【税理士監修】教育資金の一括贈与は非課税になる?注意点と手続き方法を解説
更新日:2023.9.8
教育資金の一括贈与にかかる非課税制度を利用すれば、最大1,500万円を非課税にできます。教育資金は高額になることもあるため、子どもや孫に教育資金を提供する予定がある方の中には、非課税制度を利用して節税したいと考えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、教育資金の一括贈与にかかる非課税制度の適用条件や手続き方法について詳しく解説します。また、制度を利用する際の注意点や、他の節税方法も解説するため、教育資金の贈与を検討中の方に必見の内容です。ぜひ、参考にしてみてください。
目次
教育資金の一括贈与にかかる非課税制度とは
教育資金の一括贈与にかかる非課税制度とは、30歳未満の子や孫が直系尊属から教育資金の一括贈与を受ける場合に、最大1,500万円までが非課税になる制度です。30歳以上の方が受け取る贈与財産や伯父叔母といった直系尊属以外の親戚からの教育資金には適用できません。主な適用条件は以下のようになります。
・直系尊属からの贈与であること
・金融機関に専用の教育資金口座を開設すること
・前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円以下であること
対象となるのは、平成25年4月1日から令和8年3月31日までの間の贈与です。期限に限りがあるため注意しましょう。また、学校などの公的な教育機関に関しての使用は最大1,500万円とされているものの、塾や習い事のような学校以外の機関への使用は最大500万円が限度となっています。どのように使用するか、資金の使い道もあらかじめ決めておきましょう。
教育資金の一括贈与の非課税制度を利用するメリット
習い事をたくさん体験させたり、費用の高い学校に通わせたりする場合はお金がかかるものです。子どもが成人するまでにかかる教育費の目安金額は、私立で1人あたり約2,000万円と言われています。ここでは、教育資金の一括贈与の非課税制度を利用する際の具体的なメリットを紹介します。
教育資金を一括贈与すると非課税になる
制度の適用要件を満たす場合は、一括贈与を受けた教育資金のうち最大1,500万円までが非課税になります。贈与税の納税義務が発生するのは受贈者です。例えば、孫が3人いてそれぞれに1,000万円ずつ贈与する場合、受贈者である孫が各自で制度を適用するため、3人とも非課税の恩恵を享受できます。
なお、大学入学時に学費を出してあげる、留学時に費用の半分を支援してあげる等、必要の都度、必要な金額を贈与する場合は扶養義務者相互間における教育費の贈与として、そもそも贈与税の課税対象となりません。
教育資金の一括贈与の非課税制度は、あらかじめ一括してまとめて贈与することができる点が特徴です。
贈与財産の使い道を指定できる
贈与財産の使い道が教育資金のみに限定されているのもメリットの一つです。暦年贈与で財産を渡した場合や、相続により財産を受け渡す際は、お金の使途を指定することは難しいでしょう。「学費にする」と言いながら、実際は買い物や旅行、投資などに使用する可能性もあります。
この意味で贈与するお金を教育費として使ってほしいと考えている方に適した制度です。
相続財産(相続税)を減らせる
相続税は、亡くなった方の財産を相続する際に課せられる税金です。相続税の基礎控除を超える金額に税金がかかります。相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算できます。相続税に課される税率は最大55%です。財産が多ければ多いほど課される相続税率も上がっていきます。
生きている間に財産を渡しておくことを生前贈与といい、税金対策として生前贈与を進める方も少なくありません。あらかじめ相続財産を減らしておくと、課税対象となる財産が減るため相続税の減額につながる可能性があります。
ただ、贈与者が死亡した場合、教育資金として使い残した残額は原則として相続税の課税対象となりますので注意しましょう。
教育資金の一括贈与の非課税制度を利用する際の注意点
教育資金の一括贈与にかかる非課税制度はメリットの多い制度ですが、注意したい点もいくつかあります。適切な形で制度を利用できるよう、知識を深めておきましょう。
金融機関に領収書を提出しなければならない
教育資金の一括贈与の非課税制度を利用する際は、金融機関で教育資金専用の口座を開設しなければなりません。また、口座から資金を引き出す際は、使途を明らかにするため領収書を金融機関に提出する必要があります。手続きの手間や時間がかかることに、不便さを感じる方もいるでしょう。
また、基本的にはまず一度自身で支払いを済ませて、後から資金を引き出す仕組みとなります。お金を立て替える必要があるため、ある程度資金に余裕が必要となります。
受贈者が30歳になるまでに資金を使いきる必要がある
受贈者が30歳になるまでに資金を使いきれなかった場合(※注)は、残高に対して贈与税が発生します。例えば、18歳で大学に進学する際に、学費として祖父から500万円の贈与を受けたとしましょう。しかし、実際に使用したのは200万円のみで300万円余ってしまい、30歳になるまで口座に残っていたとします。この場合、300万円は贈与税の課税対象となります。
※注 一定の場合には非課税対応期間が延長されます。
また、資金が余ったからといって、贈与者の口座に戻すこともできません。教育資金を一括贈与する際は、30歳になるまでに使いきれる金額を計算し、適切な金額の資金のみを贈与することが大切です。
教育資金以外に使用すると税金が課される
教育資金の一括贈与の非課税制度を利用する場合、使用用途が限られています。教育資金以外のものに使用した場合、その費用が贈与税の課税対象となる恐れがあります。国税庁で定められている条件は以下の通りです。
1.学校等に直接支払われる費用:入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、学用品の購入、修学旅行費など
2.学校等以外のものに直接支払われる費用:学習塾、そろばん、水泳教室、絵画教室、通学定期券代、留学の渡航費など
状況によっては相続財産の対象になることも
本制度スタート当初は、贈与者が死亡した場合、教育資金として使い残した残額があっても相続税の課税対象から除外されていました。
しかし、現在(2023年6月)は受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして相続税が課税されます。
ただし、受贈者が23歳未満である場合や受贈者が学校等に在学している場合、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けている場合は持ち戻しの対象外となっています。なお、令和5年度税制改正により、この場合でも相続税の課税価額が5億円を超える場合は相続税の課税対象となります。
教育資金一括贈与の非課税を利用する方法
教育資金の一括贈与の非課税制度を利用したいときは、以下の手順で手続きを進める必要があります。
1.口座の開設
2.教育資金非課税申告書を受贈者の納税地の税務署に提出する
3.贈与財産を預け入れる
4.領収書を金融機関に提出する
5.教育資金として使用した分の金額を引き出す
普段使用している口座に入金するといったような簡易的な方法では、この制度を利用できません。手続きに手間がかかるため、制度を適用する方法を事前に確認しておくと安心です。
教育資金の一括贈与以外で贈与税を抑える方法
教育資金の一括贈与の非課税制度には、メリットもデメリットもあります。この制度を利用するかどうか悩んでいる方も多いでしょう。必要な金額が明確になっていないときや、教育費以外の用途にも使用してほしいといった場合は、他の方法を選択するのも一つの手です。ここでは、贈与税の節税を検討中の方におすすめの税金対策を2つ紹介します。
暦年贈与でお金を受け渡す
贈与税の課税方法は暦年贈与と相続時精算課税制度の2パターンあります。暦年贈与では1月1日から12月31日までの1年間で110万円の基礎控除を適用できます。毎年、1受贈者あたり110万円までは贈与税がかかりません。この制度を利用してコツコツと贈与することで、贈与税を抑えられます。
ただし、毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、定期贈与とみなされ、贈与した財産の総額に贈与税が課される可能性があるため注意しましょう。
暦年贈与で節税を目指す場合は、不定期に、前回と異なる金額を贈与するのがよいでしょう。また、受贈者が普段利用している口座を入金口座とすることもポイントです。贈与契約書も作成し、贈与があった事実を証明できるようにしておきましょう。
相続時精算課税制度を利用する
相続時精算課税制度は、贈与時の負担を減らし、相続時にまとめて税金を精算する制度となります。相続時精算課税制度には、2,500万円までの特別控除があり、控除以下の金額の財産には贈与税が課されません。2,500万円を超える金額には一律20%の贈与税が課税されます。
相続時精算課税制度を利用した贈与財産は、相続が発生した際相続財産に加算されますが、贈与時の時価が基準となります。そのため、相続時に価値が上がりそうな不動産や株式[石戸7] を贈与したいときに適した制度です。
なお、相続時精算課税制度を利用する際は、贈与税申告書と相続時精算課税選択届出書を税務署に提出します。贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日が申告期間されているため、期限に遅れないよう手続きを進めましょう。
まとめ
教育資金の一括贈与にかかる非課税制度は、30歳未満の子や孫が教育資金を一括で贈与された際に最大1,500万円までが非課税になる制度です。非課税になる金額が大きいため、正しく利用できれば大きな節税効果を見込めます。
ただし、適用条件が細かく決められているため注意が必要です。また、30歳を過ぎても使用しきれなかった財産には贈与税が課されます。なぜ財産を贈与したいのか、どのように使用してほしいのかといった点を明確にして、自身のケースに合った贈与方法を選択しましょう。教育資金の一括贈与以外の節税方法や、制度を利用する際の手順などを紹介した今回の記事も、ぜひ、参考にしてみてください。
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監修者
竹内 英雄 小谷野税理士法人 税理士 中小企業診断士
85年大手銀行入行、2016年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【講演実績】公益財団法人不動産流通推進センター、株式会社きんざい、他多数の講演実績【メッセージ】相続の手続きは専門性が高い分野ですが、私の銀行員経験、多数の講演経験を活かして、難しいことを易しく丁寧に説明します。初めての経験であっても気軽に、安心して相談して下さい。