【税理士監修】遺産相続の手続きは何から始めるべきか?手順や期限、最適な相談先をわかりやすく解説

更新日:2023.9.8

遺産相続の手続きを進めることになったものの、「何から手をつけていいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。遺産相続では、手続きすべき内容は多岐にわたります。書類の提出や遺言書の確認、相続税の申告・納付などが必要になり、それぞれの届け先や期限も異なります。そのため、必要な手順について正しく知っておくことで、よりスムーズに遺産相続の手続きに臨めるでしょう。

そこでこの記事では、遺産相続に必要な手続きについて、手順や期日も含めてわかりやすく解説します。また、遺産相続についての主な相談先も紹介しますので、参考にしてみてください。

相続手続きの手順を10ステップで解説

遺産を相続するには、書類の提出や各所への手続きなどが必要です。専門家に依頼することが多いものの、手順を把握しておくことは重要です。ここでは具体的な相続手続きの手順と実施事項について、それぞれの期限も含めて10ステップで解説します。

(1)死亡届の提出

【期限:死亡を知ってから7日以内】

まずは亡くなった方の「死亡届」を、市区町村役場へ提出します。申請の際は、病院に発行してもらった「死亡診断書(または死体検案書)」と、必要事項を記入した死亡届の提出が必要です。また、火葬を行うためには「火葬許可証」も必要なので、火葬許可申請書も死亡届と同時に手続きしておくとよいでしょう。

(2)年金や健康保険の手続き

【期限:厚生年金は死亡から10日以内、国民年金・国民健康保険は死亡から14日以内】

亡くなった方が年金受給者であった場合は、受給停止の手続きをします。国民年金と厚生年金については、「年金事務所」または「街角の年金相談センター」に申請しましょう。未支給の年金がある場合は、亡くなった方と生計を同じくしていた遺族の方であれば受け取りが可能です。また、亡くなった方が国民健康保険に加入していた場合は市区町村役場へ保険証を返納し、企業の健康保険に加入していた場合は勤め先に対応を依頼しましょう。

(3)遺言書の確認・検認

【期限:特にないが、速やかに】

遺産の相続においては遺言の内容が最優先になるため、遺言書の有無を確認します。

遺言書には、3つの形式があります。遺言者本人が自筆で書く「自筆証書遺言」、公証人に依頼して作成する「公正証書遺言」、遺言者が内容を明かさずに作成する「秘密証書遺言」です。秘密証書遺言は亡くなった方の自宅に、自筆証書遺言は同じく自宅か法務局に、公正証書遺言は公証役場に保管されている可能性があります。遺言を発見した場合は、家庭裁判所に「検認(けんにん)」という手続きを請求し、遺言の存在を相続人へ周知することが必須です。ただし、公正証書遺言や法務局で保管されている自筆証書遺言の場合、検認は必要ありません。

(4)相続人の確定

【期限:特にないが、速やかに】

続いては、「相続人が誰なのか」を確定します。遺言書があれば、そこに書かれた相続人へ遺産を相続するのが原則です。しかし、遺言がない場合は、民法で定められた「法定相続人」へ遺産が相続されることになります。法定相続人とは、亡くなった方の配偶者、子(第1順位)、両親(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)です。こうした相続人の範囲を正しく把握するため、以下の戸籍謄本を本籍地の市区町村役場で必ず取得しましょう。

◆被相続人(亡くなった方)の出生から死亡まで連続した戸籍謄本(※除籍謄本、改製原戸籍謄本も含む)
◆相続人全員の現在の戸籍謄本

戸籍謄本があれば、被相続人の死亡を証明でき、かつ意外な相続人が後から現れるリスクも防げます。本来相続人だったはずの方が亡くなっていた場合、相続分はその子どもが受け継ぐのが決まりです(代襲相続)。そのため、相続人の範囲によっては非常に多くの戸籍謄本を集める必要があり、労力がかかる部分といえます。

たとえ遺言書があったとしても、亡くなった方の配偶者・子・直系尊属(両親)には最低限の取り分(遺留分)が民法上定められています。遺留分を無視して後から問題が起こらないよう、注意が必要でしょう。

(5)相続財産の調査

【期限:特にないが、速やかに】

次は、遺産の内容を確定させるため、「亡くなった方がどのような財産を所有していたか」について調査します。遺産相続の際には、以下のように資産だけでなく、負債もすべて明らかにしましょう。

<資産>
◆現金(銀行預金も含む)
◆有価証券(株式、小切手など)
◆不動産(家、土地、店舗など)
◆動産(自動車、貴金属類、美術品など)
◆権利(特許権、著作権など)

<負債>
◆借金
◆ローン
◆未払いの家賃や医療費など

現金については金庫を調べたり、金融機関に問い合わせたりします。また、株式については証券会社からの報告書、自動車については車検証、不動産については権利証(登記識別情報通知)や各自治体の名寄帳(なよせちょう)で確認が可能です。

(6)相続方法の選択(単純承認・相続放棄・限定承認)

【期限:相続の発生を知った日から3ヶ月以内】

相続人には遺産相続の権利があります。ただし、あくまで権利であることから、その権利を行使するかどうかを選択することが可能です。なかには被相続人の借金が多く、手離したいという相続人の方もいるかもしれません。そのため、相続方法は3つのパターンから選択できます。具体的には、被相続人が得られるはずだった資産や収益、借金も含めて受け継ぐ「単純承認」、遺産を一切受け継がない「相続放棄」、資産に応じて負債も受け継ぐ「限定承認」です。ただし、相続放棄と限定承認をするには、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述しなければいけません。また、限定承認は相続人全員での申請が必要です。

(7)遺産分割協議

【期限:特にはないが、速やかに】

遺言書がなかった場合は、法定相続人が全員で集まって遺産の分割方法を決定します(遺産分割協議)。全員が意思決定に参加できる状態であれば、電話やメール、ビデオ通話での実施も可能です。遺産の分割方法は必ずしも民法上の法定相続分に縛られる必要はありませんが、取り分を決める際は相続人全員の同意が必要になります。

「誰にどの財産をどのくらい相続するか」が決まれば、その内容を「遺産分割協議書」にまとめます。遺産分割協議書の形式は自由ですが、相続人全員分の署名と押印が必須です。仮に協議がまとまらなければ、家庭裁判所で遺産分割調停という手続きをとります。相続税の申告期限に間に合うよう、できるだけ速やかに協議を進めましょう。

(8)準確定申告

【期限:相続開始を知った翌日から4ヶ月以内】

亡くなった方が生前に確定申告が必要な所得を得ていた場合、所得税の「準確定申告」が必要です。所得税は本来1~12月に生じた所得を計算し、翌年3月中旬までに税務署へ申告します。しかし、年の途中で亡くなった方は、1月から死亡日までの所得を算出し、所得税の税額を申告しなければいけません。これが準確定申告です。相続人は相続の開始を知った翌日から4ヶ月以内に、亡くなった方の納税地の税務署に申告・納税をしましょう。

(9)相続税の申告・納付

【期限:相続の発生を知った翌日から10ヶ月以内】

遺産を相続した場合には、被相続人の住所地にある税務署に申告・納税をします。相続税の対象には、現金以外にも、有価証券、土地、建物、著作権といった経済的価値のあるすべてのものが含まれるので注意しましょう。

相続税は、遺産額が「基礎控除額」を超えた場合にのみ発生します。基礎控除額は、以下の金額です。
◆3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
例えば、配偶者1人・子1人で相続する場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×2名)=4,200万円」です。つまり、遺産額が4,200万円を超えていなければ、相続税の申告・納付の必要はありません。加えて、配偶者への税額軽減や死亡退職金の控除などの複雑なルールもあります。また、資産総額の計算には土地評価なども関係するため、複雑です。申告の義務があるかどうか判断が難しい場合は、税理士への相談をおすすめします。

(10)不動産の相続登記

【期限:不動産の取得を知った日から3年以内】

土地や建物を相続した場合は、法務局に申請し、不動産の名義を相続人の名前に変更しなければいけません。これが「相続登記」です。登記をしておくことで、土地や建物の所有者を明らかにし、第三者に対して権利を主張できるようになります。従来は相続登記に期限はありませんでした。しかし、今後は民事基本法制の見直し(※)で「不動産の取得を知った日から3年以内」の登記が義務化される予定のため、注意が必要です。

※参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し|法務省(PDF)

相続手続きの最適な相談先とは?

遺産相続の手続きにあたり、申告の義務があるかどうかの判断や、書類の作成に困った際は、各分野の専門家に相談することが大切です。ここでは相続手続きに関する主な相談先と、それぞれの専門領域について解説します。

税理士

相続税に関する「税務相談」や「税務書類の作成」は、税理士の独占業務(国家資格が必須の業務)です。特に、資産総額が大きい場合や、遺産に土地が含まれている場合などは、税理士に相談するとスムーズでしょう。なかにはパートナーの司法書士や行政書士と協業し、相続手続きを一括で支援できる税理士法人もあります。こうした相談先に依頼すれば、個々の専門家に依頼する手間も省けるでしょう。

司法書士・行政書士

相続人の調査や相続財産の調査、戸籍謄本の取り寄せなどは、司法書士と行政書士に代行を依頼できます。ただし、「不動産の相続登記」や「相続放棄」は司法書士、「遺産分割協議書の作成」は行政書士に依頼すると適切なサポートをしてもらえるでしょう。

弁護士

遺産分割協議で相続人同士の意見がまとまらない場合には、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることになります。ただし、遺産分割調停やその後の審判において正式な代理人になれるのは、弁護士だけです。そのため、相続人同士で争いに発展しそうな場合には、弁護士に依頼するとスムーズにサポートを受けられるでしょう。

まとめ

遺産相続の手続きは複雑で、専門用語も多く使われています。そのため、すべて自分だけで手続きを進めようとすると、時間も手間もかかってしまうのが実態です。だからこそ、できるだけ早いうちから専門家へ相談することをおすすめします。法律や税務の専門家に支援を受けることで、安心して円滑に手続きを進められるでしょう。

私たちも税務のプロフェッショナルとして、遺産相続のアドバイスと各種手続きのサポートを行っています。小谷野会計グループとしては、ワンストップで財産の評価から準確定申告、遺産分割協議のアドバイス、相続税の申告、納税対策、各種相続事務まで幅広く対応が可能です。遺産相続の手続きでお悩みの際には、お気軽にお問い合わせください。

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相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。

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初回相談は無料です。ぜひご相談ください。

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監修者

小谷野 幹雄

小谷野 幹雄 小谷野税理士法人 代表社員税理士 公認会計士

84年早稲田大学在学中に公認会計士2次試験合格、85年大手証券会社入社、93年ニューヨーク大学経営大学院(NYU)でMBAを取得し、96年小谷野公認会計士事務所を開業。2017年小谷野税理士法人を設立、代表パートナー就任。FP技能検定委員、日本証券アナリスト協会、プライペートバンキング資格試験委員就任。複数のプライム市場上場会社の役員をはじめ、各種公益法人の役員等、社会貢献分野でも活躍。