[生前贈与の節税対策]孫への相続を非課税にする方法

大切な孫へ財産を遺す方法として、生前贈与は有効な手段となり得ます。適切な方法を選ぶことで、贈与税や将来の相続税の負担を軽減できる可能性があるからです。
本記事では、孫への生前贈与を非課税で行うための具体的な方法や知っておくべき制度、そして実行する上での注意点について詳しく解説していきます。
目次
孫への生前贈与は相続税を軽減できる
孫への生前贈与は、相続税の節税につながる有効な手段の1つです。
相続税は、亡くなった時点での財産総額に対して課税されますが、生前に財産を孫に贈与することで、その課税対象となる財産をあらかじめ減らすことができます。
また、暦年贈与の基礎控除を活用したり、特定の目的のための贈与に関する非課税制度を利用したりすることで、贈与税の負担を抑えつつ計画的に孫へ財産を移すことが可能です。
一般的に、財産は「親 → 子 → 孫」と段階的に相続されるため、複数回相続税が課される可能性があります。しかし、生前に孫へ直接贈与を行えば、一度の贈与で世代を飛ばして資産を移すことができ、将来的な相続税の総負担を抑えられる場合もあります。これを「隔世贈与」と言います。
さらに、孫は法定相続人ではないため、原則として相続開始前一定期間内の生前贈与であっても相続財産に加算(持ち戻し)する必要がないという点も有利とされる理由の1つです。
ただし、遺言によって孫が財産を取得する場合や、養子縁組をしている場合などは、生前贈与加算の対象となることもあります。
加えて、2024年1月1日以降の贈与税・相続税の税制改正により、暦年贈与の持ち戻し期間が7年に延長され、遺贈を受ける孫への贈与もその持ち戻しの対象となる点に注意が必要です。
関連記事:【税理士監修】生前贈与の方法とは?税務署に注意されないための手続きについて説明
贈与税がかからないようにする方法
孫への贈与には、贈与税がかからない制度や税負担を軽くする方法があります。年間110万円の基礎控除を活用する暦年贈与や、教育資金、住宅取得資金、結婚・子育て資金の一括贈与に関する非課税制度の利用が挙げられます。
ここでは、それぞれの方法についてわかりやすく説明します。
暦年贈与|年間の基礎控除(110万円)を活用する
贈与税には、1年間(1月1日〜12月31日)に贈与を受けた金額から110万円の基礎控除を差し引けるルールがあります。つまり、1人の孫に対して毎年110万円以内であれば贈与税はかかりません。この非課税枠を利用して、毎年贈与を行うことを「暦年贈与」と呼びます。
暦年贈与を長期間にわたって計画的に行うことで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担を軽減する効果が期待できます。
たとえば、複数の孫がいる場合でも、それぞれの孫に対して年間110万円までの贈与を非課税で行うことが可能です。この方法であれば贈与税の申告も不要となります。
ただし、この基礎控除は贈与を受けた人ごとに適用される点に注意が必要です。例えば、同じ年に祖父から110万円、祖母から110万円を受け取った場合、贈与額は合計220万円となります。となると、基礎控除額の110万円を超えることになり、贈与税が課せられます。
関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説
特定の資金に関する非課税制度を利用する
基礎控除以外にも、特定の目的のために利用できる非課税制度があります。教育資金や住宅取得資金、結婚・子育て資金を孫に贈与する場合など、要件を満たせば一定額まで贈与税が非課税となります。以下より、それぞれの非課税制度について詳しく解説します。
教育資金は最大1,500万円まで非課税
資金を贈与する場合に、一人あたり最大1,500万円までが非課税となる制度です。この制度を利用するには、金融機関に教育資金管理契約に基づいた専用口座を開設する必要があります。
贈与された資金は、学校の授業料や入学金、学用品の購入費用などに充てることができます。また、塾や習い事など学校以外に支払われるものについても、そのうち500万円までが非課税の対象です。この特例は現在のところ2026年3月31日までの措置ですが、今後の税制改正によって期限が延長される可能性もあります。
ただし、利用にあたってはいくつかの注意点があります。
まず、受贈者が30歳になった時点で教育資金管理契約は終了し、口座に使い残しがあった場合は、原則としてその残額に贈与税が課税されます。この際の税率は、受贈者の年齢に関わらず一般税率が適用されます。また、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合はこの制度を利用できません。
さらに、2023年4月1日以降に締結した契約の場合、贈与者が亡くなった際に教育資金管理契約に残額がある場合は、原則としてその残額が贈与者の相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。この点について、受贈者が23歳未満、または学校などに在学している場合、あるいは教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けている場合は、基本的には相続税は課税されません。しかし、贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合は、上記の例外に該当しても残額が相続税の課税対象となる点に注意が必要です。
加えて相続税の課税対象となった場合は、孫に対する贈与となるため、相続税額が2割加算される可能性もあります。
この制度は、祖父母が孫の教育資金を援助したい場合に有効な手段となりますが、上記の注意点を十分に理解した上で利用を検討しましょう。
関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説
住宅取得資金の特例で最大1,000万円まで非課税
直系尊属(父母や祖父母など)から子や孫への住宅取得等資金の贈与には、非課税の特例が設けられています。この特例を活用すると、子や孫が自己居住用の家屋を新築したり、取得したり、あるいは増改築したりするための資金について、一定額まで贈与税がかかりません。
非課税となる金額は、取得する住宅が「省エネ等住宅」か「一般の住宅」かによって異なり、省エネ等住宅の場合は最大1,000万円まで、一般の住宅の場合は最大500万円までが非課税となります。この制度の適用期限は、現在のところ2026年12月31日までです。
この特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の1月1日時点で受贈者が18歳以上であること、そして贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること(ただし、住宅の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は所得金額が1,000万円以下)など、いくつかの要件を満たす必要があります。
関連記事:【税理士監修】住宅取得等資金贈与のメリットは?非課税制度の適用条件と注意点
結婚・子育て資金の一括贈与は最大1,000万円まで非課税
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度は、直系尊属(父母や祖父母など)から18歳以上50歳未満の子や孫へ結婚・子育て資金を一括贈与した場合に、一人あたり最大1,000万円(このうち結婚に関する費用は最大300万円)までが非課税となる特例です。
贈与された資金は、結婚費用(挙式費用、新居の費用など)や出産費用、子の医療費、保育料、不妊治療費などに充てることができます。この特例は、現在のところ2027年3月31日までの措置とされています。
ただし、利用にあたってはいくつかの注意点があります。受贈者が50歳になった時点で口座に使い残しがあった場合は、原則としてその残額に贈与税が課税される可能性があります。また、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、この制度を利用できません。
さらに、贈与者が死亡した時点で口座に使い残しがあると、原則としてその残額が贈与者の相続財産に加算され相続税の課税対象となります。この場合、孫に対する贈与となるため、相続税額が2割加算される可能性もあります。
関連記事:【税理士監修】結婚・子育て資金贈与とは?概要や手続き方法、注意点を解説
孫への生前贈与の注意点
孫への生前贈与は、相続税対策として有効ですが、いくつかの注意点があります。これらの注意点を理解せずに贈与を進めると、思わぬ課税が発生したり、後のトラブルにつながったりする可能性があります。ここでは、孫への生前贈与を行う際に特に気を付けるべき点について詳しく解説します。
定期贈与とみなされる可能性がある
暦年贈与は、年間110万円の基礎控除を利用して非課税で贈与を行う方法ですが、毎年同じ時期に同じ金額を長期間にわたって贈与し続けると、税務署から「定期贈与」と判断される可能性があります。
定期贈与とみなされた場合、最初の贈与の時点で将来にわたる贈与の総額が確定していたとみなされ、その総額に対して贈与税が課税されてしまうことがあります。これを避けるためには、毎年贈与する時期や金額を多少ずらしたり、贈与の都度、贈与契約書を作成したりすることが有効な対策となります。
名義預金とみなされないようにする
孫への贈与が有効に行われたと認められるためには、贈与された財産を孫自身が管理し、自由に使える状態にしておくことです。形式的に孫名義の銀行口座に資金を贈与したとしても、その通帳や印鑑、キャッシュカードを祖父母や親が管理しているような場合は、実質的に孫が財産を自由に使える状況にないため、税務署から「名義預金」と判断される可能性があります。
「名義預金」とみなされた場合、その財産は贈与者の相続財産として扱われ、相続税が課税されることになります。孫自身が通帳や印鑑を管理し、自分の意思で財産を使えるようにする必要があります。後々の課税上のトラブルを避けるためにも、贈与後は孫自身による財産の管理を徹底することが重要です。
贈与契約書を作成する
贈与は、財産を「あげます」という贈与者の意思表示と、「もらいます」という受贈者(孫)の意思表示の合意によって成立する契約です。その際、贈与があったことやその内容を明確にするため書面に残すことが重要です。
特に多額の贈与や複数回にわたる贈与の場合は、後々のトラブルを防ぐためにも贈与契約書を作成することを強く推奨します。
毎年一定額を贈与する暦年贈与を行う場合も、毎年贈与契約書を作成することで、後述する「定期贈与」とみなされるリスクを減らす効果も期待できます。
非課税枠でも申告が必要な場合がある
年間110万円までの基礎控除の範囲内での贈与であれば申告の必要はありません。しかし、受け取った贈与額が110万円を超える場合には、たとえ税額が0円であっても、贈与税の申告が必要になります。
また、教育資金や住宅取得資金、結婚・子育て資金などの非課税制度を活用した場合でも、原則として申告が必要とされています。つまり「非課税だから申告しなくてよい」というのは誤解で、後になって思わぬペナルティが課される可能性もあるため注意が必要です。
また、非課税の特例制度を利用するつもりでいても、申告を怠ったことで制度自体が適用されず、結果的に通常の贈与として課税されるリスクもあります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、贈与の内容や金額、活用する制度の条件を事前にきちんと確認し、必要に応じて贈与税の申告を行うことが大切です。
孫が法定相続人になっている場合は課税対象になることも
原則として、孫への生前贈与は、贈与者が亡くなったとしても相続財産に加算(持ち戻し)する必要はありません。これは、孫が法定相続人ではないためです。しかし、例外的に孫への生前贈与が相続税の課税対象となる場合があります。
たとえば、遺言によって孫が財産を取得した場合や孫が養子縁組によって法定相続人となっている場合です。これらのケースでは、法定相続人への贈与と同様に、相続開始前一定期間内に行われた生前贈与は相続財産に加算され、相続税の対象となります。
2024年の税制改正により、この持ち戻しの対象期間は、従来の相続開始前3年から7年に順次延長されています。したがって、孫への生前贈与を検討する際には、これらの例外に該当しないかを確認し、将来の相続税の課税リスクについても考慮しておくことが重要です。
関連記事:【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説
その他の孫へ財産を遺す方法
孫に財産を残す手段は、生前贈与だけではありません。相続が発生した後に財産を承継させる方法もいくつか存在します。ここでは、生前贈与以外で孫に財産を遺す主な方法をご紹介します。
遺言による遺贈
孫は原則として法定相続人ではありませんが、遺言書を作成することで孫に財産を遺す(遺贈する)ことができます。遺言による遺贈は、遺言者の意思に基づいて特定の財産を特定の人物に承継させる方法です。
これにより、法定相続分に関わらず、遺言者の希望通りに孫へ財産を渡すことが可能となります。ただし、遺言によって財産を取得した孫は、相続税の計算において税額が2割加算されるという点に注意が必要です。
遺言書の作成には、法律で定められた方式があり、方式を満たさない場合は無効となる可能性もあります。確実に遺贈を実行するためにも、専門家である弁護士や税理士、司法書士に相談することをおすすめします。
関連記事:【税理士監修】遺言書を公正証書で作成するには?必要書類や作成するメリットを解説
養子縁組をする
孫と養子縁組を行うことで、孫を法定相続人とすることができます。養子縁組により、孫は法律上、実の子と同様の立場で相続権を持つことになります。これにより、遺言書がなくても孫に財産を相続させることが可能となります。
また、養子縁組によって法定相続人の数が増えるため、基礎控除額が増額され、相続税の負担が軽減される効果も期待できます。加えて、生命保険金や死亡退職金の非課税限度額も、法定相続人の数に応じて増額されます。
ただし、孫を養子にした場合、原則として相続税の計算において税額が2割加算されます。例外として、孫が親の代襲相続人として相続する場合など、ごく一部のケースでは2割加算の対象外となることもあります。
また、相続税法上、法定相続人の数に含める養子の数には制限があります。実子がいる場合は養子を1人まで、実子がいない場合は養子を2人までしか、相続税の計算上の法定相続人の数に含めることができません。
関連記事:【税理士監修】養子縁組制度の解説。普通養子・特別養子の違いや条件、相続税への影響は?
代襲相続人として相続する
代襲相続とは、本来相続人となるはずであった子や兄弟姉妹が、すでに亡くなっている場合や相続欠格・廃除によって相続権を失っている場合に、その子(孫や甥姪)が代わって相続することをいいます。つまり、孫は自身が相続人となるはずだった親(祖父母から見れば子)が相続開始以前に死亡している場合に、代襲相続人として祖父母の財産を相続する権利を持ちます。
代襲相続の場合、孫は法定相続人として扱われるため、遺言書がなくても相続が可能であり、相続税の2割加算の対象にはなりません。
代襲相続については、民法で詳細な規定が定められていますので、自身の状況で代襲相続が発生するかどうか不明な場合は、専門家に確認することをおすすめします。
まとめ
孫への財産承継には、生前贈与や遺言による遺贈、養子縁組、そして特定の状況における代襲相続など様々な方法があります。
なかでも生前贈与は、年間110万円の基礎控除や教育資金・住宅取得資金・結婚子育て資金といった非課税制度を活用することで、贈与税の負担を抑えながら計画的に資産を移転できる有効な手段です。生前贈与は、相続財産を前もって減らすことで、将来の相続税の軽減につながります。
ただし、これらの相続税対策にはそれぞれのメリット・デメリットや適用要件があります。どの方法を選択するのが効果的かつ円滑な資産承継に繋がるかは、個々の財産状況や家族構成、将来の計画などによって異なります。
適切な方法を選択し、確実に実行するためには、相続や贈与に関する専門的な知識が不可欠です。後々のトラブルを防ぎ、最大限の節税効果を得るためにも、税理士のような専門家へ相談されることをおすすめします。
相続税申告は『やさしい相続相談センター』にご相談ください。
相続税の申告手続きは初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
やさしい相続相談センターでは、お客様の資産をお守りする適切な申告をサポートさせていただきます。
初回相談は無料です。ぜひご相談ください。
また、金融機関や不動産関係者、葬儀関連企業、税理士・会計士の方からのご相談やサポートも行っております。
小谷野税理士法人の相続専門スタッフがお客様へのサービス向上のお手伝いをさせていただきます。
監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
亡くなった方の思い、ご家族の思いに寄り添って相続の手続きを進めていきます。税務申告以外の各種相続手続きも、ワンストップで終了するように優しく対応します。