【小規模宅地等の特例の計算方法】減額割合・計算例・注意点などポイントを解説
更新日:2023.6.5
小規模宅地等の特例とは、相続した宅地が一定要件を満たす場合に宅地の相続税評価額を下げることができる制度です。相続税評価額が小さくなれば相続税の計算基礎になる課税遺産総額も小さくなり、結果として相続税の減額につながります。
本記事で、小規模宅地等の特例を用いた場合の評価額を計算する方法や、計算時の注意点を解説します。
目次
小規模宅地等の特例の計算方法を見る前に
小規模宅地等の特例の計算方法について具体的に確認する前に、まずは小規模宅地等の特例そのものについて、概要や適用を受けるための要件を解説します。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、一定要件を満たす宅地を相続した場合、対象の宅地の相続税評価額を減額できる制度です。減額割合は50%または80%です。
宅地の種類ごとに減額割合および限度面積が定められているため、相続した宅地がどの種類に当てはまるか、減額割合は何パーセントであるかの確認が必要です。減額割合・宅地ごとの要件は次の項で解説します。
対象となる宅地の種類と要件
小規模宅地等の特例の適用対象となる宅地は4種類に分けられます。それぞれの減額割合と限度面積は以下のとおりです。
宅地の種類 | 内容 | 限度面積 | 減額割合 |
特定居住用宅地等 | 被相続人等の居住の用にしていた土地 生計一親族の居住の用に供していた土地 | 330平方メートル | 80% |
特定事業用宅地等 | 被相続人等の不動産貸付事業を除く事業で使用していた土地 | 400平方メートル | 80% |
特定同族会社事業用宅地等 | 被相続人等の会社(同族会社)の事業の用として使用していた土地 | 400平方メートル | 80% |
貸付事業用宅地等 | 被相続人等の不動産貸付事業で使用していた土地 | 200平方メートル | 50% |
※特定同族会社事業用宅地等は以降の記事では解説を省略します
特定居住用宅地等の場合は、相続人が誰であるかによって以下のように要件が異なります。
- 相続人が被相続人の配偶者:特別な要件はありません。同居の有無などを問わず、小規模宅地等の特例の適用を受けられます
- 相続人が被相続人と同居していた親族:相続人が以下2点の要件を満たす必要があります
- 相続開始の直前から相続税の申告期限まで該当の家屋に住み続ける
- 該当の宅地を相続開始時から相続税の申告期限まで有している
- 相続人が同居親族でない:被相続人・相続人ともに要件を満たす必要がある
- 被相続人の要件
- 配偶者がいない
- 同居していた相続人がいない
- 相続人の要件
- 相続開始前3年以内に自己・自己の配偶者・三親等内の親族・特別の関係にある一定の法人が所有する家屋に居住していない
- 相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前に所有したことがない
- 相続した対象の宅地を相続税の申告期限まで所有し続ける
- 被相続人の要件
被相続人と生計を一にする親族の居住用宅地等についての解説は省略します。
特定事業用宅地等および貸付事業用宅地等については、事業承継要件・保有継続要件の2つを満たす必要があります。具体的な内容は以下のとおりです。
- 被相続人の事業の用に供されていた宅地等
- 事業承継要件:相続税申告期限までにその宅地等の上で営まれていた該当の事業を引き継ぎ、申告期限まで事業を営み続ける
- 保有継続要件:該当の宅地等を申告期限まで所有し続ける
- 被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた宅地等
- 事業承継要件:相続開始の直前から相続税申告期限まで事業を営み続ける
- 保有継続要件:該当の宅地等を申告期限まで所有し続ける
小規模宅地等の特例の計算方法
小規模宅地等の特例を適用する場合の計算方法を見る前に、まずは土地の相続税評価額を計算する方法を解説します。
土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式で計算します。
路線価方式は路線価(土地の1平方メートルあたりの価格)が定められている場合の計算方法です。宅地の面積×路線価×補正率で計算します。
倍率方式は路線価が定められていない場合に使う計算方法です。固定資産税評価額×倍率で計算します。
計算に用いる路線価および倍率は、いずれも国税庁の公式サイトで確認可能です。
特定居住用宅地等・特定事業用宅地等・貸付事業用宅地等それぞれの評価額の計算方法を、具体例を用いて解説します。
特定居住用宅地等の計算例
前提として、特定居住用宅地等の限度面積は330平方メートル、減額割合は80%です。
被相続人が住んでいた戸建てを相続した場合を例に、限度面積以下の場合・限度面積を超える場合の2パターンで計算例を解説します。
パターン1として、以下の例を用います。
- 土地の相続税評価額:4,000万円
- 土地の面積:300平方メートル
限度面積以下のため、土地の相続税評価額にそのまま減額割合を乗じて計算します。したがって、小規模宅地等の特例によって控除できる額は以下のとおりです。
4,000万円×80%=3,200万円
小規模宅地等の特例適用後の相続税評価額は、4,000万円-3,200万円=800万円となります。
続いてパターン2として、相続した宅地が限度面積を超える場合の計算例です。
- 土地の相続税評価額:4,000万円
- 土地の面積:400平方メートル
限度面積を超える場合、以下のように計算します。
4,000万円×330平方メートル/400平方メートル×80%=2,640万円
小規模宅地等の特例適用後の相続税評価額は、4,000万円-2,640万円=1,360万円です。
特定事業用宅地等の計算例
特定事業用宅地等の限度面積は400平方メートル、減額割合は80%です。限度面積以下の場合・限度面積を超える場合の2パターンについて計算例を解説します。
パターン1として、以下の例を用いて限度面積以内における計算を行います。
- 土地の相続税評価額:5,000万円
- 土地の面積:350平方メートル
限度面積以下のため、土地の相続税評価額にそのまま減額割合を乗じて計算します。特例によって控除できる額は以下のとおりです。
5,000万円×80%=4,000万円
特例適用後の相続税評価額は、5,000万円-4,000万円=1,000万円となります。
続いてパターン2として、限度面積を超える場合の計算例です。
- 土地の相続税評価額:5,000万円
- 土地の面積:500平方メートル
特定居住用宅地等の計算例と同様に、以下のように計算します。
5,000万円×400平方メートル/500平方メートル×80%=3,200万円
特例適用後の相続税評価額は5,000万円-3,200万円=1,800万円です。
貸付事業用宅地等の計算例
貸付事業用宅地等の限度面積は200平方メートル、減額割合は50%です。
まずは、パターン1として限度面積以内での計算例を紹介します。
- 土地の相続税評価額:3,000万円
- 土地の面積:150平方メートル
これまでと同様に、土地の相続税評価額に減額割合をそのまま乗じた結果が、小規模宅地等の特例によって控除できる金額です。
3,000万円×50%=1,500万円
特例適用後の相続税評価額は、3,000万円-1,500万円=1,500万円となります。
続いてパターン2として、限度面積を超える場合の計算です。
- 土地の相続税評価額:3,000万円
- 土地の面積:300平方メートル
特例による控除額は以下のように計算します。
3,000万円×200平方メートル/300平方メートル×50%=1,000万円
減額後の相続税評価額は、3,000万円-1,000万円=2,000万円です。
相続人が複数の場合
宅地を相続した相続人が複数の場合も、小規模宅地等の特例の適用が可能です。被相続人の子供2人が被相続人と同居しており、2人で特定居住用宅地等の相続をした場合を例にします。
この場合、2人を合計して330平方メートルまで減額を受けられます。相続人1人につき限度面積まで減額できるわけではない点に注意が必要です。
以下の例を用いて具体的な計算方法を解説します。
- 土地の相続税評価額:5,000万円
- 土地の面積:500平方メートル
- 兄が400平方メートル(4,000万円)、弟が100平方メートル(1,000万円)を相続
- 協議の結果、兄の相続分のうち230平方メートルと、弟の相続分100平方メートルに小規模宅地等の特例の適用をすることになった
兄と弟、それぞれが控除できる金額は以下のとおりです。
兄:4,000万円×230平方メートル/400平方メートル×80%=1,840万円
弟:1,000万円×80%=800万円
小規模宅地等の特例による減額後の相続税評価額は、それぞれ以下のようになります。
兄:4,000万円-1,840万円=2,160万円
弟:1,000万円-800万円=200万円
小規模宅地等の特例の計算をする際の注意点
小規模宅地等の特例の計算をするにあたって、以下の3点に注意が必要です。
- 小規模宅地等の特例の適用を受けるには申告が必須
- 相続税の申告期限前に土地を売却した場合は対象外
- 宅地が複数ある場合は計算がより複雑
それぞれ詳しく解説します。
小規模宅地等の特例の適用を受けるには申告が必須
小規模宅地等の特例の適用を受けるための手続きとして、相続税の申告および一定の書類添付が定められています。そのため、小規模宅地等の特例の適用によって相続税がゼロになった場合でも、相続税の申告が必要です。
相続税申告を怠ると、小規模宅地等の特例の適用を受けられず、相続税の納付義務が生じてしまいます。小規模宅地等の特例を活用する際は、相続税の有無に関係なく、必ず期日までに相続税の申告を行うようご注意ください。
相続税の申告期限前に土地を売却した場合は対象外
対象となる宅地を相続税の申告期限前に売却してしまった場合、小規模宅地等の特例の適用対象外となってしまいます(特定居住用宅地等のうち、配偶者が取得した場合を除きます)。
小規模宅地等の特例は原則として、対象の宅地等を相続税の申告期限まで有していることが要件として定められています。相続税の申告期限よりも前に土地を売却してしまうと適用を受けられず、減額前の相続税評価額をそのまま用いる必要があるため注意しましょう。
宅地が複数ある場合は計算がより複雑
今回紹介した計算方法・計算例は、いずれも相続する宅地がひとつのケースのみです。複数の宅地を相続する場合、限度面積の計算がより複雑になります。
宅地の数や種類によって選べる計算パターンが複数存在するケースもあります。どの計算方法が有利であるか、どの方法を選択できるかの判断が必要です。
正しい計算のためには専門知識が必要であるため、専門家である税理士に相談するのが安心です。
まとめ
小規模宅地等の特例は宅地の種類によって要件・限度面積・減額割合などが異なります。特例の適用を受けるのであれば、それぞれのケースに合わせた正しい計算が必要です。また、税額がゼロであっても相続税の申告が必要・相続税の申告期限前に土地を売却した場合は対象外であるなど、注意点も把握する必要があります。
小規模宅地等の特例に限らず、相続税の計算は複雑であり、正確に計算するのは容易ではありません。相続税の計算を正しく行うため・相続税に関する負担を最小限に抑えるため、専門家への相談をおすすめします。
相続税申告は、やさしい相続相談センターにご相談ください。
相続税の申告手続きは、初めての経験で不慣れなことも多くあると思います。
しかし、適正な申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、思いがけず資産を失うこともある大切な手続きです。
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監修者
竹内 英雄 小谷野税理士法人 税理士 中小企業診断士
85年大手銀行入行、2016年小谷野公認会計士事務所(小谷野税理士法人)入所。【講演実績】公益財団法人不動産流通推進センター、株式会社きんざい、他多数の講演実績【メッセージ】相続の手続きは専門性が高い分野ですが、私の銀行員経験、多数の講演経験を活かして、難しいことを易しく丁寧に説明します。初めての経験であっても気軽に、安心して相談して下さい。