土地や不動産を親から子へ名義変更した場合の税金はいくらになる?

親から子への土地や不動産の名義変更を検討されている方に向け、手続きにかかる税金の種類、計算方法、そして重要な節税対策についてわかりやすく解説します。相続税をはじめとするさまざまな税金が発生する可能性があるため、事前に正確な情報を把握し、計画的に進めることが大切です。
目次
不動産の名義変更について
不動産の名義変更は、所有者が変わった際に登記簿を更新する手続きです。この手続きは様々なケースで発生し、それぞれに必要な対応が異なります。ここでは、名義変更が必要となる主な状況と、生前贈与や相続による名義変更、そして手続きの一般的な流れについて解説します。
名義変更が必要なケース
不動産の名義変更は、登記簿上の所有者を変更する手続きであり、所有権が移転するさまざまな場面で必要となります。
もっとも一般的なのは、所有者が亡くなった際に相続人が不動産を引き継ぐ「相続登記」です。
また、所有者が存命中に親から子へ不動産を譲渡する「生前贈与」でも名義変更(所有権移転登記)が必要になります。
そのほか、不動産売買による所有権移転や離婚に伴う財産分与により、一方の配偶者へ不動産を移す場合なども名義変更が必要です。
生前贈与による名義変更
生前贈与による不動産の名義変更は、不動産の所有者が亡くなる前に、その意思に基づいて贈与する相手に財産を無償で譲る場合に発生します。 この場合、贈与契約を締結し、贈与を受けた側(受贈者)が不動産の名義変更登記(所有権移転登記)を申請します。
生前贈与は計画的に行うことで、将来の相続における税負担を軽減できる可能性があります。ただし、贈与税が課税される場合があるため、税額を事前に把握し、非課税枠や特例(例:暦年贈与の基礎控除、相続時精算課税制度、居住用不動産の贈与の特例など)の活用を検討することが重要です。
生前贈与による名義変更手続きは、贈与者と受贈者の合意に基づいて進められ、通常、司法書士に依頼して登記手続きを行うのが一般的です。
相続による名義変更
相続による不動産の名義変更は、不動産の所有者が亡くなった際に発生し、相続人がその不動産を承継する場合に行います。この手続きは「相続登記」と呼ばれ、2024年4月1日からは義務化されています。
相続発生を知り、所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請する必要があります。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議によって誰が不動産を取得するのかを決定し、その内容に基づいて名義変更を行います。相続による名義変更では、相続税の申告・納税が必要となる場合があります。
名義変更手続きの流れ
不動産の名義変更手続きは、名義変更の原因によって異なりますが、一般的な流れとしてはまず登記に必要な書類を収集します。相続による名義変更の場合は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人全員の現在の戸籍謄本、遺産分割協議書など多くの書類が必要になります。
これらの書類を基に登記申請書を作成し、管轄の法務局に提出します。自分で手続きを行うことも可能ですが、一般的には司法書士に依頼するケースが多いです。司法書士に依頼した場合、費用はかかりますが、手続きをスムーズに進めることができます。
関連記事:【税理士監修】家の相続には相続税がかかる?手続きの方法や注意点を解説
不動産の名義変更にかかる税金
不動産の名義変更を行う際には、いくつかの税金が課される可能性があります。名義変更の原因が生前贈与か相続かによって、課税される税金の種類や計算方法が異なります。ここでは、名義変更に関連して発生する主な税金について解説します。
贈与税
贈与税は、個人から財産を無償で贈与された際に、その財産を取得した個人に対して課される税金です。親から子への生前贈与による不動産の名義変更の場合、この贈与税が課税対象となります。
贈与税の計算は、1月1日から12月31日までの1年間に行われた贈与の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残りの額に対して行われます。この基礎控除額は贈与を受けた人ごとに適用されます。また、直系尊属(父母や祖父母)から18歳以上の子や孫への贈与には、特例贈与財産として一般贈与財産よりも低い税率が適用される場合があります。
相続税
相続税は、亡くなった人から財産を相続または遺贈によって取得した場合に課される税金です。親が亡くなり、子がその不動産を相続した場合、相続税の課税対象となります。
相続税の計算は、まず被相続人の遺産総額から基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引き、課税遺産総額を算出します。その後、この課税遺産総額を法定相続分で按分した金額に対して税率を適用し、各相続人の相続税額を計算します。
相続税の税率は、遺産総額によって異なります。相続税の申告は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記手続きを行う際に課される税金です。親から子への土地の名義変更においても、相続登記または贈与登記の申請時に登録免許税を納付する必要があります。
登録免許税額は、原則として不動産の固定資産税評価額に税率を乗じて計算されます。相続による名義変更の場合の税率は固定資産税評価額の0.4%ですが、生前贈与の場合は固定資産税評価額の2%となります。このように、名義変更の原因によって登録免許税の税率が大きく異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
不動産取得税
不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課される地方税です。親から子への不動産の名義変更では、生前贈与による取得の場合に不動産取得税が課税されます。相続による取得の場合、不動産取得税は原則として非課税となります。
不動産取得税額は、不動産の固定資産税評価額に税率(原則4%ですが、土地と住宅用家屋については軽減税率として3%が適用される場合があります)を乗じて計算されます。一定の要件を満たす住宅や住宅用の土地を取得した場合には、軽減措置が適用されることもあります。納税通知書は不動産取得後しばらくしてから送付されます。
関連記事:【税理士監修】不動産を相続したら名義は変更するべき?手続きやトラブルなどを解説
贈与税の節税方法
親から子への不動産の生前贈与を検討する際、贈与税の負担は大きな懸念事項となります。しかし、日本の税制にはいくつかの節税に繋がる制度が設けられています。これらの制度を賢く活用することで、贈与税の負担を軽減できます。ここでは、生前贈与における主な贈与税の節税方法についてご紹介します。
暦年課税制度の活用
暦年課税制度は、1月1日から12月31日までの1年間の贈与額の合計に対して課税される制度です。この制度には年間110万円の基礎控除額があり、1年間の贈与額がこの基礎控除額以下であれば贈与税はかかりません。この非課税枠を活用し、複数年にわたって少しずつ生前贈与を行うことで、贈与税をかけずに財産を移転していくことが可能です。
たとえば、年間110万円ずつ子に贈与すれば、贈与税の申告・納税は不要となります。贈与する相手が複数いる場合、それぞれの受贈者ごとに年間110万円の基礎控除が適用できるため、より多くの財産を非課税で移転できる可能性があります。
相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫への生前贈与に選択できる制度です。この制度を選択すると、累計で2,500万円までの贈与が特別控除により非課税となります。
さらに、2024年1月1日以降の贈与からは、年間110万円の基礎控除も併用できるようになりました。この制度を利用して贈与された財産は、贈与者が亡くなった際に相続財産と合算され、相続税が計算されます。既に納めた贈与税がある場合は、その相続税額から控除されます。相続時精算課税制度は、将来的な相続税の負担を考慮しつつ、生前贈与を効果的に行いたい場合に有効な選択肢となり得ます。
関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説
小規模宅地等の特例で節税対策
親から子への相続による不動産の名義変更では、相続税が発生する可能性があります。相続税の負担を軽減するためには、利用できる特例や控除を把握し、適切に適用することが重要です。
ここでは、相続税の主な節税方法の一つである小規模宅地等の特例について解説します。
小規模宅地等の特例の適用条件
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住や事業に使っていた土地を相続人が引き継ぐ場合に、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。たとえば、被相続人の自宅の敷地(=居住用宅地)については、一定の要件を満たせば330平方メートルまでの部分の評価額が80%減額されるため、課税対象となる財産額が大幅に圧縮され、結果として相続税額を大きく抑えることが可能となります。
ただし、特例を適用するには次のような条件があります。
- 配偶者が相続する場合:原則として無条件で適用可能。
- 被相続人と同居していた子などが相続する場合:相続後も引き続きその土地に居住する必要があります。
- 被相続人と別居していた子が相続する場合(いわゆる「家なき子特例」):相続開始直前に自己の持ち家に住んでいないなど、一定の厳しい条件を満たす必要があります。
宅地の種類別の適用条件
この特例を適用するためには、相続人が引き続きその土地に居住するなどの要件を満たさなければいけません。宅地等の種類(居住用、事業用、貸付用など)によって限度面積や減額割合が異なるため、適用条件をよく確認することが重要です。
また、対象となる宅地の種類によって適用条件や限度面積、減額率が異なります。
宅地の種類 |
限度面積 |
減額率 |
特定居住用宅地等 |
330平方メートル |
80% |
特定事業用宅地等 |
400平方メートル |
80% |
貸付事業用宅地等 |
200平方メートル |
50% |
この特例を受けるには、相続税の申告期限(原則として相続開始から10ヵ月以内)までに申告書を提出する必要があります。申告がなければ特例の適用を受けられないため、注意が必要です。
土地の用途や相続人の立場、居住状況などによって適用可否が変わるため、具体的なケースごとに制度の詳細を確認し、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】地積規模の大きな宅地の評価とは?適用条件や計算方法を解説
生前贈与と相続の違い
親から子へ不動産の名義変更を行う方法として、生前贈与と相続の2つの主な選択肢があります。どちらの方法を選択するかによって、かかる税金の種類や金額、手続きのタイミングなどが異なります。ここでは、税金面を中心に、生前贈与と相続それぞれのメリット・デメリットを比較検討してみましょう。
税金面での違い
税金面で比較すると、一般的に同じ金額の財産を一度に移転する場合、生前贈与にかかる贈与税の方が相続税よりも税率が高く設定されています。しかし、生前贈与には年間110万円の基礎控除があり、この非課税枠を活用して複数年にわたり計画的に贈与を行ったり、相続時精算課税制度を利用したりすることで、贈与税の負担を抑えることが可能です。
一方、相続では相続税の基礎控除額が大きく設定されており、遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。また、相続においては小規模宅地等の特例など、不動産の評価額を減額できる特例があり、相続税の負担を軽減できる場合があります。
その他の違い
税金面以外にも、生前贈与と相続にはいくつかの比較点があります。生前贈与は、贈与者の意思で財産を渡す相手や時期を自由に決められるため、特定の財産を特定の相手に確実に引き継がせたい場合に有効です。また、相続人同士の遺産分割協議が不要となるため、手続きが比較的スムーズに進む傾向があります。
一方、相続は遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があり、話し合いがまとまらない場合には時間や手間がかかることがあります。しかし、相続においては、不動産取得税が原則として非課税となるというメリットもあります。生前贈与と相続のどちらが適しているかは、個々の家庭の状況や財産の内容によって異なります。
名義変更をしない場合のリスク
不動産の名義変更をせずに放置しておくと、様々なリスクが発生する可能性があります。
まず、法律上の所有者が登記簿上の名義人のままとなり、実際の所有者であることを第三者に主張できなくなります。これにより、不動産の売却や担保設定が困難になります。また、相続による名義変更である相続登記は2024年4月1日から義務化されており、正当な理由なく手続きを怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
加えて、名義変更をしないままだと、将来の相続で相続人が増え、権利関係が複雑化して手続きがさらに困難になるリスクがあります。登記簿上の所有者が亡くなっても固定資産税の納税義務は相続人に発生し続けるため、名義変更の有無にかかわらず税金負担は避けられません。
関連記事:【税理士監修】駐車場は小規模宅地等の特例の対象となる?適用されるための条件とは?
不動産の名義変更は専門家への相談を
不動産の名義変更は、手続きの複雑さと多岐にわたる税金が絡むため、専門知識が不可欠です。適切な手続きと税負担の最適化には、専門家への相談が最も確実な方法です。
司法書士は不動産登記の専門家として、複雑な申請手続きや必要書類の準備を代行し、名義変更をスムーズに進めます。一方、税理士は税務の専門家として、贈与税や相続税の計算、各種控除・特例の適用判断、そして最適な節税対策を提案し、税務申告をサポートします。
誤った手続きや税務処理は、将来のトラブルや追加の税負担に繋がりかねません。法務と税務の両面から専門家の支援を受けることで、安心して名義変更を完了できます。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。