生前贈与で受け取った土地・不動産を売却する場合の税金・費用とは?

生前贈与で土地や不動産を受け取ったものの「居住地から遠く管理が難しい」「活用できず維持費だけがかかり続けている」などのお悩みを抱えている方もいるでしょう。
生前贈与された土地や不動産の売却時には、税金や譲渡に係る費用が発生します。この記事では、税金の種類や計算方法とあわせて、売却に向けた準備、実際の売却手順、利用できる特例や控除、確定申告の手続きについて解説します。
目次
生前贈与された土地や不動産の扱い方
生前贈与で受け取った土地や不動産の活用方法として「売却」の他に「自己利用」「収益化」などが挙げられます。まずはそれぞれのメリットやデメリット、発生する税金や費用について理解を深めましょう。
売却をする場合
生前贈与された不動産を売却する場合、主に譲渡所得税などの税金が発生します。
譲渡所得税は、売却金額から土地や不動産の取得にかかった「取得費」と売却にかかった「譲渡費用」を差し引いた利益に対して課税される税金です。生前贈与された不動産の場合、取得費は贈与者がその不動産を取得したときの費用を引き継ぎます。
売却の際には、不動産会社への仲介手数料や所有権移転登記の際にかかる登録免許税、売買契約の印紙税などが発生します。ただし、これらのなかには譲渡費用に含まれないものもあるため注意が必要です。
売却にはまとまった現金を得られるというメリットがありますが、税金や諸費用がかかること、市場の状況によって売却価格が変動する可能性があることなどを念頭に、慎重に検討しましょう。
自宅や駐車場として自己利用する場合
生前贈与された不動産を自宅として使用したり、土地を駐車場や菜園として活用したりする場合、固定資産税や都市計画税が発生します。
各税金は毎年1月1日時点の土地の所有者に対して課せられ、4~6月頃に納付書が送付されます。納付漏れのないよう手続きを確実に済ませましょう。
不動産収入として収益化する場合
生前贈与された土地にアパートやマンションを建設して賃貸経営を行ったり、駐車場として貸し出したりすることで、不動産収入を得ることも可能です。
この場合、家賃や駐車場代などの収益を得られますが、同時に不動産所得に対する所得税や住民税、賃貸管理にかかる費用なども発生します。そのため、収支のバランスや施設や土地の管理負担を含め、自身の状況に合わせて慎重に検討することが重要です。
関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説
生前贈与された土地や不動産の売却に向けた事前準備
生前贈与された土地や不動産をスムーズに売却するために、以下の事前準備を行いましょう。
- 贈与契約の確認
- 所有者名義の変更
- 住宅ローンの確認
売却に必要な書類や情報はあらかじめ確認し、必要に応じて書類をそろえておきます。漏れなく進めることは、トラブル防止や円滑な売却につながります。
贈与契約の確認
贈与契約は贈与者と受贈者の合意によって成立する契約であり、書面上で行われるのが一般的です。贈与契約書には、主に以下の項目が記載されています。
- 贈与された土地や不動産に関する情報
- 贈与契約締結日や贈与履行日
- 贈与者と受贈者の情報
- その他の条件
贈与契約書を確認することで、土地や不動産の所有権が自身に移転しているか、売却にあたって特別な条件が付されていないかなどを把握できます。
特に、税務署に対して贈与の事実を証明する上で贈与契約書は重要な書類です。契約書がなくても贈与自体は成立しますが、後々の手続きや税務調査の際に贈与の事実証明が難しくなる可能性があるため、契約の際に作成しておくことをおすすめします。
所有者名義の変更
生前贈与された不動産を売却する場合、所有者名義を贈与者から受贈者である自身の名義に変更する手続きが必要です。この名義変更は「所有権移転登記」と呼ばれ、不動産の所在地を管轄する法務局で行います。
所有権移転登記には、一般的に以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 贈与契約書
- 登記済権利証または登記識別情報通知
- 印鑑証明書
- 住民票
- 固定資産評価証明書
上記に加え、状況に応じて別途書類の添付を求められる場合もあります。
必要書類を漏れなく準備し、法務局に申請することで名義変更手続きが完了します。この手続きを怠ると、不動産の所有者が贈与者のままとなり、法的に売却を進めることができません。
名義変更の手続きは法務局に直接出向いて行うことも可能ですが、専門家や司法書士に依頼することで、書類の準備や手続きをよりスムーズに進められるでしょう。
関連記事:【税理士監修】土地の相続では名義変更が必要!方法や必要書類、放置するリスクなどを解説
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住宅ローンの確認
売却に際し、生前贈与された不動産の住宅ローンについて確認しましょう。残っている場合、売却代金でローンを一括返済し、抵当権抹消登記を行うのが一般的です。住宅ローンを完済できないと抵当権が抹消されず、買主に所有権を移転できません。
まずは、贈与された不動産に抵当権が設定されているか、設定されている場合はローンの残債がいくらあるのかを金融機関に確認します。残債によっては売却金額で完済できない可能性も考えられるため、なるべく早い段階で把握し、事前に資金計画を立てておくことが重要です。
関連記事:【税理士監修】不動産は生前贈与するべき?相続との違いやメリット、注意点を解説
不動産の売却手順
生前贈与された不動産の売却は、以下の手順で進められるのが一般的です。
- 不動産会社の選定と媒介契約の締結
- 売却活動・購入希望者との交渉
- 不動産売買契約の締結・引き渡し
ここでは、不動産売却の流れを順を追って説明します。
1.不動産会社の選定と媒介契約の締結
不動産会社に不動産の査定を依頼し、信頼できる会社を選びます。売却を優位に進めるためには、複数の会社に査定を依頼し、比較検討することも重要です。
不動産会社の選定を終えたら、不動産仲介の媒介契約を締結します。媒介契約には主に3つの形態があります。
契約形態 |
契約内容 |
専属専任媒介契約 |
不動産売却の仲介を1社に依頼・自身で買主を探し直接取引を行うことはできない |
専任媒介契約 |
売却の仲介を1社に依頼・自身で買主を探し直接取引を行うことも可能 |
一般媒介契約 |
複数社に仲介を依頼・自身で買主を探し直接取引を行うことも可能 |
それぞれの特徴を理解した上で、上記の中から最も適した契約を選択しましょう。
2.売却活動・購入希望者との交渉
媒介契約の締結後、不動産会社はインターネット広告やチラシを活用して購入希望者を募り物件の内覧を行います。購入希望者から「購入申込書」が提出された後、売却価格や引き渡し時期などの条件交渉を進めます。
3.不動産売買契約の締結・引き渡し
条件について合意が得られたら、以下の項目が明記された契約書を作成し、不動産売買契約を締結します。
- 売買物件の詳細
- 売買価格・支払い方法・支払い時期
- 引き渡し時期
- 移転登記の申請時期
- その他特約事項
売買代金の授受を行い、所有権移転登記を行った後、買主への鍵の引き渡しをもって不動産の売却手続きが完了します。
生前贈与された土地や不動産の売却にかかる諸費用
生前贈与された土地や不動産を売却する際には、様々な費用が発生します。これらの中には売却益から差し引ける「譲渡費用」に含まれるものと除外されるものがあるため、事前に把握しておくことが重要です。
ここでは主な諸費用である以下の4項目について解説します。
- 仲介手数料
- 測量にかかる費用
- 売買契約書の印紙税
- 登録免許税
土地や不動産の譲渡に際して発生する税金「譲渡所得税」については、次章で詳しく取り上げます。
1.仲介手数料
売買契約が成立した際に、不動産売却の仲介を依頼した不動産会社に支払う成功報酬として「仲介手数料」が発生します。売却活動や契約手続きなど、不動産会社が行う様々な業務の対価として支払うものです。
上限額は宅地建物取引業法によって定められており、売却価格に応じて異なりますが、一般的に売却価格が400万円を超える場合、以下の速算式で計算されます。
売却価格の3%+6万円+消費税
仲介手数料は多くの場合、売買契約締結時に半額、物件の引き渡し時に残りの半額を支払います。仲介手数料は譲渡費用として認められるため、譲渡所得を計算する際に売却金額から差し引くことが可能です。
2.測量にかかる費用
土地を売却する場合、隣地との境界を明確にするために土地の測量が行われるケースがあります。特に過去に測量が行われていない土地や、隣地との境界があいまいな土地では、測量が必要になる可能性が高いと考えておきましょう。
測量にかかる費用は、土地の形状や面積、作業内容によって異なりますが、数十万円程度かかるのが一般的です。測量費用は、土地を売却するために直接かかった費用として、譲渡費用に計上できます。事前に測量の必要性の有無や費用について不動産会社と相談し、見積もりを取ることをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】不動産評価額とは?調べ方や使用用途について解説
3.売買契約書の印紙税
不動産の売買契約書作成時には印紙税が必要です。印紙税は契約金額に応じて税額が定められており、契約書に収入印紙を貼付して消印することで納税手続きが完了します。
売買契約書は売主と買主がそれぞれ1通ずつ保管するため、通常はそれぞれの契約書に貼付する印紙税を売主と買主が折半して負担します。売主が負担した印紙税は、譲渡費用に含めることが可能です。
4.登録免許税
不動産を売却し所有権が買主に移転する場合、所有権移転登記が必要となり、これに伴い登録免許税が発生します。登録免許税の額は、固定資産税評価額に一定の税率をかけて計算されます。
不動産売買における所有権移転登記の登録免許税は買主負担が一般的です。ただし、贈与によって取得した不動産の場合、贈与登記の際に登録免許税を支払っているはずであり、売却に伴う抵当権抹消登記が必要な場合、その登録免許税は売主負担となります。これらの登録免許税は譲渡費用に含まれる場合があるため、取得時の支払い分も含め確認しましょう。
関連記事:【税理士監修】不動産を相続するためには何をする?必要な書類やかかる費用についても解説
不動産売却時にかかる譲渡所得税について
生前贈与された土地や不動産を売却して得た利益「譲渡所得」には、譲渡所得税が課税されます。この税金は、分離課税として他の所得と分けて計算されます。
ここでは譲渡所得税の計算方法や、譲渡所得を計算する上で重要となる2つの項目「取得費」「譲渡費用」について見ていきましょう。
譲渡所得税とは
譲渡所得税は、不動産の売却金額から不動産取得するのにかかった「取得費」と売却にかかった「譲渡費用」を差し引いた「譲渡所得」に対して課される税金です。この譲渡所得税は所得税と住民税の課税対象となります。譲渡所得がプラスになった場合に発生し、譲渡損失でマイナスになった場合は原則として徴収されません。
譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって異なります。
所得種別 |
所有期間 |
税率 |
短期譲渡所得 |
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年以下 |
所得税30% |
長期譲渡所得 |
売却した年の1月1日現在で所有期間が5年超 |
所得税15% |
この所有期間は、贈与者が当該不動産を所有した時期から、受贈者が売却した年の1月1日までの期間を差します。所得税、住民税いずれも、不動産の保有期間が長いほど税率が低く設定されているため、事前に期間を明確にしておきましょう。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は、取得費と譲渡所得に所定の税率をかけて計算されます。譲渡所得と譲渡所得税の計算式は以下の通りです。
譲渡所得=売却金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除(各ケースで異なる)
譲渡所得税額=譲渡所得×税率
例えば、生前贈与で取得した不動産を5,000万円で売却し、贈与者が3,000万円で取得、売却にかかった仲介手数料などを含む諸費用が200万円だったとします。この場合、譲渡所得は以下のように計算されます。
譲渡所得=5,000万円-(3,000万円+200万円)=1,800万円
次にここから譲渡所得税を算出してみましょう。例えば、所有期間が5年を超えており長期譲渡所得に該当する場合、税率は所得税15%、住民税5%(2037年までは復興特別所得税も加算)です。
譲渡所得税額=1,800万円×20.315%=約365.67万円
特別控除などが適用される場合は、さらに税負担が軽減される可能性があります。
譲渡所得の計算上重要となる「取得費」「譲渡費用」
譲渡所得は、不動産の売却金額から取得費と譲渡費用の各項目の金額を差し引いたものです。譲渡所得税を正しく把握するために、各項目の詳細を確認しておきましょう。
取得費
取得費とは、売却した土地や建物を取得するために直接かかった費用の合計額を指します。含まれる費用の一例は以下の通りです。
- 購入代金や建築代金
- 購入時の仲介手数料
- 登記費用
- 税金(不動産取得税・登録免許税・印紙税など)
生前贈与によって取得した不動産の場合、贈与者がその不動産を取得したときの取得費を引き継ぎます。つまり、受贈者が贈与を受けた時点の評価額ではなく、贈与者が購入した際の金額などが取得費計算の基礎となるのです。建物の場合は、所有期間に応じた減価償却費を取得費から差し引く必要があります。
購入当時の金額が不明な場合は、売却金額の5%を取得費とする「概算取得費」が認められています。ただし、税負担が大きくなるケースが多いため、可能な限り実際の取得費を把握するのが望ましいでしょう。
譲渡費用
譲渡費用とは、土地や建物を売却するために直接要した費用のことです。譲渡所得の計算において、経費として売却収入から差し引くことができます。譲渡費用の一例として、以下の項目が挙げられます。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 印紙税(売買契約書に貼付する売主負担分)
- 土地の測量費用
- 建物の取り壊し費用とその損失額
- 借家人の立ち退きに際し支払った立ち退き料
譲渡費用には、不動産の売却を成立させるために直接的に必要となった支出が該当します。修繕費や固定資産税など、不動産の維持管理にかかった費用や、売却代金の取立てにかかった費用などは含まれません。
生前贈与された不動産と控除
生前贈与された不動産を売却する際、特定の要件を満たせば税金控除が利用でき、譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があります。ここでは、居住用不動産を売却した場合に適用される特例とその適用要件について解説します。
居住用不動産を売却した場合の特例
生前贈与された不動産でも、自身が居住用として使用していた建物に関しては、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が適用される可能性があります。この特例は、所有期間の長短に関わらず、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できます。
したがって、譲渡所得が3,000万円以下であれば税金がかかりません。また、3,000万円を超えた場合でも、超過分に対してのみの課税となるので、大幅な節税効果が期待できます。ただし、特例の適用を受けるためにはいくつかの要件を満たすことが必要です。
特例の適用要件
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の主な適用要件は、以下の通りです。
- 自身が住んでいた家屋とその敷地などを売却すること。または、住まなくなった日から3年が経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却した年の前年および前々年に、この特例または「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと
- 売却した年、その前年および前々年にマイホームの買い換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと
- 親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売却したものでないこと
これらの要件を満たしていれば、生前贈与された不動産の売却において税負担を軽減できる可能性があります。ただし、要件の解釈や申請に専門的な知識が必要となるケースもあるため、税理士への相談を検討することをおすすめします。
生前贈与の土地・不動産でよくある質問
最後に、生前贈与された土地や不動産の売却に関して寄せられることの多いQ&Aを確認していきましょう。
Q1. 生前贈与された不動産を売却した場合どのような税金がかかる?
A1. 主に譲渡所得税(所得税と住民税の合計)がかかります
譲渡所得税は不動産の売却金額から、不動産取得にかかった取得費と売却にかかった譲渡費用を差し引いた譲渡所得に、一定の税率をかけて計算します。 贈与によって取得した場合の取得費は、贈与者がその不動産を取得したときの費用を引き継ぐため、あらかじめ情報を収集しておきましょう。
Q2. 生前贈与された不動産でも居住用財産の3,000万円の特別控除は適用可能?
A1. 要件を満たしていれば適用できる可能性があります
適用には、売却する不動産を自身が居住用として使用していたこと、親子や夫婦を含む「特別の関係がある人」への売却ではないことなど、いくつかの要件を満たしている必要があります。
Q3. 不動産の取得費が不明な場合はどのような対応を取るべき?
A1. 実際の取得費が不明な場合は、売却金額の5%を概算取得費として計算します
ただし、概算取得費で計算すると税負担が大きくなるケースがあります。そのため、実際の取得費を把握するのが得策ですが、当時の資料が見つからない場合は、専門家である税理士への相談をおすすめします。
まとめ
生前贈与で受け取った土地や不動産を売却する際には、譲渡所得税をはじめとする税金や様々な諸費用が発生します。売却に向けては、贈与契約の確認、所有者名義の変更、住宅ローンの確認といった事前準備をしっかりと行い、適切な手順で手続きを進めることが重要です。
売却で利益が発生した場合、確定申告が必要なため、書類を漏れなく準備し、期限内に手続きを行いましょう。生前贈与された土地や不動産に係る税金の計算や手続きには、専門的な知識が必要となる場合が多いため、状況に合わせて税理士に相談することをおすすめします。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。