生命保険を活用して賢く相続税対策!非課税枠や注意点を解説

相続税の負担を軽減したいと考えている方にとって、生命保険を活用した相続税対策は有効な方法の一つです。しかし、契約形態を間違えると思わぬ税負担が発生したり、家族間でトラブルが生じたりするリスクもあります。本記事では、生命保険を活用した相続税対策の仕組みや注意点を詳しく解説します。
目次
生命保険が相続税対策に有効な理由
生命保険はもしもの時に家族にお金を残せるだけではありません。生命保険が相続税対策として注目される理由は、現金や不動産などにはない非課税枠などのメリットがあるためです。ここでは、生命保険を相続税対策として活用するメリットを紹介します。
生命保険金には一定の非課税枠がある
亡くなった方が遺した財産が一定以上の額になると相続税がかかります。現金や預貯金は基本的に全額が相続税の対象になります。一方、生命保険金には非課税枠という特別ルールがあり、法定相続人1人あたり500万円までは相続税がかかりません。例えば、法定相続人が妻と子2人の合計3人の場合、非課税枠は500万円×3人=1,500万円です。
より具体的な例で見てみましょう。相続財産の総額が8,000万円、相続人は妻と子2人の合計3人だとします。税金がかからない基礎控除の枠は、このケースでは以下のように計算します。
基礎控除:4,800万円(3,000万円+600万円×3人) |
相続財産の総額8,000万円からこの基礎控除4,800万円を差し引いた残りの3,200万円に対し相続税がかかります。
これがもし、相続財産のうち1,500万円分が生命保険金であれば、実質的に相続税の大使うとなる金額を3,200万円から1,700万円にまで減らすことができるのです。
現金で受け取れるので納税や分割に便利
相続税は現金での一括納付するのが原則です。仮に相続財産のほとんどが不動産の場合、相続税を納める資金を相続した分の現金でまかなえないリスクがあります。
相続税の申告と納税の期限は、亡くなった日(相続の開始があったことを知った日)から10ヵ月以内です。仮に期限内での納税資金に不安がある場合、生命保険金を活用するのも一つの方法です。必要な書類が揃っていれば、保険金請求の書類が保険会社に到着してから5営業日程度で現金として手元に入ってきます。
納税資金を工面するために急いで不動産を売却しようとしても、希望価格での売却が難しい可能性があります。生命保険金の場合、保険金請求の書類が保険会社に到着してから5営業日程度で現金として手元に入ってきます。相続税の納税資金に不安がある場合も、生命保険は有効な選択肢です。
相続財産の中に物理的に分けられない高額な財産がある場合、相続人同士で分割方法を決める際にトラブルになるケースがあります。例えば、価値のある不動産を誰か一人が相続することに他の相続人が納得できない場合などです。
トラブルを防ぐために、遺言書で不動産を相続する方を指定し、不動産を相続しない方には生命保険金を残す方法もあります。相続人同士の心情的な対立を避け、相続財産を有効活用することにもつながるでしょう。
関連記事:【税理士監修】生命保険の死亡保険金には相続税がかからない?非課税枠や注意点も解説
特定の人に確実に財産を残せる
生命保険はあらかじめ受取人を指定できるため、遺言書よりも確実に特定の個人に財産を遺すことが可能です。生命保険金は相続財産ではなく、受取人の固有の財産として扱われるためです。
遺言書でもどの財産を誰に遺すか指定できますが、相続人全員の合意があれば、遺言書とは異なる分け方も可能です。一方、生命保険金は遺産分割の対象外のため、他の相続人の意思にかかわらず、受取人に指定された方が確実に受け取れます。例えば、事業の後継者や長年介護をしてくれた親族にお金を残したいといった場合には有効な手段です。
関連記事:【税理士監修】遺言書の持つ効力とは?無効になるケースと確実性を高めるポイント
生命保険は契約形態で税金が変わる
生命保険は、契約者・被保険者・受取人の関係によって保険金を受け取った際に課される税金が異なります。契約形態を間違えると、想定外の税負担となるリスクがあるため、契約内容をよく確認しましょう。
契約者・被保険者・受取人とは?
契約者は保険料を支払っている方、被保険者は保険の対象となっている方、受取人は保険金を受け取る方です。生命保険の場合、三者の関係性によって以下の表のように課される税金が異なります。
契約者 |
被保険者 |
受取人 |
税金 |
|
1 |
夫 |
夫 |
妻 |
相続税 |
2 |
妻 |
夫 |
妻 |
所得税・住民税 |
3 |
妻 |
夫 |
子 |
贈与税 |
被保険者が誰であるかは「誰が亡くなったときに生命保険金がおりるか」という条件に過ぎません。ポイントは保険料を実際に支払っている契約者と保険金を受け取る方の関係です。
契約者=被保険者の場合|相続税
自分に万が一のことがあったときに備えて自分で保険金を支払い、家族に保険金を残すケースです。この場合、生命保険金はみなし相続財産として扱われ、受取人に相続税が課税されます。ただし、前述の通り相続税には基礎控除や生命保険金の非課税枠があるため、必ず課税されるとは限りません。
契約者=受取人の場合|所得税・住民税
例えば夫が亡くなった際に、保険料を支払っていた妻自身が保険金を受け取るパターンです。自分で掛けていた保険を自分で受け取るため、一時所得または雑所得として所得税と住民税がかかります。保険金を一時金として受け取った場合は一時所得、年金として受け取った場合は雑所得です。支払った保険料に対して受け取った保険金が大きい場合、税額が高くなる可能性があります。
所得税や住民税は、給与や年金など1年間のさまざまな所得を合算して計算します。保険金を受け取った年だけ所得が大幅に高くなり、例年よりも税負担が大きくなるリスクがある点に注意が必要です。さらに所得が高くなることで、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料、介護保険料が一時的に高くなる可能性があります。
契約者・被保険者・受取人がすべて異なる場合|贈与税
例えば母親が保険料を支払っており、父親が亡くなった際に子が保険金を受け取るケースです。この場合の保険金は、保険料を支払っている母から子への贈与とみなされます。相続税における生命保険金の非課税枠は適用されません。贈与税の年間110万円の基礎控除額を超えた部分に対して贈与税が課税されます。
贈与税の税率は相続税よりも高く設定されている上、控除の枠が少ないため、大きな税負担となる可能性があります。相続税対策をしながら子どもに財産を残すには逆効果になってしまいます。
関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説
生命保険を活用した相続税対策の注意点
契約形態のほかにも、財産を守り、円満な相続を実現するために注意しておきたいポイントがあります。
途中解約は損をする?元本割れのリスクと対策
生命保険は基本的に長期間の契約継続が前提です。多くの生命保険商品では、契約初期に解約すると、解約返戻金が支払保険料の総額を下回る「元本割れ」が発生します。相続税対策として活用するのであれば、元本割れは避けたいところです。
元本割れを防ぐために、契約前に将来の収支計画を十分に検討し、保険料負担が継続可能かを慎重に判断しましょう。また、解約返戻金の推移を契約前に必ず確認しておきましょう。
将来の経済状況の変化に備えて、自動振替貸付制度がある商品を選択することも一つの対策です。保険料の支払いが困難になった場合でも、解約返戻金の範囲内で保険料を自動的に立て替えてもらえるため、契約を継続しやすくなります。また、支払った保険料を元に保険金額を減額し、以後の保険料の負担なしで保障を維持できる場合もあります。
将来の相続税対策とはいえ、家計の負担となったり財産を目減りさせたりしては本末転倒です。保険会社や税理士と相談して、より条件に合った契約を結びましょう。
家族間のトラブルを防ぐ!受取人指定の重要性
生命保険の受取人を誰にするかは相続トラブルを防ぐ上で重要です。相続人の中に生命保険金を受け取る方と受け取らない方がいる場合や、受け取る金額に差がある場合は特に注意が必要です。
前述の通り、生命保険金は受取人固有の財産です。兄弟を代表して長男を受取人とし、兄弟で仲良く分けてもらおうと考えるのは危険です。長男が受け取った保険金を兄弟に渡すと贈与税がかかる可能性があるため、税金対策として十分ではありません。
さらに、長男が受け取った保険金を兄弟に分配する法律上の義務はないため、約束が違うとトラブルの原因にもなりかねません。保険金を受け取ってほしい方が複数いる場合は、契約上の受取人を複数名設定し、受け取る割合も決めておくのが望ましいでしょう。
また、生命保険金により特定の相続人だけが多額の財産を取得し、他の相続人と著しく不公平になる場合、相続人同士の争いになるリスクがあります。生命保険金を含めた相続財産全体のバランスを考慮し、生命保険金を受け取らない相続人には他の財産を多めに相続させるなどの配慮が大切です。
生命保険の受取人や受取割合は契約者の意思で変更できますが、相続トラブルを防ぐためにも家族間で共有しておくことをおすすめします。
【Q&A】よくある疑問を解決!生命保険と相続税対策
生命保険を活用した相続税対策について、実際に相続の場面で直面しやすい疑問を中心に、多くの方から寄せられる質問に答えます。
Q1. 相続放棄した場合でも生命保険金は受け取れる?
A. はい、相続放棄をしても生命保険金は受け取れます。
家庭裁判所に相続放棄の申述をすると、亡くなった方の財産や借金は引き継がれません。遺産分割の話し合いにも参加できません。しかし、生命保険金は相続財産ではなく、契約で指定された受取人の固有の財産です。そのため、相続放棄をした場合も保険金を受け取れます。
ただし税法上は、生命保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。非課税枠を計算する際には、相続放棄した方も法定相続人の人数に含めるのがポイントです。借金が多い場合、相続放棄により負債を回避しながら、生命保険金を活用して最低限の資金を確保することも可能です。
関連記事:【税理士監修】相続放棄の受理期間は3カ月。経過後の放棄は認められる?
Q2. 高齢でも新たに生命保険に加入できる?
A. 高齢の方や持病がある方も加入できる可能性があります。
一般的な定期保険や終身保険の加入年齢上限は80歳程度ですが、商品によっては85歳や90歳まで加入可能なものもあります。また、持病がある方でも加入しやすい保険商品もあります。
ただし、保険料が高額になることが多いため、相続税の軽減効果と保険料負担を比較検討することが重要です。審査に時間がかかる場合があるため、新たに生命保険に加入したい場合は早めに準備しましょう。
年齢や健康状態によっては、生命保険以外の相続対策(生前贈与、不動産活用など)の方が効果的な場合もあります。保険代理店や税理士と相談して、あなたに適した相続税対策を検討することをおすすめします。
Q3. 生前贈与と生命保険、どちらが相続税対策として効果的?
A. それぞれにメリットがあり、併用することで相乗効果が期待できます。
生前贈与と生命保険は、それぞれ異なる特徴を持つ相続税対策であり、状況に応じて使い分けることが重要です。生前贈与で確実に財産を移転しつつ、生命保険も活用するなど、併用することでより効果的な対策が可能となる場合もあります。
法定相続人となる方が複数いる場合、配偶者だけが生前贈与を受け取っていたことで後からトラブルになる可能性もあります。税金対策をしながら円満な相続を実現するために、専門家のアドバイスを受けると安心です。
関連記事:【税理士監修】生前贈与はいくらまで非課税?効果的な節税の方法や注意点を解説
相続税対策は生命保険だけではない!迷ったら税理士へ
生命保険は、相続税の非課税枠を活用しながら納税資金の確保も可能なため、上手に活用すれば相続税対策として有効です。しかし、契約内容によっては高額な税負担が生じたり、相続人同士のトラブルを招いたりするリスクもあります。
円満な相続を実現するためには、生命保険だけではなく多様な方法を組み合わせて自分に合った相続税対策を講じることが大切です。適切な対策は個々のケースによって異なるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。