暦年贈与が2023年に改正!変更点は?廃止されるって本当?

贈与を行う場合、「年間110万円までは非課税になる」という仕組みがあります。これを暦年贈与と言いますが、2023年に制度が改正されたようです。ここでは今後贈与する側・される側になる方のために、変更点や将来的な制度の安定性など、有益な情報をご紹介します。
目次
暦年贈与とはどんな制度?
「暦年」は、その年の1月1日~12月31日までの期間を言います。この間に受けた財産贈与が110万円以内であった場合、それを基礎控除として非課税にする制度が「暦年贈与」です。これは「暦年課税」と呼ばれることもあるため、念のため覚えておくと良いでしょう。
つまり、生前贈与も年間110万円までを意識して行えば贈与税がかかりません。相続税対策として非常に有効なことから、早い段階で活用を検討する被相続人も多いようです。
いつか廃止になる⁉真相はいかに
以前は「暦年贈与が廃止されるのではないか」と懸念する声が叫ばれていたこともありました。これは2021年~2023年頃の税制改正大綱により、相続税と贈与税の一体化をはじめとする見直しが行われていたからです。
実際、相続税より贈与税の方が高く設定されていることで、税負担が不公平になりやすいという課題もあったと言われています。しかし、結果的には今回お話しする通り、「暦年贈与を改正」する方向で落ち着きました。今後更なる見直しをされないとは限りませんが、いったん廃止はなくなったと見て良いでしょう。
暦年贈与と相続時精算課税は併用できない
暦年贈与と比較されやすい制度として「相続時精算課税」があります。これは財産を相続する際、2,500万円までは特別控除(贈与税なし)として贈与を受けられるというものです。ただし、財産を与える側が同一人物の場合、この制度を併用することはできません。
暦年贈与 | 年間110万円まで非課税 |
相続時精算課税 |
総額2,500万円まで贈与税不要 ※年間110万円の基礎控除あり |
基礎控除は暦年贈与と同じく、年間110万円までに設定されています。どちらを選択した方が得なのか分からない、贈与者が複数いるなどのお悩みがある方は、税理士等専門家にぜひご相談ください。
関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説
2024年に改定!変更点を確認しよう
暦年贈与は、特に生前贈与を検討している方の節税対策として非常に助かるものです。しかし、2023年の税制改正で内容の一部が変更されました。
ここでは変更点について詳しく確認していきましょう。
生前贈与加算の期間が「3年」から「7年」に延長
代表的な改正点は、「生前贈与加算」の期間だと言えます。生前贈与加算とは”持ち戻し”とも言われ、定められた期間内に行った生前贈与を相続財産に加算できるというものです。
つまり、「期間内の生前贈与の存在をなかったことにして、財産に組み込むシステム」だと考えられます。その分の金額には、相続した財産とまとめて相続税が課せられます。
これは例えば、死期が近いと悟ってから暦年贈与を活用し、相続税を免れようとするような租税回避行為を防ぐのが目的です。税負担の公平性を保つ意味で設けられているものですから、納得の上対策を検討しましょう。
参考:国税庁「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
生前贈与加算の対象にならない財産をチェック
生前贈与加算の対象となるのは、基本的に被相続人が亡くなった年、および加算期間内に行った暦年贈与です。一方で、以下の財産に関しては該当しません。
- 相続時精算課税制度を利用した生前贈与(※創設された基礎控除を超えた部分)
- 結婚・子育て資金の一括贈与の特例を適用した非課税額
- 贈与税で非課税となった財産(親子間や夫婦間の生活費・教育費など)
- 贈与税の配偶者控除により控除された金額
- 住宅取得等資金の贈与の特例を活用した場合の非課税額
- 教育資金の一括贈与の特例を活用した場合の非課税額
相続時精算課税制度が適用された贈与に関しては、通常は生前贈与加算の対象にはならないと言われています。ただし、110万円の基礎控除を超えた部分は相続財産に含め計算されるのが一般的ですので、気を付けてください。
参考:国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
変更によって何が違う?節税効果への影響
暦年贈与の生前贈与加算期間が変更されたことで、以前とどう変わるのか?と気になっている方も多いと思います。これに関しては簡潔に言えば、「暦年贈与の活用による節税効果が下がった」と考えられるでしょう。
従来は生前贈与加算期間が3年だったため、少なくともそれ以前に受けた贈与に関しては基礎控除を活用できました。しかし、それが7年となると倍以上前倒しされるわけですから、必然的に税負担は上がってしまいます。これから贈与を検討している方は、できる限り早いうちに生前贈与の準備を始めた方が良いかもしれません。
関連記事:【税理士監修】生前贈与とは?メリットや注意点について徹底解説
関連記事:【税理士監修】生前贈与は実施するべきか?生前贈与のメリットや方法、注意点などを解説
対象は「2024年1月1日」以降の贈与から
暦年贈与の改正が適用されるのは、2024年1月1日以降の贈与からです。それ以前に行われた贈与の関係もあり、今後数年ほどは経過措置期間として生前贈与加算の期間が変動すると考えられます。
そのため、完全移行より前に相続する方は混乱するケースも少なくないでしょう。正しく節税を行うためにも、不安があれば専門家に相談するのがおすすめです。
参考:国税庁「令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」
暦年贈与が向いているケース&実行の流れ
暦年贈与は年齢制限なく誰にでも活用できますが、特に向いているケースも存在します。では、どのような方に適しているか?をふまえ、実行の流れについても見ていきましょう。
暦年贈与が適しているパターン
暦年贈与の利用を勧めたいのは、まず、贈与する側の年齢がまだ比較的若く「長期的なスパンで節税対策を検討できる」ケースです。かなり年齢を重ねてから暦年贈与を活用しようとすると、生前贈与加算によって損をしてしまうリスクもあります。
そのため、早くから少しずつ(110万円まで)若い世代に遺せる可能性がある人の方が、暦年贈与は向いていると言えるでしょう。
また、子どもや孫など「贈与する対象が多い」ケースでも非常に有効です。110万円未満であっても、対象が分散されれば多額の財産を非課税で贈与できます。こちらも早いうちに開始しておくと、より効果的な節税対策に繋がるでしょう。
暦年贈与の具体的な流れを見ておこう
暦年贈与を行う際、重要なのが「客観的に証明できるようにしておく」ことです。一般的には以下の流れで進められますので、しっかり押さえておきましょう。
- 贈与契約書の作成
- 記載した日付に、財産の受け渡しを行う
贈与契約書には、主に「お互いの氏名・住所」や「作成した日付」、「贈与する日付」、「財産の種類や金額などの情報」、「贈与の方法」などが記載されます。また、受け渡しをする際には日付通りに実行したと分かりやすいよう、銀行振込を利用するのがおすすめです。
暦年贈与には注意点もある!
暦年贈与は特に早い段階から準備できる方にとっては有益な節税対策ですが、注意点もあります。特に「相続時精算課税」と迷っている方は、慎重な判断が必要です。
相続時精算課税制度から、暦年贈与へ変更はできない
暦年贈与は途中から相続時精算課税に切り替えることもできます。そのため、悩んでいる方は「いったん暦年贈与としておき、後から相続時精算課税に変更すれば良い」と考えるかもしれません。
しかし、一度相続時精算課税を選択すると暦年贈与には変更できなくなってしまうのです。後悔のないよう、初めて利用する制度は手堅く選びましょう。
贈与の事実をお互いに把握しておく
贈与を行う上で大切なのは、「与える側と与えられる側にその認識があるか」です。例えばよくある失敗として「名義預金」が挙げられます。なかには子どもや孫の名義で銀行口座を開設し、そこに年間110万円未満のお金を入れて贈与としている方も少なくないでしょう。
しかし、名義預金は暦年贈与の証明としては弱いと判断されることが多いのです。そのため、この手法をとる場合には贈与する親や祖父母ではなく、贈与される側が自ら口座を開設しなければなりません。双方が合意した上で、受贈者自身が印鑑や通帳を管理した事実があれば、暦年贈与が認められる可能性も高いでしょう。
暦年贈与の注意点や相続税対策について、詳しくは以下の記事もご参考ください。
関連記事:【税理士監修】暦年贈与の注意点、相続税対策のポイントを解説
早め早めの準備が、暦年贈与を成功させるカギ
2023年に改正され、2024年から施行された新・暦年贈与ですが、重要なのは生前贈与加算の期間が倍以上になった点です。これまで3年前までしか計算されなかったものが、7年前まで遡るとなるとかなり感覚は違ってきます。
しかし、7年より前に生前贈与を済ませておけば、変わらず節税効果を実感できるとも言えるでしょう。贈与契約書の作成や口座開設など、早め早めの準備が暦年贈与のポイントだと考えられます。
とはいえ、個人で適切な節税対策を行うのは難しいものです。脱税や不当な租税回避と見なされないためにも、一度税理士等の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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監修者

山口 美幸 小谷野税理士法人 パートナー税理士・センター長
96年大手監査法人入社、98年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。
【執筆実績】
「いまさら人に聞けない『事業承継対策』の実務」(共著、セルバ出版)他
【メッセージ】
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