相続時の遺産分割協議書は何通必要?どこに提出するの?

遺産分割協議書は、亡くなった方(被相続人)の財産を相続人全員でどのように分けるかを話し合い、合意した内容を記した重要な書類です。この書類は、その後のさまざまな相続手続きで必要となります。
本記事では、遺産分割協議書の作成枚数、必要となるケースと不要なケース、主な提出先、提出時に必要となる他の書類、そしてコピーが使えるかどうかなど、遺産分割協議書に関する実務的な情報についてわかりやすく解説します。
目次
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、亡くなった方(被相続人)の財産を、相続人たちで「誰が何をどのくらい受け取るか」を話し合って決めた内容をまとめた書類です。相続人が2人以上いるときに作られ、全員が署名して実印を押すことで法的な効力を持ちます。
遺産分割協議書が必要となるケース
遺産分割協議書は、特定の相続手続きを進める上で不可欠な書類です。被相続人名義の財産を相続人名義に変更したり、相続人が財産を取得するためには遺産分割協議書が必要となります。遺言書が無い場合、相続人が複数いる場合や相続登記・相続税申告等の手続きが必要な場合などに必要となります。
特に、相続財産に不動産や預貯金がある場合や相続税の申告が必要なケースでは、遺産分割協議書の作成と提出が求められます。ここでは、遺産分割協議書が必要となるケースについて詳しく見ていきましょう。
不動産の名義変更
被相続人が土地や建物を所有していた場合、その不動産の名義を相続人に変更する相続登記の手続きが必要です。この手続きは不動産の所在地を管轄する法務局で行いますが、その際に遺産分割協議書が原則として必要となります。相続登記は2024年4月1日から義務化されているため、不動産を相続した場合は速やかに手続きを行いましょう。
預貯金の名義変更
被相続人名義の預貯金口座を解約したり、名義を変更したりする場合にも、金融機関から遺産分割協議書の提出を求められることが一般的です。遺産分割協議がまとまったら、金融機関に必要書類を確認し、手続きを進めましょう。
株式の名義変更
被相続人が所有していた株式や投資信託などの有価証券についても、名義変更の手続きが必要です。この手続きは証券会社を通じて行いますが、大抵の場合、遺産分割協議書の提出が必要となります。ただし、証券会社によっては、遺産分割協議書の代わりに所定の相続手続き書類に相続人全員が署名・実印を押印することで手続きを進められる場合もあります。手続きに必要な書類は証券会社によって異なるため、事前に確認することが大切です。
自動車の名義変更
被相続人が所有していた自動車の名義を変更する場合にも、運輸支局での手続きが必要となり、遺産分割協議書の提出が原則として求められます。ただし、査定額が100万円以下の普通自動車については、簡易な手続きが認められており、「遺産分割協議成立申立書」の提出で済むケースもあります。手続きに必要な書類や方法は、車種や排気量などによって必要書類が(削除)異なる場合があるため、事前に運輸支局または軽自動車検査協会で確認しましょう。
相続税の申告が必要な場合
相続税の申告は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内に行う必要があります。相続財産の総額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、申告義務が生じます。
申告の際、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを受けるには、原則として遺産分割が確定していることが必要であり、その証明として遺産分割協議書の提出が求められます。なお、期限までに分割がまとまらない場合でも申告は必要ですが、特例が適用できない場合があります。
遺産分割協議書が不要となるケース
遺産相続の手続きでは、すべてのケースで遺産分割協議書が必要になるわけではありません。財産の分け方について協議が不要であったり、対象となる財産が限られていたりする場合には、協議書なしで手続きを進めることが可能です。ここでは、協議書を省略できる代表的なケースを解説します。
有効な遺言書がある場合
被相続人が有効な遺言書を残しており、誰がどの財産をどのくらい受け取るのかが明確に記載されている場合には、通常、遺産分割協議は不要です。 この場合は、遺言書の内容に沿って相続手続きが行われ、協議書の提出は必要ありません。
ただし、自筆証書遺言(手書きの遺言)の場合は、原則として家庭裁判所による検認手続きを経なければ有効に使用できません。
一方、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用して保管されていた遺言であれば、検認は不要です。
相続人が一人だけの場合
相続人が一人だけの場合は、遺産を分け合う相手がいないため、協議自体が発生しません。このため、遺産分割協議書を作成する必要もなく、単独で各種相続手続きを進めることができます。
法定相続分で分割する場合
遺言書がないケースでも、相続人全員が法律で定められた法定相続分に従って遺産を分けることで合意している場合には、協議書を省略できる場合があります。
法定相続分とは、民法に基づき、被相続人との関係性に応じて定められた相続の割合を指します。たとえば、配偶者と子ども2人が相続人の場合、配偶者が2分の1、子どもたちはそれぞれ4分の1ずつ相続することになります。
相続人がこの割合での分割に同意しており、特に争いがない場合には、遺産分割協議書の代わりに同意書や金融機関が用意した所定の相続届などを提出することで手続きが可能になるケースもあります。
ただし、不動産の相続登記は、たとえ法定相続分どおりの分割であっても、正式な遺産分割協議書を求められる場合があります。金融機関の口座を解約する場合には、解約のためだけに遺産分割協議書を作成する必要はありません。ただし、多数の預金口座を開設していた場合、口座を解約するたびに相続人全員の署名捺印が必要となり非効率ですので、スムーズに手続きを進めるためには遺産分割協議書があったほうがいいでしょう。したがって、具体的な手続きを進める前に、必要書類を確認することが重要です。
関連記事:【税理士監修】遺産相続の割合は?法定相続分と注意が必要なケースをわかりやすく解説
遺産分割協議書の必要部数
遺産分割協議書は、相続手続きの中で各機関から提出を求められることが多いため、必要な部数をあらかじめ用意しておくことが大切です。法的に「○通作成しなければならない」といった決まりはありませんが、実務上は相続人の人数や提出先の数に応じて複数部作成するのが一般的です。ここでは、どのようなケースで何通程度の協議書が必要になるのかについて解説します。
相続人の人数分を作成する
遺産分割協議書は、相続人全員が分割内容に合意したことを証明する大切な書類です。そのため、原則として相続人の人数分の原本を作成し、それぞれが1通ずつ保管することが望ましいとされています。
各自が内容を手元で確認できるようにしておくことで、後のトラブル予防にもつながります。作成部数で迷った場合は、まずは相続人の数に応じた枚数を基準に考えるとよいでしょう。
提出先ごとに用意する
相続手続きでは、法務局・金融機関・証券会社・税務署・運輸支局など、財産の種類に応じてさまざまな機関へ協議書の提出が求められます。それぞれの提出先で原本の提出が必要とされるケースも多いため、手続きを行う機関の数を把握し、それに見合った部数を用意することが重要です。
なお、原本を返してもらいたい場合は、提出時に「原本還付」の手続きを行うことで返却してもらうことが可能です。ただし、手続きによっては還付不可の場合もあるため、あらかじめ確認しておくと安心です。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書は必要か?必要な例・不要な例や、作成時のポイントなどを解説
遺産分割協議書と一緒に提出する書類
遺産分割協議書を使って相続手続きを行う際には、遺産分割協議書だけでなくいくつかの添付書類も一緒に提出する必要があります。これらの書類は、手続きの内容や提出先によって異なりますが、共通して求められるものも多くあります。スムーズに相続手続きを進めるためには、遺産分割協議書の作成と並行して、必要書類の準備も早めに進めておくことが大切です。以下では、遺産分割協議書と一緒に提出されることが多い代表的な書類について説明します。
印鑑証明書について
遺産分割協議書には、相続人全員が実印で押印する必要があります。この実印が本人のものであることを証明するために、相続人全員の印鑑登録証明書の提出が求められます。印鑑登録証明書は、各相続人が住民登録をしている市区町村役場で取得できます。
その他の必要書類
遺産分割協議書と共に提出する書類は多岐にわたりますが、主なものは以下の通りです。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の印鑑登録証明書
これらの書類は、相続人全員を確定させたり、被相続人の最後の住所を証明したりするために必要となります。 相続財産に不動産や預貯金などが含まれる場合は、それぞれの財産に関する書類も必要になります。
たとえば、不動産であれば固定資産評価証明書や登記簿謄本、預貯金であれば残高証明書などが挙げられます。
また、相続放棄をした相続人がいる場合には、相続放棄申述受理証明書も提出が必要になります。 これらの書類は市区町村役場や法務局で取得できます。しかし、なかには有効期限がある書類もあるため、あまり早く取得せず提出の直前に準備することをおすすめします。
関連記事:【税理士情報】相続手続きには戸籍謄本が必要。使う場面や入手方法、注意点などを解説
遺産分割協議書の提出先
作成した遺産分割協議書の提出先は、行う手続きの内容によって異なります。不動産の名義変更であれば法務局、預貯金の解約であれば金融機関など、それぞれの財産の種類や手続きに応じて提出先が決まっています。
相続税は税務署に提出
相続税の申告が必要な場合、遺産分割協議書を税務署に提出しなければいけません。相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内です。
この申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合でも申告は可能ですが、配偶者の税額軽減などの特例が受けられない場合があります。特例を適用するためには、原則として遺産分割協議書を提出する必要があります。
不動産の名義変更は法務局に提出
被相続人名義の不動産がある場合、相続人へ名義を変更する相続登記の手続きを行います。この相続登記の申請時に、遺産分割協議書を提出する必要があります。相続登記は不動産の所在地を管轄する法務局で行います。
相続登記は2024年4月から義務化されており、相続によって不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
関連記事:【税理士監修】不動産を相続したら名義は変更するべき?手続きやトラブルなどを解説
預貯金の解約・名義変更は金融機関に提出
被相続人名義の預貯金口座の解約や名義変更を行う際に、金融機関から遺産分割協議書の提出を求められます。手続きの方法や必要書類は金融機関によって異なる場合がありますが、遺産分割協議書は相続人全員の合意を証明する書類として有効です。
株式の名義変更は証券会社に提出
被相続人が所有していた株式や投資信託などの名義変更を行う際には、証券会社に遺産分割協議書を提出する必要があります。証券会社所定の相続手続き書類と併せて提出することが一般的です。
自動車の名義変更は運輸支局に提出
自動車の名義変更は、前述のとおり運輸支局(軽自動車の場合は軽自動車検査協会)で手続きを行います。 手続きの際には、遺産分割協議書などの相続関係書類の提出が求められるのが一般的です。
具体的な提出書類は自動車の種類や状況によって異なるため、事前に各窓口へ確認しておきましょう。
遺産分割協議書はコピーでもOK?
遺産分割協議書は、複数の機関に提出する必要があるため、「コピーでもよいのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、相続手続きは不正防止の観点から原本の提出が求められ、コピーでは対応できない場合が一般的です。そのため、提出先の数に応じて原本を複数用意するか、「原本還付」の手続きを利用して原本を返却してもらう方法が現実的です。
原本提出が原則。原本還付を利用する方法もある
遺産分割協議書は、法務局での相続登記、金融機関での預貯金手続き、税務署での相続税申告など、多くの手続きで原本の提出が原則とされています。コピーでは受付けてもらえないケースがほとんどです。
複数の機関に提出する場合、その都度原本を用意するのは手間がかかります。こうした場面で便利なのが「原本還付」という手続きです。原本とそのコピーをあわせて提出し、相違がないことを申し出ることで、手続き後に原本が返却されます。
この方法を活用すれば、限られた原本を複数の提出先で使用することが可能となり、必要部数を抑えることができます。なお、原本還付の手続き方法は提出先によって異なる場合があるため、事前に確認しておくことが大切です。
遺産分割協議書に関するよくある質問
ここでは、遺産分割協議書に関してよく寄せられる質問とその回答をご紹介します。
Q1:遺産分割協議書は自分で作成できますか?
遺産分割協議書はご自身で作成することも可能です。ただし、法律的に有効な書類とするためには、決められた形式に従い、必要事項を漏れなく正確に記載しなければいけません。記載内容に不備があると、その後の手続きに影響が出る可能性もあります。正確な作成には専門知識が必要となる場合があるため、ご不安な場合は専門家への相談を検討すると良いでしょう。
関連記事:【税理士監修】遺産分割協議書の作成方法と必要性について解説
Q2:遺産分割協議書に押す印鑑は認印でも良いですか?
遺産分割協議書には、相続人全員の実印を押印する必要があります。認印では手続きを進めることができません。実印で押印することで、本人の意思に基づいた合意であることを証明します。併せて印鑑登録証明書の提出も求められます。
Q3:遺産分割協議に期限はありますか?
遺産分割協議自体に法律上の明確な期限はありません。しかし、相続税の申告には相続開始被相続人がなくなった日の翌日から10ヵ月以内、相続登記には所有権取得を知った日から3年以内など手続き上の期限が存在します。これらの期限に間に合わせるためには、早めに遺産分割協議を成立させ、遺産分割協議書を作成するべきです。
Q4:遺産分割協議書がないとどのような問題がありますか?
遺産分割協議書がないと、相続財産の名義変更や預貯金の解約、相続税の申告などの手続きを円滑に進めることが難しくなります。また、後になって相続人間で遺産分割について争いが生じるリスクが高まります。
遺産分割協議書を作成しておくことで、相続人全員の合意内容を明確にし、将来のトラブルを防ぐことにつながります。
まとめ
遺産分割協議書は、相続人が複数いる場合で、遺言書がない、または遺言書があっても遺産分割協議が必要な場合に作成されます。
不動産の名義変更、預貯金や株式の解約・名義変更、自動車の名義変更、そして相続税の申告といったさまざまな手続きで提出が求められます。原則として提出先には原本が必要となるため、相続人の人数分に加えて提出が想定される機関の数を考慮して何通作成するかを決め、必要に応じて原本還付の手続きを利用しましょう。
遺産分割や手続きは複雑になることも多いため、特に相続税の申告が必要な場合や相続人間で争いがある場合は、専門家への相談をおすすめします。税理士などの専門家が、遺産分割協議書の作成から各種手続きまで、スムーズな進行を後押ししてくれます。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。