定資産評価額の3%の不動産取得税が課されます。

登録免許税や不動産取得税は、相続と贈与の総コストを比較する上では重要な視点です。特に高額な土地の場合、生前贈与を選択すると負担が大きくなる傾向があるため注意が必要です。

関連記事:【税理士監修】不動産を相続するためには何をする?必要な書類やかかる費用についても解説

まとめ

土地の生前贈与と相続、どちらが得かはケースバイケースです。税額を抑えるだけでなく、家族間のトラブルを避け、円満かつスムーズに資産承継することが大切です。適切な承継方法を探るには、すべての財産を洗い出した上で、税額や諸費用を正確に見積もる必要があります。

まだ早いと後回しにしてしまうと、選択肢が狭まってしまう可能性があります。思い立ったときに早めに税理士に相談し、計画的に準備するのが円満な資産承継の鍵です。

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監修者

山口 美幸

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長

96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。

【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他

【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。